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Photo bycute_violet8353

起業で解き放たれた、私の呪い


    五年前に起業した。

    私はいま、北軽井沢で貸別荘を五棟経営している。

    起業前はサラリーマンだった。十年くらい、同じ会社に勤めていた。仕事は法人営業。中小企業のM&A仲介の仕事だった。

    後継者がいない経営者から相談を受け、会社を引き継いでくれる相手を見つけ、マッチングする。経営者にアポイントをとって、ネクタイを締め、提案書を片手に訪問する。そんな毎日だった。

    会社を辞めて五年ほど経った今日。

    朝起きて、ワールドカップのイングランド対クロアチア戦を見た。試合を見ながら、AIで貸別荘のホームページを作っていた。そのあと、YouTubeで貸別荘につけるエアコン工事のDIYの仕方を勉強して、工具レンタルの注文をした。

    すごい仕事の変わりようだ。

    同じ人間とは思えない。

    なんでこうなった。

    良い機会なので、少し振り返ってみようと思う。

    会社を辞めて最初にやったのは、Uber Eatsのような弁当宅配店だった。

    独立して店舗経営をやりたかった。でも、やり方がよく分からなかった。だから、とりあえず個人事業主向けのフランチャイズに加盟して、一年くらいやってみた。

    やってみた感想は二つある。

    一つ目は、フランチャイズはチェーンの決まりが多くて大変だ、ということ。

    二つ目は、人を雇うのは面倒くさい、ということ。

    フランチャイズにはチェーンのルールがある。なかなか自分の思うようにできない制約があった。二十人くらいのアルバイトを雇っていたけれど、その管理も面倒だった。

    結局、一年くらいで辞めた。

    フランチャイズの制約に嫌気がさして、自分で自由にやりたいと思って始めたのが貸別荘だった。

    中古物件を買って、自分でDIYでリフォームする。よくあるやつだ。

    もちろん、DIYは一切経験なしだった。

    最初の貸別荘は、YouTubeで「和室を洋室に」などと検索して、勉強しながらリフォームした。

    はじめは、和室の古い畳の捨て方すら分からなかった。一所懸命ハサミで解体したりしていた。あとで、業者に頼めば一枚千五百円で処分してくれることを知った。

    洗面台も、水道管のつなぎ方が分からなかった。水を通したら噴き出して、びしょ濡れになったこともある。

    そんなことがありながらも、なんとかオープンした。

    最初はお客さんが入らなかった。つぶれると思って、コンビニでバイトしたこともあった。

    でも、続けていれば、なんとかなるものだ。

    四年経ったら、いつの間にか五店舗になっていた。

    五店舗に至るまで、いろいろなことにチャレンジした。貸別荘の経営者としての能力は、かなり上がったと思う。

    正直、貸別荘経営者というすごく限定した範囲なら、日本一スキルが高いんじゃないかと勝手に思っている。まあ、世の中には上には上がいる。もっとすごい人はたくさんいるかもしれない。

