
私は磁石になりたい@パリ
パリは言うまでもなく美しい街だ。
そんなことは全く持ってわざわざ言うまでもない。
「人はいつか死ぬ」というのと同じくらい誰もが知っている当たり前のことだ。
でも、その誰でも知りすぎている真実をあえて言うことが必要なように、
ここで私もあえてそれを言いたい。
先月、パリを訪れた。
3度目のパリだが、1度目は1泊、2度目は数時間の滞在だった。
今回は計10日間の滞在。
じっくりとこの美しい街を眺められると思うと、ワクワクした。
旅程を組んでみたものの、正直、そんなに長くパリにいて何をするんだろう? 流石に飽きるのではないか? とも思った。
あと、ケチくさいけど、パリより郊外の方が物価も安そうだ。
だが、ちょっと電車で足を伸ばせばせば、ゴッホが滞在したことで有名なオーヴェル=シュル=オワーズ、モネがいたジヴェルニーなど魅力的な観光地は沢山ある。
もっと本気を出して、ユーロスターでロンドンへ日帰りしてもいい。イギリスへは行ったことがないので、この機会にタッチして帰ってくるもありだ。
そして、それはそれで楽しそうだ。
しかし、結局のところ、10日でも足りないと私は感じた。
正確には足りないと言うより、離れられなかった。
別の観光地も見てみたいという気持ちはあった。
「せっかく来たんだから、せっかく時間もあるんだから、もっと色々見たほうがいいんじゃないか」と、大抵誰もが旅先で一回は抱くであろう「せっかく」を私だって抱いた。
だが、とにかく私はパリにいたかった。
そしてその「とにかく」パリにいたいという気持ちはとうとう最後まで「せっかく」に勝てなかった。
パリにいて、この街並みを眺めていたい。街を歩いていたいと思った。
特別な何かでなくてもいい。凱旋門じゃなくてもエッフェル塔じゃなくてもノートルダム大聖堂でなくてもいい。
そこらへんの全然有名じゃない通りでいい。
むしろ、何のことはない、名も知らない通りの方が、新しいパリを見つけられる気がしてワクワクした。
ここまでくるとさすがに「せっかく」の出番はない。惨敗だ。
まるで、私は磁石に引きつけられる鉄くずのように私はパリからどうしても離れられなかった。
鉄くずをずっと磁石にこすりつけていると、磁気を帯びて磁石のようになる。
そんな風に私もパリの街を歩き続けてパリジェンヌになれればいいのにと思ったが、それは流石に無理だった。
(なったところで、だが。)
最後に泊まったホテルの、日本好きのフロントの方に、
「パリは何度目?」と聞かれ、
「3度目」と答えると、
「3度来たら君もパリ人だよ」と言ってくれた。
さて、鉄くずが磁石に昇格する日はあるだろうか。