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短歌連作とエッセイ「痕跡標本」

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    からっぽのピアスホールはせっけんとネコのあいだのにおいするよう

    三人称「元カノ」と繰り返すごと剥がれて増えて瘡蓋の層

    背泳ぎの君を見ていた夏の日をプールの底の亀裂に埋めて

    ひび割れのプール地層に昭和やら初恋やらの化石が光る

    抜け殻の蛇の行方を隠すごと梅雨の長雨しとりしとりと


    エッセイ「痕跡標本その1〜廃プール〜」

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    プールの写真は撮れなかった

    旅先で廃プールを見つけた。古い市役所のようなコンクリート建築。水垢でくすんだガラスの奥に、50mプールとスライダーが見える。屋内型の市民プールだったのだろうか。
    からからのプールサイドに赤錆が滲んでいる。プールの底はどうだろう。アカクラゲみたいな模様があちこちに広がっていそう。

    昔、学校のプールの授業のたびに、プールの断面を切り取って地層図を思い描いていた。口が上に開いた「コ」と、それを取り囲む関東ローム層。軽石や土器、廃棄された電球、ラジオのアンテナ、鋳造の懐中時計などが埋まっている。化石はもっと下の地層。コの字は分厚いコンクリートでギチギチに固められていて、古いラジオはナックファイブを拾うこともできない。……白い底の下にだれかの生きた痕跡があると思うと、ぞくぞくして、プールの水の冷たさも気にならなくなった。たとえ本当は何も埋まっていなかったとしても、深く潜って、プールの底に手を触れて、決して見ることのできぬ足元の世界に接続できたような気がした。

    卒業して数年後、学校のプールは廃プールになった。取り壊されて、新しく武道場が作られたという。結局、あのコの字の下には何が埋まっていたのだろう。ちゃんと発掘調査したのだろうか? ダンプカーが全てを均してしまってはいないだろうか? 押し固められた土の中で、縄文土器と豆電球の破片が並んでいたらなかなかおもしろくはないか? その上で柔道部員がせっせと受け身の練習をしている。綺麗に決まるたびにピカっとフィラメントが光る。あのプールの底の地層は、取り壊しとなった今も生きている。

    目の前のこの廃プールは、スクラップの時間を静かに待っているのだろうか。周りは青く水を湛えた田園風景。新幹線が遠くからやってきては一瞬で通り過ぎる。どうせあの高架下はちゃんと発掘調査済みだろう。当然廃プールの下は未調査。インフラの工事のときにだけ地層は調査対象になり、掘り起こされる。それ以外のときは静かに眠っている。皮肉な気がする。


    ひび割れのプール地層に昭和やら初恋やらの化石が光る


    この町の中学生でもなんでもない、単なる旅人の私には、この廃プールの記憶を勝手に掘り返す度胸はない。だからぐるりと山並みを仰ぎ見て、大きく深呼吸し、遠い記憶の塩素の香りをちょっとだけ添加する。どこかで蝉が鳴く。だれかの思い出の夏はこの地で永遠に眠る。きっと誰かの頭の中で生きている。工事が始まるころには、きっと誰かが針金ハンガーやら17アイスやらなんやらを掘り起こしてくれる。

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    天気に恵まれた良い旅でした。ありがとう神様🙏



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    短歌はじめたてのひよこ(卯)です。短歌と、その周りに漂う雑文を置いています。 【こんなものを拾い集めてます】 遅刻癖、恋人供養、鶏胸肉、終売した梅干し、地下鉄のカーブ、与信残高、麦畑、指先のチョコ、コリアンダー

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