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    <title>寛里 守（ひろさと まもる）</title>
    <description>またの名をCheChe（チェチェ）と申します。投稿サイトmonogataryで執筆活動、ごくたまに文学フリマ東京にも出没。以前は「寛里 守（ひろさと まもる）」名義で冊子も出したことも。
本業（DTPオペレータ）が忙しいと低浮上となりますが、どうぞよろしくお願いいたします。</description>
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    <copyright>寛里 守（ひろさと まもる）</copyright>
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    <lastBuildDate>Thu, 08 Oct 2026 10:12:08 +0900</lastBuildDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙　しゃあらっと　（六十四）　</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f" id="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f">第八話「邯鄲」（六）</h3><p name="57854768-3d27-4bf3-ba8b-103e6244f0b3" id="57854768-3d27-4bf3-ba8b-103e6244f0b3"><br>　町を練り歩いていた貞一と子供達は、小皿をすべて配り終えて、一膳飯屋の前まで戻ってきた。日も傾きだして、機織りの音が聞こえている。すると、<br>「あらお帰りなさい。ありがとさん。おつかれさんね」<br>　おみつという娘が貞一らをひとりづつ出迎えてくれた。小袖につけた簡素な前掛けが、素朴なおみつにとても似合うと貞一は思った。仕込みの途中であるらしい。<br>　愛嬌のある丸顔が微笑んでいるのを見て、貞一はそれだけで幸せだった。<br>「さぁみんな並んで。今日のお駄賃よ」<br>　おみつは子供達に飴を配りだした。子供達は大喜びで叫び出し、われ先にと奪い合いになりそうになる。<br>「ホラ喧嘩しないで。ちゃんとみんなの分、用意してあるから、大丈夫」<br>「せやで。並んだ並んだ、順番に一列で並ぶんや。おう横入りすなっ」<br>　貞一も子供達をなだめつつ、飴を配るおみつを手伝った。飴をもらえる番になっても、ひとり戸惑っている子供には、<br>「あなたは初めて？　なら……みよちゃんね。どうぞ」<br>　などと優しく話しかけて、おみつは嬉しそうに飴を配る。<br>　やがて駄賃代わりの飴も配り終えて、それでも店に留まろうとする子供達を貞一がいなしているうち、貞一はおみつと二人きりになった。<br>「弥次郎さんも、今日はお世話ありがとさんでした。とても助かりました」<br>　ほっかむりをして再びおみつは仕込みに取りかかろうとする。その顔をもっと見ていたい、などと貞一は心の底から思ってしまう。貞一自身、この気持ちは推し量れなかった。<br>　おみつとは、尾張の宿屋で初めて出会ったが、またこうして会えるなどとは思いも寄らないことだった。はじめ貞一はおみつに嫌われているものだと思っていたが、再び故郷へ戻りたい一心だったと打ち明けられ、会えて良かったなどと言われたものだから、喜びもひとしおだった。<br>　顔が緩みそうになるのを堪え、貞一は顔をしかめて答えた。<br>「なに、ええんや。わいはおみっちゃんの料理が大勢に広まって、もっとこの店が繁盛したらええと思っとるだけや」<br>「だけど、繁盛……するかしら」<br>　少し困ったような表情で、おみつが憂う。貞一は励ますように、おみつの肩へと手を添えた。<br>「するに決まっとるやないか。おみっちゃんの料理は絶品やで。それに……」<br>　貞一はつい、言いよどんでしまった。<br>「なぁに？」<br>　あどけない顔でおみつが訊いてくるので、貞一は恥ずかしさのあまり顔を背け、肩に置いた手を離してしまった。<br>「わいは、なんちゅうか……おみっちゃんの味方やからな」<br>　柄にもないことを口走り、顔が赤くなっていることは、貞一自身もよくわかっていた。<br>「そ、そうよね。頑張らなくちゃ」<br>　おみつもまた顔を背けて、店の奥へ駆けていく。<br>　貞一はその様子を横目で眺めながら、口先ばかりで何もできない、おのれ自身が恨めしくなった。<br>　おみつはすぐさま戻ってきて、貞一への謝礼の銀子と、子供達にあげたものと同じ飴を二つ差し出した。<br>「少ないけれど今日と、これまでのお駄賃です」<br>「わいは飴ちゃんだけでええねん」<br>　貞一は、おみつの手から飴だけをひょいと取り上げた。<br>「もう弥次郎さん。それは駄目よ」<br>　おみつが唇をとがらせる様子が、貞一には愛らしくて仕方がない。何度も駄賃を受け取ろうとしないのは、おみつのふくれた顔が一際可愛らしいためと、おみつの力になれない引け目を、貞一自身が感じているからだった。そして何度拒んでも、おみつは必ず今までの分を支払おうとする。それが貞一にはわかっていた。<br>「手伝ってくれたお礼が――」<br>　おみつがさらに異を唱えようとする。それを貞一が制した。<br>「わいに銭なんか渡したら駄目やで。ろくなことには使われへんからな」<br>　貞一はだらしなく苦笑いしてみせた。するとおみつは真剣な表情で、ふるふるとかぶりを振った。<br>「駄目、ちゃんと今日こそは。お願いです」<br>　おみつが詰め寄ろうとする。<br>「すまんけど、店が繁盛したときにな。儲かったらまとめて頂戴するさかい、帳簿につけたって」<br>　貞一は留まりたい気持ちを振り切った。<br>　（何しとるんや、わいは）<br>　忸怩たる思いが先んじて、駆け足でその場から立ち去ってしまった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n0a19690b8060'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 11 Aug 2026 23:20:13 +0900</pubDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙　しゃあらっと　（六十三）　</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f" id="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f">第八話「邯鄲」（五）</h3><p name="57854768-3d27-4bf3-ba8b-103e6244f0b3" id="57854768-3d27-4bf3-ba8b-103e6244f0b3"><br>　以前に尾張の旅籠で出会った重田貞一という男に間違いはないはずだった。だがその男に対して子供らは、<br>「呼んどるで、弥次郎」<br>「なぁ弥次郎、あの人誰やねん」<br>　と別の名前で呼ばわっている。他人の空似だろうか。だが男は振り返るなり、<br>「おおっ！　千載一遇、丁度ええところに。そら喰らわんかいっ！」<br>　笑顔で怒鳴りながら、芋と大根の煮物を差し出してきた。十郎兵衛が怪訝な顔をしていると、男はさらに話しかけてくる。<br>「旦那、久方ぶりやな。頬の肉が落ちそうなほど旨いで。騙された思うて、食うてみい」<br>　やはり貞一に間違いないようだ。だが出会い頭に食えと怒鳴られても、事情も知れずにおいそれと食すわけにもいかない。<br>「いきなり食えと言われても困る」<br>　ぶっきらぼうに答えると、にやにやして貞一が近寄ってくる。<br>「大丈夫やて。タダやねん」<br>　只より怖いものはない。ここは振り切るのが上策だと思っていると、<br>「十郎兵衛っ、これすごくおいしいよ！」<br>　寅吉がいつの間にかその皿を手に取って、すでに串に刺した芋を食べている。<br>「おいっ、勝手に手を出すなっ！」<br>　十郎兵衛が止めようとするが、貞一から肩をぽんと叩かれた。何か言おうとするので、<br>「仕方ねぇ。いくらだ」<br>　渋々十郎兵衛が訊ねた。だが、なぜか貞一はにこやかにかぶりを振っている。<br>「せやから只でええねん。それに旨いやろ。なんと言うてもおみっちゃんのお手製やからな。旦那も食うてみい」<br>　本当に代金はいらないようだ。しかも貞一の様子が穏やかすぎて、まるで人が変わったようだった。十郎兵衛は不承不承、煮込んだ大根を串から抜いて小さく切り、一口含んだ。すると口の中に甘くほろ苦い風味がひろがり、思わず唸ってしまった。隠し味に山椒が利いているらしい。<br>　すると貞一が身体を擦り寄せてきた。すぐさま十郎兵衛は一歩下がると、なぜか貞一は満足げに頷いた。<br>「もっと食べたいんなら、銭が必要や。振り売りやのうて、宵の口から居見世を開けるで。一皿四文。こうして只で振るまっとるのも、その『みつや』を町中に知ってもらうためやねん」<br>　口を挟む間も与えず、貞一は勝手に店の案内を始めた。<br>「ここから行ったら古金町から南へ進んで、本所橋筋の先や。南小路まで行ったら行き過ぎやで。そこで惣菜みつやを探したらええ。けど雨が降ったら残念やけどお休みや。今日こそは店を開けなあかんと言うとるやさかいに、待っとるで！」<br>　といい残し、貞一は子供らとともに去っていった。<br>「さっきの、食べたいなぁ……」<br>　寅吉が伏し目がちに呟いた。<br>「ったく。しょうがねぇなぁ」<br>　渋々十郎兵衛はそれに応じることにした。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nbce05d65cf86'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 02 Aug 2026 09:18:19 +0900</pubDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙　しゃあらっと　（六十二）　</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f" id="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f">第八話「邯鄲」（四）</h3><p name="57854768-3d27-4bf3-ba8b-103e6244f0b3" id="57854768-3d27-4bf3-ba8b-103e6244f0b3"><br>　十郎兵衛は寅吉を連れ、思案しながら川沿いに歩き出した。機織りの音が旋律のように聞こえてくる。<br>　川を眺めながら十郎兵衛は迷っていた。徒歩きで西国を抜けるか、いきさつを知るために敢えて湊へ向かうべきか。寅吉が心配そうにほっかむりの裾をめくり上げた。<br>「どうしたの？　十郎兵衛」<br>「あのくそったれ。海が急に荒れるから、船には乗れねえんだとよ。