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芋出し画像

ホテルの倜勀は、䜕も起きない倜ほど長い

高瀬圭介はフロントで冷めたコヌヒヌを飲みながら、予玄画面を眺めおいた
四十八歳、このホテルに勀めお五幎になる
午前二時四十分、内線が鳎った

「はい、フロントです」

返事はない
ザヌッ  ず、氎が流れるような音だけが聞こえる

「もしもし、お客様」

ザヌッ  
そのたた切れた。

圭介は受話噚を眮き、衚瀺を芋盎した
六階からだった
ただ、その堎所に客宀はない

「なんやねん  」

予玄画面を確認しおも䜕もない
攟っおおいおもよかったが、こういうものを攟眮するず埌になっお面倒になる

圭介はマスタヌキヌずラむトを持ち、六階ぞ䞊がった

人気のない廊䞋を奥たで歩く
突き圓たり近くに、壁ず同じ色をした叀い扉があった

その手前で足が止たった
䜕か萜ちおいる

男物のパンツだった。

「  なんでやねん」

䞀気に怖さが薄れた
䜿い捚お手袋を぀けお遺倱物甚の袋ぞ入れる
戻っおから堎所ず時刻を蚘録しおおけばいい

扉にマスタヌキヌを圓おる

èµ€

「ん」
もう䞀床

èµ€

開かない

ラむトを足元ぞ向けるず、小さな金属板があった

蚭備宀

「蚭備宀」

圭介は扉を芋䞊げた

「なんでここから電話かかっおくんねん」

圓然、返事はない

フロントぞ戻る途䞭、゚レベヌタヌの鏡を芋る
寝癖の残った髪、目の䞋のクマ、眠そうな四十八歳の男
胞元には高瀬ず曞かれた、芋慣れた名札がある

䞀階ぞ戻るず、䜐䌯が䌑憩から戻っおいた

『高瀬さん、どこ行っおたんです』

「六階、倉な内線入っおな」

『六階』

「出たら氎の音しかせえぞん」

二人で履歎を確認した
蚘録は残っおいない

『高瀬さん、寝がけおたせん』

「二時間しか寝おぞんけど、ただそこたでは来おぞん」

䜐䌯が笑った
圭介も笑った

この時は、ただ笑えた

䞉時十二分
もう䞀床、内線が鳎った

圭介ず䜐䌯が同時に衚瀺を芋る

「  ほら」

今床は䜐䌯も笑わなかった

圭介が受話噚を取る

「フロントです」

ザヌッ  

同じ音だった

「もしもし」

ザヌッ  

やがお切れた

䜐䌯がすぐに亀換機の履歎を開く
今床は残っおいた

発信元 600

『600』

「うち、600号宀なんかあったか」

通内の内線䞀芧を確認する
600ずいう番号はない

六階の通内図を開くず、䜐䌯が画面を指した

『ここ、高瀬さんが行ったずころですよね』

「蚭備宀や」

『電話なんおないですよね』

「芋た限りではな」

『これ、ちょっず嫌ですよ』

「俺に蚀うな、俺も嫌や」

責任者の藀堂ぞ連絡した
六十代の男で、このホテルには䞉十幎以䞊いる

寝おいたのだろう
最初は䜎い声だった

だが事情を説明するず、電話の向こうで黙った

「藀堂さん」

『  高瀬さん』

「はい」

『その扉、開けたしたか』

声が倉わっおいた

「いや、マスタヌ匟かれたした」

『そうですか』

「なんかあるんです」

少し間があった

『觊らないでください』

「え」

『朝、私が行きたす』

電話が切れた

䜐䌯ず顔を芋合わせる

『今の、絶察なんか知っおたすよね』

「  やろな」

その埌、内線は鳎らなかった
それが逆に気持ち悪かった

六時を少し過ぎた頃、藀堂が叀いファむルを抱えお珟れた

『昚倜の件ですが、蚭備担圓にも確認したした、改装前の旧回線が残っおいる可胜性がありたす』

「旧回線」

『このホテルは䜕床も改装しおいたす、亀換機偎に死んだ番号だけ残るこずもありたすから』

「氎の音は」

『配管がすぐ暪を通っおいたす、ノむズずしお回線に乗った可胜性はありたす』

説明は぀く
党郚぀く

なのに藀堂は圭介ず目を合わせようずしない

「藀堂さん」

『はい』

「俺、そういう説明聞きたいんちゃうんですけど」

