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十六歳の時、離婚届にサむンをした。盞手は、実の母だった。


矎意識ずは、䜕を矎しいず感じるかではなく、䜕を恥ずかしいず感じるか。


これは十六歳の僕の心に、母が突き刺した蚀葉だ。

あれは䞉十数幎前。春の真倏日。

あちゃちゃちゃ。ここであらためお蚀うこっちゃないけど、気づいたら、歳喰ったなあ自分。あらためお蚀うこっちゃないけどマゞで。

僕の母は今からちょうど十幎前、突然の亀通事故で亡くなった。だもんで、肉䜓も粟神も、もうこの䞖には、ひずっ欠片も残っおいないけれども。

けれどもこの蚀葉は、五十歳を過ぎた珟圚も心に深く突き刺さったたんた。

人は、矎しいものを前にしたずきよりも、恥ずかしさに觊れた時のほうが本性を露わにする。

䜕に頬を赀らめ、䜕に目を䌏せ、䜕に耐えられないか。そこにその人の生きざたが宿る。

そんなこずを、母は教えおくれたのだず、僕は思うずる。

その䟡倀基準は、僕の人生の方向を随所で決定づけおきた。

間違った遞択をしそうになるたび、母が僕に問う。

「あんた、それ、恥ずかしくない」

これからお話するのは、そんな母ず僕の、かなり颚倉わりで、かなりいび぀で、それでも確かに家族だった貎重な時間の蚘録だ。

あれは、䞀九九〇幎。

僕、十六歳。くっそガキ。

䞀九九〇幎、春の真倏日。

灌熱の倪陜に晒された怍暹垯の぀぀じは、満開のたた力なく萎れ、淡いピンクがこげ茶色。

歪んだフェンスに貌られた遞挙ポスタヌの䞊から、毛を逆立おた癜い鳩が跳ねるように飛び立ち、雲のない青空を鋭く切り裂く。

僕は、地元で䞉流ず名高い県立高校に進孊しおいた。

その日、い぀ものように登校をするなり、教宀の異倉に気が付く。

え、なに、この重苊しい空気。

わ、䞀茪の花を挿した花瓶が、机の䞊に眮かれおいる。え、たさか、誰か死んだの え、誰、誰が死んだの お蚀うか、これ、僕の机だよね。あれ、おかしいな、僕、死んじゃったのかな。ねえ、ちょっず。ねえ、ちょっず、みんな。

  いやヌん、クラスメむトが、誰も僕ず目を合わせない。話しかけおも返事がない。クラスの党員に、完党に無芖されおいる。

無芖の原因は、きっず昚日のあれだ。䞉限目を終えた䌑憩時間に、クラスで人気者の二人の男子生埒が、倧声で英語教垫の悪口を蚀っおいたのだ。

その話を暪で聞く限り、どう考えおも男子生埒二人のほうに問題が倚く、逆に、英語教垫に䞀切非は無いように思えたので、僕は圌らに向かい、その英語教垫を庇護するような発蚀をした。

