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【創䜜倧賞2026 ゚ッセむ郚門応募䜜】倧䞈倫な人

    第䞀章 コンビニの掗面所


    倜十時。


    私の䞀日は、車の䞭で目を芚たすこずから始たる。


    二幎前たで、私は䌚瀟を経営しおいた。


    埓業員癟二十人ず働く毎日だった。


    今は、車で暮らしおいる。


    たず感じるのは、膝の痛み。


    運転垭ず助手垭にたたがるように䜓を暪たえおいるから、足は䞀晩䞭曲がったたただ。


    寝返りなんお打おない。


    肩も腰も固たっおいる。


    「痛おおお  。」


    ハンドルに぀かたりながら、ゆっくり䜓を起こす。


    私は仕事甚の安党靎を履き、い぀ものコンビニぞ向かう。


    トむレを借りる。


    顔を掗う。


    髪を敎える。


    鏡を芋る。


    「よし、今日も䜕ずか人間や。」


    そう思う。


    いや、正確には、


    「車で暮らしおいる人には芋えぞんな。」


    ず確認しおいる。


    䌚瀟ぞ行けば、私が車で寝泊たりしおいるこずを知る人はいない。


    だからこそ、身だしなみだけは敎える。


    最埌のプラむドなのか。


    それずも、ただの芋栄なのか。


    自分でもよく分からない。


    でも、これだけは厩したくなかった。


    ---


    ある䌑日の朝だった。


    車を降りようずしお、運転垭のドアに映った自分を芋た。


    「誰や、お前。」


    思わず声が出た。


    髪の毛が四方八方ぞ跳ねおいた。


    挫画みたいだった。


    前の日、ゞムでシャワヌだけ济びお垰った。


    ドラむダヌもせず、節玄のためにリンスも買っおいなかった。


    その結果がこれだった。


    たった数癟円を節玄した結果、倱った芋た目の方が倧きかった。


    昔の私は、埓業員によく蚀っおいた。


    「人は身なりで刀断するから、敎えるこずが倧切やで。」


    髪を敎える。


    靎をきれいにする。


    服に枅朔感を出す。


    そんなこずを偉そうに話しおいた。


    その本人が、䞀番ボサボサだった。


    「説埗力れロやん。」


    車の䞭で䞀人笑った。


    でも、その笑いはすぐに止たった。


    家がないこずは仕方ない。


    借金も、今さら仕方ない。


    でも、自分を雑に扱い始めたら終わりだ。


    そう思った。


    その日のうちに矎容宀を予玄した。


    垰りにドラッグストアでリンスも買った。


    節玄は倧事だ。


    でも、自分たで安売りしたらあかん。


    四十䞃歳になっお、そんな圓たり前のこずを孊んだ。


    ---


    今の家は車だ。


      ず蚀うず、少しカッコよく聞こえる。


    珟実は、ただ運転垭ず助手垭で䞞たっお寝おいるだけだ。


    埌郚座垭には荷物がぎっしり積んである。


    着替え。


    本。


    ノヌト。


    筋トレ道具。


    い぀か郚屋を借りたら䜿おうず思っお残したものばかりだ。


    その「い぀か」は、なかなか来なかった。


    車怜が切れ、しばらく動かさないうちにバッテリヌも䞊がった。


    ゚ンゞンはかからない。


    窓も開かない。


    倏は暑い。


    ドアを少し開ける。


    颚が入る。


    蚊も入る。


    閉める。


    暑い。


    たた開ける。


    「どっちやねん。」


    倜䞭、䞀人でツッコミを入れる。


    笑うしかない。


    でも、その笑いに䜕床も救われた。


    ---


    家を出お最初の䞀幎は、スヌパヌ銭湯で暮らした。


    仕事が終わるず、たず颚呂ぞ向かう。


    湯船に぀かる。


    サりナぞ入る。


    氎颚呂ぞ入る。


    䜕床も繰り返す。


    身䜓を敎えるずいうより、心を敎える時間だった。


    倜になるず、リクラむニングチェアを探す。


    䞀幎も通うず、どの垭が寝やすいか分かっおくる。


    テレビの近くはうるさい。


    出入口の近くは人の出入りが倚い。


    ゚アコンの颚が盎撃する垭は寒い。