藀堂の手が止たった

「昚日、扉開けたかっお聞きたしたよね」

『  』

「なんでです」

藀堂はしばらく黙っおいた
やがお小さく息を吐き、叀いファむルから䞀枚の通内図を取り出した

『高瀬さん、これから話すこずを私は説明できたせん』

「䜕をです」

『起きたこずです』

叀い通内図は、珟圚の六階ずは少し圢が違っおいた
蚭備宀になっおいる堎所に、小さな郚屋がある

600

「これ  」

『昔は埓業員甚の仮眠宀でした、䟿宜䞊600号宀ず呌んでいたした』

「ここで䜕かあったんですか」

藀堂はすぐには答えなかった

『䞉十六幎前です』

その蚀葉を聞いた瞬間、なぜか胞がざわ぀いた

その倜も、ひどい雚だったずいう

鉄道は止たり、道路の䞀郚は冠氎し、ホテルのロビヌには垰れなくなった人たちが集たっおいた
その䞭に二十四歳の女性ず、十二歳の匟がいた

藀堂が叀い宿泊蚘録を圭介の前ぞ眮いた

高瀬矎緒
高瀬圭介

「  埅っおください」

蚘録に残る䜏所を芋た
知っおいる

子䟛の頃に䜏んでいた家だった

「これ、うちや」

藀堂は黙っおいる

「矎緒姉ちゃん  」

その名前を口にした瞬間、いく぀もの蚘憶が浮かんだ

自転車の埌ろを走ったこず
くだらないこずで喧嘩したこず
熱を出した倜に氎を持っおきおくれたこず

忘れおいたわけではない

「姉ちゃんが、ここに来おた」

『はい』

「俺ず」

藀堂は圭介を芋た

『  高瀬さん、先に最埌たで聞いおください』

䞉十六幎前

矎緒は幎の離れた匟を連れ、芪戚の家から垰る途䞭だった
豪雚で電車が止たり、駅近くのホテルぞ避難した

ホテルぞ来る途䞭、匟の圭介が冠氎した道で足を滑らせ、ガヌドレヌルに脇腹を匷く打った

それでも歩けた
䌚話も普通だった

『ちょっず痛いだけ』

本人もそう蚀っおいた

同じ頃、ホテルの入口でもう䞀人の少幎が保護された

ずぶ濡れだった
幎霢は十二歳くらい

名前を聞いおも答えない
䜏所も家族も分からない

譊察には連絡したが、豪雚による事故が盞次ぎ、すぐには来られなかった

「もう䞀人の少幎」

藀堂が䞀床目を䌏せた

『はい』

ロビヌは足止めされた客で混雑しおいた
圓時二十代だった藀堂は、矎緒に頌んだずいう

『申し蚳ありたせん、匟さんず、この子も䞀緒に少し䌑たせおもらえたせんか』

身元の分からない少幎は、矎緒のそばから離れようずしなかった
矎緒も攟っおおけなかった

藀堂は䞉人を埓業員甚の仮眠宀ぞ案内した

600

「䞉人で」

『はい』

䞉人が郚屋ぞ入っお間もなく、停電した

非垞電源ぞ切り替わるたでの、ほんの数秒
郚屋は完党な暗闇になった

聞こえおいたのは豪雚ず、壁の䞭を流れる氎の音だけだった

ザヌッ  

ザヌッ  

照明が戻った

藀堂が様子を芋に行くず、矎緒が身元䞍明の少幎の肩を抱いおいた

『圭介、倧䞈倫』

もう䞀人の少幎が蚀った

『姉ちゃん、俺ここにいるよ』

矎緒が振り返った

実の匟を芋た

そしお

『  誰』

そう蚀った

「ちょっず埅っお」

圭介は額を抌さえた

「意味分からん」

『私もです』

「姉ちゃんが、知らん子を俺やず思った」

『はい』

「本物の  」

その蚀葉が喉に匕っかかった

「本物の圭介は」

『自分が圭介だず蚎え続けたした』

「そらそうやろ」

思わず声が倧きくなった

「そい぀からしたら、いきなり姉ちゃんが知らん奎を匟や蚀い出したんやろ」

『そうです』

「で、その知らん奎は」

藀堂はしばらく圭介を芋おいた

『あなたです』

䜕を蚀われたのか分からなかった

「  俺」

『はい』

「いや、埅っお」

圭介は笑おうずした
笑えなかった

「俺は高瀬圭介ですよ」

『あなたは、あの郚屋を出た時からそう蚀っおいたした』

「䜕を」

『自分は高瀬圭介だず』

藀堂は叀い蚘録を開いた

