
ラストコール
ラストコール
助けてほしかった。散らかった1Kにひとりで、頭の中で言葉が渦巻いていた。どんどん狂気に吞まれていく自分を、理性的な自分が止められずに見ている。
午前2時だ。友達?留年した私以外はみんな社会人だ。彼氏?夜勤だ。母親?母親とは半絶縁中だ。祖母?老体に鞭を打つな。
気が付けばTwitterのタイムラインは随分鈍行になっていて、インターネットすら私を見捨てるのかと引き攣った笑みが浮かんだ。
ふと思い立って、キッチンに向かう。包丁入れのある扉を開けて、三徳包丁や果物ナイフが収納されているのをただ眺めた。手に取ることはできなかった。ただ、眺めながら泣いた。私に自傷癖はない。手も足も綺麗そのもの。痛いのがイヤなワガママ人間なのだ。
前にも後ろにも進めなくて、果物ナイフを手に取ってしまった。咄嗟に理性が働いて、キッチンのクッションフロアにそれを突き立てた。死んでしまう。今夜を超えられなかったら。
滲んだ視界でいのちの電話の番号を検索する。国のもの、市区町村のもの、民間のもの。とにかく誰かに助けてほしかった。
番号をタップする。機械的な呼び出し音が続く。
「ただいま電話が込み合っております」
女性のナレーションと共に、電話が切れた。わかった、つながればどこでもいい。
別の番号をタップする。呼び出し音が続く。
「ただいま電話が込み合っております」
お願い、頼むから助けてくれ。せめて、ひとこと電話に出てくれれば。
「ただいま電話が込み合っております」
「ただいま電話が込み合っております」
「ただいま電話が込み合っております」
何度コールしても同じだった。どこに電話しても同じだった。
救われなかった。最後の理性を、誰も受け取ってくれなかった。さっきより孤独な感覚が脳を支配した。
泣いていた。泣いている自分が嫌でもっと泣いた。情けない自分が嫌でずっと泣いた。
検索エンジンを彷徨い続けて、どうしても耐えられなかったら119番してもいいという書き込みを見た。本当に病気の人のリソースを裂きたいわけじゃなかった。だけど、私だって死にたくなくて、生きたかった。
「火事ですか、救急ですか」
白い床に、果物ナイフが突き立ててある。