
わがまま木まま
ぼくは自然が大好きだ。
将来は森で一番の大きくて強い立派な大木のような大人になるんだ。
木や葉の香り、幹の手ざわり、木々の中を通り抜ける風…ん〜は〜! ぼくはのんびりゆっくり深呼吸する。
もちろん木登りだって木工作だって得意だ!
どんどん「やってみたい!」のワクワクがわいてあふれ出す。
でも、まわりの大人はよく顔をしかめた。
「あぶないからやめなさい。」
「よごれるからじっとして。」
「おとなしくして。」
ぼくは嫌だとつっぱねる。
それでも「わがまま言わない」や「だめ」の雨がふり続けた。
ぼくは思う。
ぼくのやりたいことは、いけないことなのかな?
ぼくはわがままでだめな子なのかな?
ぼくは、動くのをやめた。
どうせまた、怒られるんだ。
次第に、何を見てもワクワクしなくなった。
ただ、じっとすわっているようになった。
すると、大人がにっこり笑って少し誇らしげにこう言った。
「あら、いいこ。えらいね。」
そっか。
じっとしている方が、みんな喜ぶんだ。
ぼくも、何だか嬉しいような、少し誇らしく感じた。
ぼくは、こうあるべきなんだ。
それから、ぼくはみんなへの思いやりの葉っぱを広げ始めた。
たくさん生い茂らせるために何本もの枝を伸ばした。
ぼくのそれは、とてもキラキラしていた。
四方に大きく枝をひろげ、だれにでもやさしい木陰をつくってあげる。
「ありがとう」「やさしいね」と言ってもらえる葉っぱをどんどんみんなに差し出した。
まわりのみんなは太陽のような笑顔でぼくをてらした。
けれど、いつからだろう。
その葉っぱが、ずっしりと重たくなったのは。
右のだれかにやさしくして、
左のだれかを元気付けて、
後ろのだれかの顔色をうかがって。
いつもなぜか大忙しだった。
ぼくの枝は、葉っぱの重みに耐えかねて垂れ下がりはじめた。
ぼくが差し出したやさしさが、ぼく自身をしめつけていく。
足もとはガタガタとふるえ、息をするのもやっと。
あんなに嬉しかったみんなの太陽のような笑顔がまぶしければまぶしいほど、
「もうたっていられない。」
ぼくは、とうとう膝をついた。
「どうしてこんなに苦しいんだろう。」
ぼくは地面につっぷしたまま、自分をしめつける葉っぱをかきわけてみた。
重たいやさしさのすきまから、一本の枝を見つけた。
その枝をたどると、まさか!それは自分の幹だった。
「うそだ……こんなの、ぼくじゃない。」
ひょろひょろで色あせた弱々しい姿だった。
ぼくは目をそらした。見たくなかった。
こんなに弱くてかっこわるいぼくなんて。
「もっと立派なはずだ。みんながほめてくれるぼくは、もっと……」
無理に立ち上がろうとすると、また葉っぱが重くのしかかる。
ぼくはもう一度、おそるおそるその幹を見た。
だれにも気づかれず、日の当たらない暗いところで、たったひとり、この重さを支えてきたんだ。
「ごめん。きづかなくて、ごめん。」
涙がこぼれ、細い幹にしみた。
ぼくは、目の前に見えた一番小さいキラキラの葉っぱを、ふるえる指先で一枚だけちぎり取った。
だれかにあげるためのやさしさを、自分の根元に置いた。
はじめて自分のために。
すると、どうだろう。
葉っぱはみるみる地面の中へ吸い込まれていった。
冷たい土の中で眠っていたぼくの根っこが「ごくっ」と音をたててそれを飲みこんだ。
土の奥深く、冷たく暗い場所に、ぼくがずっと閉じ込めていたワクワクたちが「やりたい!」「おもしろそう!」「ぼくはこう思う!」とむずむずし出した。
かたく凍りついた、わがままと気ままたちだ。
そこへ、自分にあげたやさしさの葉っぱの栄養が、しずかに、しずかに流れこんでいく。
「もう、出てもいいんだよ」
あたたかなやさしさに包まれて、溶けだした。
溶けあった二つの力は、大きなうねりとなって幹をかけのぼった。
どくん、どくん。
ひょろひょろだった幹が、内側から大きくふくらむ。
「ああ、これは、ぼくだ!これが、ぼくだ!」
ミシッ、ミシッ!と力強い音がひびく。
幹はみるみる太く、たくましくなり、重かったはずの枝を、今度は前より軽々と空へと押しあげた。
もう、ふらつかない。
見て。
ぼくの木は、前よりもずっと大きな大木になった。
どっしりと太い幹が、あふれるほどのやさしさの葉っぱを、力強く支えている。
大人になった今のぼくは今でも、葉っぱの半分くらいは自分の足元に落としているんだよ。
ぼくのわがまま。
ぼくの気まま。
それらがキラキラの葉っぱを支えるぼくの幹になる。