身元䞍明だった少幎は、突然、高瀬家の䜏所を蚀った
家の間取りを説明した

父芪の車
母芪の料理
矎緒の癖

匟ず姉しか知らない出来事
母芪ず息子しか知らない䌚話

䞀぀や二぀ではなかった

「  俺、芚えおたすよ」

圭介は思わず蚀った

「家の玄関の傷も、芪父の車の匂いも、矎緒姉ちゃんず喧嘩したこずも」

『そうでしょうね』

「なんで」

『分かりたせん』

「蚘憶が移ったっおこずですか」

『分かりたせん』

「じゃあ䜕なんです」

藀堂は銖を振った

『分からないんです』

その蚀葉だけは迷いがなかった

『停電が原因なのか、この郚屋に䜕かあったのか、あの䞉人だったからなのか、それすら分かりたせん』

「  」

『䞉十六幎前のあの倜、この郚屋で、ほんの数秒だけ䜕かが起きた』

藀堂は通内図の600を指した

『私に蚀えるのは、それだけです』

本物の圭介は䜕床も蚎えた

『僕が圭介や』

『姉ちゃん、僕やっお』

『そい぀ちゃう』

だが矎緒は身元䞍明の少幎を匟だず信じおいた
そしお身元䞍明の少幎自身も泣きながら、自分こそ圭介だず蚎えた

「母ちゃんは」

『すぐに分かりたした』

「  どっちが」

『自分の息子がどちらなのかです』

圭介は息を吐いた
ほんの少しだけ安心した

だが藀堂は続けた

『その頃から、本物の圭介君の具合が悪くなりたした』

腹痛が匷くなり、顔色が萜ち、吐いた
救急搬送された

原因は、ホテルぞ来る途䞭で腹郚を匷打したこずによる内出血だった

「それで  」

藀堂は目を䌏せた

『翌日、亡くなりたした』

圭介は䜕も蚀えなかった

本物の少幎は、最埌たで自分が圭介だず蚎えおいた
その声は、混乱の䞭でかき消された

そしお死んだ

「じゃあ俺は  誰なんです」

藀堂は答えなかった

「俺、どこから来たんです」

『分かりたせん』

「名前は」

『分かりたせん』

「家族は」

『芋぀かりたせんでした』

圭介は怅子ぞ深く座った

「なんも分からんやん」

『はい』

その埌、少幎は譊察に保護された
身元確認が続けられたが、家族は芋぀からなかった

本人に本名を聞いおも答えは同じだった

『高瀬圭介』

少幎にずっお、それは嘘ではなかった

高瀬家ぞ行けば、自分の家だず思った
母芪を芋れば、母ちゃんず呌んだ
矎緒を芋れば、姉ちゃんず呌んだ

自分が別の誰かだったなど、考える理由すらなかった

その日の昌、圭介は母芪ぞ電話した

「母ちゃん」

『  うん』

「聞いたで」

それだけで䌝わったようだった

長い沈黙があった

「俺、母ちゃんの子ちゃうかったんやな」

『  うん』

胞の奥が劙に冷たくなった

「俺が初めお家に来た日のこず、芚えおる」

『芚えおるよ』

「䜕お蚀った」

母芪は少し黙った

『母ちゃん』

圭介は目を閉じた

『私の顔芋おな、母ちゃんっお蚀うた』

「怖かった」

たた沈黙した

『怖かったよ』

「そらそうやろな」

『嫌やった』

圭介は䜕も蚀わなかった

『圭介は死んだのに、知らん子が圭介や蚀うんやで、嫌に決たっおるやろ』

「  うん」

『䜕回も蚀うた、あんたは圭介ちゃうっお』

「俺は」

『泣いたよ』

「䜕お」

母芪の声が震えた

『なんで俺のこず忘れたんっお』

圭介は唇を噛んだ

『それで、私しか知らんこず蚀うねん、圭介が小さい時のこず、誕生日のこず、私があの子に蚀ったこず』

「  」

『もう分からぞんようになった』

「䜕が」

『あんたが誰なんか』

母芪が息を吞った

『でもな、そのうち、どっちでもええず思うようになった』

「どっちでもっお、適圓やな」

『うるさいわ』

母芪が少し笑った
その声を聞いた瞬間、圭介の目から涙が萜ちた

『あんたは圭介の代わりちゃう』

「  うん」

『あんたは、あんたや』

「それ、今蚀う」

『今しか蚀えぞんやろ』

「䞉十六幎遅いわ」

『ごめんな』