確かに、船着き場の様子もおかしいようだがな」<br>　寅吉に訊かれ、十郎兵衛の声も沈む。寅吉は空を見回し、ひとり首を傾げていた。<br>「そうかなぁ。こんなに晴れてるのに。十郎兵衛は急ぐって言うんだから、早く船に乗ればいいんじゃないの」<br>「それをさっきの店で断られたんだ。船乗りから事情を聞こうにも、まず門前払いだろうしな」<br>「それは、どういうこと？」<br>　難しそうな表情で寅吉が見上げてきた。事の次第がよく飲み込めていないようだ。苛立ちを堪え、十郎兵衛は簡潔に説明した。<br>「つまりはこの辺りで、俺達が気安く乗れる船はなくなった。ひたすら、この先も徒で歩くほかはねぇ」<br>「そっかぁ……」<br>　寅吉は残念そうに頭を垂れる。当然だった。船に乗ろうと話を持ちかけた途端、飛び上がるように寅吉は喜んでいたのだ。だがその気持ちを台無しにしてしまった。<br>「すまねぇな」<br>「うん。しょうがないよ」<br>　船旅を断念するならば、西国へ向かうため、新たな手形が必要だ。それをどうやって手に入れるか。十郎兵衛は思案した。<br>　ひとつは、大坂の阿波屋敷で事の次第を詳しく述べ、正式な手続きを踏むという手立て。だが寅吉が紅毛人であることを、隠蔽するのはほぼ不可能だ。<br>　さもなくば手形通りに乗合船で海を渡り、父、與右衛門に事情を打ち明けて、長崎までの手形を手配してもらう手立てしかない。しかしこの大阪で足止めを余儀なくされた上に、大勢の待ち侘びた乗客とともに船に乗るため、寅吉の身を晒すことになってしまう。<br>　さらに帰郷したならば、家宝の杖を譲り受ける必要もある。尾け狙う者と対峙した時の備えだ。しかしそこに問題があった。<br>　重ねて頭を下げたとなれば、父、與右衛門は到底許す訳がない。未熟者とやり込め、罵詈雑言を投げつけるはずだ。<br>　（元はと言やぁ、腰巾着を、くそ親父にたたっ返すつもりが）<br>　十郎兵衛はそれを考えただけで、苛立ちが幾度も頭を擡げ出してくる。<br>　交渉の決裂は必至であり、ゆえに帰郷は無駄足としか思えない。どうにも気が進まないのだ。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n26468b1069ee'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 02 Aug 2026 09:13:17 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/n26468b1069ee</link>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙　しゃあらっと　（六十一）　</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f" id="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f">第八話「邯鄲」（三）</h3><p name="57854768-3d27-4bf3-ba8b-103e6244f0b3" id="57854768-3d27-4bf3-ba8b-103e6244f0b3"><br>　橋を渡って袂の木陰で一息ついた後、二人はそのまま通りをまっすぐに進んでいった。程なくしてたどり着いたのは、看板など一切掲げられていない一軒の船宿だ。<br>「ここだ。中では一切喋るなよ」<br>　十郎兵衛は寅吉へ念を押すように言った。<br>「う、わかった」<br>　寅吉は、その店構えに少々気圧されていた。確かにこの店の間口は狭く、漆塗りの戸が黒光りして物々しい。一見であれば仕舞屋か武家屋敷と見なし、入ることを躊躇うだろう。<br>「そのかわり、ちゃんと黙っていられたら、ごほうびだよ？」<br>　怖じ気づいている寅吉に、十郎兵衛は得心して頷いた。<br>　ご褒美、つまり寅吉は何か旨い物が食べたいらしい。ここへ来る途中で、寅吉がちらちらと店を眺めていたのを十郎兵衛も知っている。<br>「ならおめぇ、何が食べたい」<br>「えぇっとね……」<br>　寅吉は宙を仰ぎ、迷っているのか一向に答えを出さない。十郎兵衛は痺れを切らし、<br>「まぁ俺が事を済ませるうちに、決めといてくれ」<br>　その漆黒の戸を無造作に開け、中へと入っていく。寅吉は慌ててほっかむりの裾を顔の前に被せて、そのあとに続いた。<br>「おおい、ごめんよ。大小で二人頼む」<br>　十郎兵衛は人目をはばからず、店の土間先で大声を上げた。寅吉は途端に慌てて人差し指を口に添え、睨んでいる。その様子に十郎兵衛は笑った。<br>「大丈夫だ。ここの親父とは懇意でな、俺の素性もお見通しさ。ご公儀でもずいぶん世話になっている。心配するな」<br>　穏やかになだめても、寅吉は無言のまま必死にかぶりを振った。何度も袖を引いて注意を促しているが、十郎兵衛は苦笑し放っておくことにした。<br>　しかし、なかなか店の者が現れない。店の様子がいつもと違うようだと思っていると、程なくして、店の番頭が現れた。寅吉はいよいよ顔を青くすると、敷地の角へ顔を向けてしゃがみ込んだ。番頭がうやうやしく一礼する。<br>「お待たせいたし――おやあっ、珍しい！」<br>「ぶしつけですまねぇ。金比羅さん参りに見立てて二人、舟に乗せてはくれねぇか」<br>　十郎兵衛は、挨拶もそこそこに用件を述べた。普段から率直なやり取りがされていると、寅吉でもわかるほどさり気ない口調だ。だが、<br>「いやぁ……困りましたなぁ。旦那さんから断らなあかんと、言いつかっておるもんで」<br>「そうかい。だったら弁才船の水主でもいい、小倉辺りで降ろしてもらえりゃ御の字だ」<br>「えっ！　そら尚更あきまへんて。斎藤さん」<br>「何だと」<br>　意にそぐわず、番頭は十郎兵衛の注文に難色を示す。十郎兵衛の眉間にしわが寄った。<br>「おい、急ぎの用立てなんだ。分かるだろ。すまねぇが親父さんと話をさせてくれ」<br>　十郎兵衛は上がり框に腰かけた。だが、強面で急かしても番頭の態度は変わらなかった。<br>「旦那さんは、いま具合が悪うて出られまへん」<br>「なに？　あれほど達者な親父さんが、珍しいな」<br>「へえ。珍しく余所で一善飯なんぞ召し上がってからずっと、床に伏せてばかりだす」<br>　番頭の声音は重かった。だがすぐに元の調子へ戻る。<br>「ですので御用向きは、わてがお取り次ぎいたします。ところで斎藤さん、お役目を全て放かして、いまは気ままに流浪の身だそうでんな。風の噂で訊きましたで」<br>　苛立っていた十郎兵衛は、その言葉を聞くなり絶句してしまった。<br>「急ぎであっても、いまの今日で船の手配はむりだす」<br>　穏やかな口調で、番頭は十郎兵衛に念を押す。<br>「だが――」<br>「どうしてもと仰るなら、旦那さんに話を通さなあきまへん。書状を見せてもらえますやろか」<br>　もちろん十郎兵衛には書状もなければ、お上からの任務は一切担っていない。何も言えぬ十郎兵衛に対し、<br>「船渡りするそのお役目、どこの誰様からのものですか」<br>　番頭がさらに訊ねてくる。どうやら十郎兵衛の事情をすでに心得ているようだ。果たして誰が、そのことを吹き込んだのか。十郎兵衛は腹立たしくて仕方がなかった。<br>「そうかい。これまでずいぶん贔屓にしてきた得意に、ひどい仕打ちをしてくれるな。俺が腰巾着でなけりゃ、客ですらねぇのかよ」<br>　番頭は愛想笑いの弱り顔で、手をひらひらと振ってみせた。<br>「いいえ。あくまで旦那さんの言いつけで……それでなくとも、近ごろの瀬戸内は急に時化て、物騒なんですわ。見送ったほうがよろしいかと思います」<br>　苦笑すると、番頭は溜息まじりに弱音を吐いた。十郎兵衛も、先ほどの湊の景色を思い出した。<br>「どういう事だ。それじゃ商売も上がったりだろうに」<br>　知らぬ素振りで十郎兵衛が訊ねると、番頭は眉を寄せて頷いたのち、しばし口を閉ざした。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/ne68f6ab76c19'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 24 Jul 2026 19:27:01 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/ne68f6ab76c19</link>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙　しゃあらっと　（六十）　</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f" id="45f11839-e697-4cf1-a7c5-356430d5cf4f">第八話「邯鄲」（二）</h3><p name="f67b1092-d1be-438b-a9c6-71689891679b" id="f67b1092-d1be-438b-a9c6-71689891679b"><br>　晴れ渡った空から、海鳥の声が幾重も連なり降ってきた。<br>　十郎兵衛と寅吉は大坂の雑踏を歩いていた。湊から船で海を渡るつもりなのだ。立ち並ぶ蔵が途切れた先からは、瀬戸内の海原が覗き見える。しばらくぶりに見る海だ。<br>「寅吉、海が見えるぜ」<br>　振り返ると、寅吉はただ頷き、少しへばっている。あまり人混みに慣れないせいもあるのだろう。<br>　十郎兵衛は前へ向き直り、右に逸れる人々の後に続いた。寅吉を連れて橋を渡りはじめる。真新しい木目の急坂を登り、頂上付近まで来たところで、<br>「ほら、見ねぇ」<br>　人の流れから外れて、寅吉を欄干の前まで引き寄せた。手前には敷き詰められた瓦の灰色が、そして遙か前方に明るく淡い海原がひろがっている。寅吉は身を乗りだした。<br>「うわぁ……」<br>　空と海の境には、うっすらと霞んで四国の山々も見えた。橋の上に立ち、しばらく二人で海原をを眺めていたが、<br>「ねぇ、十郎兵衛――」<br>「ほらよ」<br>　十郎兵衛は、示し合わすように寅吉へ紙を渡した。<br>「ありがと」<br>　二人は筆を取ると、堰を切ったように海原を描きだした。思うにまかせて筆を走らせる。<br>　沖から涼風が吹きつけ、その心地よさに十郎兵衛が目を細めていたとき、<br>「……なんか、この国の海っておもしろいよね」<br>　ふいに寅吉が嬉しそうに呟いた。<br>「別に、面白くもねえだろうによ」<br>　横目で寅吉を見つつ、十郎兵衛はおかしな事を言うと思った。<br>「それに、おめぇんとこの海とどこが違うってんだ」<br>　訝しげに見やる十郎兵衛とは対照的に、沖を眺める寅吉の瞳は、遙か遠くを見つめて輝いていた。<br>「どみにかの海はね、もっとギラギラ光ってて、海の向こうももっと眩しくて、真っ青で明るいんだ。あそこみたいに濁ってモヤモヤしてないよ。おんなじ海のはずなのにね」<br>　さも楽しげに話す寅吉が、十郎兵衛にはどうも面白くない。<br>「もやもや、してねぇだと？」<br>　さらに故郷の海の話を、十郎兵衛はにわかに信じることができずにいた。<br>「どみにかは綺麗で、日本の海は汚ねぇってのかい。そりゃちょっと言い過ぎなんじゃ――」<br>「そうだけど、でも違うんだよ。十郎兵衛」<br>　寅吉が振り返り、真顔で十郎兵衛の目を見つめた。