    党然自慢できない特技だけど、その頃の私には倧事な技術だった。


    お気に入りの垭に座る。


    バスタオルは2枚、枕の代わりのクッションず䜓に掛ける。


    足を䌞ばす。


    「あぁ  。」


    思わず声が挏れる。


    暪になっお眠れる。


    たったそれだけで、本圓に幞せだった。


    家があった頃には、䞀床も考えたこずがなかった。


    人は、倱っお初めお圓たり前の䟡倀を知る。


    私は家を倱っおから、圓たり前をたくさん芋぀けた。


    ---


    昌間は図曞通ぞ行く。


    本を読む。


    眠くなる。


    たた読む。


    たた眠くなる。


    ある日、肩を軜く叩かれた。


    「倧䞈倫ですか」


    図曞通の職員さんだった。


    私は反射的に答えた。


    「倧䞈倫です。」


    職員さんは笑っお蚀った。


    「窓際、暑いですからね。氎分取っおください。」


    垰り道、䞀人で笑っおしたった。


    䌚瀟が苊しかった時も。


    借金を抱えた時も。


    家を倱った時も。


    図曞通で起こされた時も。


    私は党郚、


    「倧䞈倫です。」


    だった。


    もしかしたら、この蚀葉は人に向けおいたんじゃない。


    䞀番聞かせたかった盞手は、自分だったのかもしれない。


    第二章 ばあちゃんの背䞭


    図曞通でお昌ご飯を食べおいるず、時々ばあちゃんのこずを思い出す。


    コンビニのおにぎりを䞀぀。


    リットルのペットボトルの氎を䞀本。


    そんな昌ご飯でも、䞍思議ず寂しくない。


    「あの頃も、こんな感じやったな。」


    そう思う。


    子どもの頃の蚘憶は、䞍思議なものだ。


    䜕十幎も前のこずなのに、食卓の匂いや、ばあちゃんの笑顔だけは昚日のこずみたいに思い出せる。


    ---


    私は小孊校高孊幎から、家庭の事情で祖母に育おられた。


    䞉兄匟の真ん䞭だった。


    高霢の祖母は、突然䞉人の孫を育おるこずになった。


    みんなは「おばあちゃん」ず呌ぶ。


    私はずっず「ばあちゃん」だった。


    裕犏な家ではなかった。


    新しい服は、お正月くらい。


    欲しいものを䜕でも買っおもらえる生掻でもなかった。


    それでも、自分の家が貧乏だず思ったこずは䞀床もない。


    毎日、お腹いっぱいご飯を食べおいたからだ。


    今になっお思う。


    「あの頃、よくあれだけ食べさせおくれたな。」


    そう思う。


    ---


    ばあちゃんには、知り合いが営む定食屋があった。

    店ぞ入るず、入口の暪にはガラスケヌスが䞊んでいる。

    焌き魚。

    煮物。

    卵焌き。

    小鉢がずらりず䞊び、食べたいおかずを自分で取る昔ながらのお店だった。


    店を切り盛りしおいたのは、ばあちゃんより幎䞊に芋える女性が二人。


    時々、䞉兄匟に加え、友達たで連れお行っおくれた。


    「いっぱい食べ。」

    ばあちゃんは、い぀もそう蚀った。


    私たちは遠慮なんおしない。

    奜きなおかずを取り、ご飯をおかわりする。


    倢䞭で食べた。

    その日も、い぀もず同じだった。

    垰り道たでは。


    ---


    祖母ず兄匟が前を歩いおいる。


    私は友達ず少し埌ろを歩いおいた。


    その友達が、䜕気なく蚀った。


    「お前のおばあちゃんっお、いっ぀も残りもの食べおんの」


    私は思わず足を止めた。


    「え」


    蚀われるたで気付かなかった。


    家ぞ垰っおからも、その蚀葉が頭から離れなかった。


    その日の倕飯。


    私は初めお、ばあちゃんが䜕を食べおいるのかを芋た。


    本圓だった。


    私たちが食べ終わるたで、自分はほずんど箞を぀けない。


    魚は、䞀番身が少ないずころ。


    おかずも残ったものだけ。


    私は聞いた。


    「なんで先に食べぞんの」


    ばあちゃんは笑いながら蚀った。


    「みんなが矎味しそうに食べおるんを芋るんが奜きなんや。」


    その時だった。


    子どもながらに気付いた。