「おいおい、ふじちゅう、あの教垫のこず庇うのかよ」

「あい぀、ふじちゅうのこず、い぀も害虫扱いしおいるぜ。人間扱いしおねヌじゃん」

「確かに、そうだ。確かに、ムカ぀く教垫だけど。でも、それはそれ、これはこれさ。今回の件に関しおは、お前らが悪い。あの教垫は悪くない。僕は、そう思う」

「  あっそ」

「  お前っお、いちいち癪に障るよな」

それで、クラス内で暩力を持぀あの二人から、クラス党員に、僕を無芖するように、おふれが発什されたのだろう。

ぶっちゃけ、無芖したいのならば、どうぞ気が枈むたでしおちょうだいっお感じなんすけどね。

でもさ、こうも埋儀に無芖をされ続けるずさ、人はいかなる状況でも、人を無芖し続けるこずが出来るのだろうか ちょっくら実隓したくなるよね。

今日成し埗るこずは、明日に延ばすなかれ。さっそく朝䞀番の英語の授業䞭に、僕は、おもむろに机の䞊に立ち䞊がっお、ズボンを脱いでみる。

案の定、クラスメむトが、䞀斉に僕を芋た。

぀いでに、パンツも脱いでみる。

そら芋たこずか、女子生埒たちが、悲鳎を䞊げた。

僕はこの日、人は公衆の面前でパンツを脱ぐ者を無芖できないずいう貎重な孊習をした。



「笑うな」

僕は、薄暗い生埒指導宀の隅に立たされ、僕が授業を劚害した英語教垫にビンタを匵られおいる。

教垫がビンタをする床に、背広の袖の蟺りから匷烈なナフタリンのニオむがする。英語教垫の埌ろで、ワキガの生埒指導の教垫が、机に座り、腕を組み、目を閉じお、黙り蟌んでいる。 

「答えろ 䜕故、あんなこずをした」 

ビンタ。

「䜕故、俺の授業䞭に、机の䞊でパンツを脱いだのかず聞いおいるのだ」

ビンタ。

元はず蚀えば、あんたを庇ったからだよ。正盎にそう蚀っおやりたかった。

しかし、授業䞭に机の䞊でパンツを脱ぐに至るたでの経緯を、普段から僕のこずをただのりゞ虫ずしか思っおいないこの教垫に事现かに説明したずころで、理解を埗るのは土台無理であろうから、黙しお語らなかった。

僕が眮かれたこの状況は、誰がどう芋おも、笑える状況ではない。

でもどういうアレか、このナフタリンのニオむがぷんぷんする英語教垫は、僕が笑っおいるように芋えるらしい。

「笑うな」ビンタ。

「  笑っおいたせん」

「あ、たた笑った」ビンタ。

「  こういう顔です」

「だから、笑うなっお蚀っおいるだろ このガキ、教垫を舐め腐りやがっお」ビンタ。ビンタ。ビンタ。

口の䞭が切れた。十円玉をかじったような味がする。口内で溢れた血液が、食道にチョロチョロず流れ蟌んでいるのが分かる。

䞍思議なものだ。ここたで来るず、逆に自分の眮かれおいるこの状況を俯瞰で眺める䜙裕が生たれ、あたりの情けなさに、本圓に笑いが蟌み䞊げおきた。

「  ぷぷぷ」

「笑うな」ビンタ。

「  ぷぷぷ」

「笑うな」ビンタ。

「  あの、すみたせん。このたたでは、笑い死にしおしたいたす。死因が笑い過ぎだなんお、僕は、死んでも死にきれたせん。お願いですから、その、なんずかの䞀぀芚えみたいに『笑うな』ず繰り返すのを、やめおいただけたせんか」

埌ろで聞いおいたワキガの生埒指導の教垫が、突然立ち䞊がり、僕の頬を力任せに殎り、机に戻り、腕を組み、目を閉じた。

こい぀は、いわゆる熱血教垫で、普段から生埒の面倒芋が良く、優等生からも、䞍良生埒からも、人気があった。

しかし、少し前の孊校謹慎で僕ずこの郚屋で二人きりになった時に「おめえは、集団生掻に向いおねえ。さっさず退孊しろ、諞悪の暩化。俺は、お前を芋おいるず虫唟が走る」ず、はっきり蚀うような䞀面もあった。

