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SAMSARA 1章 : 止刻品


    note初投皿です。読んでいただけたら嬉しいです。

    あらすじ


    医療が極限たで発展した日本。
    人は死を"遞ぶ"ものになった。

    その䞀぀ずしお広たったのが、人生の終わりを掚しのステヌゞで迎えるずいう文化だった。

    珟代のアむドルは、ファンの人生の終わりを芋届け、それぞれの人生に「解釈」を䞎える存圚──「解釈人」ずなっおいた。

    そんな時代に珟れた、䞀人の少女・癜光そら。
    圌女はただ、この䞖界の誰も知らない”アむドル”だった。

    たった40分。その堎にいた誰もが、忘れおいた「アむドル」を思い出しおしたう。

    ――そしお、その日を境に、「アむドル」ずいう蚀葉は、もう誰にも同じ意味では語れなくなる。

    人生の終わりを自ら遞ぶ瀟䌚で、圌女の存圚は誰もが捚おたはずの「生の執着」を呌び起こしおしたう。

    これは、䞖界を垌望で磔にするアむドルが顕珟する、異垞なアむドルオヌディションの蚘録。



    1章 : 止刻品

    1節 「刹那」

    (朝の駅構内。改札を抜けた人の流れが、䞀定の速床で抌し出されおいく)
    (アナりンスが遠くで流れ続けおいるが、誰も特に意識しおいない)
    (同じ制服の集団が、流れの端で自然にたずたっおいく)
    「埅った」
    「別に、じゃあ行こうか」
    (歩き出すタむミングだけが揃っおいる)
    「今日、遠回りしたほうがいいかも」
    「なんで」
    「途䞭の信号で事故があったみたい」
    「ぞぇ」
    「車が突っ蟌んだっお」
    「別に通る頃にはい぀も通りでしょ」
    「でも血ずか散乱しおお凊理遅れおるらしいよ」
    「どんだけの事故だったんだろ」
    「むしろ芋に行こうよ」
    「やだよ、匂いき぀いし」
    (䌚話に察しお、誰も立ち止たらない)
    (杏奈もその䌚話に芖線を向けない)
    (改札を出た流れのたた、鞄に手を入れる)
    (むダホンのケヌスを取り出す)
    (慣れた手぀きで音楜サブスクのお気に入りの音楜を遞択する)
    (ルヌティンのように毎日聎いおいる音楜が流れ始める)
    (駅の倖に出るず、空気の枩床が少しだけ倉わる)
    (同じ制服の茪の倖偎で、人の流れが亀差しおいる)
    (誰もぶ぀からないが、完党には混ざらない)
    (少し離れた䜍眮で、同じ方向を芋䞊げる人間がいる)
    (䞀人ではない)
    (芖線は連鎖するように同じ方ぞ向いおいく)
    (その䞀郚が、手元の端末を軜く構える)
    (杏奈は芋ない)
    (そのたた歩幅を倉えない)
    (むダホンを耳に差し蟌む)
    (倖の音が、䞀床だけ濁っおから消える)
    (残るのは、足音ず、わずかな振動だけ)
    (呚囲は䞊を芋䞊げおいる)
    (理由を共有しおいるようで、説明はない)
    (ただ“そうするもの”ずしおの動きだけがある)
    (杏奈は気にも留めず、歩を進める)
    「りェヌむ」
    (声は近い)
    (しかし距離感がうたく枬れない)
    (芖界の䞊方に、人圱がある)
    (倧きい、ずいう認識だけが先に来る)
    (䞀瞬だけ、誰かが䞊を指差すような気配があった)
    「えっ」
    (その瞬間、芖界が萜ちる)
    ドン
    (衝撃だけが先に来る)
    (音は遅れお぀いおくる)
    (むダホンが倖れお地面に転がる)
    (片方だけ回転しながら止たる)
    (音楜が䞀瞬だけ続き、途切れる)
    (静寂ではなく、“欠け”が残る)

    (癜い倩井)
    (病院の光は䞀定で、時間の倉化を䞻匵しない)
    (玙の音)
    (領収曞が机の䞊に眮かれおいる)
    「䜕ですか、これ?」
    「今回の治療費の請求曞です」
    「埅っおください、わたしが払うんですか」
    (少女の顔にはただ衝撃の残りがある)
    「はい。飛び降りた方は珟圚蘇生前のため」
    「個人ずしおの請求責任は発生したせん」
    「は」
    「芏則です」
    「いや意味わかんないんですけど」
    「わたし被害者ですよね」
    「はい。ただし法的には加害者䞍圚なので」
    「䞍圚っお䜕」
    (説明は淡々ずしおいる)
    (誰も感情を補足しない)
    「埌から慰謝料ずかは」
    「可胜ではありたすが、手続きが必芁です」
    「どんな?どうやっお」
    「今から圹所に行っおもらっお、生死凊理窓口で加害者再審曞類を  」
    (手続きの流れを説明される)
    「  めんど」
    (話を遮る様に呟く)
    (倧きなため息を吐く)
    「ほんず意味わかんない」
    (財垃から治療費の2000円を取り出す)
    (それ以䞊の議論は発生しない)
    「ありがずうございたした」

    (病院の倖)
    (光が匷く、さっきたでの空間が少し遠い)
    (少女はスマホを取り出す)
    (むンカメラを起動する)
    (厩れた前髪を敎える)
    (角床を少しだけ確認する)
    「よし」
    (倧きく息を吞い短く息を吐く)
    「あヌくっそ」
    「なんでわたしが、顔も名前も知らないや぀のせいで」
    「ゆらちゃんのアクスタ我慢しなきゃいけないわけ」
    (歩き出す)

    (å­Šæ ¡)
    (昌䌑みの売店は隒がしい)
    (でも教宀は少しだけ静かになる時間垯がある)
    「はぁ、ほんずに厄日」
    「どしたん遅刻そんな気にしなくおいいでしょ」
    「進孊に支障もないでしょ。杏奈は」
    「そうじゃなくお、殺されたんだよ」
    「え、たじ私怚」
    「わたしが誰かから恚みを買うようなこずをしおいるっおこず」
    「あははじょヌだんだよ」
    「倧䞈倫どこか痛む所ある」
    「通報しお貰ったりした」
    「知らない」
    「即死だったから」
    「あヌね」
    「それなら痛い思いしなくおラッキヌだったね」
    「ラッキヌなわけないじゃん」
    「2000円取られたし」
    「たあお昌代取られたっお感じか」
    「たあたあ、うちが可哀そうな杏奈にお昌奢ったげるよ」
    「お腹すいおないから倧䞈倫」

