
まだあった
<あらすじ>
失恋をきっかけに、断捨離に目覚めていく女。
捨てることに快感を覚え、身の回りのものをどんどん捨てていく。
軽くなることに目覚めたものの、別れの理由に言われた「重い」というキーワードから抜け出せない。
軽くなるために捨てるものを探す女が見つけた捨てるものとは?
<ホラー小説本編>
「君って重いんだよ」
男が私と別れる理由よ。
なんで!?
今までつきあった男、みーんなそう言うの。
私ってやっぱ重い?
でも今回の男との別れは辛くはなかったわ。
2年間つきあったけどさ、私の誕生日前日に別れを宣告しやがった。
そのセコさに、悲しみよりバカバカしさが先にきちゃって
「アイヨッ!」と背を向け、私は人生で一番軽やかに歩いてみせた。
軽~くね。
で、その夜ひとりでレトルトラーメン食べてたら、突然自分が可哀想になってオンオン泣いたわ。
涙でコンタクトレンズがはずれてスープの中に落ちちゃった。
アチャーって言いながら、指でどうにか探し出せたとたん、なにやってんだか私、って今度は大笑い。
その後は、一晩中泣き笑いよ。
男と別れた翌日から彼女は毎晩同僚や女友達を飲みに誘っては、数々の失恋話をし、最後はこの話でしめて大泣きするのだった。
やがては、誰も彼女の誘いにのらなくなった。
「なんでよ?」と彼女がその中の一人に問い詰めると
「やっぱり重いのよ」と言いにくそうに答えた。
重い?
流石に彼女は、その聞き慣れた言葉をすんなり受け取ることにした。
何が、そんなに重く感じさせるんだろう。
彼女はその理由を知るために、当たると評判の占い師を求め、休みになると各地にでかけた。
どの占い師も一様にもっともらしいご宣託をのべるのだが、どれも納得できる答えは無し。
しばらくして、占いに頼るのはバカバカしくなりやめた。
なぜって、男運が悪い話をさんざんしたあと、あなたな男運が悪いのでは?というオウム返しに占い料金を払うのがもったいなくなってきたのだったから。
(重い、重いよ~)
彼女はどんどん自分が重く感じるようになっていった。
そんな時、書店で一冊の本をみつけた。
『捨てれば、軽くなる!』
買って帰ると一気に読んだ。
持っているものをどんどん捨てると軽くなり、羽が生えたように軽やかな人生をおくることができる、という内容だった。
そうなのか、と部屋を見回すと一人暮らしなのにもので溢れかえっていることに気づいた。
そうだったのか、悪霊でもついているのかと心配したけど重さの原因はコレだったのだ。
その日から、彼女の捨てる日々が始まった。
毎日ひとつ以上買っていた百均商品をまず捨てた。
大型ゴミ袋5袋分もあった。
次に以前文学青年とつきあっていた頃、話を合わすために買った文学全集を古紙回収にまわした。
今までつきあった男との写真もアルバム何冊分もあったので、捨てた。
ついでにそれを撮ったカメラも捨てた。
火曜日と木曜日のゴミ回収の日が待てなくて、お金を払って不要品回収にきてもらったりもした。
捨てれば一時的に軽くなった気分になれた。
その快感が中毒になり、部屋の中が空っぽになるまでに、それほど時間はかからなかった。
オフィスで上司が問いかけてきた。
「君! 今朝頼んだコピーまだ?」
「もうとっくにしました」
「どこにあるの?」
「捨てました」
「え~!」
そんなことを繰り返し、彼女はとうとう仕事も捨てた。
「辞めます!」
久しぶりに実家の母からの電話が鳴った。
「おぉ和子か、お盆にはかえってくるんじゃろ?」
「帰らんよ。で、お母さん、突然やけど親子の縁切らしてもらうわな」
そう言うとガチャンと電話を切った。
彼女は親まで捨てた。
(あ~、捨てるものがない。何かない? 重たくなってきそう、あ、重たくなってきた)
彼女は、次に捨てるものを考えながら歩き続けた。
疲れ果てて、橋の欄干にもたれた。
川面には自分の顔だけが揺れていた。
彼女は、しばらくそれを見つめた。
「あ、まだあった♪」