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#1 不思議な世界で目が覚めた

    「はぁ……もう、朝か」
    最近なかなか寝付けない日が続いていて、寝起きの身体はダルく、寝たのか寝れてなかったのかもよくわからないような感覚だった。
    ゆっくりと大きく伸びをしながら目を開けた瞬間、背中がぶわっと沈んだ。
    「え?」
    慌てて起き上がろうとして、咄嗟についた肘がゆっくりと沈んだ。
    「うわっ、なにこれ!」
    砂だ。ものすごく柔らかい砂。

    淡いピンク色さらさらしてるのに、すごく柔らかくふかふかしてる。
    まるで巨大な生き物のお腹の上みたい。しかも少し温かい。

    部屋のベッドで寝ていたはずの私は、夢か現実はわからないまま、ふと目線を上げた。
    「……はぁーーーーー!?」
    目の前にはピンク色の砂漠が広がっていて、空が…おかしい。
    緑と紫の美しいグラデーションで、視界に入りきらないほど巨大な惑星がいくつも浮かんでいて、その光景はものすごく美しく幻想的だった。
    だけど、キラキラと輝く星をよく見ると、子供が色鉛筆で描いた落書きみたいに歪で雑。一気にこの世界が現実なのかデタラメな夢なのか、混乱する。

    「え?どういうこと? ちょっと待ってよなにこれ、ここどこ!?」
    混乱とは裏腹に、視界に入るのはあまりに美しく不思議な世界。
    たぶん野外なのに、風がない。温度も感じない。
    手に触れる砂に目を向けて、自分の手が視界に入った。

    「……え」
    手が紫色だった。しかも、びっしりと大きな棘が生えている。
    「うわぁぁあぁぁわあぁぁ!!!!!」
    自分の突然の大声に、自分でびっくりした。

    そして、少し小声で
    「なにこれ!なにこれ!? ちょっと待って待って待って!」
    反射的に触る。
    「痛っ!!」
    自分の腕に生えた棘を触ってしまった。痛いし、恐ろし過ぎる。

    心臓の鼓動が速くなっているのに気づく。不安で呼吸が荒くなる。
    なにが起こってるのかわからないけど、不味い状況なのは理解した。

    そのとき。
    私の影が、一瞬だけ遅れて動いたように見えた。
    「……え?」
    数秒遅れて、ゆっくりと私の影の形になる。また動いてみると、普通の影。辺りを見渡すと、遠くに、大きな川が見えた。でも、なにかおかしい。
    水が流れているというより、川そのものがゆっくり移動しているみたい。

    影も川も、目の錯覚なのか、まだ寝ぼけてるのか。
    自分が見たものが正しいのか、自信がない。

    足元に何かが動く気配を感じ、目線を落とす。小石がいくつかある。
    その中の一つが一瞬動いたような気がして、見ると止まる。
    また一つ、動いたと思って目線を送ると止まる。

    沖縄に住んでる私は、砂浜にいるヤドカリを思い出した。
    ヤドカリは、動かず貝殻に混ざってカモフラージュしているけど、こちらがじっと息を潜めていると、次第にみんな動き出す。
    私は静かに動かず、小石を眺めてみた。すると、小石にムカデのような無数の足が生えて、一斉に動き出した。
    「うわああああああ!!!!!」
    私はよろめきながら叫んだ。
    すると、小石はピタッと止まり、ただの小石に戻った。
    私の影はと言うと、大きくずれて私の影の形になった。

    「ちょっと待ってよ、怖いって!やめてよ!なにこれ、夢!?」
    辺りをオロオロと見渡した。手はまだ紫で棘も生えてるし、パニック!
    怖い。意識ははっきりしているのに、夢なのか現実なのかわからない。
    じわっと目に涙が溜まっているのに気付く。不安で泣きそうだった。

    その時、風鈴のような美しく軽く響き渡る音がした。
    一輪の大きな見たこともない白くて美しい花が飛んできて、私は咄嗟に手をかざすと、その花は棘だらけの手の平の上にふわっと乗った。
    花弁が大きく開いて、ゆっくりと形を変え、鳥の形になった。
    あまりの美しさに、一瞬恐怖も不安も忘れて見惚れた。
    目がくりっと大きくて、クチバシは薄いオレンジ色。頭と尾だけが鮮やかな水色をしていた。羽を大きく広げて、喉元を震わせながら風鈴のような音色を出した。この世のものとは思えない美しさで、心を奪われた。
    鳥が触れている手の平の棘が消えた。

    その鳥は鳴き終わると、みるみると色が褪せて、花が枯れるように萎れて、私の手からどさっとずり落ちた。そのままサラサラと砂のように崩れて、跡形もなくなった。

    一瞬の出来事だった。
    私は呆気に取られたように、今見たことが信じられず、花の鳥が乗っていた手の平を見つめていた。手にはまた棘の生えて来た。そして、手の平に涙が落ちた。絶望感。