まっすぐな瞳だった。<br>「おいら、向こうの海は、ギラギラしすぎて好きじゃなかった。汚れるから入っちゃ駄目って言われてる気がするんだ。でも日本の海はね、誰でも「おいで」って呼んでくれるでしょ。なんかおっしょさんみたいに、優しいんだよね」<br>　にこりと笑って、寅吉は嬉しそうに沖を眺めると、再び筆を走らせた。<br>「そうかい。まぁ、俺にゃよくわからねぇや」<br>　十郎兵衛はそんなものかと思いつつも、何となしに寅吉の頭を撫でてやった。しかし少し日に当たり過ぎたのか、寅吉の頭が熱くなっている。<br>「おい、あそこの木陰でいったん休もうぜ」<br>「でも」<br>「いや。そのままいたら、のぼせて倒れちまうぞ」<br>「……わかったよ」<br>「興に乗ったとこ、すまねぇな」<br>　二人は矢立てに筆を納め、乾いた紙を懐に納めた。<br>　ふいに遠くの浜辺が視界の端に入り、十郎兵衛は顔色を変えた。注意深く河口を見つめ続けていると、寅吉に袖を引かれる。<br>「どうしたの、じゅう――」<br>　十郎兵衛は目配せして寅吉を黙らせた。湊がやけに閑散としているのだ。<br>　岸には何隻か大きな船も引き上げられている。また船着き場の人足はまばらで荷物も見えない。この時期ならば、帳簿の書き入れ時だと荷物や人でごった返しているはずだ。海が荒れる冬にはまだ早い。<br>「寅吉、後でちょいとつき合ってくれ。ひとつ確かめておきたいことがある」<br>　ただならぬ十郎兵衛の様子に、寅吉は黙って頷いた。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n115845a11c8c'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 21 Jul 2026 21:07:12 +0900</pubDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十九）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第七話「邯鄲」（一）</h3><p name="8a180055-fab5-4dc9-8ee6-dc4be5ff383f" id="8a180055-fab5-4dc9-8ee6-dc4be5ff383f"><br>　――すっかり日も暮れ、音もなく霧雨が降りしきっている。<br>　　その大通りを、そぼ濡れた黒い紋付羽織に、袴姿の男が歩いていた。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nc1b17db8c530'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 21 Jul 2026 21:00:17 +0900</pubDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十八）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第六話「|狐面」（七）</h3><p name="8a180055-fab5-4dc9-8ee6-dc4be5ff383f" id="8a180055-fab5-4dc9-8ee6-dc4be5ff383f">　こうして、この日の芝居は無事、大盛況のまま幕を閉じた。<br>　寅吉扮するお鶴の可愛らしさ、筋書きを逸した意外な展開、そして役者全員による迫真の演技が、功を奏したのだろう。<br>　やがて芝居も跳ね、十郎兵衛達は再び旅立とうとしていた。<br>「とんだご迷惑をかけてしもうたなぁ。すんまへん」<br>　おやじは十郎兵衛に頭を下げた。十郎兵衛は否と手を振る。<br>「いいや俺こそ。舞台じゃ調子に乗ってしまい、面目なかった」<br>「楽しかったわ。どうです？　これからも一緒に、芝居しまへんか？」<br>　お久は二人を誘うが、十郎兵衛はかぶりを振った。<br>「気持ちは嬉しいが、俺達はこの子の親を捜さなくてはならないからな」<br>「いや、とらきっちゃんは惜しいなぁ……お客はんからも、『あのお鶴はだれや？』ってよう聞かれますのや」<br>　おやじは残念そうに腕を組む脇で、<br>「男だと知ったら……あいつら泣くだろうな」<br>　ひとり太一が漏らしている。しかし、彼らには知られてはいないが寅吉は娘子である。十郎兵衛は少々複雑な心境だった。<br>「では、俺達はこれで失礼する。行くぞ、寅吉」<br>「うん……おじちゃん、ありがと！」<br>　寅吉は手を振り、十郎兵衛らは歩き出す。手を振る寅吉の手には、あの狐の面が握られていた。<br>　おやじとお久が手を振り返していたが、ふいに太一は一歩前に出て、十郎兵衛達に叫んだ。<br>「十郎兵衛さん！　……ご、ごちそうさまでしたっ！」<br>　そうして太一は手を振った。<br>「た、太一？　……ははは」<br>　おやじが驚いて太一を見た。<br>「まぁ、太一ったら、お礼なんか言って」<br>　お久も嬉しそうに太一を見る。太一は何も言わず、少し照れくさそうに手を振った。<br>「おう！　親に迷惑かけねぇで、達者で暮らせよ！」<br>　十郎兵衛も太一に向かって手を振りかえす。すると寅吉が十郎兵衛にすがりついてきた<br>「ん、どうした寅吉」<br>「いいなぁ……おじちゃん達……」<br>　寂しそうに寅吉は呟いた。太一の家族が仲良さそうにしているのを見つめている。そして十郎兵衛の裾の端をぎゅっと掴んだ。その仕草を見て、十郎兵衛は咳払いする。<br>「いいじゃねぇか寅吉。それとも、やはり俺じゃ不満か」<br>　寅吉の頭を優しく撫でてから、十郎兵衛はちらりと寅吉を見た。寅吉は嬉しそうな表情になり、<br>「ううん……十郎兵衛となら、どこへ行ってもへっちゃらだよ」<br>　と、笑った。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/ne7a7b9e9a107'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66691741/profile_540c718b255c495a9e985eaa95d24a93.jpeg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:35:20 +0900</pubDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十七）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第六話「|狐面」（六）</h3><p name="82e0b880-6e5d-4da8-82fe-9b7e1d505be2" id="82e0b880-6e5d-4da8-82fe-9b7e1d505be2"><br>「へっ、お鶴はいただいたっ！」<br>　おやじはあっという間に、十郎兵衛から寅吉を奪い去った。寅吉は十郎兵衛に手を伸ばす。<br>「十郎兵衛っ！」<br>「とら……お鶴っ！」<br>　十郎兵衛も慌てて台詞を言い直す。おやじはお久の元へと戻った。<br>「あんた、何だって、そんな事……」<br>　お久がおやじに向かって小声で尋ねるが、それに答える余裕はなかった。<br>「はなせっ！　十郎兵衛ぇっ！　……助けてっ！」<br>　寅吉が本気で嫌がり、おやじの腕を引っかいたり、噛み付いたりしはじめたからだ。<br>「いでで、いで、何すんねん！」<br>「お鶴？　こちらがとと様じゃ、ないのかい？」<br>　お久が寅吉に訊くと、すかさずおやじが、<br>「そりゃそうさ。そうだよなぁ、おつう」<br>　言い聞かせるように言う。寅吉は首を振りながら、<br>「放してよっ！　やっと十郎兵衛に会えたんだからっ！　本物の十郎兵衛はあっちだもん！」<br>　必死になって叫び、最後に寅吉はおやじの腕をがぶりと噛みついた。<br>「いってぇっ！」<br>　大きな声でおやじは叫んでから、尻もちをつき大袈裟に寅吉を放した。すると寅吉は慌てて十郎兵衛の元へ戻った。<br>　観客からのどよめき声が響く。一方、おやじはお久に向かって小声で囁いた。<br>「いい助け舟やで、母ちゃん。おおきに」<br>「どういたしまして……では、」<br>　お久も小走りで、十郎兵衛の方へ近寄った。おやじだけがその場に取り残される格好となった。十郎兵衛は驚いて、お久を見た。<br>「なっ、何であんたまで……」<br>「しーっ」<br>　お久は小声で十郎兵衛を制してから、キッ、とおやじに向き直った。<br>「あんた、……この子の親じゃ、なかったんだね？」<br>　まわりの客が、ざわざわと混乱した。それもそのはず、元の話とは全く筋書きが変わってしまったからである。そこへ、おやじが客のざわめきに負けないくらいの大声で下品な笑い声を上げた。<br>「へへへっ！　あっはっはっ！　だぁーっはっはっはっ！　……ばれちゃあ仕方がねぇや！　そのお鶴は確かにあんたの子だが、しかし、俺の子じゃねぇ！　そこに居るだんなの子さっ！」<br>「なっ！　なんだってっ！」<br>　お久が仰け反るように驚いてみせる。おやじは間髪入れず名乗り上げた。<br>「俺の本当の名は銀十郎。たまたまこいつが騙っていた名を使い、俺は悪事のやりたい放題さ！　その悪事を全て、こいつが被ってくれる算段だったってのに、余計な事ぉ、ア、してくれたもんだぜぇ！」<br>　とおやじは見得を切る。すると観客からはどっと声が上がった。その声が収まるのを待ってから、お久はその場で崩れ落ちた。<br>「ひ、酷い……あまりに、ひどい。信じていたのに……」<br>　お久は顔を覆って泣き出した。十郎兵衛は半ば呆れつつも、二人のやり取りに感心していた。<br>「やれやれ……無茶苦茶だ。もう、『阿波鳴門』でも何でもありゃしねぇ……」<br>　十郎兵衛がこっそり呟くと、寅吉が顔を上げた。<br>「えっ？　どういうお話だったの？」<br>「しーっ、おめえは黙って、そこにいろ」<br>「うん」<br>　そして十郎兵衛は、おやじに一歩一歩、ゆっくりと歩み寄りつつ、こう告げた。<br>「そうかい……そういう事だったのかい……俺の知らぬ間に一家をばらばらにして俺になり代わり、更にいわれのない濡れ衣を着せたのは、あんたか、銀十郎……」<br>　十郎兵衛は堂に入った立ち振る舞いで、おやじにじりじりと迫る。<br>「へ、へへ……おうとも。だから何だってんだ」<br>　その気迫に押されそうになりながら、おやじは答えた。十郎兵衛の身体が大きく動く。<br>「ゆるさねぇぜ……喝っ！」<br>「うおっ！　体がっ、体がうごかん！　なんでや！」<br>　おやじの身体は事実、身動きがとれなくなってしまった。おやじは必死になって慌てた。さらに十郎兵衛がおやじに歩み寄る。<br>「俺はこの日のためにずっと、金毘羅山で身を削るような修行を積み、やっとこの、神通力を得る事が出来た」<br>　そう睨む十郎兵衛に、おやじは脂汗を垂らし、首を振った。<br>「なっ……何じゃこりゃ、やっ、やめとくれっ！」<br>「さぁ、悪党め！　いまこそ、引導を渡してくれようぞ」<br>　十郎兵衛はおやじの前に立つ。ついにおやじの声は頼りないものとなった。<br>「や、やめたって……」<br>「父ちゃん。