    そういえば、昔はもっずふくよかだったばあちゃんが、少しず぀痩せおいる。


    毎日䞀緒にいるず気付かない。


    気付けなかった。


    気付こうずもしなかった。


    倧人になった今でも、あのこずを思い出すたびに申し蚳ない気持ちになる。


    あの日を境に、私は食べる量が少し枛った。


    ばあちゃんに遠慮したわけじゃない。


    ただ、それたでず同じようには食べられなくなった。


    ---


    倧人になっおから芪戚に聞いた。


    ばあちゃんは知り合いに頭を䞋げ、お金を借りながら私たち兄匟を育おおくれおいたらしい。


    私は䜕も知らなかった。


    知らないように育おおくれおいた。


    子どもに心配をかけたくなかったんだず思う。


    だから私は毎日、お腹いっぱい食べおいた。


    倧人の苊劎は、子どもには芋えない。


    いや、芋せないようにしおくれおいたんだ。


    その優しさに気付いたのは、倧人になっおからだった。


    ---


    でも、ばあちゃんは優しいだけの人じゃなかった。


    私が今たで䌚った䞭で、䞀番床胞のある人だった。


    小孊六幎生の頃。


    䜏んでいたアパヌトが立ち退きになった。


    毎日のように、その筋の人だず子どもでも分かるような男の人たちが家ぞ来る。


    玄関の向こうから怒鳎り声が聞こえる。


    私は怖くお仕方がなかった。


    孊校から垰るたびに、


    「今日は来おぞんかな。」


    そればかり考えおいた。


    でも、ばあちゃんは少しも動じなかった。


    ある日、私は聞いた。


    「ばあちゃん、倧䞈倫なん」


    するず、ばあちゃんは笑いながら蚀った。


    「立ち退き料を䞊げるために、ごねずるんや。」


    子どもの私は意味が分からなかった。


    ただ、怖い人を盞手に笑っおいるばあちゃんの方が、もっずすごい人に芋えた。


    結局、盞手が折れた。


    ばあちゃんは垯の付いた札束を持っお垰っおきた。


    「ばあちゃん、やるやろ。」


    そう蚀っお笑った。


    四癟䞇円。


    圓時の私は、その金額の倧きさなんお分からない。


    でも、その笑顔だけは芚えおいる。


    「かっこええ。」


    子どもの私は、本気でそう思った。


    ---


    倧人になった今、あの頃のこずを思い返すこずがある。


    もしかしたら私は、知らないうちにばあちゃんの生き方に圱響を受けおいたのかもしれない。


    ばあちゃんは、決しお誰にでも優しい人ではなかった。


    間違っおいるず思った盞手には厳しかったし、玍埗できないこずには絶察に頭を䞋げない人だった。


    でも、私たち孫のこずになるず話は別だった。


    自分のこずはい぀も埌回し。


    矎味しいものがあれば私たちに食べさせる。


    苊劎も芋せない。


    お金がなくおも、私たちにはお腹いっぱい食べさせおくれた。


    私はそんな背䞭を芋お育った。


    だからなのか、倧人になった私は、誰かのために動くこずが圓たり前になっおいた。


    ただ、䞀぀だけ違った。


    ばあちゃんは、倧切な人を守るために自分を埌回しにしおいた。


    私は、人から期埅される自分を守るために、自分を埌回しにしおいた。


    䌌おいるようで、そこには倧きな違いがあった。


    その違いに気付いたのは、すべおを倱った埌だった。


    第䞉章 優秀な人


    䞭孊校を卒業するず、高校ぞ進孊するずいう遞択肢は、私の䞭にはほずんどなかった。


    勉匷は嫌いだった。


    自分は頭が悪い。そんなふうに思い蟌んでいた。


    でも、それ以䞊に匷かったのは、ばあちゃんにこれ以䞊負担をかけたくないずいう気持ちだった。


    借金をしながら䞉人の孫を育おおくれた人に、「高校ぞ行かせおほしい」ずは蚀えなかった。


    だから私は働くこずを遞んだ。


    あの頃は、それが圓たり前だず思っおいた。


    孊歎も資栌もない。


    だから私には、働いお結果を出すしかないず思っおいた。


    二十四歳で䞊京した。


    知り合いもいない。


    お金もない。


    それでも、䞍思議ず䞍安はなかった。


    「䜕ずかなる。」


    根拠なんお䞀぀もない。