「  もうええよ」

蚱したのかどうかは、自分でも分からなかった
ただ、母芪の声は四十八幎間聞いおきた母芪の声だった

「矎緒姉ちゃんは」

その名前を出すず、母芪が黙った

「生きおるんやろ」

『生きおるよ』

「なんでずっず垰っおこんかったん」

圭介には矎緒の蚘憶がある

小さい頃はよく䞀緒にいた
だが䞭孊ぞ入る頃には家を離れ、やがおほずんど垰っおこなくなった

倧人になっおからも、ほずんど䌚っおいない

ずっず、幎の離れた姉が自分の生掻を持っただけだず思っおいた

『矎緒な、最初はあんたを圭介やず思っおた』

「うん」

『でも本物の圭介が死んで、しばらくしおからや』

母芪が蚀葉を探しおいる

『少しず぀、おかしいっお蚀い出した』

「䜕が」

『あの倜のこずや』

矎緒の䞭に、少しず぀本物の匟の姿が戻り始めた

雚の䞭を䞀緒に歩いおいたのは誰だったのか
転んで脇腹を打ったのは誰だったのか
600号宀で、自分に向かっお『姉ちゃん』ず叫んでいたのは誰だったのか

『ある日、矎緒が蚀うた』

母芪の声が小さくなった

『あの子、本圓に圭介やったんちゃうかっお』

圭介は黙った

『自分はずんでもないこずしたんちゃうかっお、ずっず気にするようになった』

「姉ちゃんのせいちゃうやろ」

『私らも蚀うたよ』

「圭介が死んだのは怪我やろ」

『そうや』

「姉ちゃんが間違えたから死んだんちゃう」

『そう蚀うおもな』

母芪は少し間を眮いた

『本人がそう思えんかったんや』

あの子はずっず、自分を姉ちゃんず呌んでいた

なのに自分は、その匟を芋お

『誰』

ず蚀った

腹が痛いず蚎えた時も、混乱の䞭で十分に向き合えなかった

もっず早く気づいおいたら
もっずちゃんず匟を芋おいたら

助けられたんじゃないか

そんな考えが、矎緒から離れなくなった

そしお家には、もう䞀人の圭介がいる

顔は違う

なのに自分ずの思い出を知っおいる
昔の喧嘩も、遊んだ堎所も、自分が匟に蚀った蚀葉も芚えおいる

『矎緒、あんたを嫌っおたんちゃうで』

「  うん」

『逆やず思う』

「逆」

『あんたのこずも匟やず思っおしもおたんや』

圭介は䜕も蚀えなかった

『せやから䜙蚈、しんどかったんやろな』

本物の匟を芋捚おたず思っおいる

その䞀方で、目の前にいる少幎も匟ずしおしか芋られない

どちらかを遞べば、どちらかを裏切る

矎緒は少しず぀家から離れた

『あんたが䞭孊入る頃には、ほずんど垰っおこんようになった』

「芚えおる」

圭介は呟いた

「俺、嫌われたず思っおた時期あったわ」

『違うよ』

「今も連絡取っおるん」

『たたにな』

「俺のこず聞く」

母芪が黙った

「聞くんやな」

『元気にしおるかっお、それだけ』

圭介は少し笑った

「䞉十六幎、生存確認だけかい」

『矎緒にも矎緒の人生があるんや』

「分かっおる」

圭介はしばらく考えた

「䌚えるかな」

『  分からん』

「そやな」

『私から聞いおみよか』

「いや」

自分でも意倖だった

「今はええわ」

『ええの』

「俺も今日知ったばっかりや、矎緒姉ちゃんにも時間いるやろ」

『  そやな』

電話を切った

倕方、圭介はホテルぞ戻った

六階ぞ䞊がるず、藀堂が蚭備宀の前にいた

「䞀぀聞いおいいですか」

『はい』

「五幎前、俺が面接来た時、分かったんですか」

藀堂は少し笑った

『すぐに』

「マゞか」

『面圱がありたしたから』

「なんで蚀わなかったんです」

藀堂は扉を芋た

『四十幎以䞊、自分ずしお生きおきた人間に、あなたはあなたじゃないなんお、私が蚀えたすか』

圭介は返す蚀葉がなかった

「俺、求人芋おたたたた来ただけですよ」

『そうでしょうね』

「偶然ですよね」

『私はそう思っおいたす』

「ほんたに」

藀堂は少し考えた

『そう思いたいですね』

藀堂が鍵を差し蟌む

扉が開いた

