
スクロール
たったッ
たたっ
呼吸の音すら大きく聞こえる静寂に、
スマホのタップ音だけが響く。
『〇〇〇なあなた、マジでヤバいですよ!』
突如、
自分への嫌味みたいな広告が流れてくる。
たった数秒で
こちらの人生を全て知ったかのような口ぶりで凄んでくる、画面の前のビジネスマンに辟易する。
誰のおかげで、その綺麗なスーツを綺麗なまま着て、生きれていると思っているんだろう。
ヤバいのはそれに気が付かないアナタじゃないかな、なんて、
心の中で、誰にも届かない毒を吐く。
しかし
こんな適当に、何も考えずに、
ただ赴くままに、大した理由も無く
スマホの画面を見ている私も私だ。
やけにぼーっとして
やけに疲れていて
やけに心がざわついて
やけに眠れなくて
それで、今こうして
やけになってスマホを、
かじりつくように眺めている私は、
傍から見れば確かに
『〇〇〇なあなた』であり
『マジでヤバい』のだろう。
どう見ても、さっさと寝た方が良いのに、
どう考えても、疲弊しきっているのに、
どうあがいても、変わりっこない現実に、
どうしても、納得できなくて。
どうにかなるはずもないのに
どうにかなれ、と、
画面をスクロール。
ああ、そうか。
やっと気づいた。
どうにもならないんだ。
どうにかできるのは、自分だけなんだ。
こんなもの眺めてたって
自分を取り巻く環境は
一向に変わらない。
酷い環境から出たきゃ、自分の足で
安全圏まで走りぬかなきゃいけないんだ。
例え運よく、誰か優しい人の肩を
借りられたとしても
その時でさえ
歩いているのは結局自分なんだ。
『そもそもなんでこんな目に遭う必要があるんだ』と思う自分も確かにいる。
それは正論でしかない。
一分一厘、反論の余地もない。
だけどそんな愚痴、言ったところで
今の酷い環境は、
自分への攻撃を
止めてくれるわけじゃない。
意地でも逃げなきゃ
意地で抜け出さなきゃ
きっと朝日は拝めない。
『〇〇〇なあなた、マジでヤバいですよ!』
…ふふっ
教えてくれてありがとう。
確かにヤバかった。
もう、朝日も拝めそうにないほど限界だよ。
だからこそ
残り僅かな、充電を握りしめ、
顔認証に、未来の自分を映して、
私を追い詰めてきた悪魔共をブロック。
嫌な記憶を、今この瞬間はタスクキル。
安全圏へのルートを考え、目的地に設定。
必ず逃げ切る。
自分の身を置く環境は
自分で決めてやる。
二言はない。
これ以上、
自分のバッテリーを消耗してたまるか。
さあ、明日から
反撃開始だ。
今日はもう、スリープモードにして
自分を明日に、スクロール。