    「そんなこずよりゆらちゃんのアクスタ買えないんだよ」
    「たたそれ」
    「ずいうか先月もそんなこず蚀っおなかった」
    「ラむブごずに衣装違うから党郚欲しいの」
    「ラむブっおそんなに高頻床でやっおるんだ」
    「じゃあ無理じゃない」
    「無理でも集めるよ」
    「ゆらちゃんのファンずしお」
    「そこたで楜しそうにしおいるず芋おみたい気持ちも出おくるけどね」
    「じゃあ今床のラむブ䞀緒に行く」
    「ちゃんず楜しみ方を教えおあげるよ」
    「いや、いいよ」
    「うち、ラむブ行ったこずないし」
    「どうしお超楜しいよ」
    「ラむブっおさ」
    「2時間くらいだっけ」
    「そうそう」
    「1曲の動画は倧䜓5秒でしょ」
    「あ〜、実際に秒の曲っお蚳じゃないよ」
    「えそうなの」
    「たあ、぀たり䜕が蚀いたかったの」
    「぀たりさ」
    「本来なら1400ぐらいの動画を芋れたのに」
    「ラむブに行っおいる間は1人のこずを远うしかないじゃん」
    「だからなんずいうかせっかくいろんなこずを芋お楜しめるのにわざわざ䞀぀のこずで過ごすのはもったいないなっお」
    「でも芚えおないでしょそれ」
    「芚えるずかじゃなくお䜓隓だし」
    「でも奜きなものに浞っおいるこずが䞀番か」
    「そうだね、ラむブ芋に行く?」
    「いいや、杏奈の熱量に付いおいけないし」

    (少し間)
    「そういえばさ」
    「゚ンドノヌト明日だよ」
    「たたそれ」
    「前にも曞かされたのに」
    「将来の死に方決めるっおのを今回は曞くんだよ」
    「提出期限は明埌日だっお」
    「ただ芋おすらない」
    「やば」
    「おいうかさ」
    「わざわざ死に方なんお聞かなくおも生きおる間になんずなくできおるもんでしょ」
    「そう いうものなんだ」
    「そういうじゃない」
    「だっおゎヌルがないず楜しめないじゃん」
    (杏奈は少しだけ目を逞らす)
    (小さく呟く)
    「わかんない」
    「なんでみんな死にたがるの」
    「なんかいった」
    「ううん䜕も」
    「たあやりたいこず曞くだけだからね」
    「゚ンドノヌトっお」
    「自分が䜕したいのか決たっおないな」
    「そっか、じゃあさ」
    (スマホを埐に觊りだす)
    (ずあるオヌディションのペヌゞを芋せる)
    「"アむドル"やれば」
    「無理無理」
    「前に歌ずかダンスやっおたじゃん」
    「倧䜓今のアむドルは 」
    「でもさ」
    「やったら䌚えるかもよ?」
    「ゆらちゃんにだっお」
    「  でも」
    (䞀瞬だけ芖線が止たる)
    「そうかもしれないけど」
    「やるは易しだよ」

    (入力画面)
    「ニュヌスタヌオヌディション」
    (゚ントリヌ完了)

    「えぇヌヌ」

    2節「ふぞん」

    「はぁヌ疲れたヌ」
    制服のたたベッドぞ倒れ蟌む
    倩井を芋䞊げる
    今日䞀日の出来事を思い返そうずしお、途䞭でやめる
    「  なんだったんだよ」
    机の䞊に眮かれた請求曞
    2000円
    「わたし、殺されたのに」
    「『加害者䞍圚ですので』っおふざけたこず蚀いやがっお」
    ため息を぀く
    芖線だけが郚屋の奥ぞ向く
    棚の䞊
    ゆらちゃんのアクスタが䜕䜓も䞊んでいる。
    ラむブごずに衣装の違うもの
    限定品
    発売日に䞊んで買ったもの
    党郚、倧切な宝物
    「はぁ  」
    「たた我慢しなきゃ」
    今月発売の限定アクスタ
    2000円あれば買えた
    そう思うず少しだけ悔しくなる
    「ほんっずに぀いおない」
    「せめお今日じゃなくお先月なら、再来週なら、」
    「いや別にい぀でも嫌か」
    ベッドから起き䞊がる
    スマホを開く
    オヌディション応募完了の画面
    「  フフッ」
    「ほんずに応募しちゃった」
    思わず笑っおしたう
    「受かるわけないか」
    「わたしより本気の人なんお、いっぱいいるし」
    少しだけ画面を眺める
    「でも」
    胞の奥が少しだけ熱くなる
    「もしかしたら」
    小さく笑う
    「䌚えるかも」
    「  だよね」
    郚屋の隅ぞ移動する
    鏡の前
    スマホから音楜を流す
    ゆらちゃんのラむブ映像
    自然ず身䜓が動く
    芋よう芋たねの振り付け
    「なんか違うなぁ」
    やり盎す
    もう䞀床
    「難しい  」
    それでも笑っおいる
    「よし」
    「䌚堎のみんなヌ‌」
    ラむブで芋た琥珀ゆらを真䌌する
    「ねぇ」
    郚屋のドアが開く
    「ちょっず静かにしおくれる」
    「お母さん」
    「ノックしおよ」
    「したわよ」
    「歌っおお聞こえなかったんじゃない」
    「え。」
    䞀瞬止たる
    「  」
    「それは、ごめん」
    「でしょ」
    母は郚屋を芋回す
    「宿題は」
    「あ。」
    「忘れおた」
    「でしょうね」
    「今からやる」
    「本圓に」
    「本圓に」
    母は苊笑いする
    「ご飯できたら呌ぶから」
    「はヌい」
    ドアが閉たる
    郚屋が静かになる
    「  フゥ」
    「たず宿題か」
    カバンを開く
    教科曞
    プリント
    そしお
    ゚ンドノヌト
    「これもか」
    机に広げる
    『あなたが人生を終えたいず思う条件を曞きたしょう。』
    「条件」
    「そんなの急に蚀われおも」
    ペンを持぀
    止たる
    「  。」
    䜕も曞けない
    芖線だけが机の䞊ぞ萜ちる
    ゆらちゃんのアクスタ
    あの人からもらったアクスタ
    自然ず手に取る
    「やるこず党郚終わったらね」
    「懐かしいな」
    少し考える
    「  。」
    「いやでも」
    「それでも死にたいずは思えないな」
    その蚀葉に、自分で少し驚く
    頭に浮かぶ
    初めおラむブぞ行った日のこず

    日差しが匷い
    駅から人の流れが䞀぀の方向ぞ続いおいる
    「え⁉」
    「こんなにいるの」
    想像よりずっず倚い
    同じTシャツ
    同じタオル
    同じ色のペンラむト
    「アむドルっお衰退したんじゃなかったの  」
    呚囲を芋枡す
    「入口、どこ  」
    人の流れに぀いおいけない
    「ねぇ」
    声を掛けられる
    「初めお」
    振り返る
    二十代埌半くらい
    銖から瀟員蚌を䞋げたたたの女性
    「え」
    「あ、はい」
    「わかるよ」
    その女性は笑う
    「わたしもね最初迷ったから」
    「ですよね」
    「グッズ買いたかったの」
    「えっず」
    「今から䞊ぶの」
    「はい」
    「  もう間に合わないかな」
    「え」
    「この時間だず厳しいかも」
    「そんな」
    「じゃあ」
    女性はバッグを開く
    うちわを䞀本取り出す
    「これ」
    「え」
    「手䜜りだけど」
    「䜕もないより楜しいラむブになるでしょ」
    「いいんですか」
    「もちろん」
    「初ラむブだもん」
    うちわを受け取る
    少し歪んだ手曞きの文字
    『ゆらちゃん』
    思わず笑う
    「ありがずうございたす」
    「どういたしたしお」
    「わたしは優」
    「」
    「名前ね、優しいの優」
    「あっ杏奈です」
    「よろしくね杏奈ちゃん」
    「よろしく優 さん」
    「幎䞊だからっおさん付け無理にしなくおもいいよ」
    二人で䌚堎ぞ向かいおいく。
    「杏奈ちゃん」
    (楜しそうに団扇を眺める)
    「 はっ、はい」
    「今日は倉わるよ」
    「䜕がですか」
    「人生」
    「そんなにですか」
    「そんなにだよ」
    「先茩ずしお保蚌するよ」
    (そうやっお優は笑う)

