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Photo byen11538

香り

    別れた恋人は死者だ。

    一緒にご飯を食べることも、寝ることも、笑うこともできない。
    日常を共有することはできないし、一緒に過ごす未来を見ることもできない。

    ただ、思い出として残っていくだけだ。

    そして思い出は残酷だ。
    時間が経てば経つほど輪郭を失っていく。

    声を忘れる。
    体温を忘れる。
    手の大きさを忘れる。

    どんな話し方をしていたのか。
    何が好きで、何が嫌いだったのか。

    思い出そうとしても、
    もう上手く思い出せない。

    それなのに。
    街ですれ違った誰かが同じ香水を纏っていた時。
    ドラッグストアの柔軟剤売り場を通り過ぎた時。
    ふいに風が運んできた匂いの中に、あの人がいる。

    香りだけは消えてくれない。
    記憶は薄れていくのに、
    香りだけが過去を現在に引きずり戻す。

    もう会えないはずなのに、
    その一瞬だけ隣にいるような気がしてしまう。

    別れた恋人は死者だ。

    二度と同じ時間を生きることはできない。

    それでも、私の人生に確かに存在していたことと、
    あの人が纏っていた香りだけは、
    呪いのように残り続ける。

    忘れたいのに、忘れられない。

     
     

    あー

     
     
    日々感じたままを記す。

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