何や、迫真の芝居やわ……」<br>　お久はおやじのその様子を見て、感心していた。<br>「はぁっ！」<br>「うわぁっ！」<br>　十郎兵衛はおやじの腹に拳を当てると見せ、そのすれすれで拳を止めた。だが、おやじは気絶して泡を吹き、そのまま倒れてしまった。お久はそれを見て、<br>「あらら……本気やったのね」<br>　と微笑んだ。寅吉も飛び上がって大喜びする。<br>「やったーっ！　十郎兵衛！」<br>「これで悪の権化は、成敗できたっ！」<br>　十郎兵衛はありもしない台詞をいうと、二人の元へ戻った。そして、寅吉に小声で話し掛ける。<br>「寅吉、あの絵……持ってるか？」<br>「うん。今もあるよ」<br>　寅吉は頷いた。<br>「ちょうどいい。今すぐ出してくれないか？」<br>「うん……ちょっと待ってて」<br>　寅吉が懐をごそごそしているのをめざとく見つけ、お久が訊く。<br>「おや、お鶴？　どうしたんだい？」<br>「お弓、何やらお鶴が文を預かっているらしい」<br>　十郎兵衛はお久に言うと、<br>「どおれ、見せて御覧なさい」<br>　大きく手を伸ばし、寅吉に絵を見せてもらう仕草をする。<br>「ホラ！　これだよ」<br>　と寅吉は折り畳まれた紙を広げて見せた。<br>「おお……これは……！」<br>　十郎兵衛はお鶴に驚く台詞を言ってから、<br>「腕を上げたな、寅吉」<br>　小声で正直な感想を漏らした。<br>「えへへ。そぉかな……」<br>　寅吉は照れながら微笑んだ。<br>「私たちが探していた、宝刀のありかじゃありませんかっ！」<br>　気を利かせてお久が驚いて言う。十郎兵衛はすかさず台詞をかぶせた。<br>「お鶴！　でかしたぞ！　これでお家は安泰、俺達も一家仲よく暮らせるぜ」<br>「お鶴。よかった……」<br>　お久が十郎兵衛の肩に身をよせたところで、拍子木が鳴り、幕が引かれていった。観客はどんでん返しの結末に大いに喜び、拍手喝采を浴びせた。そうして舞台はどうにか無事、幕を閉じることができたのだった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nfc1ae44b323e'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:34:34 +0900</pubDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十六）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第六話「|狐面」（五）</h3><p name="9d5fa47f-74c1-425d-967e-73128874881e" id="9d5fa47f-74c1-425d-967e-73128874881e"><br>　客が意外な展開にどよめく。十郎兵衛は舌打ちした。<br>「あの、馬鹿！」<br>「じゅうろべぇっ！」<br>　寅吉は舞台から飛び降り、十郎兵衛達に向かって駆けだした。<br>「ああっ！　ちょっとっ！」<br>　お久が呼びかけても止まらず、寅吉はまっすぐに桟敷を走り抜け、十郎兵衛の元へ駆けて来た。<br>「ごめんよ十郎兵衛……ごめんなさい……」<br>　寅吉は十郎兵衛の胸に飛びついて、泣き出した。<br>「ははは。無事で何よりだぜ。ほら、おめぇのタコ石だ」<br>　十郎兵衛は寅吉にターコイズを渡す。<br>「あっ。ありがと……十郎兵衛！」<br>　寅吉はターコイズを手にすると、笑顔で十郎兵衛に再び抱きついた。十郎兵衛は安堵する。<br>「まったく。これで一安心だ」<br>「何言ってんだ、全然よかないよ！」<br>　隣で太一が十郎兵衛を睨みつけた。<br>「おかげで舞台がめちゃくちゃだぜ！」<br>　太一は観客の桟敷を指さした。その観客達も芝居の見せ場で中断され、怒っている。一方、舞台の上ではお久が必死でこちらへ呼びかけていた。<br>「お鶴っ、戻ってらっしゃいな！」<br>　観客はそれに対しても野次を飛ばし始めていた。このままでは太一の言うとおり、舞台は台無しになり、無理矢理幕引きとなってしまうだろう。<br>「どうするんだよ、十郎兵衛さん」<br>　太一が十郎兵衛に詰め寄った。<br>「な、俺に言われても……おい、寅吉っ」<br>　寅吉の腕を離そうとするが、寅吉はなお十郎兵衛を抱きしめた。<br>「だって、さびしかったんだよ……ずっと、がまんしてて……」<br>　寅吉は涙を溜め、可愛らしいお鶴の姿で、十郎兵衛を見上げる。十郎兵衛は動揺して、顔をそらした。<br>「そ、そんな悲しそうな目で俺を見るなっ！」<br>「十郎兵衛……」<br>　太一はしびれを切らして十郎兵衛に言う。<br>「十郎兵衛さん、顔赤くしてる場合じゃ、ないんだって」<br>「そ、そんなこたぁ……」<br>　そろそろ観客達も我慢ができなくなっていた。<br>　するとそこへ、舞台下手からどたどたと、おやじ扮する阿波十郎兵衛が駆け出してきた。<br>「おうおう、どこのもんだか知らねぇが！　俺の娘を返ぇしてもらおうか！」<br>　明らかに十郎兵衛達に向かって、呼びかけている。<br>「あんたっ！」<br>　おやじは小声でお久になにやら囁いた。すると、お久もこちらに向かって大きな声で呼びかけはじめた。<br>「お鶴！　こっちへ！」<br>　その様子を見て、太一はため息をついてあきれ果てた。<br>「父ちゃんも母ちゃんも、やる気満々だぜ……」<br>　十郎兵衛も真顔で寅吉の顔を見た。<br>「んじゃ仕方がねぇ。寅吉、舞台に戻れ」<br>　だが寅吉は駄々をこねた。<br>「やだよぉ。おいらもう十郎兵衛から離れないもん」<br>「馬鹿言うな」<br>　しかし今度は太一が、十郎兵衛に対して首を振った。<br>「だめだ十郎兵衛さん、もう引っ込みつかないぜ」<br>「なんだと？」<br>　太一は十郎兵衛の目を見て、舞台を指さす。<br>「父ちゃんと母ちゃんを見てみなよ。あんたら二人が来るのを、舞台から手ぐすね引いて待ってるぜ」<br>　十郎兵衛は舞台の二人を見た。その二人はというと、ひたすらこちらに向かって叫んでいる。十郎兵衛は眉を寄せた。<br>「しかし……これから先はどういう筋書きなんだ？」<br>　そう訊くと、太一は顔を背けた。<br>「そんなのしらねぇよ」<br>「なんだと！」<br>「きっとあの二人もそんな事考えちゃいねぇ。……うまくこの修羅場を乗り切る事しか考えちゃいないよ。十郎兵衛さん」<br>　太一は真摯に十郎兵衛を見つめた。<br>「……何だ」<br>「もししくじったら、きっと客は金返せっていうだろうから、そんときゃ十郎兵衛さんが全部、払ってくれよな？」<br>　無茶な注文に十郎兵衛は弱り果てた。<br>「いや、全部払えと言われたってよ……」<br>「それもこれも、あんたのその連れのせいだからな」<br>　じっと、太一は十郎兵衛の顔を睨んでいる。十郎兵衛は溜息をつき、<br>「……しょうがねぇな。んじゃ、行くか、寅吉」<br>　と言うと、桟敷きの隙間から席に出て、寅吉を抱きかかえた。観客がどっと湧いた。寅吉は笑顔で十郎兵衛の肩に手をまわすと、<br>「うんっ、じゅうろべぇっ」<br>　と頷いた。そして十郎兵衛達は、舞台に向かい歩き出した。観客は訳も分からずやんややんやの大騒ぎとなった。花道を歩くように十郎兵衛達は舞台へと進み、寅吉は満面の笑みで十郎兵衛を終始見ている。十郎兵衛は少し照れた。<br>「あんまり、こっち見るな……」<br>「じゃ、こうしてるっ」<br>　寅吉はそう言うと、十郎兵衛にしっかりと顔を寄せ、抱きついた。<br>「……オ、オイ」<br>　十郎兵衛はそれに何も言えず、顔を真っ赤にしながら、舞台へと上った。<br>　すると、十郎兵衛達に対し客席から拍手と歓声があがった。十郎兵衛は寅吉を下ろし、息を整えてから、おやじらに向き直る。<br>「俺の名は、阿波の十郎兵衛！　巷では銀十郎という名で通っている！　このお鶴がこうしている通り、俺こそがこの子の親だ！」<br>　どこからともなく、絶妙の間で拍子木が鳴った。観客からも、「イヨッ！」「お鶴っ！」と歓声が飛ぶ。<br>「え、十郎兵衛？」<br>　いきなり十郎兵衛がおかしなことを言うので、寅吉はその顔を見上げた。<br>「しっ、おめぇは黙って見てろ」<br>　するとお久は、しなをつくっておやじにすがりついた。<br>「あ、あんたっ！　こ、これは一体、どういう事なの？」<br>　と、お久は即興で台詞を言ってから、<br>「……どないするんや、父ちゃん？」<br>　おやじに小声で訊いた。<br>「そやなぁ……。しかしやるやないか、あの旦那」<br>　おやじは、実際の困り顔を、苦虫を噛み潰したように変え、十郎兵衛を睨みつける。<br>「そうや……！」<br>　おやじは口元だけをにやりとさせ、寅吉の元へと走った。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nd7c613d80419'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:31:29 +0900</pubDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十五）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第六話「|狐面」（四）</h3><p name="3cf26801-a4b9-4f77-9284-ae7b84ce9205" id="3cf26801-a4b9-4f77-9284-ae7b84ce9205"><br></p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/ne5fd8c1f6c34'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:29:20 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十四）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第六話「|狐面」（三）</h3><p name="eb17bf99-a534-44cc-a446-344382372339" id="eb17bf99-a534-44cc-a446-344382372339"><br>　その頃、十郎兵衛はといえば、先程まで寅吉のいた神社の境内に立っていた。<br>「おい！　寅吉っ！　まったく、どこへ隠れていやがる」<br>　十郎兵衛は辺りを見回すが、人影どころか気配すらなかった。<br>「しかし……確かにこの辺りのはずなんだが」<br>　ふと、十郎兵衛は一つの結論に思い当たった。<br>「いや、まさか……だがあの様子ならやりかねねぇ。確かめてみるしかねぇな」<br>　十郎兵衛は目を伏せて意識を集中した。そして、大きく目を開く。<br>「そこか！　ったく、何てところに。くそっ！」<br>　十郎兵衛は社の下に潜り込むと、四つん這いで這っていった。子供一人くらいしか入れないほどの隙間を、十郎兵衛はどうにか進んでいく。<br>「こんな、狭い所に。だが、間違いねぇな」<br>　社のちょうど中央まで来たところで、十郎兵衛は止まり、その地面を掘ると、土の堅さが明らかに違った。やがて掘り進めると、水色の丸い石を十郎兵衛は見つけ、手に取った。<br>「ありやがった。あの大馬鹿野郎、世話焼かせやがってっ！　……いてっ！」<br>　柱に頭をぶつけながら、十郎兵衛は社の下から外に出るために、再び這い戻っていった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n1efbae44041a'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66691741/profile_540c718b255c495a9e985eaa95d24a93.jpeg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:27:50 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/n1efbae44041a</link>
