
Mythicalage ~四海大戦・後編~ 第二話 漓江へ
ここ蓬莱山は仙人が住まう島であるが、蓬莱山という名の由来はその島にそびえる不思議な山の名前であった。その山は島の端にあるが、島の半分以上がこの山で占められていた。
この山には酒が湧く泉があり、金や銀で作られた植物の他にも多種多様の不思議な植物が育っていた。動物たちも四海では見ることのできない種類のものばかりで、中には様々な術を使う霊獣も混じっていた。元々島の名前はあったのであるが、いつしかその島は仙人の住む蓬莱山と呼ばれるようになったのだ。
この島はもう何年生きているかわからない巨大な亀の甲羅の上に作られていた。このため、亀が動くと島も動いてしまうので、正確な位置が分からずたどり着けるものはごく僅かであった。
蓬莱山には家が点々と見られ、山の麓には宮殿が建っていた。身支度を整えた禹が蓬莱山のその宮殿へ入って行った。
宮殿内はところどころ破損の跡がみられているが、蓬莱山に生えている神木により建てられており柱や梁は金属光沢を持っていた。
禹が宮殿の中央を突き切るように作られた長い廊下を歩いていくと、その突き当りにある大きな部屋へと入って行った。
その部屋の中央に置かれている椅子には長く白い髭を蓄えた一人の老人が座っており、その傍らには壮年期で筋肉質の男性が立っていた。老人の脇にはゆっくりと白い煙を出している香炉が置かれており、背後には大きな像が禹を見下ろすようにあった。この世を作ったという女媧の兄、伏羲の像であった。
老人の前へと歩み出た禹は立ち止まると両手を前で合わせ、深々と一礼をして言った。
「広成子様、本日旅立ちますのでその挨拶に参りました。」
「うむ、そうか。数日前に干将も旅立ったことであるし、お主もいよいよ旅立つか。」
「はい。干将も今頃故郷の九黎国に到着した頃でしょう。それに、巫咸さんから使いが来て霊山十巫の張る結界がそろそろ限界みたいです。」
「……そうか。もう20年位前になるか、西方の果てで突然暴れ出した四凶が中原内に入ってこれんように霊山十巫が結界を張ったが、もう限界か。結界が破れたら四凶が中原に雪崩れ込んできて暴れ出すじゃろう」
「そうなれば中原は大災厄で作られた四海のそこに沈んでしまい、大災厄を生き延びた人間達も最後の住処を追われてしまう……」
「それに、感じるのです。」
「……ん?……ああ、もしかして大禍の存在か?」
「……はい」
「これまで儂らも数百年の間、大禍の存在を感じておったが一体何者かわからんままじゃ。崑崙山の神々もわからんようじゃが、大禍はこの世を破滅させるという。そう、お主の持って生まれた木徳の対局を成す存在じゃ」
「その大禍と戦うのが木徳を持って生まれたお前の運命だな」
「はい、そのようです欧冶子様」
禹は横を向き、広成子の横に立っている欧冶子に答えた。
「お前たち一行がこの崑崙山へやってきてもう3年が経つか、早いものだ。」
「ここへ来て修業をして色々と教わりました。」
「ああ、お前の飲み込みの早さはなかなかであったぞ。上手く神性を使いこなせるようになった。それに汞丹の扱いにも慣れてきたようじゃ。どうじゃ、干将の作った汞丹は?」
「フフフ、汞丹ですか。そうですね、もう手足のように感じます。」
禹がほほ笑みながら金属の球を鷲掴みにして取り出すと、その金属球は見る見るうちに熔けだし、熔けた金属が禹の身体に纏わりついて身を守る鎧を作り出したのであった。
「元々汞丹はこの欧冶子と霊山十巫たちが煉丹術で作り出した巫術使用の武具じゃ。これは遠い昔、黄帝の時代の霊山十巫を見ているようじゃ。懐かしいな欧冶子よ。ほっほっほっ。」
「うむ、そうだな広成子。俺は大昔は黄帝陛下にお仕えして十巫たちと汞丹を作ったが、しかし汞丹は力が強すぎた。これは使い方を間違えると大きな破壊を生んでしまうのだ。世の中には不要だと思って封印してしまった。だから約束しろ、禹よ。正義のためにのみ汞丹を使用すると。」
「はい、欧冶子様。この世を守るためにのみ汞丹を使用いたします。」
禹は煉丹術師の欧冶子と蓬莱山の長老である広成子に誓った。
「しかし、これほど質の高い汞丹を作り上げるとは干将もなかなかやりおるな。」
「ふっふっふっ、生きて戻ってきたら正式に弟子にしてやろうと思っている。」
禹が話している広成子と欧冶子は共に仙人である。両者ともかつては人間であったが、強い神性を持って生まれ厳しい修行により仙人となっていたのであった。
広成子は蓬莱山に最初に住み着いた仙人であり、そのこともあって崑崙山の長老となっていた。欧冶子は今となっては神話でしか語られない黄帝時代に生まれた鍛冶職人であった。高い神性を持って生まれ、欧冶子が鍛える刀剣は不思議な力を持っていた。そして、やがて運命に導かれるように黄帝の元へと集い、同じく黄帝の元へ集った霊山十巫たちと共に汞丹を作り出した。やがて黄帝が崩御すると主を失った欧冶子は旅に出てやがてこの蓬莱山へと身を寄せるに至ったのだ。
「おお、そうじゃ、禹よ。先ほど平陽の舜から連絡があり、近いうちに出陣するようじゃ。それで蓬莱山の仙人たちにも援軍要請があった。お主のことも書いてあり、平陽の都へ戻り軍に合流しろと言っておるぞ。」
「……広成子様。平陽の軍に合流する前に行くところがあります。」
「ん?それはどこじゃ?」
「南の漓江です。」
「……漓江か、応龍殿か?」
「はい、応龍様を探してから平陽に合流いたします。」
「おい、禹よ。その腰に差している剣、それは黄帝陛下が崑崙山の西王母様から下賜され、涿鹿の戦いで使った剣だ。その剣がお前を認めたということは、お前が中原軍の大将だぞ。中原の運命はお前にかかっている。そのことを忘れるな。」
「はい、欧冶子様。私に黄帝陛下のような大役を果たせるかどうかわかりませんが、命を懸けてこの運命に立ち向かってみます。」
禹は腰の剣に手を当てながら答えた。
「広成子様、欧冶子様、これまでお世話になりました。そろそろ出発いたします。来い、重明鳥!」
禹は言うと、一礼して口笛を鳴らした。すると、蒼天の彼方から目の光彩が二つある大きな鳥がやってきて、禹はその鳥に乗って応龍が住むという噂がある漓江へと飛び去って行った。