    でも、それたで䜕床も、ばあちゃんが笑いながら「倧䞈倫や」ず蚀う姿を芋おきた私は、それが圓たり前だず思っおいた。


    振り返れば、それが私の䞀番の匷みであり、䞀番の匱さだったのかもしれない。


    ---


    䞉十六歳で独立した。


    創業前、䌚瀟名矩の口座を䜜ろうず思い銀行ぞ行った。


    法人担圓の窓口で事情を説明するず、担圓者は事務的に蚀った。


    「䌚瀟を蚭立しおから来おください。」


    「今はお䜜りできたせん。」


    それだけだった。


    少し拍子抜けした。


    ドラマみたいな起業を想像しおいたわけじゃない。


    でも、䜕ずなく「頑匵っおください。」くらいは蚀っおもらえるのかなず思っおいた。


    珟実は、そんなに甘くなかった。


    私は䜕も蚀わず銀行を出た。


    結局、個人口座を䜜り、その口座で䌚瀟をスタヌトさせた。


    今思えば、その時の悔しさが、最初の原動力だったのかもしれない。


    ---


    創業するず毎日が戊争だった。


    朝から電話が鳎り続ける。


    採甚。


    営業。


    埓業員からの盞談。


    取匕先ずの打ち合わせ。


    気付けば倜になっおいる。


    昌ご飯を食べたかどうかも思い出せない日が䜕日もあった。


    でも、䞍思議ず嫌じゃなかった。


    䌚瀟を倧きくしたい。


    そんな野心があったわけじゃない。


    ただ、その時その時の期埅に応えたかった。


    埓業員の期埅。


    取匕先の期埅。


    銀行の期埅。


    育おおくれた瀟長の期埅。


    「HIROなら倧䞈倫。」


    そう蚀っおくれる人たちを裏切りたくなかった。


    気が付けば䌚瀟は倧きくなっおいた。


    私は䌚瀟を成長させおいたずいうより、期埅に応え続けた結果、䌚瀟が倧きくなっおいたのかもしれない。

    ---

    創業初幎床。


    幎商は五億円になった。


    埓業員も五十人を超えた。


    正盎、自分でも驚いた。


    「こんなこずっおあるんや。」


    毎日必死だったから、成功しおいるずいう実感はなかった。


    ただ、目の前の仕事を必死にこなしおいただけだった。

    ---

    創業から䞉か月ほど経った頃だった。


    ある日、䜕の連絡もなく銀行の担圓者ず支店長が䌚瀟ぞやっお来た。


    「近くたで来たしたので、ご挚拶に。」


    そう蚀っお名刺を差し出された。


    その瞬間、支店長の顔を芋お私は思わず心の䞭で笑っおしたった。


    創業前に法人口座を断った、あの人だった。


    もちろん向こうは芚えおいない。


    「初めたしお。」


    そう蚀っお名刺を差し出しおくる。


    私は䜕も蚀わなかった。


    経営状況を説明するず、支店長が資料を芋ながら蚀った。


    「ぜひ、お手䌝いをさせおください。」


    数か月前には法人口座すら䜜れなかった䌚瀟に、今床は銀行の方から頭を䞋げおくれる。


    人生っお面癜いなず思った。


    悔しかった気持ちは、もうなかった。


    むしろ䞀぀勉匷になった。


    信甚は、お願いしお手に入るものじゃない。


    積み重ねた先で、盞手が䞎えおくれるものなんだ。

    ---

    䌚瀟は順調に倧きくなった。


    店舗は増えた。


    埓業員は癟二十人を超えた。


    取匕先も増えた。



    気が付けば䌚瀟は幎商十億円、埓業員癟二十人を超えおいた。


    䞡芪も䞭卒。


    私自身も䞭卒。


    そんな生い立ちだった私が経営者になっおいるこずさえ、䞍思議だった。


    たしおや幎商十億。


    最初は珟実味がなかった。


    「本圓に自分の䌚瀟なんやろか。」


    そう思うこずが䜕床もあった。


    でも、今振り返るず、私は䌚瀟を倧きくしたかったわけじゃない。


    ただ、人から期埅されるこずが嬉しかった。


    孊歎にも、生い立ちにも、自信がなかった私にずっお、


    「HIROさんなら倧䞈倫。」


    その䞀蚀は、自分を認めおもらえた気がした。


    だから期埅に応えた。


    たた期埅される。


    たた応える。


    その繰り返しだった。


    気が付けば、䌚瀟も、そしお「期埅される自分」も、想像以䞊に倧きくなっおいた。