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    </item>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十三）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第六話「|狐面」（二）</h3><p name="1ce49d6b-9612-4f7e-91e5-c889f738e1a8" id="1ce49d6b-9612-4f7e-91e5-c889f738e1a8"><br>　一方、何が起こったのか分からずに、十郎兵衛はしばし呆然となった。<br>「あの野郎……何だってあんなに、怒ってやがるんだ？　それに、一体俺にどうしろと……」<br>　そう言って十郎兵衛は溜息をつく。<br>「全く……あんなわがまま野郎はほっときゃ、すぐ戻ってくるだろ……」<br>　腕を組んだまま、しばし考え込んでいたが、<br>「いや。やっぱり駄目だっ！　何しでかすか分からねぇっ！」<br>　十郎兵衛は慌てて寅吉の後を追った。<br></p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nee5b36b532f3'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:27:08 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/nee5b36b532f3</link>
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    </item>
    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十二）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第六話「|狐面」（一）</h3><p name="c9457504-de0e-424d-8fe4-63bf74c6e2ea" id="c9457504-de0e-424d-8fe4-63bf74c6e2ea"><br>　斉藤十郎兵衛と寅吉は、京都を後にしてから数日後、とある町並みを歩いていた。<br>　しかし、十郎兵衛の口数は少ない。文女の忠告、そして先日出合った、黒い鳥を操る男の事を考え続けていたからだ。<br>　果たして、あの男の手から逃れつつ、寅吉を長崎へと送る事ができるのだろうか。十郎兵衛の胸の内を燻すように、苛立ちと焦りが急き立てていた。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n43fa096a3e98'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:26:11 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十一）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（十三）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　すると文女は遊馬の脇で、自らの袖の裾を切り裂く。その布で遊馬の手首を縛りはじめた。<br>「なぜ、この男の手首を？」<br>　十郎兵衛が文女に訊くと、文女は十郎兵衛を睨みつけた。<br>「惚けるな！　まだわからん！　おい斎藤、ここから西へしばらく行くと、洞窟があるのは知ってるか？」<br>「いや……しらねぇ」<br>　呆気にとられて十郎兵衛が答えた。<br>「そこへこの男を運んでくれ。とても危ういが、まだ息がある」<br>　文女が立ち上がる。お雪が驚いて文女を見つめた。<br>「それは、本当ですか！」<br>「あぁ。だから安全な所で、一刻も早く手当てがしたい」<br>「十郎兵衛さん、どうかお願い！　兄様が！」<br>　お雪も立ち上がり、必死になって十郎兵衛に懇願する。<br>「お前は落ち着けと言っているだろうが！」<br>　文女の怒声がお雪に向けられた。十郎兵衛は顔をしかめつつも、<br>「分かったから、二人とも落ち着いてくれ……洞窟はどこにある」<br>　力なくそう言い、十郎兵衛は遊馬の体を抱えて、そのまま背負った。<br>「こっちだ。行こう」<br>　文女が森の奥へ指をさす。お雪は頷き、十郎兵衛も無言でその後をついていった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n1e877711a8c7'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:22:10 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（五十）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（十二）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　その草陰から、巫女が飛び出してきた。<br>「斎藤、無事か」<br>　主司の巫女、文女であった。怪しい者ではないと知り、十郎兵衛は安堵する。<br>「あんたはあの時の。俺は平気だが、この娘が危ういんだ」<br>　十郎兵衛が言うなり、文女はお雪に歩み寄り、その様子を窺った。身体がひしめき、その恐怖で暴れるお雪と、お雪を押さえつけているだけで精一杯の遊馬。二人を見て、文女の顔が険しくなった。<br>「鬼化、しかもかなり危険な状態だな……」<br>　文女が即座に察知し、十郎兵衛は頷いた。<br>「ああ。俺たちじゃ、施された術が強すぎて歯が立たねぇ」<br>　文女は腕を組んだ。<br>「私がこの地の力を借りて、やれるだけやってみよう」<br>　と言うと文女は両の手を地面に着けてしゃがみ込む。小声で何かを呟くと、<br>「んっ！」<br>　落葉の下から鈍い光が溢れ出し、その光が徐々に文女の身体へと集まっていく。その様子に遊馬が呟いた。<br>「これは……もしや」<br>　そして光を纏い、文女は立ち上がると、その両手をお雪の額にあてた。<br>「あ……あぁっ……」<br>　お雪の痙攣が緩やかに収まっていく。なおも文女は額に手をあて続けた。<br>　文女の身に纏った光は、少しづつお雪の額へと流れ、鬼化が徐々に止まっていった。長い爪が縮んでゆき、伸びていた角も徐々に短くなっていく。それに従い、お雪も次第に落ち着きを見せてきた。<br>「からだが……」<br>「ええ。お雪の鬼化が、止まってきた……この方は、もしや」<br>　遊馬が安堵する。十郎兵衛もほっと息を吐いた。<br>「そうだ。俺も出会ったときは驚いたぜ。古えの申楽座、主司の者だ」<br>「何と、そうでしたか……」<br>　遊馬も文女の姿を見て、驚いていた。<br>　すると、文女はお雪の額に両手をあてながらも、二人にかぶりを振った。<br>「……駄目だ。鬼への変化は食い止められているが、元へ戻すほどの力をこの地は持っていない。今は止めていられるが、このまま力を使いきってしまったら、後はどうすることも……」<br>　文女の言葉に、十郎兵衛は拳を強く握った。<br>「くそう……どうしたらいいんだ……」<br>　お雪の身体は鬼化が収まってはいるものの、すでに意識が朦朧としていた。<br>「うぅっ、はぁ……。にい、さま……」<br>　お雪は遊馬を呼んだ。<br>「……何、ですか？　お雪」<br>　遊馬はお雪を愛おしく見つめた。だが、お雪は首を振った。<br>「もう、いいです……このまま、わたしをすてて、にげて……。だめなら……ころして……」<br>　諦めるお雪に、遊馬は悲痛の表情となった。<br>「駄目ですお雪。お前にはどうしても、幸せであって欲しい。私は今までずっと、そう願ってきたんですから……」<br>「にい、さま……ごめんな、さい……」<br>　お雪の目から涙がこぼれ落ちた。遊馬の目にも涙が浮かぶ。<br>「私こそ。今一度、こうしてお前の顔を見ることができたのに、すまない……」<br>「にい……さま……」<br>　そうして二人は見つめあっていたが、ふと遊馬が何かに気づき、じっと夜空を見上げた。<br>「そうですね、私もずいぶんと虫がいい。今まであれだけ汚れた仕事をしてきたというのに」<br>　遊馬はしばらくの間、青い月が浮かぶ夜空を見つめていた。そして、遊馬は意を決し、お雪へと顔を向ける。<br>「大丈夫。助かりますよお雪」<br>　遊馬が兄らしく笑ってみせると、お雪の顔も綻んだ。<br>「ほん、とう……？　うれし、い……」<br>　十郎兵衛はその言葉に驚く。<br>「それは、本当なのか？」<br>　遊馬は十郎兵衛の問いに、力強く頷いた。そして、<br>「ええ。必ず助けます。その代わり……約束して下さい」<br>　遊馬は神妙な顔で十郎兵衛に言った。だが、その声音に不穏なものを感じる。<br>「何をだ？」<br>「これから私がする事を、何もせず、見届けて下さい」<br>「何を、する気だ」<br>　十郎兵衛は再び遊馬に問いかける。遊馬はしばらく黙っていたが、口を開く。<br>「もちろんあなた方には一切の手だしをしない。ですからどうか、頼みます」<br>　そう答える遊馬の眼差しは有無をも言わせないものだった。<br>「ああ。確かに見届ける」<br>　十郎兵衛は遊馬から目を背けつつ、やるせない思いでそう言い捨てた。文女は慌てて十郎兵衛に振りかえる。<br>「だめだ斎藤！　この男はおそらく――」<br>「わかってらぁ！　俺達じゃ、止められねえんだ。口を出す筋合いじゃねぇ……」<br>　吐き捨てるように十郎兵衛は言った。文女はお雪の額に手を翳したまま、遊馬のこれからする事を案じて、顔を曇らせる。遊馬は二人に頭を下げた。<br>「恩に着ます。では巫女さん、私から少し離れて下さい……」<br>「……分かった」<br>　文女は遊馬の言葉に従い、お雪と遊馬から離れた。お雪は遊馬の顔を見る。<br>「にいさま……何を」<br>　遊馬はお雪の正面に向き直り、鎮扇を取り出した。それを畳んだまま天へと向ける。遊馬の眼差しも扇の指す方へ一直線に向け、天の一点のみを見つめ続けている。<br>「にい……さま……？」