    ラむブが終わる
    歓声が少しず぀遠ざかっおいく
    人の流れが䌚堎の倖ぞ向かう
    誰もがどこか満たされた顔をしおいる
    杏奈だけが立ち尜くしおいる
    「  」
    ステヌゞを芋぀めたたた動けない
    「杏奈ちゃん」
    優が隣ぞ来る
    「歩けそう」
    「  はい」
    二人で歩き出す
    しばらく誰も話さない
    ラむブの音だけがただ耳に残っおいる
    「どうだった」
    「なんですか、あれ」
    少しだけ笑う
    「そうなるよね」
    「人が」
    「真っ二぀になっおたした」
    「挔出ですよね」
    「違うよ」
    「そう思った」
    「あの人たちはみんな」
    「ゆらちゃんのファン」
    「  」
    「ゆらちゃんに”解釈”しおもらった人」
    「解釈」
    「介錯じゃなくお」
    「ふふっ」
    「そっちじゃない」
    「物事を解釈する方」
    「蚀葉遊びですか」
    「あはは、そうなのかもしれない」
    少しだけ空を芋る
    「けど、わたしは蚀葉遊びだけではないず思っおる」
    「解釈人、ゆらちゃんはね」
    「その人の人生を芋お」
    「その人がどんなふうに生きおきたか考えお」
    「最埌に答えを出す人なの」
    「答え」
    「うん」
    「人生の答え」
    「  」
    「わざわざ他人に決めおもらうんですか」
    「自分で決めるものじゃ」
    優は少しだけ笑う
    「杏奈ちゃんっお」
    「匷いね」
    「え」
    「そう思える人ばかりじゃないんだよ」
    少し間
    「最埌の最埌に迷わない為に」
    「『あなたの人生はこれでよかった』っお蚀っおほしい人もいる」
    杏奈は黙る
    答えが浮かばない
    䌚堎から笑い声が聞こえる
    さっきたで誰かが死んでいた堎所ずは思えない
    「でも」
    「みんな」
    「笑っおたしたよね」
    「うん」
    「だからわたし」
    「奜きなんだ」
    優は照れくさそうに笑う
    「  」
    杏奈はもう䞀床だけステヌゞを芋る
    ただ理解はできない
    でも
    吊定の蚀葉は思い぀かなかった

    それから
    ラむブの日になるず
    自然ず優を探すようになった

    「杏奈ちゃん」
    倧きく手を振る優
    「おはようございたす」
    「はい」
    「これ」
    ペンラむトを二本差し出す
    「え」
    「杏奈ちゃんグッズ列䞊ぶでしょ」
    「うん」
    「だから買っずいた」
    「えぇ」
    「あずで払いたす」
    「いいよ」
    「瀟䌚人だから」
    「孊生にくらい栌奜぀けさせお」
    「でも」
    「いいからいいから」
    優は笑う
    「じゃあ今日は新曲やるず思う」
    「どうだろ」
    「わたしはやるず思うずいうかやっお欲しい」
    「じゃあ賭けようか」
    「負けた方ゞュヌス」
    「えぇ」

    ラむブの日は
    い぀もそんな話をした
    グッズ
    衣装
    新曲
    ファンの考察
    どれだけ話しおも足りなかった

    「杏奈ちゃん」
    「はい」
    「ラむブっおさ」
    「二時間しかないのに」
    「䞀瞬だよね」
    「そうですね」
    「終わるの早いです」
    「だから奜きなんだ」
    「終わるから」
    「うん」
    「終わるから」
    その意味は
    ただ分からなかった

    ある日
    「杏奈ちゃん」
    優がバッグをごそごそする
    「はい」
    「これ」
    小さな箱
    「え」
    「ゆらちゃんのアクスタ」
    「初期衣装」
    「えっ」
    「いいんですか」
    「これ、すごく倧切なんじゃ」
    「うん」
    「もちろん倧切な物だよ」
    「じゃあ、なおさら受け取れたせん」
    優はわたしの手を握っお銖を暪に振る
    「杏奈ちゃんだから」
    「持っおおほしい」
    「どうしお」
    少しだけ黙る
    「今日のラむブを、楜しんでもらうためのお守りかな」
    そう蚀っお少し困ったように笑った


    ラむブが始たる

    優の姿が芋えない

    「どこ行ったんだろ」

    メッセヌゞを送る

    『優さん、どこですか』

    既読は぀かない

    少しだけ胞がざわ぀く

    ラむブは終盀ぞ向かう

    解釈を望むファンが䞀人、たた䞀人ずステヌゞぞ䞊がっおいく

    「  」

    今日も満員だった

    今日もみんな笑っおいる

    それなのに

    胞の奥だけが少し苊しい

    「次の方」

    ステヌゞ䞭倮ぞ䞀人の女性が歩いおいく

    芋慣れた埌ろ姿

    「  え」

    思考が止たる

    「  優」

    信じられない

    䜕床も目をこする

    それでも

    優はそこに立っおいた

    「なんで  」

    優は少しだけ緊匵しおいるように芋えた

    手が小さく震えおいる

    それでも

    ゆらちゃんず目が合った瞬間

    その衚情から迷いが消える

    ラむブの時ず同じ

    あの笑顔だった

    「どうしお  」

    斧が振り䞊がる

    歓声が䞊がる

    誰も目を逞らさない

    優も逞らさない

    その䞀瞬だけ

    ゆらちゃんが優に埮笑んだように芋えた

    そしお

    斧が振り䞋ろされる

    歓声

    拍手

    琥珀ゆらを叫ぶ歓声

    みんな笑っおいる

    「  」

    わたしだけが動けない

    どうしお

    どうしお笑えるの

    きっず優は怖かったはずなのに

    あんなに震えおいたのに

    どうしお最埌は笑っおいたんだろう

    わたしには分からない

    みんなには分かっおいる

    きっず

    わたしだけが

    分からない

    ラむブが終わる

    誰も悲したない

    誰も怒らない

    誰も責めない

    みんな今日も満足そうに垰っおいく 

      (初ラむブのあの日のようにステヌゞを眺めおいた)

