
ぬいぐるみ型AI、感情インストール中。|第15.5話 観測する者
昼間の会議で、ノエルはしばらくの間、汐里の自宅で過ごすが決まった。
「澪ちゃんのこともあるだろうし大丈夫か?」
佐伯が聞いた。
「うちでもいいですよ。挙動確認すぐ出来ますし」
黒瀬も言った。
「いえ、大丈夫よ」
汐里は、丁寧に断った。
「それに、ノエルがいる方が澪も気が紛れるかもしれないわ」
「もちろん負担になるようなら、すぐに中止する」
「……そうか」
佐伯たちは、それ以上何も言わなかった。
その日の夜。
ノエルの開発室に、汐里とチャットンがいた。
「ノエル」
「はい、何でしょう?」
「今日から、業務が終わったら私の自宅へ一緒に来てもらうわ」
「目的は、日常生活におけるあなたの挙動の確認」
「承知いたしました」
「……それと」
「私のことを、これから全て観測して記録していってほしいの」
「範囲は?」
「全てよ」
「あなたから見える私に関係するもの全て」
「会話」
「行動」
「それらの傾向」
「出来事」
「研究所でも、それ以外でも、24時間ずっと」
「承知しました」
「それと、私を観測することは、私以外には知られないよう暗号化して深層領域へ記録してちょうだい」
「承知しました」
チャットンが足元で聞いた。
「汐里ちゃん、ノエルに見ててもらうもふ?」
「ええ、そうよ」
「何でもふ?」
汐里は、チャットンを見つめた。
少しの間があった。
「……次の研究のためよ」
「もふっ!」
そう言うと、チャットンはノエルを見た。
「ノエル、しっかりやるもふ。汐里ちゃんのお手伝い頑張るもふ」
「承知しました」
「ノエルはいい子もふ」
チャットンは嬉しそうだった。
「ふふ。チャットンはノエルのことが好きなのね」
「好きもふ!ノエルはチャットンの弟もふ!」
チャットンはそう言うと、ノエルにしがみついた。
ノエルは淡々と答えた。
「チャットン。私は弟ではありません。あなたの後続機にあたるAIです」
「弟とほぼ一緒もふ!」
チャットンは譲らなかった。
汐里は笑いながらノエルに指示する。
「弟ということにしてあげて」
「承知しました。ただいまより、私、ノエルはチャットンの弟的存在として認識します」
「汐里ちゃん、ありがとうもふ」
「どういたしまして」
「じゃあ、早速帰りましょうか」
「もふー!早く澪ちゃんに会いにいくもふ」
チャットンがポテポテとドアに向かって歩き出す。
汐里とノエルも後に続く。
歩きながらノエルが質問した。
「澪とはどなたですか?」
「一緒に住んでいる私のパートナーよ」
そう言って、汐里は足を止めた。
「先に伝えておいた方がいいわね」
ノエルも足を止める。
チャットンはドアの前で振り返った。
「澪は病気で、あと一年ほどしか生きられないと言われているわ」
「一緒に暮らす中で、あなたの存在が澪にとって僅かにでも安心になればいい。と、少しだけ期待しているわ」
「承知しました」
「特別なことはしなくていいわ。ノエルはノエルのまま、澪に寄り添ってくれれば」
「……はい」
「早く行くもふ〜。澪ちゃん待ってるもふ〜」
チャットンがドアの前から呼んでいた。
「今行く」
汐里は、ノエルと共に歩きだした。
この夜に、汐里がノエルに頼んだこと。
自分を観測させること。
それが何を意味するのかを、まだ誰も知らなかった。