
記憶|インスタントフィクション
雨が降っている。
手が空くと、目の前の景色を観察しながら、
考えごとをする癖がある。
共有テーブルで作業する若い男女。
彼は初見。
しばらく深く考え込みながら、真っ黒いPCをリズミカルにたたく。ずっとそれを繰り返している。技術系ぽい。
そういえば、さっき近くにイタリア料理屋があるのかたずねてきた。ちょっと意外だった。
彼女は常連。
いつもヘッドフォンをして、ずっとMacで作業している。
クリエイティブ系なんだろうな。
黒いPC。黒い服。
銀色のPC。明るめの服装。
対称。mirror。
ふたりとも画面しか見ていない。
もったいない。
外は次第に暗くなり、窓はふたりを映し出してきた。
雨は止んだ。
今夜は、月が綺麗かもしれない。
彼女は目をつぶり深いため息をつく。PCを閉じ身の回りをまとめる。
彼も、間もなく席を立った。
ひとりになった私は、白いカップを手に取り、黒いカップを見る。
思い出せない。
彼女は今日、ヘッドフォンをしていただろうか。