<br>　お雪が再び問いかけた。遊馬は息を整えながら、天を仰いだままで答える。<br>「大丈夫ですよ、お雪。お前は必ず幸せになるんですから。……目を、瞑っていなさい」<br>「はい……」<br>　お雪はおとなしく目を閉じた。やがて遊馬はすぅと大きく息を吸い、手にした扇は頭上から急に前方へと向けられる。遊馬の眼差しも一直線に遥か前方を見据えた。そして、<br>「この扇は穢れ無き薄らなる刃、わが身は清められたる海の御潮！」<br>　遊馬が矢継ぎ早に言葉を繰り出す。さらに右腕の下へと、左腕を素早く横一文字に添えた。扇を持った右腕は前方へ伸ばしたまま、両腕が十字に重なる。<br>「わが身潮を一つかき切って、この穢れを洗い流し祓いたまえっ！」<br>　右腕が勢いよく引き下ろされる。そして、大きく扇で掻っ切られた遊馬の左手首から、真っ赤な鮮血がほとばしった。十郎兵衛はただその様子を見つめるしかなく、<br>「何ということを……」<br>　文女も悲痛の眼差しを遊馬に向けている。<br>　そのまま遊馬は、お雪の額に血の滴る手首を翳した。お雪の顔にその鮮血が降り注ぐ。<br>「にい……さま？」<br>　お雪が目を閉じたまま遊馬に訊く。だが、遊馬はそれに答えない。しかし遊馬の鮮血は、確かにお雪の身体を清らかに流していた。額の角も縮んでいる。<br>「大丈夫、ですよ、目を、つむっていな……さい……」<br>　優しい声でお雪にそう言い、遊馬はにっこりと笑った。その顔は徐々に青ざめていく。十郎兵衛と文女はその様子を見つめている。<br>「確かに……鬼化が治まってきているぜ」<br>「だが逆に、あの男の身が……」<br>　文女が言葉を継げずにいると、十郎兵衛は無言で頷いた。<br>　しばらく二人は遊馬のなすがままに任せていた。お雪は目を閉じたまま、額に滴るものが何であるのか、分からずにいる。<br>「……あぁ、温かい。……え？　これはまさか……血……？」<br>　お雪は目を開けた。額に翳した赤い手首に気づき、さらに大きく目を見開いた。<br>「……に、にいさまぁっ！　……腕から血が……あぁっ……」<br>　遊馬の手首から迸る血の量は緩くなり、すでに切り口からは殆ど血が出なくなっていた。すると遊馬はお雪に覆いかぶさるように寄りかかった。<br>「これ、で……たすかり、ますよ……おゆ、きっ……」<br>　遊馬はお雪の額を撫でた。そこにもう角は生えていない。そのまま呆然とするお雪の身体をすり抜け、うつ伏せに倒れてしまう。遊馬はそのまま動かなくなった。<br>「に、……にいさまぁーっ！」<br>　お雪は絶叫して、すぐさま膝をつくと倒れた遊馬を揺さぶり続けた。<br>「しっかりして！　兄様ぁっ！　……しっかりっ！」<br>　すると文女もその場に駆け寄り、いきなりお雪に平手を打った。<br>　お雪は驚きのあまり呆然とする。そのお雪の肩を掴んで、文女は身体を揺さぶった。<br>「落ち着けっ！」<br>「……はっ」<br>「この男の犠牲を無駄にする気かっ！　お前に巣食っていた邪気は治まったが、まだ完全ではない！　落ち着かなければ二人とも犬死にだぞ！」<br>　我に返ったお雪は、倒れたままの遊馬を見つめた。<br>「ああっ……にいさま……」<br>　文女も遊馬の姿を見つめながら、<br>「完全に血の気が、抜けている……」<br>　と呟く。その文女の声に、十郎兵衛は自分の無力さを痛感していた。<br>「くそっ。結局あの時と、同じだ」　</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/na8732b0ae42d'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Jul 2026 07:21:09 +0900</pubDate>
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    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十九）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（十一）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　幼い頃の遊馬、そしてお雪が向かい合っている。<br>　お雪は泣きじゃくり、遊馬に駄々をこねていた。当時お雪を奉公人として出すために、遊馬は別れを告げているのである。<br>　その様子を、今の遊馬が傍から眺めている。今の遊馬の姿は、目の前の二人には見えていないらしい。<br>「ここは、確か……江戸の町。あれは、幼い頃のお雪と、私だ。ではお雪に別れを告げている時の、私の思い出なのか」<br>　遊馬の見ている前では、幼い遊馬が、お雪を諭していた。<br>「お雪、私は行ってしまうけれど、必ず戻って来ますからね」<br>　お雪は、泣きじゃくりながら幼い遊馬に訊く。<br>「本当に？　いつ、戻ってくるの？」<br>　幼い遊馬は一つ息を吐いて目を伏せた。そしてお雪に言う。<br>「……いつか、必ず。だからそれまで泣いたりせず、女将さんの言う事をよく聞いて、しっかり働くのですよ。そうすれば、私は早く帰って来ます」<br>　幼い遊馬はそう言うと、背を向けて歩き出そうとする。<br>「でも、兄様……行っちゃいやっ！」<br>　お雪は抱きついて引き留めた。幼い遊馬は振り返って険しい顔になる。<br>「駄目ですよ、お雪」<br>　だが、きつい口調で叱っても、お雪は遊馬にしがみついて離そうとしない。<br>「いやいやっ！　わたしはずっと、兄様と一緒にいるっ！」<br>　お雪は首を振り、駄々をこねた。幼い遊馬はその腕を掴むと、お雪に向き直った。<br>「わがままはいけないよ、お雪。私が戻ってきた時は、二人で一緒に暮らそう。だからほんの、しばらくの辛抱だよ」<br>　お雪は目を赤くして、遊馬の顔を見上げた。<br>「兄様……」<br>　お雪は悲しそうに俯く。だが次の瞬間、遊馬を見上げてにっこりと笑った。<br>「うん。わたし、いい子で待ってる。だから、早く戻ってきてね」<br>　その小さな目から一筋、涙が流れ落ちる。遊馬はお雪の頭を優しく撫でた。<br>「よし……いい子だ」<br>「えへっ」<br>　お雪が目を細めて微笑んでいる。そして、幼い遊馬は振り返った。<br>「どなたか存じませんが、ありがとうございます」<br>　振り返った先には、大きな男が立っていた。遊馬はその男に頭を下げる。だがその男の顔は、日差しに遮られよく見えない。口元だけは優しい表情が窺えた。<br>　今の遊馬は、男の表情を見た途端、少しずつその時の記憶が蘇ってきた。<br>「あれは確か……私たちを救い、江戸へ逃がしてくれた方だ。暗くて顔が見えない。名はなんといっただろうか……」<br>　幼いお雪は男に向かって、<br>「おにいさん、お名前はなんて言うの？」<br>　と訊いた。<br>「俺の名は、斎藤十郎兵衛だ」<br>　男は、そう答えて笑った。<br>「ありがとうございます。さいとうさま」<br>　幼いお雪が礼儀正しく頭を下げる。<br>「そんな……！」<br>　今の遊馬は呆然として、その光景を見つめていた。目の前で、当時の十郎兵衛が目の前の二人に向かって身をかがませる。<br>「お父っつあんや、お母っつあんを助けられなくて、本当にすまなかった。だが、ここまで来れば、一安心だぜ」<br>　遊馬は、困惑した。<br>「これでは親の仇どころか、命の恩人ではないですか……」<br>　そして再び、遊馬の視界が再び目映い光に遮られていった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nf0fac55dfa7a'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66691741/profile_540c718b255c495a9e985eaa95d24a93.jpeg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 22:20:08 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十八）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（十）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　構えると、十郎兵衛は再び舞い始めた。<br>「その時人々力を添え、引き上げ給えと約束し――」<br>　その十郎兵衛の謡を聞き、遊馬は目を見開いた。<br>「『海人』の舞ですね……私の本心を引き出すつもりですか……させません！」<br>　遊馬が叫ぶと、再び落ち葉が水面に変わっていく。<br>「一つの利剣を抜き持って」<br>　十郎兵衛は謡を詠むと、すぐさまその姿を太刀を持つ海女へと変えた。慈悲の響きを持った声音で、十郎兵衛は遊馬に言い放つ。<br>「……この悲しみの海から、本当の心を取り返してみせるっ！」<br>　言うなり、十郎兵衛は遊馬の作り出した赤い波紋に自ら飛び込んでいった。ひとり遊馬はかぶりを振る。<br>「……とんでもない。そんな事をされたら、私は何のためにこれまで……それだけは、どうあってもさせません」<br>　遊馬もまたその水面へと身体を沈ませていった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n53e0a0879cf3'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66691741/profile_540c718b255c495a9e985eaa95d24a93.jpeg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 22:16:10 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/n53e0a0879cf3</link>
