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野ばらのキミへ ― 帰る静けさ

    静けさの中に、ふと立ち上がる気配があります。 野ばらの淡い色、影と光のあいだで揺れる輪郭。 その曖昧な形が、胸の奥の静けさをそっと変えていく。 帰る場所を思わせる温度が、静かに息をしている物語です。

    #創作大賞2026 #エッセイ #エッセイ部門

    光章
    朝でも夜でもない、境目のような時間に、野ばらの淡い色だけが静かに立ち上がる。
    光がまだ形を持たないうちから、その輪郭は空気の中で息をしていた。
    その静けさに触れた瞬間、胸の奥で小さな温度がひとつ灯る。
    風が触れる前のわずかな間は、いつもキミの気配を思い出させる。
    語るでもなく、求めるでもなく、ただそこにある静けさとして。

    野ばらの淡い色は、光の角度によってわずかに表情を変える。
    その変化を見つめていると、自分の影までもが少しだけ揺らぐ気がした。
    薄い影が伸びるたび、キミの輪郭がふと浮かぶ。
    思い出そうとするより先に、静けさのほうがキミを連れてくる。
    その気配は、光の粒が寄り添ってできた影のようだった。

    風が触れる前の一瞬、野ばらの枝がわずかに揺れそうになる。
    その前触れが、心の奥の静けさをそっと揺らす。
    揺れはすぐに収まるけれど、その収まり方がどこか新しい。
    静けさが戻るたび、キミの影が少しだけ光のほうへ傾く。

    静けさは、ただ静かであるだけではない。
    触れられる前の空気のように、わずかな温度を含んでいる。
    野ばらの淡い色がその静けさに溶けるとき、
    キミの輪郭が、影から光へとゆっくり形を変えていく。

    影章
    光の粒が少しだけ増えると、野ばらの淡い色がその粒を受け止めるように見えた。
    その受け止め方が、胸の奥の静けさにわずかな重さを落とす。
    重さといっても沈むほどではない。
    ただ、静けさの底に触れる指先がひとつ増えたような感覚だった。

    野ばらの影は、光の粒に合わせて細く伸びたり、淡く縮んだりする。
    その影の揺らぎを見つめていると、キミの輪郭がまたひとつ形を変える。
    影のままの曖昧さを保ちながら、光のほうへわずかに寄り添う。
    その寄り添い方が、胸の奥の温度を静かに揺らした。

    風が触れる前の、あの短い間。
    野ばらの枝が揺れそうになる瞬間は、いつも予兆のように訪れる。
    その予兆は、光で感じた揺れよりも深く、
    静けさの底をゆっくり押し広げる。
    押し広げられた静けさの中で、キミの気配が少しだけ輪郭を持ち始める。

    輪郭といっても、はっきりした形ではない。
    光の粒が寄り添ってできた影が、
    その影の端だけを光のほうへ傾けているような曖昧な形だった。
    その曖昧さが、かえって確かなものに思える瞬間がある。
    胸の奥の温度が、静けさの底からゆっくり浮かび上がるときだ。

    静章
    光の粒がゆっくりと角度を変え、野ばらの淡い色に静かに触れた。
    その触れた場所だけが、ほのかな温度を帯びる。
    胸の奥の静けさが、その温度を受け取るようにわずかに揺れた。
    揺れはすぐに収まるけれど、その収まり方は、帰る場所を思わせた。

    野ばらの影は、光の粒に寄り添うように淡く伸びる。
    その影の揺らぎの中で、キミの輪郭がふと浮かぶ。
    影のままの曖昧さを保ちながら、光のほうへ静かに傾いている。
    その傾きに触れた瞬間、胸の奥の温度がゆっくり広がった。

    風が触れる前の、あの短い間。
    野ばらの枝が揺れそうになる気配が、静けさの底にそっと落ちる。
    その落ち方は、影で感じた揺れよりもさらに深く、
    静けさの奥にある柔らかな場所へ届くようだった。

    キミの気配は、影から光へ向かう途中のまま、
    その途中の形を保っていた。
    ただ静けさの中で息をしている気配だった。
    その息づかいが、胸の奥の静けさとゆっくり重なる。

    静けさが完全に落ち着いたとき、
    野ばらの淡い色がひとつだけ光の中で揺れた。
    その揺れは、キミの気配が帰る場所を示すように見えた。
    胸の奥の静けさが、その場所をそっと受け止める。

    そして静けさは静けさのまま、
    新しい形をしてそこにあった。


    ■ あとがき ■

    光と影のあいだにある静けさを、どこまで言葉にできるのか。 その問いのまわりをゆっくり歩くようにして、この一篇を書きました。 野ばらの淡い色や、揺れそうになる気配は、 日々の中でふと立ち上がる小さな温度のようなものです。
    読んでくださった時間の中に、 ほんのわずかでも静けさの形が残っていたら嬉しく思います。

    ※本作は、本編『野ばらのキミへ』(全五話・現在未公開)のスピンアウト作品です。 本編は、7月10日以降に順次公開予定です。 この静けさの向こう側にある物語も、そっと楽しみにお待ちいただければ幸いです。


     
     
    真面目に不真面目を地で行くジーちゃん(LV52)。 技術は、人生観を揺らがす。 その揺らぎの中で見える静けさや、遅れて咲く。 IT現場の痛みと、 光と影の境界にある物語を、同じ根から紡ぐ。 趣味:海釣り、RPG、J-Rock 最近は Steam を好みます。

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