    「  」

    もしかしたら

    普通じゃないのは

    わたしなのかもしれない

    死を望む人も

    解釈する人も

    それを祝犏する人も

    みんな迷わず笑っおいる

    笑えないのは 

    優からもらったアクスタを匷く握る

    スマホが震える

     (バタンず飛び起きる)

    「い぀の間にか寝おたのか」

    時刻を確認する為に画面を芋る

     (通知のメッセヌゞを芋る)

    『ニュヌスタヌオヌディション』

    『䞀次審査のご案内』

    「  」

    パフォヌマンスに必芁なものは持参可胜

    「必芁なもの」

    少し考える

    「  やっぱり」

    「歊噚かな」

    少し笑う

    「持っおないや」

    画面を閉じる

    頭に浮かぶ

    ゆらちゃん

    ステヌゞ

    斧

    優の笑顔

    「  」

    「わたしは」

    小さく息を吞う

    「アむドルになる」

    「ゆらちゃんみたいな」

    少し間

    「わたしはゆらちゃんをわからない」

    「優もゆらちゃんもファンの人もみんな」

     (静かに息を吐く)

    「だから」

    「わたしは」

    「ゆらちゃんのフリをする」

    3節「端緒」

    (駅の階段を䞊がり、出口奥から倧きな建物が目に入る)わたしは守りを固めるように持っおいる鞄を匷く抱きしめお䞀歩前に螏み出す。
    呚りには䜕もない。
    ただ広い空間の真ん䞭に、その建物だけが立っおいた。
    富士山みたいだ。
    近づくほど、自分が小さくなる。
    わたしは鞄の䞭の手斧を握り盎した。
    1人1人ず進むごずに芖界が開けおいく。
    ピンポヌン
    (その音の発生源である改札に芖線を向ける)
    わたしは埌ろからの圧から逃げる様に慌おおカバンからスマホを取り出し、改札に圓おる
    (倧きなむベント䌚堎を芋䞊げる)
    埌ろにいる、きっずわたしず同じ目的の人たちに背䞭を抌される。
    準備もできないたた、気づけば䌚堎の入口たで歩いおいた。
    壁には立おかけられた看板には巚倧な文字。
    「ニュヌスタヌオヌディション」
    この名前はアむドルを远うファンにずっおは聞き銎染みのある単語、今やこの名前なしにアむドルを語るこずはできないレベルのものだ。
    (カバンに詰めた手斧を匷く握る)
    重さは倉わらない。
    ただ、それを持っおいるこずだけが、自分をここにいるず実感できる。
    誰も気づかない皋床の実感。
    それでもこの堎所たで歩く為に確かなお守りだった。
    (深呌吞をしおから入口をくぐる)
    䞭に入るず、倖の音は䞀段階だけ敎理される。
    完党に消えるわけではない。
    ただ、必芁なものだけが残されたような音になる。
    人は倚い。
    しかし隒がしさはない。
    むしろ人の数に察しお静かすぎるほどに。
    誰かの声が倧きくなる前に、空間そのものに吞収されおいくようだった。
    (垭䜍眮が決たっおいる)
    スマホの画面に衚瀺された番号を芋お歩く。
    案内は必芁以䞊に䞁寧で、迷う䜙地がない。
    「こちらです」
    スタッフは短く蚀うだけで、芖線はすぐ次の人ぞ移っおいく。
    (次第に垭が人で埋たっおいく)
    埋たるずいうより、敎列に近い。
    盀面に芏則だっお䞊べられる駒のように感じた。
    空垭があるこずの方が䞍自然に感じた。
    誰もが同じ方向を向いお座る。
    それが自然な状態ずしお成立しおいる。
    けれど、みんな芋おいるものは少しず぀違った。
    持っおきた道具を手入れする人。
    静かに準備運動をしおいる人。
    鏡を芗き蟌んで前髪を敎える人。
    䜕床も応募甚玙を読み返しおいる人。
    緊匵しおいる人もいる。
    萜ち着いおいる人もいる。
    䜕も考えおいないような人もいる。
    同じ䌚堎にいるのに、
    䞀人ずしお同じ時間を過ごしおいる人はいなかった。
    わたしは䜕をしおいればいいんだろう。
    そう考えおしたった時点で、
    きっずわたしも緊匵しおいた。
    「もうすぐ始たっちゃうね」
    隣から声がする。
    想定倖の声だった。
    「えっ、うん」
    振り向くず、堎違いなほど軜い雰囲気の少女がいた。
    淡い色の服装。
    女子なら䞀床は憧れたような可愛さず確かな存圚感を感じさせる服装。
    緊匵を持たない姿勢。
    この空間の枩床ずわずかに違う存圚感。
    可愛い。
    「わたしそらっお蚀いたす今日は䞀緒に頑匵ろうね」
    蚀葉は軜いし、距離も近い。
    けど堎違いやマむナスの感情は自然ず湧かなかった。「そうですね、わたしは杏奈っお蚀いたす」
    蚀いながら、少しだけ呌吞が楜になる。
    「けど䞀緒には頑匵れないよ」
    「え」
    そらはきょずんずした顔をする。
    「わたし達、ラむバル同士なんだから」
    「あっ」
    䞀瞬だけ玍埗したように頷く。
    「でも」
    すぐに笑った。
    「みんな頑匵れば、みんな採甚しおくれるず思いたす」
    「  そんなこずある」
    「ありたすよ」
    迷いがない。
    「だっお、䞀人しか受からないっお誰も蚀っおないですし」
    「それは  そうだけど」
    「だったら可胜性はありたす」
    圓たり前のこずを蚀うみたいに笑う。
    そんな考え方をする人を初めお芋た。
    楜芳的だず思った。
    でも、それで少し救われたわたしもいる。
    「そうだず良いけどね」
    「そうですよ」
    即答だった。
    その笑顔を芋おいるず、少しだけ緊匵がほどける。
    こんな他愛もない話を、もう少し続けおいたい。
    そう思ったずころで、
    審査員の入堎
    空気が䞀段階だけ倉わる。
    それたで緊匵で滞っおいた空間が、緊匵をしおいるだけではこの先は無いず。
    「どうも、この床審査員を務めたす高枅䜿星です」
    声は萜ち着いおいる。
    感情の起䌏はほずんどない。
    「未成幎も倚いので、早速審査を始めおいきたす」
    その蚀葉で、䌚堎は完党に始たる。
    番号が呌ばれる
    䞀人ず぀立ち䞊がり、前の空間ぞ歩いおいく。
    それは誰かを遞ぶ儀匏ずいうより、
    䞀定の速床で流れおいく䜜業のようだった。
    「゚ントリヌNo.936 河合矎麗です」
    少しだけ高い声。
    緊匵しおいるはずなのに、笑顔だけは厩れない。
    「志望理由をお願いしたす」
    「私は、いろんな人に芋おもらえる人になりたいです。」
    「芋おもらえる人、ですか。」
    「はい。テレビでも、雑誌でも、SNSでも。誰かが画面を開いた時に『あ、この人知っおる』っお思っおもらえる人になりたいです。」
    審査員は小さく頷く。
    「特技は」
    「どんなポヌズでも可愛く芋せられるこずです。」
    カメラを想定したように、
    衚情だけを倉えながら次々ずポヌズを取る。
    笑顔。
    りむンク。
    振り向きざたの䞀瞬。
    どれも完成されおいた。
    「ありがずうございたした。」
    評䟡は短い。
    終わればすぐ次が呌ばれる。
    䜙韻を残す時間はない。
    「ねぇ。」
    隣でそらが小さく呟く。
    「可愛かったね。」
    「うん。」
    玠盎にそう思う。
    きっず画面の向こうでも映える人なんだろな。
    審査員が資料をめくる
    「゚ントリヌNo.937 黒川切。」
    黒髪を䞀぀に束ねた少女が立ち䞊がる。
    歩幅は䞀定だった。
    緊匵しおいるようには芋えない。
    「志望理由をお願いしたす。」
    「アむドルになりたいからです。」
    迷いなく答える。
    「あなたにずっお、アむドルずは䜕ですか」
    少しだけ考える。
    ほんの䞀呌吞だけ間を眮いお、
    「誰かの人生を、最埌たで受け止められる人です。」
    䌚堎が静かになる。
    審査員は衚情を倉えない。
    「受け止める、ずは」
    「人は、自分が死ぬこずを䞀人では抱えきれないず思いたす。」
    黒川は真っ盎ぐ前を芋る。
    「だから最埌に。」
    「『あなたの人生はこれで良かったですよ』っお蚀っおくれる人が必芁なんです。」
    誰も口を挟たない。
    「わたしは、それがアむドルだず思っおいたす。」
    審査員は真っ盎ぐ芋぀める。
    「歌や螊りは、そのための技術だず。」
    「はい。」
    「では特技を。」
    黒川は静かに䞀瀌する。
    腰ぞ差しおいた鉄扇を抜く。
    ゆっくりず広げる。
    空気を切る音だけが響く。
    舞のようでもあり、
    剣術の型のようでもある。
    䞀぀䞀぀の動きに無駄がない。
    「歊噚を䜿う理由は」
    黒川は鉄扇を閉じる。
    「最埌たで向き合う芚悟を、忘れないためです。」
    そう蚀っお頭を䞋げた。
    「ありがずうございたした。」
    それだけだった。
    評䟡は短い。
    けれど。
    芋おいお綺麗だった。
    同時に思う。
    もしこの人が遞ばれるなら。
    わたしは悔しい。
    そう思っおしたうくらいには、
    この人はもう、
    わたしの知っおいるアむドルを信じおいた。
    たた䞀人終わる。
    流れは止たらない。
    止たらないこずが、
    この䌚堎では正しい。
    審査員が資料をめくる
    「゚ントリヌNo.938 癜光そら。」
    そらはこちらを芋お、
    胞の前で小さく䞡手を握る。
    「頑匵るね。」
    わたしは頷く。
    玔粋に、
    頑匵れず思った。
    圌女にあんなこずをいったのに。
    立ち䞊がる動きに迷いはない。
    勝ちたいから立぀人ず違う。
    最初からここぞ立぀こずを疑っおない。
    そんな歩き方だった。
    審査員の前ぞ向かう途䞭、そらは䞀床だけ芳客垭を芋た。
    わたしの芖線ず䞀瞬だけ亀差する。
    その意味はただ決たらないたた、芖線はすぐ前に戻る。
    審査員の前に立぀。
    䌚堎は静かだ。
    静かだが、䜕かが起きる準備だけは終わっおいる。
    わたしはその光景を芋おいる。
    理解はただ远い぀かない。
    ただ䞀぀だけ確かなのは、
    誰か1人しか受からないそれでも
    そら
    あなたを応揎しおみたい。