    それでも、この四年間でできるようになったことは沢山ある。紹介したい。

    1. 屋根以外は、家を全部リフォームできるようになった

    この四年間で九棟の物件を買い、すべて自分でリフォームした。三棟は売却して、いま所有しているのは六棟だ。

    和室の洋室化、浴槽の設置、トイレの交換、外壁塗装。本当に何でもやった。

    DIYというのは、普通は自分の家一棟をやるくらいだと思う。九棟というのは、DIYにしてはかなり経験値が高い方だと思う。

    最初はYouTubeを見て、見よう見まねだった。

    でも、やっていると、不思議なことに出会いが生まれる。

    友達のお父さんがめちゃくちゃすごい職人だったり、屋根工事を頼んだ大工さんがいろいろ教えてくれたりした。

    そういうありがたい出会いが重なって、基本的なことはそれなりに出来るようになってきた。

    2. ホームページを作れるようになった

    最初は業者に作ってもらった。

    ただ、作ってもらったのが、自分でも編集できるタイプのホームページだった。だから、自分でちょこちょこ修正していた。

    最近AIに触るようになって、ふとAIに聞いてみた。

    「このホームページの改善点を教えて」

    すると、「このボタンの色は#A91E48にして」みたいに、すごく具体的な指示をたくさん出してきた。

    それで、AIの言う通りに三日間くらい、ずっとホームページを修正していた。

    そうしたら、AIを使えばホームページは作れるな、と感じるようになった。

    いま、新しいホームページをAIで作っている。

    3. 動画が作れるようになった

    貸別荘では、お客さんから質問の問い合わせがけっこう来る。

    たとえば、周辺のおすすめスポットはどこか。この設備はどうやって使うのか。

    最初は電話で答えたり、現地まで説明に行ったりしていた。でも、やっぱり大変だ。

    動画で見られたらいいなと思った。

    そこで動画を作り、QRコードにして、貸別荘に貼るようにした。すると問い合わせがだいぶ減って、楽になった。

    主にはこんな感じだ。

    余談だけれど、去年はボードゲームも作った。

    「彼氏の愛情判定ゲーム 私のこと、ちゃんと分かってるよね?」というゲームだ。

    もともと二十年くらい前、大学生の時にボードゲームが好きになった。友達とちょくちょく遊んでいた。累計三百個くらいはやったと思う。

    それなりにボードゲームはやっている方だと思う。でも、自分で作ろうと思ったことはなかった。

    けれど、ある時ふと思った。

    「動画も作れるようになったし、ボードゲームも作れるんじゃね?」

    なんとなくそう思って作ってみたら、作れた。

    デザインだけはセンスがなくて友達にお願いした。でも、貸別荘でいろいろやっていたからか、なんとなく商品化して販売できた。今年はゲームマーケットにも出展した。

    こんな感じで、会社員の時には考えられないくらい、独立してからいろいろなことができるようになった。

    会社員の時は、何かやろうと思っても、上司に相談して、企画書を作って、会議で話して、稟議をあげて、という感じだった。

    いま思うと面倒すぎて、新しいことをやる気がなくなる。

    でもいまは違う。

    ホームページを作れるかもしれない。AIに聞いて、できそうなら作ってみよう。

    それだけだ。

    そう思うと、ビジネス観はずいぶん変わった。

    会社員の時は、ビジネスとはアイディアやビジネスモデルだと思っていた。いかに成功する案を練れるか、というイメージだった。多分そもそも始めたり、経費を使ったりするのに周りの人の合意を得る必要があったからだと思う。

    でもいまは違う。

    ビジネスは、とりあえず思ったら全部やってみるものだと思っている。

    どれか一個当たったら良い。当たらなくても、何らかのスキルが自分に残れば儲けもの。

    そんなイメージに変わった。

    実際に起業をすると、たとえば同じビジネスモデルの貸別荘でも、繁盛している施設もあれば、全然予約が入っていない施設もある。

    結局、モデルが同じだったとしても自分がどれだけ良い店にできるか、という話になる。

    そうすると、DIYで施設を良くすることも、ホームページを改善することも、動画で利用しやすくすることも、結局は全部「やれることはやろう」となる。

    会社員の頃、中小企業経営者と話していた時に、社長が自分の業界の市場規模を知らなかったりして、なんで知らないんだろうと疑問に思っていた。

    でも、いま思えば、市場規模を知っても何の足しにもならないからなんだろう。結局自分が触れるところにしか事業の成功はない。

    つらつら書いてきたけれど、とにかく会社員時代と起業してからでは、まったく世界が変わった。

    ここからは、世界観が変わった私が、世の中に言いたいことを書く。

    三つ、伝えたい。

    聞いてほしい。

    1. 起業のハードルは、めちゃくちゃ低い世の中になっている

    これはめちゃくちゃ感じる。

    いま私がやっているスタイルの貸別荘経営は、起業したのがもう十年早かったらできなかったと思う。

    たとえばDIY。

    素人がYouTubeを見て、下手くそでも和室を洋室にリフォームできた。

    昔だったら、何年か大工に弟子入りして勉強しないといけなかったと思う。素人がいきなり始められるのは、YouTubeがこれだけ当たり前になったからだ。

    次に運営。

    いま、運営でやることはパソコンで一日に十分くらいだ。

    予約はAirbnbなどのネット経由で入る。その情報がシステムに入る。じゃらんなど、ほかのサイトにも掲載しているけれど、予約が入ったという情報が勝手に飛び、ほかのサイトのカレンダーもその日は予約済みとなる。

    経理も、クレジットカードやネット銀行で支払えば、勝手に経費として登録される。

    昔は電話で予約を取り、それを紙のカレンダーに書いていたのだろう。経理も帳簿をつけていたのだろう。

    いまは、私がこういうことを全部やって、他は清掃のアルバイトだけ。

    昔だったら、事務員さんを絶対に雇うことになっていたと思う。事務員さんに給料を払わないといけないと思うと、起業のハードルは一気に上がる。

    施設の備品も、ネットでぽちっとしたら勝手に届く。

    私は北軽井沢の嬬恋村というド田舎でやっている。昔なら、車で一時間かけて買い出しに行っていたかもしれない。

    多分この二十年くらいで、こういう仕事はめちゃくちゃ楽になったんじゃないだろうか。

    自分で何でもやる気なら、一人起業は本当に簡単にできる世の中になったと思う。

    2. 行動がすべての世の中になった

    貸別荘経営。

    DIY。

    動画作成。

    ホームページ作成。

    ボードゲーム作成。

    全部、四年間でできるようになった。

    それなりに大変な時期もあった。でも、毎日コツコツやっていたら、なんとなくできるようになった。

    基本的に、大体のことはYouTubeで勉強してできるようになった。

    そう考えると、もう「情報が足りないから」「知識がないから」できないことは、あまりないんだと思う。

    昔は「寿司屋は飯炊き三年、握り八年」なんて言われた。

    でも、知識や情報の面では、数か月でも同じことができる時代になったと思う。

    アイディアや情報自体の価値はゼロになった。

    (下積みが意味ないと言っているわけではないので誤解しないでほしい。私自身、会社員として十五年くらいの下積みがあったから、潰れずに済んでいるとは思っている。)