    業界の䌚議ぞ行けば、


    「優秀だっお噂は聞いおたすよ。」


    初めお䌚う人に、そう蚀われるこずが増えた。


    「䞀床、お䌚いしたいず思っおいたした。」


    そんな蚀葉たで掛けおもらった。


    埌になっお知った。


    私を育おおくれた瀟長が、いろいろな堎所で私のこずを話しおくれおいたらしい。


    さらに、独立した䌚瀟の芏暡も倧きかった。


    その二぀が重なっお、「優秀な人」ずいう噂だけが䞀人歩きしおいた。


    嬉しかった。


    本圓に嬉しかった。


    生い立ちにも、孊歎にも、自信のなかった私には、その蚀葉が䜕より嬉しかった。

    だから私は、期埅されるたびに、その期埅以䞊で応えようずしおいた。


    でも、その嬉しさは少しず぀私を瞛っおいった。


    ---


    「HIROさんなら倧䞈倫ですよ。」


    「HIROさんなら䜕ずかしおくれたすよね。」


    そう蚀われるたびに、私は笑っおいた。


    「倧䞈倫です。」


    「䜕ずかしたす。」


    本圓は、䞍安なこずもあった。


    迷うこずもあった。


    でも、その顔だけは芋せられなかった。


    期埅されおいる人は、䞍安な顔をしおはいけない。


    瀟長なんだから。


    みんなを安心させないずいけない。


    そう思い蟌んでいた。


    頌たれたら断らない。


    䌑日でも電話に出る。


    埓業員から盞談があれば予定を倉える。


    困っおいる人がいたら、自分が動く。


    それが瀟長の仕事だず思っおいた。


    今振り返るず、私は䌚瀟を経営しおいたようで、実は違った。


    「期埅される自分」を守るこずに必死だった。


    そしお、その期埅は少しず぀倧きくなり、い぀しか䌚瀟そのものより重たい存圚になっおいた。



    第四章 安心ずいう借金


    䌚瀟が苊しくなった日は、はっきり芚えおいない。


    少しず぀だった。


    売䞊が少し萜ちる。


    翌月も少し萜ちる。


    たた翌月も。


    最初は、


    「今月だけや。」


    そう思っおいた。


    いや、そう思いたかった。


    䌚瀟を立お盎しおきた経隓もある。


    今たで䜕床も壁は乗り越えおきた。


    今回も䜕ずかなる。


    そう信じおいた。


    ---


    忘れられない日がある。


    埓業員ぞの絊料をすべお支払い終えたあず、䌚瀟の口座を確認した。


    残高は䞉十䞇円。


    正盎、その数字になるこずは薄々分かっおいた。


    毎月の資金繰りを芋れば、決しお驚くような数字じゃない。


    それでも、画面に衚瀺された「䞉十䞇円」を芋た瞬間、頭の䞭が真っ癜になった。


    「  ダバい。」


    その䞀蚀しか出なかった。


    すぐに机ぞ戻る。


    盎近の売䞊。


    支払い予定。


    入金予定。


    䞀぀ひず぀数字を曞き出しお蚈算する。


    䜕床蚈算しおも、答えは倉わらなかった。


    その時初めお、私は珟実を受け入れた。


    「本圓に、もう埌がない。」


    ---


    それたでは毎日のように数字を芋おいた。


    詊算衚も、資金繰り衚も確認しおいた。


    もちろん、その埌も芋おいた。


    でも、以前のように现かく蚈算しなくなった。


    「倧䞈倫やろ。」


    「来月には戻る。」


    そんな垌望ばかりを信じるようになった。


    今なら分かる。


    私は数字を芋おいたんじゃない。


    数字から目をそらしおいた。


    ---


    誰にも盞談できなかった。


    芋栄もあった。


    でも、それだけじゃない。


    「䌚瀟が苊しいんです。」


    その䞀蚀を蚀った瞬間、


    今たで積み䞊げおきたものが党郚厩れおしたう気がした。


    「優秀だっお噂は聞いおたすよ。」


    「HIROさんなら倧䞈倫ですよ。」


    そう蚀っおくれた人たちの期埅を裏切るのが怖かった。


    だから私は笑った。


    「倧䞈倫です。」


    その蚀葉だけは、最埌たで䞊手だった。


    ---


    そんな時、新型コロナりむルスが広がった。


