
今日もわたしは、晩ごはんを成立させる #36|顔色を見る。
肉や魚は、覚えている。
野菜だけは、毎日顔色を見ないとわからない。
わが家の献立は、今日も野菜のご機嫌次第。
晩ごはんは、
野菜室が決める。
⸻
主菜は覚えている。
肉と魚。
冷蔵庫と冷凍庫。
どの子が、どこにいるか。
⸻
7日分しか買わない。
いつも、両手におさまる数。
わたしメモリーでも足りる。
⸻
⸻
⸻
問題は、
野菜室。
⸻
葉物。根菜。きのこ。
⸻
ピーマン。なす。
ブロッコリー。
「君たちは何科なの?」
聞きたくなる子たちまでいる。
⸻
青じそ。
みょうが。
「香菜」っぽい、わき役もいる。
⸻
そして、
みんな足の速さが違う。
⸻
料理人なら、
分かるのかもしれない。
⸻
でも、
わたしは、
晩ごはんをつくるだけのおじさんである。
⸻
分からない。
⸻
知りたいほど、
興味もない。
⸻
だから、
わたしは毎日しゃがむ。
⸻
野菜室を、のぞき込む。
⸻
献立を考えるんじゃない。
顔色を見る。
⸻
小松菜。
たいてい元気。
⸻
ニラ。
読めない。
でも、
今日のやつは、がんばっている。
⸻
ケール。
ふちが限界。
でも、
耐えている。
⸻
ズッキーニ。
……君、
先週もいたよね?
⸻
ピーマン。
少し、
シワがお増えになられた。既視感。愛おしい。
⸻
青じそ。
こちらは、
シミがお増えになられた。
⸻
野菜のご機嫌は、
わからない。
⸻
水曜日まで、
大丈夫だろう。
⸻
そう思った白菜が、
月曜日には、
もうふちが黒ずみ始めていたり。
⸻
逆に、
火曜日には使わなきゃ。
⸻
そう思ったブロッコリーが、
金曜日まで、
しゃんとしていたりする。
⸻
野菜にも、
機嫌があるらしい。
⸻
だから、
予定は立てない。
⸻
毎日、顔色をうかがう。
⸻
そして、
年に何回か。
ふしぎなことが起きる。
⸻
⸻
⸻
木曜日。
⸻
なぜか、
緑。
⸻
野菜室が、
オールグリーン。
⸻
小松菜。
ニラ。
ケール。
青じそ。
ピーマン。
ズッキーニ。
⸻
こうなると、
もう迷わない。
⸻
全部いく。
⸻
鍋の下には、
鶏もも肉。
⸻
にんにくを、
ひとかけ。
⸻
その上から、
緑を、
どさっ。
どさっ。
どさっ。
⸻
最後に、
青じそペースト。
⸻
追い緑。
⸻
これが、
わが家で唯一、
名前の付いた料理。
⸻
「ミド・リ・マミレ」
⸻
2ヶ月に一度くらいしか、
現れない。
⸻
味?
⸻
毎回違う。
⸻
でも、
ちゃんと成立する。
⸻
野菜は、
使い切れた。
野菜室が、空っぽになる。
⸻
それだけで、
十分おいしい。
⸻
⸻
⸻
そして、翌朝。
⸻
わたしは、
用もないのに、
野菜室を開ける。
⸻
さて、今日の憂さ晴らしはここまで。
(金曜日は、冷凍庫がなんとかしてくれる)