    情報が手に入りやすくなった分、行動の価値は相対的に増した。

    行動すると、もっともっと奥の情報を突き詰めるからだ。

    たとえば、これから貸別荘を始める人がいるとする。

    その人がYouTubeで検索するとしたら、「貸別荘経営 やり方」「貸別荘経営のコツ」くらいだろう。

    私はまったく違う。

    昨日検索したのは、

    「排水パイプ 高圧洗浄機 逆噴射ノズル」

    「ホームページ DNSレコード一覧」

    だ。

    調べて、行動して、また調べて、また行動する。そうやって繰り返すと、奥の奥の情報にたどり着く。

    これから貸別荘を始める人が「貸別荘経営のコツ」みたいな二、三個の情報しか持っていないところを、私は一万個の情報を持っている。しかも、実体験もある。

    正直、昨日今日貸別荘を始めた人には負ける気がしない。

    3. 呪いを捨てろ

    上に書いたように、時代は「やればできる」世の中になっている。

    何かをやればやるほど、人とは比べものにならない奥深い知識と経験を持つ人間になれる。

    俺もできた。

    あなたにもできる。

    では、あなたを止めているのは何か。

    それは呪いだと思う。

    起業をするとき、母親に言われた。

    「そんなの上手く行くはずないよ」

    その時は自分に余裕がなかったのもあって、本気でむかついた。母親とは数年、口をきかなかった。

    けれど、いま思うと、母親の「そんなの上手く行くはずないよ」という言葉は興味深い。

    なぜ興味深いと思うのか。

    少し例を挙げたい。
    2つの内、どちらに「そんなの上手く行くはずないよ」と言いたくなるか、考えてほしい。



    ①小学生が「将来プロ野球選手になる」と言っている。



    ②あなたが小学生の子供二人の母親だとする。

    社歴二十年、四十歳の旦那が「会社を辞めて独立する」と言い出した。



    おそらく②の方に「そんなの上手く行くはずないよ」と言いたくなる人が多いのではないか。

    でも、考えてほしい。

    小学生がプロ野球選手になる。

    社歴二十年のベテラン社員が独立する。

    実際は、後者の方が上手く行く確率は高いのではないか。

    しかし、多くの人が後者に「上手く行くはずないよ」と言いたくなる。

    なぜか。

    理由は、上手く行かなかった時に、受け入れたくない現実が訪れるからだ。

    小学生がプロ野球選手になれなくても、なんのことはない。野球仲間と良い思い出ができる程度だ。

    しかし、子供二人を抱えて旦那が独立に失敗したら、と考えると怖い。

    路頭に迷うのではないか。

    子供にひもじい思いをさせるのではないか。

    そんな想像をしてしまう。

    だから、「そんなの上手く行くはずないよ」と言いたくなる。

    そう考えると、人が「そんなの上手く行くはずないよ」と言う時、その言葉の続きには、その人にとって一番嫌なこと、つまり呪いが隠れている。

    人に笑われる。

    家族が悲しむ。

    自分や家族が不幸になる。

    貧しい思いをする。

    上手く行かなかった時にはこうなってしまう、という恐怖が隠れている。

    本当に言いたいのは、

    「そんなの上手く行くはずないよ」

    ではなく、

    「失敗した時、こうなったら嫌だよ」

    なのではないか。

    しかし、この呪いは真実だろうか。

    私の感覚では、ほとんどは無知や思い込みだと思う。

    たとえば、私の独立の後押しになったのは、過去に自己破産した人の話を聞いたことだった。

    その人は大きな会社を経営し、何億もの借金を返せず自己破産したそうだ。

    しかし、実際に自己破産してみると、変わったのは銀行借入ができないこと、クレジットカードが作れないことくらいだったらしい。

    その人は新しいスポンサーを見つけて、また事業を始めていた。

    新しい事業について楽しそうに話していた。

    自己破産ってこんなものなのか、と感じた。

    だから、事業が上手く行かなかったとしても、必ずしも貧しいわけではない。まして、確実に不幸になるなんてことはないと感じていた。

    現実を知っていたから、恐れず独立できたのだ。

    だから、「そんなの上手く行くはずないよ」という呪いの言葉がよぎったら、そこに続く言葉は何か考えてほしい。

    そこには、あなたが恐れているものがある。

    そして、その恐れているものは本当に真実なのか、調べて、考え直してみてほしい。

    おそらく恐怖の実態が見えてくる。

    恐れず前に進めるようになる。


    さぁ、呪いから解き放たれよう。

     
     
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