    街から人が消えた。


    䌚瀟も静かになった。


    ニュヌスでは毎日、


    感染者数。


    営業自粛。


    緊急事態宣蚀。


    そんな蚀葉ばかりが流れおいた。


    埓業員の顔を芋る。


    みんな䞍安そうだった。


    家族がいる。


    生掻がある。


    だから私は笑った。


    「倧䞈倫。」


    本圓は、䞀番䞍安だったのは私だった。


    ---


    銀行から提案されたのが、コロナ融資だった。


    私は迷わず申し蟌んだ。


    数日埌、䌚瀟の口座を開く。


    五千五癟䞇円。


    その数字を芋た瞬間、党身の力が抜けた。


    「あぁ  助かった。」


    心の底からそう思った。


    これで時間ができる。


    景気が戻れば返せばいい。


    たた前みたいに䌚瀟を立お盎せる。


    そう信じお疑わなかった。


    ---


    最初は、


    「これは融資のお金。」


    ずいう感芚があった。


    ずころが数か月するず、その感芚は少しず぀薄れおいった。


    売䞊で入ったお金なのか。


    融資で入ったお金なのか。


    その境目が分からなくなっおいった。


    毎月、口座の残高だけが静かに枛っおいく。


    たるで氷が溶けるようだった。


    音もしない。


    匂いもしない。


    ただ、確実に小さくなっおいく。


    気付いた時には、五千五癟䞇円はほずんど残っおいなかった。


    ---


    今振り返るず、あの日借りたのは、お金じゃない。


    安心だった。


    残高が増えたこずで、䞍安だけが消えた。


    だから動けなくなった。


    本圓なら、その時すぐにやるべきこずがあった。


    䌚瀟を小さくするこず。


    固定費を枛らすこず。


    誰かに盞談するこず。


    埓業員ず向き合うこず。


    党郚できた。


    でも私は、


    「もう少し様子を芋よう。」


    そう思っおしたった。


    その「もう少し」が、䞀番高い買い物だった。


    ---


    䌚瀟を畳む決断をした日のこずは、䞍思議なくらい静かだった。


    泣くこずもなかった。


    怒るこずもなかった。


    長い間、匵り぀めおいた糞が切れたようだった。


    もちろん悔しかった。


    情けなかった。


    申し蚳なかった。


    でも、それ以䞊に感じたのは、䞍思議な安堵だった。


    「これで終わった。」


    そう思った瞬間、肩に背負っおいた重たい荷物をようやく䞋ろしたような気がした。


    毎日、「倧䞈倫です。」ず蚀い続けおきた自分。


    期埅に応え続けようずしおきた自分。


    その圹目が、ようやく終わった。


    䌚瀟はなくなった。


    肩曞きもなくなった。


    信甚も、お金も倱った。


    それでも私は、どこかでほっずしおいる自分がいた。


    その時初めお気付いた。


    私が守ろうずしおいたのは䌚瀟じゃない。


    「倧䞈倫な人」でいる自分だったのだず。



    第五章 ただ途䞭


    䌚瀟を倱っおから、私は倱ったものばかり数えおいた。


    䌚瀟。


    家。


    お金。


    信甚。


    肩曞き。


    人生をかけお積み䞊げおきたものばかりだった。


    だから最初は、「どうやっお取り戻すか」しか考えられなかった。


    でも二幎が過ぎた今、少しだけ芋える景色が倉わっおきた。


    私は、本圓に䜕もなくなったのだろうか。


    ---


    䌚瀟を経営しおいた頃は、毎日誰かのために時間を䜿っおいた。


    埓業員。


    取匕先。


    銀行。


    お客様。


    電話は䞀日䞭鳎り続ける。


    䌑みの日でも携垯電話は手攟せなかった。


    頌られるこずが嬉しかった。


    期埅されるこずも嬉しかった。


    でも、その頃の私は、自分自身のために䜿う時間を持っおいなかった。


    いや、持ずうずもしなかった。


    それが瀟長の仕事だず思っおいたからだ。


    ---


    今の私は違う。


    倜は運送の仕事ぞ行く。


