
父、還る。10.社長動静。
月曜朝。
総務部。
静かだったフロアに、小さなどよめきが走る。
「出た」
「更新された」
「今回早いな」
「ディズニー篇か?」
社内イントラネット。
《社長動静》
社員たちが、仕事の手を止めずに画面を見ている。
『土曜日。社長、ご家族対応のため浦安市へ』
若手。
「“ご家族対応”って何ですか」
古参。
「危機管理だ」
更新。
『午前九時。社長、テーマパークにて飲料調達』
営業部、吹き出す。
「飲料調達」
『十一時。社長、大型容器運搬』
「ポップコーンだ」
「間違いない」
『十三時。社長、座席確保』
「社長、働いてんな……」
『十五時。社長、長時間待機』
「パレードだな」
「地獄だ」
秘書課。
「詳細書いてないのに全部わかるの何なんですか」
経理。
「もう実況なんだよ」
一方。
社長室。
悠介、無言。
秘書、書類を置く。
「……本日、皆さま機嫌がよろしいようで」
悠介。
「……そうかよ」
沈黙。
秘書。
「社内SNS、“#社長生存確認”がトレンド入りしております」
悠介。
「消せ」
秘書。
「ですが業績報告は好調です」
悠介。
「何でだよ……」
昼。
社員食堂。
若手。
「社長って怖い人かと思ってました」
古参。
「怖いぞ」
「ただ、家では最弱だ」
別テーブル。
「でも全部やるんだよな」
「真面目なんだろ」
「だから会社回るんじゃね?」
その頃。
社長室。
悠介、報告書を読んでいる。
外から、笑い声。
悠介、小さく息を吐く。
「……自分が前に出ないほど、会社は回る、か」
秘書。
「会長よりご連絡です」
悠介。
「……何だよ」
秘書。
「“次はシーだ”とのことです」
沈黙。
悠介、ネクタイを緩める。
「死んだ親父が……」
終。