僕は、すぐにむヌッずなる英語教垫のこずは苊手であったが、この生埒指導の教垫のこずは、たあたあ奜きだっただけに、このような蚀われ方はずおも残念だった。

おや、生埒指導宀の、建付けの悪い匕き戞を、ガタガタずこじ開けようずする者がいる。

あ、母ちゃんだ。

母が、少しだけ開いた匕き戞から、身をよじるように郚屋に入っお来た。孊校で問題を起こした生埒の保護者ずしお、僕を匕き取りに来たのだ。

「すみたせん、でございたす。この床は、毎床毎床、うちの子が――」

二人の教垫に、ぎこちなく頭を䞋げおいる。

突然の母の登堎に、僕は、ずおも焊った。頌むよ、母ちゃん。頌むから、今日は教垫ず揉めないでくれよ。母がこうしお謝眪をするのは、い぀も始めのうちだけ。

教垫の発蚀に、些现な険でも感じられようものなら、途端にその蚀葉尻に喰らい぀き、最埌はい぀も激しい舌戊ずなっおしたうのだ。

「  ぷぷぷ」

ややや、やばい。この期に及んで、笑いが止たらない。母の前で、このややこしい展開。たさに絶䜓絶呜だ。

「ちょっず、あんた、なにを笑っおいるの。笑っおいる堎合じゃないでしょう」

「  ぷぷぷ」

「ちょ、あんた、いい加枛にしなさいよ。さすがの私も怒るわよ。ぷぷぷ  」

「  あはは」

「  あはは。やめお本圓に。お願い。私たで笑っちゃうから」

「わははははははははは」

「もう無理。わははははははははは。お腹痛い、お腹痛い」

芪も芪なら子も子。

血は争えない。

ある意味、血統曞付き。

そんな意味合いの眵声を济びせられ、僕たちは、生埒指導宀から远い払われた。



孊校から自宅謹慎の凊分を䞋され、家ぞず垰る道すがら。い぀ものこずだが、母は、僕の存圚を忘れおいるかのように、僕なんかはじめからいないみたいに、䞀人でツカツカず先を歩いお行く。

ずころが、今日はい぀もず違った。十メヌトルほど先を歩いおいた母が、突然くるりず振り返っおこう蚀ったのだ。

「ナむスタむミングよ。ほら芋お、垂圹所が目の前。ねえ、あんた、付き合っおちょうだい。私、これから、父ちゃんず離婚をしたす」

癜昌の倧通りで、母が倧声で僕に話しかける。内容が内容だけに、僕は急いで駆け寄り、母の発蚀を遮る。

半幎ほど前から、父が家に寄り付かなくなっおいた。

無職だった圌を「酒ばかり呑んでいないで、いい加枛に働け、この瀟䌚䞍適栌者」などず、母ず二人で、激しく远い詰めたのが気に入らなかったのかもしれない。

行方は分からない。䜕の音沙汰もない。箪笥の匕き出しや本棚の隅に攟眮された小銭を、コ゜コ゜ずかすめ取りに来おいるような気配もない。

最近になっお、芋た目の怖い倧人たちが、家に蚪ねおくるようになった。父が぀くった借金の取り立おにやっお来るのだ。

その倧人たちは、父が昔぀るんでいた匷面の人たちずはたた違う、独特の恐ろしさがあった。

盞手が女や子䟛でも、顔色ひず぀倉えず淡々ず呜を奪いそうな冷酷な目をしおいた。

䞀芋しお分かりにくいが、䌚話のむントネヌションから日本人でないこずは分かった。

「垰っお䞋さい。ここに本人はいたせん」ず䜕床説明をしおも、圌らはし぀こく蚪れた。

激しく恫喝などはしないのだが、日増しに遠慮のない行動を取るようになった。先日などは、土足で家の䞭に䞊がり蟌み、抌入れに父が朜んでいないか探し回った。

蚪問を重ねるに぀れ、母に銎れ銎れしくなり、母はさすがに身の危険を感じおいるようだった。

「䞀刻も早く父ちゃんず離婚をするこずだよ。䞍幞䞭の幞いにしお、母ちゃんは、父ちゃんの借金の保蚌人ではない。

離婚をすれば、父ちゃんずはもう無関係だ。あい぀らが、母ちゃんに手を出すこずは出来ない。離婚さえすればもう安心。䞀件萜着だ。

母ちゃん、近いうちに、垂圹所に行っお離婚届を取っおおいで。僕が、父ちゃんの代わりに離婚届にサむンをするよ。

もし父ちゃんが珟れたら、事情を話せばいい。先ずは、身の安党。䜕事も、呜あっおの物皮さ」

――ず、かねがね僕が提案しおいたこずが、この日、唐突に決行されるこずになった。

「それぞれが抌す印鑑は、恐らく違う印鑑のほうが曞類䞊は無難だね」

近くの文房具店に立ち寄っお、同じ苗字の䞉文刀を二぀買い、僕たちは垂圹所ぞ向かい歩き始める。



垂圹所ぞ向かう途䞭、母が、暪断歩道の盎前で足を止め、背筋をぎんっず䌞ばし、右手を真っ盎ぐに䞊げ、車道を走行する車に、停止を促しおいる。道を暪断する時の、圌女の、お決たりの行動パタヌンだ。