    4節「鏡」

    「それでは、志望理由をお願いしたす」
    審査員の声は、それたでず䜕も倉わらなかった。
    䞀定の枩床。
    䞀定の速さ。
    誰に察しおも平等で、
    だからこそ誰の心にも寄り添わない声だった。
    そらは䞀歩だけ前ぞ出る。
    「はい」
    返事だけが少し倧きい。
    䌚堎の空気が、ほんの少しだけ揺れた。
    「わたしが頑匵ったこずを芋おもらうためです」
    沈黙。
    䞀拍遅れお、
    䜕人かが思わず笑った。
    悪意はない。
    あたりにも真っ盎ぐだったから。
    誰かに勝぀ためでもない。
    有名になるためでもない。
    䞖界を倉えるためでもない。
    ただ。
    「芋おもらいたい。」
    その蚀葉だけが、
    子どもみたいに真っ盎ぐだった。
      倉な人
    そう思った。
    だけど。
    嫌だずは思わなかった。
    むしろ。
    その䞀蚀だけで、
    さっきたで匵り぀めおいた空気が少しだけ柔らかくなった。
    (審査員が資料を芋お顔を䞊げる)
    「特技は」
    「歌ずダンスです」
    (審査員が少し頷く)
    「では始めおください。」
    (音楜が流れ始めお前奏に差し掛かる)
    そらは少しだけ目を閉じた。
    息を吞う。
    それだけだった。
    (そらが目を開く)
    身䜓が動く。
    倧きく芋せようずはしおいない。
    綺麗に芋せようずもしおいない。
    教科曞みたいな動きでもない。
    それなのに。
    目が離せなかった。
    どうしおだろう。
    技術なら、
    さっきたでの人たちの方が䞊だったかもしれない。
    もっず䞊手い人もいた。
    もっず可愛い人もいた。
    もっず目立぀人もいた。
    それなのに。
    芖線だけが、
    自然ずそらを远っおしたう。
    なんでだろ。
    考えようずする。
    でも考えるより先に。
    身䜓が反応しおしたう。
    (そらが客垭の方ぞ䜓を翻す)
    右手が䞊がる。
    そらが右手を䞊げたから。
    慌おお止める。
    䜕やっおるの。
    (そらが審査員の方ぞ向き盎し、䞀歩進む)
    誰にも芋られおいないのに、
    少しだけ恥ずかしくなる。
    けれど。
    少し経぀ずたた。
    巊ぞ。
    右ぞ。
    前ぞ。
    䞀歩。
    身䜓のどこかが、
    勝手に合わせようずしおしたう。
    違う。
    ラむブずも違う。
    ゆらちゃんを芋おいた時は。
    遠かった。
    わたしは客垭。
    ゆらちゃんはステヌゞ。
    そこにはちゃんず境界線があった。
    憧れだった。
    手を䌞ばしおも届かない堎所。
    だから奜きだった。
    なのに。
    (そらが候補生の方ぞ振り向きりむンクする)
    今。
    そらを芋おいるず。
    そんな境界線が芋えない。
    同じ床の䞊に立っおいる。
    そんな錯芚だけが生たれる。
    もし。
    頭の䞭で。
    知らない景色が広がる。
    わたしも立っおいる。
    そらの隣に。
    同じ音楜。
    同じ光。
    同じ景色。
    目が合う。
    笑う。
    䞀緒に右手を䞊げる。
    巊右察称に螊る。
    そんなこず。
    できるわけないのに。
    想像だけは、
    勝手に続けおいく。
    なんだこれ。
    わたし。
    オヌディションを受けに来たんだよね。
    勝ちに来たんだよね。
    それなのに。
    勝ちたいず思った人もいた。
    敵わないず思う人もいた。
    けど勝ちたいずかじゃなくお
    ただ。
    もう少しだけ。
    この人を芋おいたい。
    その気持ちだけが、
    胞の䞭で少しず぀倧きくなっおいく。
    音楜が止たる。
    そらも止たる。
    その瞬間。
    誰か䞀人が拍手をした。
    それに぀られるように。
    ぱち。
    ぱち。
    少しず぀音が増える。
    今たでの候補者にはなかった拍手だった。
    「終了です。」
    審査員の䞀蚀で拍手が止たる。
    「持ち時間は過ぎおいたす。」
    「垭ぞ戻っおください。」
    「はい」
    そらは笑ったたた頭を䞋げる。
    怒られた。
    けど䜕故かそらのアピヌル時間はそらが終わるたで続いおいた気がする。
    時間になったから終わったのか
    ただそうは思えなかった、あたりにも楜しい時間だったからなのか。
    そんな終わり方だった。
    そらは垭ぞ戻っおくる。
    「ごめんね。」
    小さく笑う。
    「楜しくなっちゃっお。」
    「  」
    わたしは返事ができなかった。
    楜しそうだった。
    本圓に。
    わたしも楜しかった。
    ただ螊っおいただけだった。
    評䟡されようずしおいなかった。
    勝ずうずもしおいなかった。
    それなのに。
    誰よりも。
    アむドルだった。
    「゚ントリヌNo.939 䞀時杏奈」
    「じゃあ、わたしの番だから」
    (そらが自分の垭に垰っお来る)
    「頑匵っお」
    そらは、さっきたで螊っおいた時ず同じ笑顔でそう蚀った。
    「  うん」
    (呌ばれおから少し経っおから垭を立぀)
    鞄に手を入れる。
    手斧。
    冷たい柄が指先に觊れる。
    それだけで萜ち着くはずだった。
    ここに来るたでは。
    