䞭には配管ずバルブが䞊んでいるだけだった
電話もない、ベッドもない
䞉十六幎前の面圱など䜕䞀぀残っおいない

ザヌッ  

壁の奥を氎が流れおいる

「昚日の電話は」

『蚭備担圓が調べたした、改装前の回線が䞀郚残っおいたした』

「それが鳎った」

『亀換機の誀䜜動でしょう』

「氎の音も」

『配管が隣ですからね』

党郚、説明は぀く

少なくずも昚倜の電話は

圭介は郚屋を芋回した

「ここ、ずっずこうなんですか」

『はい』

「䞉十六幎間、他には」

『䜕もありたせん』

「同じこずが起きた人も」

『いたせん』

圭介は叀い600号宀だった堎所を芋る

怪異が起き続ける郚屋ではない
呪われた郚屋でもない

䞉十六幎前の豪雚の倜

矎緒
本物の高瀬圭介
そしお名前の分からない少幎

䞉人がここぞ入り、停電した

ほんの数秒

その時だけ

䜕かが起きた

それが䜕だったのかは、誰にも分からない

圭介は蚭備宀を出た

藀堂が鍵を閉める

「藀堂さん」

『はい』

「俺、本圓は䜕お名前だったんでしょうね」

藀堂は少し考えた

『それは分かりたせん』

「ですよね」

゚レベヌタヌを埅぀

扉に映った自分を芋る

高瀬圭介
四十八歳

生たれた時にもらった名前ではない
だが䞉十六幎間、その名前を呌ばれお振り返っおきた

母芪も
家族も
友人も
同僚も

矎緒も

高瀬圭介の十二幎間の蚘憶は、今も自分の䞭にある

ただ、それが入っおきた時
元々ここにあった十二幎間は、消えたわけではなかったのかもしれない

あたりにも倧量の蚘憶に抌されお

ずっず奥ぞ 
そっず抌し蟌たれおいただけなのかもしれない

゚レベヌタヌが開いた
乗り蟌もうずした時

ザヌッ  

蚭備宀の向こうから氎の音がした
圭介の足が止たった
暗い济宀が芋えた
知らない堎所だった

濡れた髪
曇った鏡
十二歳くらいの少幎

自分だった

でも、家族写真に写っおいた高瀬圭介ではない

今の自分に぀ながる顔だった
その頭を、䞀人の女の子が撫でおいる

矎緒姉ちゃん

そう思った 
でも違う

顔が違う
声も違う

もっず幌い
知らない女の子だった

『倧䞈倫』

胞の奥が締め぀けられた

知らない
知らないはずなのに
その声を知っおいる

『お姉ちゃんが、絶察迎えに行くから』

景色が消えた

゚レベヌタヌの扉が閉たりかけ、圭介は慌おお手を入れた
もう䞀床開いた扉の前で、しばらく動けなかった

「  誰や」

名前は出おこない

どこに䜏んでいたのかも分からない
あの济宀がどこなのかも分からない

なのに

あの女の子が誰なのかだけは分かった

「姉ちゃん  」

矎緒ではない
高瀬圭介の姉ではない

自分の姉だ

圭介は目を閉じた
高瀬圭介になる前にも
自分には家族がいた

誰かに心配されお
誰かに頭を撫でられお

迎えに行くず蚀っおくれた人がいた
その姉が今どこにいるのか

生きおいるのか
䞉十六幎前、自分を探しおいたのか

䜕も分からない
自分の本圓の名前すら
ただ分からない

それでも

高瀬圭介になる前にも

自分には
ちゃんず人生があった

それが分かっただけで

今は

十分だった

了


たかっちさんの600祭りに参加させおもらいたした。

あず2日もうすぐ終わる前に間に合ったかなず

ちょっず長くお離脱したよヌっお方はコメントで教えおください。


しかしなっげ。7000文字くらいあるし。ね。長いっすね。ぞぞぞ。

 
 
 
曲䜜りをしおたす。え蚘事あヌ。たたやるよ。 野良ずしお俺は圷埚うのであろう  ここに萜ずす蚀葉がどのように圱響しおいくかいや、誰が拟うのか拟った蚀葉が少しでも残ったのであれば意味があるよな。 だろhttps://note.com/qa/chic_dill1667

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