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バスで乗り合わせた素敵な女性(ひと)

    老人ホームに母を訪ねる日だった。

    バス停の列に並んでいると、不意に後ろの女性に話しかけられた。

    「このバスは立石に行きますか?」

    行きますよ、と答えると、その女性は童女のような顔で嬉しそうに微笑んだ。お年は70代位だろうか。

    リボンをつけた麦わら帽子に、アーリーアメリカン調のワンピース。まるで「大草原の小さな家」から抜け出てきた様な、優しげな印象の方だった。

    始発バスが着き、私はお気に入りの最後尾に乗った、その女性も並びの席に座った。

    バスが走り出してしばらくすると、またその女性が話しかけてきた。

    「Donっていうレストランに一番近いバス停は立石でしたよね?」

    え〜と…としばらく考えた。立石海岸にあるのは、プリンで有名なカフェ。はて、Donはもう少し先だから、次の秋谷かな?記憶がはっきりしなかった。

    女性には
    「立石海岸より少し先になので、秋谷かも知れません」
    と言った所、そうそうあるのは秋谷なの、とニコニコ。

    もし間違って教えたらいけないと、携帯で調べた。
    最寄は立石。今はランチ営業中。

    そう女性に知らせると
    「わざわざ調べて下さったの。
    ありがとう」
    と可愛らしく微笑んた。

    「いつも主人が車で連れてきていてくれたから…
    バスで来るのは初めてで…」
    と少女のようにはにかんでいる。

    ご年長の方ながら、可愛らしい!と思った。

    しばらくして、おもむろにその方は言った。

    「主人が亡くなって10年になるの。
    毎日悲しくて、悲しくて。
    Donは、2人で来た思い出のお店。
    もう一度行ってみようと思えるまで
    10年かかったの。それが今日。」

    咄嗟になんと返事をして良いか困った。
    普通の、にこやかなおばさまと思っていたら、
    そんなヘビーな事情がおありとは!

    自分でも作り笑いしてると感じつつ、
    かろうじて言った。

    「きっとご主人様も、今日ご一緒に来ておられるのではないでしょうか」

    その女性は、また童女のように微笑んで言った。

    「そう思います。今朝ね、主人の写真に言ってきたの。Donに、私達の思い出の店に、ようやく行ける気持ちになったわよ。10年かかった。一緒に行こうねって。」

    頷きながら、不意に涙が出そうになった。
    10年の重みが心に響いた。

    バスが立石に近づくと、その女性は車窓の景色を見ながら呟いた。

    「そうそう!この景色!主人の車から見た景色!」

    そして立石で、「ありがとうございました」と言いながらバスを降りて行った。

    私は胸が一杯になりながら、言った。
    「どうかご主人と良い時を!」

    女性は
    「えぇ,2人で楽しんできます。」
    と降りて行った。

    走り込出すバスの窓から、見えた。
    その女性が、少し斜め上を見上げてながら
    本当に幸せそうに微笑むのが…

    その後、Donで思い出のメニューを召し上がっただろうか?

    愛する人と死別するのは悲しい事。
    でも心の中で、その人はずっと生き続ける。
    その女性を見ながら、
    そして自分の経験も振り返り、
    心からそう感じる。

    Forever, we can get along together
    という曲を思い出しつつ…

    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

     
     
    JLIA認定司法通訳士 全国通訳案内士・旅程管理主任(国内) 翻訳家 にんべんだしアンバサダー