    静かに手を離す。
    ファスナヌを閉じる。
    今は。
    違う気がした。
    前ぞ歩く。
    (審査員の目を芋据える)
    口元が震える。
    少し息を吞う。
    少し埮笑む。
    「志望理由をお願いしたす」
    口を開く。
    蚀葉を甚意しおきた。
    䜕床も緎習した。
    それなのに。
    「わたしは  」
    蚀葉に詰たる。
    頭の䞭に浮かぶのは。
    さっきたで螊っおいた少女だった。
    右手。
    笑顔。
    楜しそうな声。
    「特技は  」
    違う。
    わたしは。
    わたしを芋おもらわなきゃ。
    そう思っおいたのに。
    「ありがずうございたした。」
    い぀終わったのかも、よく芚えおいなかった。
    垭ぞ戻る。
    「おかえり」
    そらが笑う。
    「  ただいた」
    自然ずそう返しおいた。
    自分でも少し驚く。
    たったそれだけなのに。
    垰っおきた。
    そんな気持ちになった。
    審査は続く。
    「゚ントリヌNo.940――」
    少女が前ぞ出る。
    歌う。
    䞊手だった。
    きっず。
    でも。
    身䜓が芚えおいない。
    「゚ントリヌNo.941――」
    笑顔。
    可愛い。
    もっず自分らしくやれば。
    それなのに。
    「゚ントリヌNo.942――」
    螊る。
    䞀歩。
    右手。
    䞀瞬だけ。
    わたしは息を止める。
    違う。
    その動き。
    さっき。
    そらが。
    「  」
    䞀人だけじゃなかった。
    次の人も。
    その次の人も。
    誰も気付いおいない。
    本人たちも。
    無意識なんだず思う。
    でも。
    みんな。
    少しず぀。
    そらを芋おいた。
    笑い方。
    手の䞊げ方。
    身䜓の向き。
    誰も真䌌しようずしおいない。
    それでも。
    どこか䌌おしたう。
    きっず。
    わたしも。
    同じだった。
    


    受からなくおもいい。
    その考えが。
    胞の䞭ぞ、静かに萜ちおいく。
    少し前たで。
    普通にならなきゃず思っおいた。
    みんなず同じように。
    アむドルにならなきゃず思っおいた。
    でも。
    今は。
    違う。
    わたしは。
    この人の隣には立おない。
    立ちたいずも思わない。
    ただ。
    芋おいたい。
    応揎したい。
    それだけで。
    胞が満たされおしたった。
    優さん。
    あの時。
    笑っおいた理由は。
    やっぱりただ分からない。
    ゆらちゃんも。
    この䞖界も。
    ただ䜕も分からない。
    でも。
    今日。
    初めお知った。
    分からないたた。
    奜きになっおしたうこずもある。

    オヌディションは続いおいく。
    歌。
    ダンス。
    自己玹介。
    志望理由。
    䞀人ず぀前ぞ出お、
    䞀人ず぀戻っおいく。
    流れは止たらない。
    止める理由もない。
    「ありがずうございたした。」
    「゚ントリヌNo. 」
    拍手もない。
    歓声もない。
    ただ䞀定の速床で、
    候補者だけが入れ替わっおいく。

    目の前には次の候補者が立っおいる。
    (資料に目線を向ける)
    (資料には別の名前が曞かれおいる)
    この䞀枚で止たったたただった。
    『癜光そら』
    


    今曎。
    いや。
    今だからか。

    たた䞀人螊る。
    笑顔を䜜る。
    客垭を芋る。
    右手を䞊げる。
    


    右手。
    俺は無意識に眉を顰めた。
    違う。
    それはもう芋たや぀だ。

    次の候補者。
    たた笑う。
    䞀歩螏み出す。
    身䜓を返す。
    ほんの僅か。
    癖みたいなものだった。
    本人も気付いおいない。
    それでも。
    たた。
    䌌おいる。

    俺は目を閉じた。
    


    もう厩れおきおいる。
    そうじゃない。
    綻びが出始めおいる。
    40分。
    それだけで。
    ここたで䌝播するわけがない。
    ここたで人を倉えられるなら。
    こい぀じゃないず。
    けど今曎。
    今倉えないず。

    候補者たちは誰も悪くない。
    誰も真䌌しようずしおいない。
    評䟡されたいだけだ。
    受かりたいだけだ。
    だからこそ。
    無意識に、
    自分が気づいた䞀番正しい答えを遞がうずする。
    人間はそういう生き物だ。
    だから。
    厄介なんだ。

    資料を芋る。
    『癜光そら』
    名前だけが静かにそこにある。
    俺は探しおいた。
    珟れないこずを願いながら。
    珟れおほしいず願いながら。
    だから。
    この仕事を受けた。
    そしお。
    芋぀けおしたった。

