
ネコと あんかけ と私
「今日は何だかアレが食べたいな。」
ある日、ふとした瞬間に訪れるあの感覚。
人によって そのアレとはカレーだったりパスタだったりラーメンだったり。
私が折にふれて無性に食べたくなるアレ。
それは「あんかけ」 である。
家で作るご飯となると手の込んだものは難しいが中華あんかけや天津飯などはかなりの頻度で食卓に上がる。
そして今夜は無性に天津飯が食べたくなったので作ることにした。
あんかけを作る時、決まって思い出す
過去の事件がある。
我が家には2匹の保護猫がいる。
先にお迎えした兄ネコと
その後に迎えた弟ネコ。
あれは弟ネコが
まだ小さい子猫だった頃のこと。
初めて見る世界に はしゃいでは
あれは何だ、これは何だと家中を走り回って
ピョンピョンしていた。
自分よりも背の高い棚の上にも登ろうとするので家中のガラスや瓶を扉のある棚に全て押し込んでケガをしないように気を付けていた。

この時はまだ台所のシンクの上に登れたことは無かったので料理中にそこまで気を付けなくても大丈夫ではあった。
そして事件当日。
私はその日もそろそろ寒くなってきたなぁと
豚肉と白菜の中華あんかけを作り、料理の入った片手鍋の火を止めた。
(火を止めておいて本当に良かったと思う)
私が炊き上がったお米をお茶碗に盛ろうと
ガスコンロから目を離し炊飯器のフタを開けようとしたその時だ。
弟ネコがエイヤっとジャンプをしてシンクの上にシュタ!っと見事に着地。
ボクはこんな所まで登れるようになりましたよ
と誇らしげな顔をし、そのままガスコンロの方へ。
そして片手鍋の取手に前足をかけてグッと体重をのせた。
人は本当に危険を感じた時、目に入るものが
スローモーションのように見えることがある。
私は瞬時に右手で弟ネコを抱え
自分の後方へ退避させた。
前のめりに倒れる自分の体を支えるため
とっさに床についた左手の上に
まるで 「あなたを優しく包み込むよ♪」
とでも言いそうなトロリとした熱々のあんかけが降ってきた。
あ"ーーーー!!!!!
ガッシャン‼︎
落ちた鍋の音と自分の声がハモった。
私はすぐさま蛇口をひねり左手を流水に突っ込んだ。夕飯を作る前に戻れるならその時の自分にこう言ってやりたい!
「いいか今日はあんかけはやめておけ。豚肉と白菜の中華あんかけではなく豚肉入り野菜炒めに変更しろ‼︎お前のために言ってるんだ。でないと後悔するぞ。頼むから言うことを聞いてくれ‼︎」
頭の中で過去の自分を説得している時、
ハッと思い出したように弟ネコの安否を確認すると目をまん丸にして この世の終わりみたいな顔をしていた。
なんかよく分からんが自分が何かを
しでかしてしまったという事をわかっているようだった。
私はひとまずホッとして
「お前さんが無事ならそれでええのや」と
胸を撫でおろした。
そして見たくはないが目線を下にやると
床があんかけをわんぱく食いしていた。
弟ネコはあれ以来、ガスコンロの周辺は立ち入ってはならない場所と学習してくれたので
怪我の功名(私の)とでも言うべきか
身体を張ったかいがあったと言うべきか。
それに引き換え私ときたら
あんな目にあったにも関わらず今も懲りずに
あんかけを愛してやまない。
そして今日もまた熱々のあんをトロリと
かけた黄金色の天津飯をいただく。

口の中を美味しいで満たしてくれるこの幸福感よ。
なんとありがたい食べものなんだ。
あんかけさん、これからもどうぞ末永く
私と仲良しでいてください。