
持て余しがちな夏休み前の2時間を、AIカフェの授業にしてみた|Gemini活用実践
期末考査が終わると、授業の進め方に少し困る時期があります。
新しい単元に入るには中途半端。生徒の気持ちも、もう半分は夏休みの方を向いています。かといって、残りをぜんぶ自習にするのも味気ないし、動画を見せて終わりでは、時間を埋めただけという感じが残ります。
そこで今回は、生成AIで「理想のカフェ」を考える授業を2時間続きでやってみることにしました。
壮大な研究テーマがあったわけではありません。根っこにあるのは、夏休み前のこの時間をどう使うかという、かなり現実的な事情です。
ただ、せっかく生成AIを使うなら、適当に画像を出して終わり、にはしたくありませんでした。頭の中のイメージを言葉にする。人に見せて、意見をもらう。伝わらなければ言い方を変える。最後は、できたものを人前で説明する。そこまでを2時間に収めてみることにしました。
■なぜ「カフェ」なのか
題材は、理想のカフェづくりです。
生徒はまず、店の名前や雰囲気、おすすめメニュー、一番こだわりたいところを考えます。それをGeminiに送り、AIからの質問に答えながらイメージを具体的にしていき、最後に画像を生成します。
カフェにしたのは、単純に考えやすいからです。
犬や猫と過ごせる店でもいいし、ゲームができる店でもいい。車、音楽、漫画、スポーツ、甘いもの。自分の好きなものを一つ入れれば、とりあえず形になります。正解もありません。歴史や政治の知識を問うわけではないので、学力差も出にくいだろうと考えました。
とはいえ、「自由に考えていいよ」だけでは動き出せない生徒もいます。自由度が高い課題ほど、何をすればいいか分からなくなるものです。
なので、最初に考えることは四つに絞りました。カフェの名前、どんなカフェか、おすすめメニュー、一番こだわったこと。これだけ書けたらGeminiへ進む、という形です。
■いきなりAIに入力させない
授業では、最初からChromebookを開かせず、まず紙のワークシートに書かせます。
生成AIの授業というと、つい最初から端末を開かせたくなります。でも、何を作るか決まっていない状態で画面を開いても、止まる生徒は止まります。先に紙に書かせておけば、少なくともAIに送る材料は手元に残ります。
きれいな文章である必要はありません。「犬」「ゲーム」「海の近く」「青い店内」。単語だけでも十分で、その先はGeminiとのやり取りの中で具体的にしていけばいい。
記入例も用意しました。カフェ名は「漢のあぜ道」。ゴールデンレトリバーと一緒に過ごせる、ピンクと白を基調にしたふわふわの店です。名前と中身が食い違っていますが、例はこのくらいふざけている方が、生徒も構えずに済みます。
立派な企画書を書く授業ではないので、まずは自分の好きなものを一つ置く。それで十分です。
■画像生成だけで終わらせない


今回いちばん考えたのは、Geminiへの最初の指示です。
「理想のカフェの画像を作ってください」と入れるだけでは、AIがそれらしい画像を一枚出して終わりです。それはそれで楽しいのですが、授業としては少し弱い。
そこでGeminiには「プロのカフェデザイナー」という役割を与えました。実際に生徒がコピーして使う指示文は、こんな内容です。
あなたはプロのカフェデザイナーです。 私は高校生です。これから理想のカフェを作ります。 私が書いた内容を読んでください。 情報が足りなければ、一度に1〜2個だけ質問してください。 私が答えたら、その内容を反映してください。 最後に画像生成用のプロンプトを完成させてください。 写真のようにリアルで、おしゃれなデザインにしてください。
生徒の書いた内容を読み、情報が足りなければ一度に一つか二つだけ質問する。生徒の答えを反映し、最後に画像生成用の指示を完成させる。そういう流れです。
質問を一度にたくさん出させないのがポイントです。質問が五つも六つも並ぶと、それだけで読む気をなくす生徒がいます。一つ聞かれたら、一つ答える。この繰り返しなら、文章を書くのが苦手な生徒でもやり取りを続けられるはずです。
AIに詳しい文章を書かせるのではなく、AIの側から少しずつ聞き出してもらう。教師が教室全員に「場所はどこ?」「店内は何色?」と一人ずつ聞いて回るのは無理ですが、AIならそれぞれの構想に合わせて質問を返せます。ここは生成AIを使う意味がありそうだと思いました。
■発想は自由に、手順は固定する
ワークシートの最初には、授業の流れを八つに分けて載せました。
カフェを考える。Geminiへ入力する。質問に答える。画像を生成する。気になるところを直す。保存する。Googleスライドに貼る。短く発表する。
中身は自由、進め方は固定です。
高校1年生に限った話ではありませんが、複数のアプリや画面を行き来する授業は、「今、何をすればいいのか」を見失いやすい。教師には簡単な操作でも、生徒にとってはそうとは限りません。
Geminiを開く、文章をコピーする、続けて送る、質問に答える、画像を保存する、保存した画像を探す、スライドに貼る。一つ一つは難しくなくても、重なると迷います。
だから自由にしたのはカフェの中身だけ。手順まで自由にすると授業そのものが止まりそうだったので、そこはできるだけ一本道にしました。
■直す前に、人に見せる