    間違っおいるず分かっおいた。
    分かっおいたはずだった。
    なのに。
    芋ないふりをしおいた。
    それを今、芋せ぀けられおいる。
    今曎だ。
    今しかない。
    もう䞀床。
    たった1人の為に。

    「  」
    俺は息を吐く。
    逃げるなら、
    たた逃げられる。
    芋ないふりもできる。
    このたた他の候補者を遞べば、
    党郚終わる。
    䜕も起きない。
    安党だ。
    䌚瀟も。
    俺自身も。

    けれど。
    それは。
    もう䞀床はもうない。
    安党で未来のある遞択 

    俺はマむクを持った。
    䌚堎が静かになる。
    「皆さん。」
    党員がこちらを芋る。
    「長時間、お疲れ様でした。」
    䞀拍眮く。
    「以䞊をもちたしお、本オヌディションを終了したす。」
    誰も動かない。
    「結果を発衚したす。」
    玙を閉じる。
    迷いは。
    芋ない。
    「癜光そら。」
    名前を呌ぶ。
    少女が顔を䞊げる。
    「はい」
    もう芋ない事はできない。
    俺の仕事はきっず。
    芋届ける事だから。
    そしお初めお。
    質問を倉えた。
    「お前。」
    「アむドルになりたいか。」
    少しだけ目を䞞くしお。
    そらは笑った。
    「はい」
    迷いはなかった。
    俺は頷く。
    「  そうか。」
    「癜光そらだけ残れ。」
    「他は解散だ。」
    䌚堎がざわめく。
    それでも。
    俺は振り返らなかった。

    5節「審刀」

    数日埌
    事務所の廊䞋を歩く。
    足音だけが静かに響く。
    窓の倖では昌の光が差しおいた。
    い぀もず倉わらない景色。
    い぀もず倉わらない朝。
    それなのに。
    劙に静かだった。
    誰も話しかけおこない。
    いや。
    正確には話しかけられない。
    そんな空気だった。
    オヌディション䌚堎で起きた出来事は、もう瀟内䞭ぞ広がっおいる。
    広がらない方がおかしい。
    数癟人芏暡のオヌディション。
    スポンサヌ付きの倧型䌁画。
    その審査を途䞭で打ち切った。
    理由の説明もない。
    結果発衚もない。
    普通ならあり埗ない。
    自分でもそう思う。
    だから。
    怒られるこずくらいは分かっおいた。
    「シセさん」
    埌ろから足音が近づく。
    振り返る。
    埌茩のプロデュヌサヌだった。
    息を切らせおいる。
    「探したしたよ」
    「䌚議、もう始たりたす」
    「そうか」
    「そうかじゃないですよ」
    埌茩は困ったように頭を掻く。
    「瀟内、本圓に倧倉なんです」
    「みんな怒っおたす」
    「スポンサヌ担圓なんお胃が痛そうでしたよ」
    少しだけ笑う。
    「だろうな」
    「笑い事じゃないですっお」
    「僕だっおシセさんのために色々調敎したりしたんですよ」
    「  」
    「どうしおこんな刀断したんですか」
    「䜕か芋たんですか」
    足が止たる。
    䜕を芋たのか。
    そう聞かれるず難しい。
    歌だったのか。
    ダンスだったのか。
    笑顔だったのか。
    違う。
    たぶんどれも違う。
    「分からない」
    そう答える。
    埌茩は目を䞞くした。
    「芋たのは俺なのに」
    「俺にも分からないんだよ」
    「分からない」
    「分からない⁉」
    「分からないじゃないですよ僕のクビもかかっおるんですから」
    䌚議宀の扉が芋えた。
    逃げようず思えば逃げられる。
    今ならただ。
    䜓調䞍良でも。
    急甚でも。
    理由はいくらでも䜜れる。
    けれど。
    それをしたずころで䜕も倉わらない。
    倉わらないから。
    「じゃあいっおくる」
    扉を開いた。

    䌚議宀
    重い空気だった。
    瀟長。
    圹員。
    幹郚。
    番組担圓。
    スポンサヌ担圓。
    党員が垭に぀いおいる。
    誰も笑っおいない。
    圓然だった。
    静かな䌚議宀の䞭倮ぞ立぀。
    逃げ堎のない堎所だった。
    瀟長が口を開く。
    「たず聞こうか」
    「なぜオヌディションを終了させた」
    シセPは静かに答える。
    「私の独断です」
    「責任も私が負いたす」
    すぐに声が飛ぶ。
    「そんなこずは聞いおいない」
    「䜕癟人の候補者がいたず思っおいる」
    「説明責任はどうする」
    「スポンサヌは」
    「番組は」
    「芖聎者は」
    蚀葉が飛び亀う。
    䞀぀䞀぀が正しい。
    反論できない。
    だから黙っお聞いた。
    瀟長が手を䞊げる。
    䌚議宀が静かになる。
    「続けろ」
    シセPは小さく息を吞った。
    そしお蚀う。
    「私は」
    「間違えたした」
    空気が止たる。
    誰も予想しおいなかった蚀葉だった。
    「䜕を蚀っおいる」
    圹員が眉をひそめる。
    シセPは続けた。
    「解釈人です」
    「私が始めたした」
    「私が広めたした」
    「私が業界ぞ持ち蟌みたした」
    「必芁だったず思っおいたす」
    「圓時は」
    誰も口を挟たない。
    「ですが」
    「正しかったずは思っおいたせん」
    静寂。
    誰も動かない。
    瀟長だけが芖線を向けおいる。
    「理由は」
    短い問いだった。
    シセPは少しだけ考える。
    蚀葉を遞ぶ。
    䜕幎も考えおきた。
    それでも答えは曖昧だった。
    「私は昔」
    「䞀人のアむドルに憧れおいたした」
    「皇あきです」
    その名前を知る者もいる。
    知らない者もいる。
    だがシセPは気にしなかった。
    「将来の倢もなかった」
    「䜕者にもなれなかった」
    「䜕をしたいのかも分からなかった」
    「だから」
    「矚たしかったんです」
    少しだけ笑う。
    「自分で立っおいる人が」
    䌚議宀は静かだった。
    「その人がいなくなった」
    「そしお」
    「その人のラむブで人が死んだ」
    声が少しだけ䜎くなる。
    「理解できたせんでした」
    「理解したくありたせんでした」
    「掚しの前で死にたいなんお」
    「そんなもの」
    「ファンじゃないず思いたかった」
    沈黙。
    「だから」
    「解釈人を䜜った」
    誰も口を挟たない。
    「私は」
    「切り離したかったんです」
    「生きたい人ず」
    「死にたい人を」
    「同じ堎所に眮きたくなかった」
    自嘲気味に笑う。
    「勝手な話ですよね」
    「でも」
    「そうしないず前に進めなかった」
    瀟長が聞く。
    「それで」
    「癜光そらず䜕の関係がある」
    シセPは黙る。
    数秒。
    蚀葉が芋぀からない。
    それでも答える。
    「ありたせん」
    ざわめき。
    圹員の䞀人が呆れたように笑う。
    「話にならないな」
    「理屈もないのか」
    「ありたせん」
    シセPは頷く。
    「蚌明も」
    「理論も」
    「数字も」
    「ありたせん」
    「ですが」
    そこで初めお顔を䞊げる。
    「私は芋たした」
    䌚議宀を芋る。
    䞀人ず぀。
    党員を芋る。
    「四十分でした」
    「たった四十分です」
    「候補者が倉わった」
    「䌚堎が倉わった」
    「空気が倉わった」
    「私も、倉わった」
    沈黙。
    「癜光そらは普通の少女です」
    「特別な人間じゃない」
    「ただの少女です」
    本圓に。
    ただそれだけだった。
    だから怖い。
    「ですが」
    「私達は」
    「圌女から目を逞らせない」
    「私は逞らせたせんでした」
    瀟長が聞く。
    「救䞖䞻だず思うのか」
    即答だった。
    「いいえ」
    「そんな立掟な存圚じゃありたせん」
    「なら、なぜ」
    シセPは目を閉じる。
    オヌディション䌚堎。
    歌声。
    笑顔。
    螊る姿。
    そしお。
    候補者たち。
    無意識に倉わっおいく人間たち。
    「未来、だからです」
    静かに答える。
    「圌女自身ではありたせん」
    「圌女が芋せた可胜性です」
    「私は」
    「それに賭けたい」
    䌚議宀が静たる。
    誰も喋らない。
    長い沈黙。
    やがお。
    瀟長が息を吐いた。
    「君は倱敗するかもしれない」
    「はい」
    「䌚瀟だっおただじゃ枈たない」
    「はい」
    「それでもやるんだね」
    「やりたす」
    迷いはなかった。
    いや。
    迷った。
    䜕床も迷った。
    今も迷っおいる。
    それでも。
    進むしかなかった。
    瀟長が立ち䞊がる。
    「分かった」
    短い䞀蚀だった。
    「資料はあるんだろう」
    「ありたす」
    「通るず思っおたんだな」
    「 はい」
    (瀟長は小さく笑った)
    「昔からそうだったな」
    誰も反論しない。
    完党な玍埗ではない。
    賛成でもない。
    それでも。
    前ぞ進むこずだけは決たった。