    「どうしよう…なにが起こってるのかわかんないよ… 怖いよ…」
    すると、今度は背後に私の服の裾を引っ張る感触がした。

    振り向くと、1mくらいの見たことのない生き物が立っていた。
    私のパジャマの裾を掴んでる。そうだ、私はまだパジャマを着てたな。そんなことを考えつつ、その生き物を見る。不思議と恐怖心はない。

    「やあ!」
    喋った。その生き物が、私を見上げて話しかけてきた。
    人みたい形はしてるけど、全体的につるんとしてる。
    白と薄いピンクを混ぜたような色。
    淡いピンクの砂の上だと見失いそうな色だった。

    「やあ!」
    もう一度言った。
    私はキョトンとしつつ、返事をした。
    「…あ、どうも。」
    そして続けた。
    「あー、えーと… ここって、なんなの? あんた誰!?」
    「あんたこそ、誰?」
    「あ、え? 誰って… あんたの知らない人だよ。」
    「じゃー、僕も君の知らない人だね。」

    そりゃそうだ。私の返し方が悪かったことを反省して、答え直した。
    「えーと、私はミカ。多分だけど、ここじゃない場所から来たみたい。」
    「そっか、僕はルニ。それ以外は、決まってないからわかんないや。」
    「決まってないって、どう言うこと???」
    「決まってないんだよ。その都度変わるじゃん、みんな。」
    ルニと名乗る生き物はそう答えて、私は意味がわからないから聞き流した。

    私は会話が出来るルニと会えて、少しほっとしていた。
    ふと自分の手が視界に入った。
    紫色が薄くなり、棘もほとんどなくなっていることに気付いた。

    「ルニ!私の手、さっきまで紫で、腕まで棘だらけでさ!見て、治った!」
    「あれー、もしかしてミカ、さっきまで怖かったの? ふふっ、面白いね。僕と会って安心したんだね。なら良かったよ、あははは!」
    ルニは、小さな子供を笑うように話し、私の背中をトントンと軽く叩いた。

    私は足元の小石につまづき、よろけた。
    小石は「キュ」っと音を立てて、粉々になって消えてしまった。
    小石を踏んでしまった足に、鈍い痛みが走った。
    「痛っ!」
    その瞬間、手が一瞬金属のような質感になり、戻った。

    私は手の平を見たり裏返したり、観察しながら言った。
    「どうなってるの?」
    「ミカ、すぐ身体に出るんだね。そりゃ驚いたら肌が変わるのは当たり前だよ!ミカは感情が豊かなんだね、面白い生き物だ。」
    ルニは私を物珍しそうに見ている。
    そして続けた。
    「さっき小石を踏んだとき、足がちょっと痛かったでしょ? 悪気がなくても、ミカは生き物の命を奪ってしまったからね。痛みか、何か違う形で返って来るんだよ。」
    因果応報ってやつ?カルマ!?
    単純なのか複雑なのか、全然わからない世界だ。

    私は、川が動いているように見えたのを思い出して、遠くにある川を指差しルニに聞いてみた。
    「ねぇ、あの川が動いたように見えたんだけど、何あれ、川だよね?」
    すると川が大きな蛇のように、ゆっくりと動き出した。
    長すぎて端は見えないけど、ものすごく大きくて水みたいな質感。
    「そう、川。川だって生きてるから、動くに決まってるじゃん!あははは」
    川はくねくねと蛇のように動きながらどこかへ行ってしまった。
    そのまま遠くを見ていると、さっきはなかった山がる。この山も、よく見ると少しづつ移動してる。
    「あの山ももちろん生きてて、今は散歩中かもね。あとね、あの山は、実はお尻なんだ。見ててごらん、たまにオナラするから!」
    山の頂上からぶわっと綺麗な七色の蒸気のようなものが吹き出した。

    ルニは、普通のことのように私に説明してくれるけど、私は呆気に取られて、もうなにが起こってるのやら。

    ルニはおもむろに私の隣にしゃがんで、地面の砂を、掬うと言うよりちぎって、とても美味しそうに食べ始めた。甘くてふわふわした綿菓子を食べるように。私には意味のわからないことが起こり続けて、疲れて来てしまった。
    ルニは気持ちがついて行かない私を横目に、ふわふわの砂を口いっぱいに頬張りながら、私の方に砂を握った手を伸ばし、食べてみろと言うように顎を2回上げた。
    ルニがあまりに美味しそうに食べるので、私は素直に食べてみた。
    ふわっとしていて、ほんのり甘くて、綿菓子ともマシュマロとも違う、食べたことのない味と食感だけど、ものすごく美味しかった。そして、感じ始めていた疲れが、炭酸が弾けるようにショワショワと弾けて消えていく感覚がした。

    あらゆる固定概念が崩れていく。
    ここがなんなのかもわからないけど、私の知る常識が当てはまらない場所なのは理解した。そして、一旦このヘンテコな世界にいる自分を受け入れてみないといけないな、と思い始めていた。

    唐突にルニが言った。
    「ミカ、ここでは、どんな感情も楽しむって、僕に約束してくれる?」
    私は、意味がわからなかったけど、小さく頷いた。



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