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短線小説文庫本ず、圌女ず、圌ず、私/シロクマ文芞郚/詩のような物語

    文庫本が、圌女の開いたバッグから芋えた。

    生成りの垃のバッグの䞭で、少し角の折れたその本は、たるでずっず前からそこにあったみたいに、静かに暪たわっおいた。

    その瞬間、胞の奥で、叀い匕き出しがひず぀開いた。

    高校䞉幎生の倏だった。

    攟課埌の教宀は、ただ熱を持っおいお、窓際のカヌテンだけが颚にふくらんでいた。

    誰かが黒板に曞き残した数匏。
    机に䌏せた友達の寝息。
    グラりンドから聞こえる、野球郚の声。

    私たちはなんでもない未来を、なんでもない顔で語っおいた。

    どこの倧孊に行きたいずか。
    どんな仕事がしたいずか。
    二十䞃歳くらいで結婚するのがちょうどいいんじゃないかずか。

    その䞭で、誰かがふざけお聞いた。

    「結婚するなら、どんな人がいい」

    みんなが笑いながら答えた。

    料理が䞊手い人。
    よく笑う人。
    お金持ち。
    優しい人。
    䞀緒にいお疲れない人。

    圌は少し考えおから、窓の倖を芋たたた蚀った。

    「文庫本をい぀も持っおいるような女の子がいいな」

    その蚀葉だけ、なぜか劙に芚えおいる。

    声の枩床も。
    暪顔も。
    机に眮かれた圌の指先も。

    私はその時、笑った。

    「なにそれ、文孊少幎ぶっおる」

    そう蚀いながら、本圓はこっそり嬉しかった。

    私の通孊鞄には、い぀も䞀冊、文庫本が入っおいたから。

    誰にも蚀わなかったけれど。
    圌にも、もちろん蚀わなかったけれど。

    それから私は、今たでより少しだけ䞁寧に本を遞ぶようになった。

    朝の電車で読む本。
    昌䌑みに机の䞋で開く本。
    垰り道、倕焌けを埅぀駅のホヌムで読む本。

    もしかしたら圌が気づくかもしれない。

    そんな小さな期埅を、栞みたいに毎日挟んでいた。

    でも、恋ずいうものは、たいおい声に出さないうちに季節が倉わる。

    卒業しお、別々の街ぞ行った。
    たたに連絡を取り合っお、たたに近況を聞いお。
    そのうち、圌の隣に誰かがいるこずも、自然な知らせずしお届くようになった。

    そしお今日。

    圌の婚玄者を囲む、おめでずうの䌚。

    テヌブルの䞊には、グラスず花束ず、少し照れた圌の笑顔があった。

    「ああ、よかったね」

    私はちゃんず蚀えた。

    本圓にそう思った。

    圌女は、やわらかく笑う人だった。
    話すずき、盞手の目をたっすぐ芋る人だった。
    圌が少し蚀葉に詰たるず、さりげなく続きを拟っおくれる人だった。

    蚀葉を遞ぶ間に、急がない静けさがあった。
    誰かの話を聞く暪顔には、読みかけのペヌゞにそっず栞を挟むような、䞁寧さがあった。

    お䌌合いだった。

    悔しいくらいに、ではなく。
    さびしいくらいに、でもなく。
    ただ、静かに、お䌌合いだった。

    だから私は、心の䞭で小さく蚀った。

    実はね、あなたが奜きだったんだよ。

    淡い淡い恋だったけど。
    誰にも芋せずに読み終えた短線みたいな恋だったけど。

    そしお圌女が垭を立ったずき、怅子の背にかけたバッグが少し開いた。

    そこから文庫本が芋えた。

    叀い蚘憶が、音もなく戻っおきた。

    文庫本をい぀も持っおいるような女の子がいいな。

    ああ、そうか。

    圌はちゃんず、あの日の自分を芚えおいたのかもしれない。
    それずもただ、運呜みたいなものが、圌の願いをどこかで拟っおいたのかもしれない。

    圌女が戻っおきお、バッグを閉じる。
    文庫本はたた芋えなくなる。

    私はグラスの氎をひず口飲んで、笑った。

    「幞せになっおね」

    今床は、声に出しお。

    圌は少し驚いたように私を芋お、それからい぀もの顔で笑った。

    「ありがずう」

    たったそれだけで、私の長い片想いは、ようやく最埌のペヌゞたでたどり着いた。

    垰り道、駅前の本屋に寄った。

    䜕かを忘れるためではなく、䜕かを倧切にしたうために。

    棚から䞀冊、薄い文庫本を遞ぶ。
    ただ読んだこずのない物語。

    レゞでカバヌをかけおもらい、バッグに入れる。

    明日からたた、私はこの本を持っお歩く。

    誰かに芋぀けおもらうためではなく。
    誰かの理想になるためでもなく。

    私自身の未来を、私自身の手でめくっおいくために。

    電車の窓に映った私は、少し泣きそうで、でもちゃんず笑っおいた。

    お互い、幞せになろうね。

    心の䞭でそう蚀うず、バッグの䞭の文庫本が、小さく返事をしたような気がした。


    シロクマ文芞郚に参加させおいただいおいたす。
    小牧郚長さた、い぀もありがずうございたす!
    今回のお題
    「文庫本」から始たる文芞䜜品です。



    【詩のような物語】ずいう、小さな物語たちを玡いでいたす。
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    これからも、日々の光や圱を、そっず蚀葉にしおいきたす。
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    䌚瀟員ずしお働きながら小説を曞いおいたす。 地方文孊賞で3床受賞。某文孊賞最終遞考通過 著曞『詩のような物語 十二か月』Kindle・玙曞籍で発売䞭📖 日垞の小さな光や、蚀葉にならない想いを物語に。 本・映画・文房具特にロルバヌンが奜き。 心にそっず灯がずもる物語を届けたい🌿

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