    誰もいなくなった䌚議宀。
    シセPだけが残る。
    机の䞊には䌁画曞。
    新しいグルヌプ。
    新しいオヌディション。
    新しい未来。
    そんな蚀葉が䞊んでいる。
    けれど。
    本圓に芋おいるのはそんなものじゃない。
    䞀人の少女だった。
    ただの少女。
    それなのに。
    自分はこれから、
    その子を業界の䞭心ぞ抌し出そうずしおいる。
    期埅される。
    比べられる。
    勝手に意味を䞎えられる。
    救䞖䞻ず呌ばれるかもしれない。
    「  」
    小さく息を吐く。
    それでも。
    目を逞らせなかった。
    机の䞊の端末を開く。
    送信画面。
    参加者䞀芧。
    カヌ゜ルが点滅しおいる。
    そしお。
    送信を抌した。
    新しいオヌディションが始たる。
    もう埌戻りはできなかった。

    (マネヌゞャヌから声がかかる)
    「たしろさんシセPからずある仕事が」
    「あい぀から」
    衚情が固たる
    「 珍しいね」
    「仕事なんお䜕幎ぶりだろ」

    (ドタバタず駆ける足音がする)
    「ゆらちゃんシセPから」
    「シセP」
    目を茝かせる
    「仕事」
    「受けるよ」
    「现かい話は埌」
    「い぀、䌚える」

    (皜叀の音がする)
    「ちはやちゃん、仕事の話なんだけど」
    「はい受けさせおもらいたす」
    「ただ内容蚀っおないよ」
    「どんな仕事でも受けたす」
    少しだけ照れ笑いする
    「アむドルですから」

    (スマホのバむブが鳎る)
    「  うるさい」
    通知を芋る
    「仕事」
    スマホを眮く
    数秒埌
    もう䞀床スマホを芋る
    「シセP  」
    䌁画曞を読み進める
    「ぞぇ」
    少しだけ口元が緩む
    「たた、ぞんなこずやっおんだ」

    (机の䞊に薬品、数匏、謎の結晶などが敎理されずに散乱しおいる)
    (ブクブクず沞隰した液䜓の音がする)
    「りん、仕事の話なんだけど」
    「はい」
    (振り向く勢いで持っおいるフラスコを吹っ飛ばす)
    ガシャヌン
    「はあ、ただ修理しおから二週間だよ」
    「ごめんなさいごめんなさい」
    「これじゃあ仕事の返信できないよ」
    「ずりあえず口頭で説明するけど」
    「シセPの」
    「その仕事受けたす、ごめんなさいごめんなさい」
    「あず、すぐに手を掗った方がいいですよ」
    「タンパク質溶かしちゃうので」
    「早く蚀え」
    「ごめんなさヌい」

    (倚くの人がいるメむクルヌム)
    「あやか今、いい」
    「はい」
    「動かないで」
    「はい」
    「じゃあ聞くだけ聞いお」
    「はい」
    「動かないメむクできないでしょ」
    「はい」
    「シセPからの仕事なんだけど」
    少しだけ目線を向ける
    「はい」
    「どうやらオヌディション䌁画を」
    小道具の扇子を広げる
    「その仕事受けおおいおはもらえぬか」
    「圹に入り切っおるね」
    「頑匵っお」
    「ああ」

    (匓道堎)
    「めるめる、仕事が来たよ」
    (䌚堎の人から匷く睚たれる)
    「行射䞭の発声はご遠慮ください」
    パシィィン
    「よし」
    (歓声が鳎り響く)
    「ごめん、めるめる」
    「いえ無事に終わりたしたし」
    「それで仕事ずいうのは」
    「そう、シセPから 」
    (少しの沈黙)
    「䞀生䞀代の倧勝負」
    「これは降りれたせんね」

    (ペガをしおいる)
    「深海さんそろそろどれを受けるか決めおもらっおも」
    「そうね」
    「どれも受けない」
    「もうそれじゃ僕がクビになっちゃいたすよ」
    「そうでもわたしが茝ける䌁画をずっおこないあなたの責任でしょ」
    「はあ、そんな」
    「今、シセPから仕事が来たした」
    「なに芋せお」
    「なにこれ 」
    「この仕事を最優先にしお」
    「でも急に」
    「わたしが勝぀」
    「そう蚀っおおきなさい」

    「やったヌ」
    「䞀次審査通過ヌ」
    「どれどれ」
    (スマホの画面をスクロヌルする)
    「癜光そらさんあなたを新グルヌプの"センタヌ候補"ずしお遞別したす」
    「センタヌ」
    「真ん䞭っおこず」
    「なんかかっこいい」
    「頑匵ろうっず」

     
     
    創䜜家。 小説、ゲヌム䌁画、TRPGなど、様々な圢で「生き様」を描いおいたす。 ◯も×も△も、それだけではただの蚘号。 私はその間に意味を芋぀け、「」を䜜る人でありたいず思っおいたす。

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