1時間目は、最初の5分でゴールと流れを説明。10分ほどワークシートに構想を書き、残りの時間でGeminiとやり取りしながら画像を作ります。
画像が出たら終わり、ではありません。できれば一度は「ここを変えてほしい」と修正させます。
ただ、いきなり「直そう」と言っても、最初の一枚に満足してしまう生徒は動きません。自分では完成に見えているのだから、当然です。
そこで、修正の前に、近くの生徒と画像を見せ合う時間を挟むことにしました。
自分では気に入っていた画像でも、「もっと犬が多い方がよくない?」「店の中、ちょっと暗くない?」と誰かに言われると、直す理由が生まれます。一人で何度も再生成を繰り返すより、一度人の目を通してから直す方が、修正の中身も濃くなるはずです。
それに、AIの画像生成には回数の限りもあります。むやみに作り直すより、紙に書き、生成し、人に見せてから直す。この順番の方が、一回一回の生成が大事になります。
下書きを作る。試しに形にする。人に見せる。意見をもらって直す。
考えてみれば、これは仕事の進め方と同じ順番です。生徒がこの先、図面でも製品でも必ず通る道を、カフェの画像で一周してみる。そういう活動だと捉えることもできます。
修正は、全部作り直すのではなく「この部分だけ変えて」と伝える想定です。店内を明るくする。犬の数を減らす。壁の色を変える。自分の考えと画像のどこが違うのかを見つけ、言葉にして伝え直す。この授業では、ここが一番大事な部分だと思っています。
1時間目の最後に、気に入った画像をChromebookに保存します。何度も作り直す生徒もいれば、一枚を仕上げるので精一杯の生徒もいるでしょう。画像を一枚残せれば、1時間目は終了です。
■2時間目は、スライドと短い発表

2時間目は、保存した画像をGoogleスライドに貼り、店名や一番のこだわり、おすすめメニューを書き加えます。画像生成で終わらせず、自分が何を考えたのかを言葉で残すためです。
最後は、スライドを見せながら30秒でカフェを紹介します。
長い発表は求めません。店の名前と、一番見てほしいところが伝われば十分。発表が苦手な生徒でも、自分の作った画像が画面に出ていれば、何もないところから話すよりは言葉が出やすいはずです。「犬と遊べるカフェです」「こだわりは店内の色です」。短くても、作品と結びつけば発表になります。
締めくくりに、AIを使って分かったことを書かせます。特に聞きたいのは、思い通りにならなかったとき、どう伝え直したかです。友達に言われて直したことがあれば、それも立派な答えです。
■やってみると、時間はけっこうかかった
実際にクラスでやってみると、まず、思っていたより時間がかかりました。
概要を説明し、紙に書かせ、Geminiに入力し、読ませ、画像を1回生成する。クラスによっては、ここまでで50分いっぱいという日もありました。心配していたような大きなつまずきは起きなかったのですが、机間指導をしながら進めると、想定よりゆっくりになるものです。
つまずきの正体も、思っていたのと少し違いました。
生徒が手こずったのは、AIとのやり取りそのものより、その手前のところでした。Classroomからファイルを開く。保存する。Geminiにアップロードする。原因ははっきりしませんが、ここで止まる生徒が何人もいました。生成AIの授業というと、つい「AIをどう使わせるか」ばかり考えてしまいますが、実際の壁は一段階手前の、地味な操作のところにありました。助けられたのは、操作が得意な生徒の存在です。各クラスに1人か2人、パソコンの扱いが早い生徒がいて、その子たちに動いてもらうと、周りの進みが目に見えて良くなりました。
肝心の「直す前に人に見せる」の部分は、思った通りに機能しました。画像を見直し、こだわりを一言でまとめ、近くの生徒に見せて感想をもらう。それを踏まえて直し、提出する。この流れは滞りなく進みました。
そして何より、できあがった画像に対する生徒の反応は、満更でもなさそうでした。
普段あまり自分から話さない生徒ほど、自分の作った画像を見て嬉しそうにしていたのが印象的。何人かで画面を覗き込んで見せ合ったり、感想をもらって照れながらも直したり。出来の良し悪し以上に、「自分で考えたものが、ちゃんと形になった」という手応えの方が、この授業では効いていたように思います。
■AIを使うときのルール
生成AIを使う以上、最低限のルールは必要です。
今回確認するのは三つ。実在の人物や学校の人の顔を作らない。自分や友達の名前・住所・電話番号を入力しない。困ったら、そのまま進めずに手を挙げる。
AIの授業では、操作方法よりも「何を入力していいかの線引き」の方が大事なことがあります。便利だから何でも入れていい、とはなりません。難しい説明を長々とするより、三つに絞ってプリントにも大きく載せました。
■夏休み前の授業として
この2時間で、生成AIについて体系的に教え切ろうとは思っていません。情報リテラシーやプロンプトの書き方を本格的に扱うなら、もっと時間が要ります。
今回の目標は、生成AIを一度使ってみること。自分の考えを言葉にすること。人に見せて、意見をもらうこと。伝わらなければ少し直してみること。そのくらいです。
夏休み前の2時間。教科書を無理に先へ進めるより、生徒が自分で何かを考え、画面と少し会話し、友達と見せ合いながら一つ形を残せれば十分ではないかと思っていました。
設計どおりに進んだところもあれば、思っていたのと違う場所でつまずいたところもありました。それでも、生徒が自分で考え、人に見せ、直し、形として残し、それを嬉しそうに人に見せていたなら、この2時間の目的は十分に果たせたのではないかと思っています。
【追記】
翌日、同じ流れを別のクラスでもやってみました。
再生成した画像を見て「直った」「直らない」と騒いでいるうちに、AIには具体的に指示しないと伝わらない、ということを生徒なりに掴んだようです。提出のあと、お互いの作品を見比べて「〇〇のいい!」という声も出ていました。
操作の方は、半分が自走、半分は教え合い。余裕のある生徒が、頼まなくても詰まっている子のところへ回っていきます。
壁の手前で止まらずに済めば、生徒はちゃんとその先まで行く。そこは今回の収穫でした。