    䌑日は単発バむトぞ向かうこずもある。


    生掻のために働くこずは、今も倉わらない。


    借金がある以䞊、働くこずから逃げるわけにはいかない。


    でも、その合間の時間の䜿い方は、倧きく倉わった。


    仕事が終われば図曞通ぞ向かう。


    本を読む。


    考える。


    筋トレをする。


    noteを曞く。


    䞀日は盞倉わらず忙しい。


    それでも続けおいる。


    未来は、空いた時間で倉わるんじゃない。
    自分で぀くった時間で倉わる。


    そのこずを、私はようやく知った。


    ---


    䌚瀟を経営しおいた頃は、期埅に応えるこずばかり考えおいた。


    頌たれたら断れない。


    「できたす。」


    「倧䞈倫です。」


    そう蚀うこずが、自分の䟡倀だず思っおいた。


    芋栄も匵った。


    匱音も吐かなかった。


    でも、それは本圓の実力じゃなかった。


    期埅される自分を守るこずに、䞀生懞呜だっただけだ。


    今は違う。


    人にどう芋られるかより、自分に䜕が足りないのかを考えるようになった。


    本を読むのも。


    孊ぶのも。


    筋トレを続けるのも。


    すべおは、自分自身を成長させるためだ。


    遠回りに芋えるかもしれない。


    でも私は、四十䞃歳になっお初めお、自分を成長させる時間の䜿い方を芚えた。


    ---


    そんな毎日の䞭で、私はnoteを曞き始めた。


    最初は、自分のためだった。


    誰にも話せなかったこずを、文章なら曞けた。


    借金四千䞇円。


    家を倱ったこず。


    スヌパヌ銭湯で暮らしたこず。


    車で暮らしおいるこず。


    倱敗したこず。


    党郚、そのたた曞いた。


    ある日、運送の仕事の合間にスマヌトフォンを芋るず、䞀件のコメントが届いおいた。


    「勇気をもらいたした。」


    䌑憩䞭のトラックの䞭で、そのコメントを䞉床ほど読み返した。


    䌚瀟を経営しおいた頃も、「ありがずうございたす。」ず蚀われるこずはあった。


    でも、その頃ずは嬉しさが違った。


    ちゃんず読んでくれおいる人がいる。


    ちゃんず䌝わっおいる人がいる。


    その時初めお、「曞いおよかった。」ず思えた。


    そう思えたこずが、䜕より嬉しかった。


    倱敗した自分でも、誰かの圹に立おる。


    そう思えた瞬間、過去を少しだけ受け入れられた気がした。

    ---


    四十䞃歳。


    借金はただある。


    家もただない。


    倢も、ただ叶っおいない。


    だから、この物語は成功した人の話じゃない。


    再起の途䞭を曞いた蚘録だ。


    でも、䞀぀だけ昔の私ず違うこずがある。


    もう、「倧䞈倫です。」ず無理に笑うこずはやめた。


    苊しい時は苊しいず蚀う。


    分からないこずは孊ぶ。


    できないこずは緎習する。


    䞀歩ず぀、自分を積み重ねる。


    その方が、ずっず匷い人間になれるず知ったからだ。


    ばあちゃんの「倧䞈倫や」は、私たちを安心させるための蚀葉だった。


    私の「倧䞈倫です。」は、自分を守るための蚀葉だった。


    同じ蚀葉なのに、その意味はたったく違っおいた。


    四十䞃幎かかっお、ようやくその違いに気付いた。


    人生は、䞀日では倉わらない。


    でも、䞀日の積み重ねは、必ず人生を倉える。


    私は、そのこずを䌚瀟が教えおくれたんじゃない。


    䌚瀟を倱っおから教わった。


    私は、もう「倧䞈倫な人」になろうずは思わない。


    苊しい日は、苊しいず蚀える人でいたい。


    その方が、ずっず匷く生きられるず知ったから。


    私は、ただ途䞭だから。



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    HIRO

     
     
    借金4,000䞇円・家なし生掻から 47歳で人生をれロから再挑戊䞭。 元・幎商10億円、4店舗120名を率いた経営者が、倱敗も成功もすべお実䜓隓で発信。

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