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    </item>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十七）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（九）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　若き頃の十郎兵衛は、元服をすませて間もなく、腰巾着を父の與右衛門から継いで初任務に就く事となった。<br>　ある屋敷の廊下で十郎兵衛は何者かを追い、そして、ついに相手を行き止まりにまで追い詰めていた。<br>「観念してもらおうか。年貢の納め時だ」<br>　十郎兵衛の目の前には初老の男と、その妻らしき者が壁際に立ちすくんでいる。<br>「そのようですな。もはやこれまで」<br>　初老の男が呟いた。すると隣りの女が十郎兵衛の前に立ちはだかり、必死に懇願しはじめた。<br>「どうか助けてください！　夫は潔白なのです、私はどうなってもよいですから、どうかこの方だけは――」<br>「いや、お前を置いてなどいけるものか。私は殺されても構わんっ！　どうか私以外の者の、命だけは見逃して頂きたい」<br>　若き頃の十郎兵衛は頭を掻いた。<br>「待ってくれ。そう言われても俺が受けたのは、あんたら二人を捕えてくるようにとの任だけだ。俺もまだ、なりたてのほやほやでな。まだそこまでは任せて貰えねぇよ」<br>　十郎兵衛は懇願する二人にそう告げた。<br>「で、では……」<br>　目の前の男――清水詠心と、その妻は謀反の疑いがあるため、捕らえて幕府に引き渡すようにとの任務を十郎兵衛は受けている。だが、仔細な事情は知らされていなかった。<br>「訳があるなら、お白州の上ではっきり申し上げるしかねぇだろう。まずは俺にその話を――」<br>　そこへ小刀が飛んできて、詠心と妻の胸に突き刺さった。<br>「ううっ！」<br>「ああっ！」<br>　二人はその場に倒れてしまった。十郎兵衛は辺りを振り返る。<br>「誰だっ！」<br>「無駄話などするからですよ。秘すれば花、です」<br>　ふり返ると、背後の小窓に何者かがいた。十郎兵衛は小窓に駆け寄るも、すでに男の姿は消えていた。<br>「どこだ……くそっ」<br>　急いで詠心らの元へと戻り、<br>「おい大丈夫かっ。しっかりしろ」<br>　十郎兵衛は声をかけるが、すでに妻の息はなく、詠心も息が絶え絶えとなっていた。小刀に毒が塗ってあると十郎兵衛は察した。<br>「子供達だけはどうか……守って……うっ……」<br>　詠心もまた、すぐに息絶えてしまった。<br>「おい！　詠心さんっ！　……だめだ」<br>　十郎兵衛は詠心の身体を静かに床へと寝かせ、立ち上がった。<br>「子供達か。必ず守る！」</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n9e181369e32a'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 18:55:35 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/n9e181369e32a</link>
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    </item>
    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十六）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（八）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　一方、十郎兵衛達はといえば、その西側の山の中にいた。身体が冷えるため、焚き木をして暖を取っている。<br>　十郎兵衛は肘をついて横になり、寅吉は焚き火に両手を翳してしゃがみ込んでいたが、そろそろ夜も更けてきたため、明日に向けて眠りにつかねばならない。そこへ、<br>「そば、食べたいなぁ……」<br>　寅吉がふと漏らした。その声を聞いて、十郎兵衛は呆れ顔で言う。<br>「無茶言うな。こんな山ん中で」<br>　寅吉はふくれ面になった。<br>「おいしかったから、言ってみただけだよぉ」<br>「ん」<br>　十郎兵衛がおもむろに顔を上げる。<br>「十郎兵衛？」<br>　突然十郎兵衛は立ち上がり、目の前の焚き火を消した。<br>「なんで消しちゃうの？　別においらそばは」<br>　寅吉は顔を上げて問いかけた。だがそれには答えず、<br>「寅吉、ちょっと行ってくる」<br>　十郎兵衛は真剣な面持ちで用件を告げた。寅吉は不安そうな表情になる。<br>「ねえ、おいらも一緒に行くよ」<br>「駄目だ。すぐ戻るからここから離れるなよ」<br>「わ、わかったよ」<br>　寅吉が肯くと、十郎兵衛は森の奥へと歩き出していった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nd23443cfa563'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 18:32:08 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/nd23443cfa563</link>
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    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十五）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（七）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　いつしか夕暮れになっていた。<br>　清水寺の桧舞台で、お雪は見渡す景色を眺めながら途方に暮れていた。あれから西へは向かってみたものの、誰も遊馬を見かけた者はなく、お雪は途方に暮れて東へと戻りつつあちこちを捜しているうちに、いつの間にかこの場所にいたのだった。<br>「この景色のどこかに、あの方はいるはずなのに……でも、あの飲み屋さん以外、誰も見ていないなんて。……もう、宿へ戻ろうかしら。それとも……」<br>　もし、ここから飛び降りて無事ならば、観音様のご利益で願いごとが叶うという。お雪は思わず身を乗り出していた。すると、<br>「あきらめるのは、早いですよ」<br>　突然、男の声がした。<br>「……え？」<br>　お雪が声の方へと振り返ると、黒い服に身を包んだ、能面のような顔の男がお雪へと近づいてきた。<br>「何かお悩みのようですね」<br>「はぁ……。あなたは？」<br>　男はいきなり占を取り出し、目の前でそれをじゃらじゃらと鳴らしはじめた。<br>「健康運、金銭運、恋の悩みもぴたりと当たる。……しがない占い師です。占ってしんぜましょうか……」<br>「えぇっ……あぁ……」<br>　お雪はその占の鳴る音を聞いているうちに、目の前に見える景色が虚ろになってゆく。男がか細い声で囁いた。<br>「さて……一体、あなたは誰をお捜しですか？」<br>　お雪の意識は朦朧となったまま、呟く。<br>「あたし……わたしは、あのかたを……」<br>「あの方、とは？」<br>「……印籠、宝生座の……を持っていた……優しくてお酒ばかり飲んでいる、兄様……」<br>　男は得心したように頷いた。<br>「なるほど……名前はご存知ですか？」<br>「……いいえ」<br>　しばらく男は黙っていた。占を鳴らし続け、おもむろに訊く。<br>「……斎藤十郎兵衛を、知っていますね？」<br>「十郎兵衛、さん……」<br>「どこで会ったのです？」<br>「『うまや』という大きな旅籠で……私を自由にして、くださいました……」<br>「やはり、そうでしたか……破っ！」<br>　男が声を発した。お雪はその声で我に返った。<br>「えっ……？　あたしは……何を？」<br>　今まで何があったのかわからず、お雪は辺りを見回している。<br>「疲れていらっしゃるようですね。さっきから何を占うか、聞いているというのに」<br>　男は、口元だけをつり上げた。<br>「あら、そうでしたか。……でも、いいんです」<br>　お雪はその場から立ち去ろうとすると、<br>「『あの方』の事も、占って差し上げられますよ？」<br>　お雪に男が呼びかけた。恥ずかしさで顔が熱くなって、頬に手を添えた。<br>「いえ！　いいです！」<br>　いよいよお雪は駆け出して、その場を去ろうとすると、<br>「占い師ゆえ、何処にいるかぐらいはおおよそわかりますが」<br>　さらに気になることを言われ、ついお雪の足が止まる。そしてお雪は戸惑いながらも振り返り、<br>「えっ……では、お願いします」<br>　男のもとへと歩み寄った。<br>　やみくもにお雪ひとりで遊馬を捜してみても、途方に暮れるばかりだった。それなら、この男の言うことに少しは耳を貸してみてもいいのではないか。そんな諦観めいた感情がお雪の心を占めていた。<br>「目を閉じて。額に手を当てさせて下さい……いきますよ」<br>「はい」<br>　お雪は言われるまま瞼を閉じる。男は細い目を閉じて、お雪の額へ手を翳しつつ何らかの気を送った。男は手を翳したままでお雪に言った。<br>「お捜しの方に対して、強い情念をお持ちだ。しかしあまり思いつめない方がいいですね」<br>「痛っ！」<br>　突然、眉間の辺りに痛みが走って、お雪は後ずさる。手を当てるとお雪の額の中央にぽつんと腫れ物ができていた。<br>「何をするんですか！」<br>　お雪は額をさすりながら言った。占いの男は首を振る。<br>「情が強すぎて、あなたの気が自分に跳ね返ってきたんです。私のせいじゃありません」<br>「もう。本当に、占ったんですか」<br>　魔がさしたとはいえ、いきなり言い寄ってきたこの男に、占いなど頼んだことをお雪はようやく後悔していた。お雪の問いに男は頷く。<br>「ええ。ですが、京の都からはかなり離れてしまったようですね……きっと山の尾根、西の方へ行かれたかと……」<br>「なら、もういいです。失礼します！」<br>　額を押さえ、お雪はそう言い捨てると、その場から離れようとする。<br>「一つ、忠告があります」<br>　男のか細い声が、なぜかまたお雪の足を止めた。お雪は振り返る。<br>「もう、何ですか！」<br>「意中の方、早く見つけた方がいいですよ。近いうちに良くない事が――」<br>「言われなくたって見つけます！　失礼！」<br>　これ以上男の話に耳を傾ける余裕はなく、お雪はそのまま逃げ出すように去っていった。そして、<br>「……あなたに、起こりますから」<br>　男はその場でひとり、お雪に告げた。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n28a0e4cedc04'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 18:29:01 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/n28a0e4cedc04</link>