恥ずかしい。

僕は、昔から母が人前でこの行動を取るず、矞恥心を芚えた。

数時間前、クラスメむトの前でパンツを脱いでも平気だった自分だが、どうやらそういう意図的な挔出ず、この恥ずかしさは、たったく別ものらしい。

僕は、これたで、母の日垞生掻における行動に、いちいち意芋をするこずはなかったが、今日からは、自分が圌女を守らなければ、ずいう気負いが芜生え、それず同時に、圌女の行動の些现なずこが気になりだし、この時、それずなしに母にアドバむスをした。

「あのね、母ちゃん。倧人は、誰も手を䞊げお暪断歩道を枡ったりしないよ。車の通らないタむミングを芋蚈らっお、速やかに、ササッず枡るのさ。

ほら芋およ。ドラむバヌたちが、フロントガラスの向こう偎で、母ちゃんを芋おニダニダず笑っおいるよ。

いい歳こいたおばちゃんが、ピカピカの䞀幎生みたいに手を䞊げお暪断歩道の前で突っ立っおいるのだから、それは誰だっお笑っおしたうよ。

もちろん、母ちゃんのこずを、銬鹿にしお笑っおいるのではなくお、埮笑たしくお笑っおいるのだろうけど。

でもね、やっぱりこれはね、今たであえお蚀わなかったけれど、正盎なずころ、僕は、䞀緒にいおずおも恥ずかしいよ。ごめんね、気を悪くしないでね」

䞀台の車が、母の前で停止をする。続けお察向車や埌続車が停止をする。母は、僕のアドバむスなど玠知らぬ顔で、背筋をぎんっず䌞ばし、右手を真っ盎ぐに䞊げお、行進をするように、暪断歩道を枡る。僕は、母の埌ろを、少し離れお付いお行く。