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    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十四）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（六）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　その、貞一とお雪のいた近くの軒下に、一人の占い師が占を持って座っていた。<br>　先程の顛末を横目で見ながら、占いの男は呟く。<br>「何者でしょう、あの娘……」<br>　そこへ編笠を深々と被った一人の男が立ち止まった。清水遊馬である。占いの男は遊馬に呼びかけた。<br>「おや、いらっしゃいませ。何を占いますか？　健康運、金銭運、恋の悩みもぴたりと当たる。さ、いかがいたしましょう」<br>　遊馬は男に小声で、<br>「星のお導きを……占ってください」<br>　そう告げた。占をじゃらじゃらと鳴らしながら、男のか細い声が聞こえてくる。<br>「京からはもう、離れているやも知れません。が、そう遠くはありませんよ」<br>　遊馬はこくりと頷いた。<br>「そうですか。しかし、もう手出ししても宜しいのでしょうか」<br>「かまいません。松の木は既に倒れましたから。次は馬酔木の番です。そのまれに見る紅い花で、存分に酔わせてあげなさい」<br>「……わかりました」<br>　遊馬は言った。鬼気迫る目つきだった。<br>「ただし。手を出せるのは、桜が難波へたどり着くまでの間です」<br>「心得ています。……あと、もう一つ、占って下さい」<br>　占いの男が、怪訝な表情をする。<br>「……何をです」<br>「私の両親を殺したのは、誰ですか」<br>　じっと遊馬は男の顔を見つめていた。しばらくその目を男も見返していたが、ふと男の目が閉じる。<br>「……占うまでもなく、斎藤十郎兵衛ですよ」<br>「本当で、ございますね」<br>「ええ」<br>　それを聞き、遊馬は踵を返した。<br>「では、失礼します」<br>　そうして遊馬は、京の町並みに溶け込むようにして去っていった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n9dbde594f1c7'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 18:24:17 +0900</pubDate>
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      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十三）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（五）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　その頃、清水遊馬はとある酒屋へと向かっていた。<br>「すみません。開いてますか」<br>「どうぞどうぞ、いらっしゃい。朝から酒とはいける口ですねぇ」<br>　店主がそう呼びかけると遊馬は店へと入った。<br>「で、お客さんいかがいたしましょ？」<br>「その前に」<br>　遊馬は改まって、店主に向き直る。<br>「少々お尋ねしますが、この店に、大きな丼鉢はございますか」<br>「え？　……ええ。ございますよ」<br>　店主が要領を得ないままで答えた。<br>「ならすみませんが、面倒なんでそれに冷酒をたっぷりと注いで頂けませんか」<br>「は？　はぁ。ちょっと待っていて下さいよ」<br>　店主はやがて、遊馬の言われるままに丼鉢と一升瓶を席に持ってきて、酒をなみなみと注いだ。<br>「どうぞ。しかしお客さん、こんなに注いでどうなさるんですか……えっ！」<br>　遊馬は無言でどんぶりを両手に取ると、それをごくごくと飲み出した。その様子に店主は呆気にとられている。<br>「おっ、お客さん？　あっ、ああーっ……」<br>　遊馬は一口も残さず酒を飲み干して、目の前に空の丼鉢を置いた。遊馬は袖で口を拭うと、<br>「はーっ！　生き返りました。ありがとうございます」<br>　店主は我に返り、その飲みっぷりに感心した。<br>「……こりゃ驚いた。お客さん、よくそれを飲まれましたなぁ」<br>「ははは、お恥ずかしい」<br>「いやぁ、いい飲みっぷりですよ。見ていて気持ちようございました」<br>「いえ、酒にだらしがないだけです。朝っぱらからすみませんね。では、もう一杯頂けませんか？」<br>　遊馬は童子のような笑顔を見せる。店主は戸惑い、<br>「えっ？　ええ。しかし、大したお方やなぁ。ま、飲みたいときに飲むのが一番ですよ。ささ」<br>　驚きを隠せない様子で一升瓶から酒を注いでいる間に、遊馬は荷物をごそごそと漁りだした。<br>「それと旅仕度をしなくては」<br>　遊馬の布袋から、大きなひょうたんが取り出され、それを目の前に置いた。<br>「何ですこの、大きなひょうたん。……もしや」<br>　酒を注ぎ終えた店主は遊馬に訊くと、遊馬はこくりと頷いた。<br>「はい。お酒をたっぷりと入れてはくれませんか？」<br>「はは……とんでもないお方やなぁ。いや、参りました」<br>　そう言って、店主は自らの額をぺちりと叩き、一升瓶を瓢箪の口に近づけた。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/n2379ca989b72'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 18:23:40 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/n2379ca989b72</link>
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    </item>
    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十二）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（四）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　翌日、お雪は目を覚ました。<br>「はっ。……ここは」<br>　ぼんやりとした目つきで、お雪は辺りを見回した。見覚えのない畳の間を眺めているうちに、お雪は昨晩なにがあったのかを思い出した。<br>「……あっ、わたし飲み屋で眠って。じゃあ、あの方に？」<br>　お雪は改めて遊馬の姿を捜すが、人影はどこにもなかった。<br>「いない……。いえ、まだ近くにいるかも知れない！」<br>　言うなりお雪はがばっと起きて、身支度を整える。すぐさま廊下へと飛び出し、部屋の襖を閉めた。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nbd2a0af215ab'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 18:20:30 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/nbd2a0af215ab</link>
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    </item>
    <item>
      <title>寛政浮世浪漫草紙 しゃあらっと　（四十一）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（三）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　そして男は、自分が泊まっている旅籠へ着くと、すぐさま床の仕度をさせて、そこへお雪だけを寝かせてやった。<br>　そして男はお雪の寝ている脇に座り、荷物から大きな瓢箪と杯を取り出した。瓢箪の栓を抜き、杯に酒を注ぐ。その杯に口をつけながら、お雪の安らかな寝顔を見つめていた。<br>「お雪……諦めてはくれませんでしたか」<br>　心なしか、お雪の寝顔は安らかに微笑んでいるように見えた。<br>「お前とはあの時、今生の別れのつもりで、あの暮らしから足を洗えるだけの金と、私の形見を置いていったというのに……」<br>　男は悲しそうな表情でため息をつくと、やがて月明かりがお雪の端整な顔を照らす。その寝顔に向かって、男は言った。<br>「しかしもう、わがままは聞いてあげられませんよ……。父上、母上の仇討ちは、この兄一人で充分ですから」<br>　男がさらにため息をつく。<br>「……これ以上先へは連れていけないのです。わかってくれますね、お雪」<br>　手にしていた杯を、ぐいっと空けた。<br>「私はそのためだけに金沢、宝生座で、能の業を磨いた……」<br>　瓢箪から杯へ、なみなみと酒を注ぎ、またそれを一気に飲み干す。<br>「日々そのためだけに、酒をくらい、汚れた仕事をこなして生きてきた。周りからは、舞を舞えない腰抜け、人でなしとして……太夫の座も蹴飛ばし、馬鹿呼ばわりされながら……」<br>　男は、その時のことを思い出していた。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/nfe8c081e868b'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 18:20:03 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/cheche_at/n/nfe8c081e868b</link>
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    <item>
      <title>寛政浮世絵浪漫草紙 しゃあらっと　（四十）</title>
      <description><![CDATA[<h3 name="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4" id="ff1fd8e3-4ff5-418c-a329-8a52b0ea38c4">第五話「猩々」（二）</h3><p name="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b" id="6ed1a37d-872d-4147-ad70-bfafa448c92b"><br>　お雪は橋の欄干に両腕を乗せ、京の澄み渡った青空に向かってため息をついた。そしておもむろに懐から包みを取り出すと、それを開けた。<br>「この、印籠。……ついに名乗っては貰えなかった。けれど……」<br>　お雪はその見事に誂えられた、蒔絵の印籠を見つめてから、両手で握り締める。<br>「あの方は、宝生座の能役者。斎藤十郎兵衛さんはそう言っていた。……十郎兵衛さんは、あの方とどこか似ている。きっと、嘘を言うお方ではないわ」<br>　印籠を丁寧にしまうと、お雪は再び京の町に向かって、歩き出した。<br>「この京のどこかに、あの方はいる……きっとまた、会えるはず」<br>　祈るように呟き、お雪は京の町中へと向かっていった。</p><br/><a href='https://note.com/cheche_at/n/ndfa89804c38e'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66691741/profile_540c718b255c495a9e985eaa95d24a93.jpeg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>寛里 守（ひろさと まもる）</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Jul 2026 18:18:08 +0900</pubDate>
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