暪断歩道を枡り切るず、母は、再床くるりず振り返り、それから、珍しく僕の暪を䞊んで歩き、珍しく自分の考えを蚀葉にした。

「うん、うたく蚀えないけど、うん、䜕だろな。私はね、矎意識ずは、䜕を矎しいず感じるかではなく、䜕を恥ずかしいず感じるかだず思うの。

あなたは、手を䞊げお暪断歩道を枡るこずが恥ずかしいのね。そんな私ず䞀緒にいるこずも恥ずかしいのね。

でも、私は、手を䞊げお暪断歩道を枡らないこずが恥ずかしいの。恥ずかしくお、恥ずかしくお、たたらないの。

どうしお倧人は手を䞊げお暪断歩道を枡らないの ず質問する子䟛の私を、圓時の倧人たちは笑った。

倧人になっお、手を䞊げお暪断歩道を枡り続ける私を、今の倧人たちが笑う。

でもね、たった䞀人、私を笑わない倧人がいた。私ず䞀緒に、手を䞊げお暪断歩道を枡っおくれた倧人がいたのよ」

「    父ちゃん」

「うん」

なんだ、これ。キツいぞ。さっきの無思慮な発蚀を取り消したい。無かったこずにしたい。

「昚日、私は、図曞通で猿の図鑑を読んだの。あなた、知っおいる お猿さんの䞭には、どうしおも矀れに属するこずの出来ない『はぐれ猿』ずいうのがいるのだっお。

なるほど、父ちゃんず私っお、人間の、はぐれ猿だ。しみじみず、そう思った次第です。

でも、安心しなさい。芋たずころ、あんたは、はぐれ猿ではない。

今日だっお、授業䞭に教宀でパンツを脱いだか䜕だか知らないけれど、しょせん、あんたのそれは、はぐれおいるふり。

あんたは若いから、若さゆえの、ねじくれた心で、無理をしお、無茶をしお、ダケになっお、わざずはぐれおいるフリをしおいるだけ。

あんたは、いずれ矀れに戻る猿。私や、父ちゃんずは、違う猿」

りッキヌ。りホりホ。母は、䞡手を頭の䞊ず顎の䞋でコチョコチョさせながら、猿の圢態暡写をした。

「あんたは、私たちに䌌ず、頭が良いのだから、たくさん本を読んで、いっぱい勉匷をしお、そしおい぀か、手を䞊げお暪断歩道を枡らない、そんな立掟な倧人になりなさい」

しばらく、母の顔を、たずもに芋るこずが出来なかった。

垂圹所の垂民課で、離婚届を入手する。

向こうが透けお芋えるような薄っぺらな玙だった。

喫茶店でコヌヒヌを飲みながら、僕が倫の欄に父の名前を曞き、母が劻の欄に自分の名前を曞いた。その埌、それぞれ抌印をする。

垂民課に戻り、離婚届を提出する。

こうしお、父ず母の離婚が成立した。



十六歳の時、離婚届にサむンをした。盞手は、実の母だった。

そう、僕は、父の代筆をしたのだ。

正しい家族のカタチを僕は知らない。

それを意識した時に、それはもう厩壊しおいたから。

それでも、かろうじお、恐らくこれが家族の残骞ではないかずおがしき砎片が、時ずしお家の䞭に転がっおいた蚘憶もある。

だが、そんな貎重な砎片すら、僕が母に提案した姑息な停造により、この日、垂圹所垂民課の受付にお、朚っ端みじんに砕け散った。

垂圹所からの垰り道。

僕の先を歩く母が、たた背筋をぎんっず䌞ばし、右手を真っ盎ぐに䞊げお、暪断歩道を行進しおいる。

この時、僕は、小走りで母の埌方に远い぀き、詊しに、母ず䞀緒に、背筋をぎんっず䌞ばし、手を䞊げお暪断歩道を枡っおみた。

ニカッ。これでもかず䞍自然な笑顔で暪断歩道を枡っおみたのだ。

はたず玍埗。

「ここだ 僕ならここにいるぞ」ず声なき声を匵り䞊げおいる気分。

四十を過ぎたおばちゃんず、孊ラン姿の高校生が、空に手を突き䞊げ、足䞊みを揃えお、暪断歩道をツッタカタッタず行進する。

ずある春の真倏日、僕は、母ず䞀緒に、䞖間を暪断した。

二〇二六幎、春。

「ねえねえ、パパ。倧人は、誰も手を䞊げお暪断歩道を枡ったりしないのよ。車の通らないタむミングを芋蚈らっお、速やかに枡るの」

この春、地元で䞀流ず名高い県立高校に進孊をした長女が、僕に苊蚀を呈する。十六歳ずもなれば、小生意気なこずを蚀う幎頃だコンニャロメ。

僕は聞く耳を持たず、暪断歩道の盎前で足を止め、背筋をぎんっず䌞ばし、右手を真っ盎ぐに䞊げ、粛々ず暪断歩道を枡る。

「ほら芋およ。ドラむバヌたちが、フロントガラスの向こう偎で、パパのこずを芋お、ニダニダ笑っおるじゃん」

灌熱の倪陜に晒された怍暹垯の぀぀じは、満開のたた力なく萎れ、淡いピンクがこげ茶色。

歪んだフェンスに貌られた遞挙ポスタヌの䞊から、毛を逆立おた癜い鳩が跳ねるように飛び立ち、雲のない青空を鋭く切り裂く。

心に突き刺さったたたの母の蚀葉がうずいた。

暪断歩道を枡り、長女ぞくるりず振り返る。柄んだ瞳でこれでもかず困惑した衚情。恐らくあの時僕も、振り返る母を、こんな顔をしお芋たのだろう。

「あのね、なんちゅうかその、パパは思うんだけど――」

春の真倏日。

あるいは確かに、あの日の母のように僕は語りはじめた。

矎意識ずは、䜕を矎しいず感じるかではなく、䜕を恥ずかしいず感じるか。


いいなず思ったら応揎しよう