
庶民とシャネル
根っからの庶民派な私だが、友達とシャネルの店舗に一度だけ行ったことがある。
シャネルといえば数百万円のバッグ、ラグジュアリーな空間、大人のお姉さんの香り。
縁がなさ過ぎて解像度が低いことはご容赦願いたい。
精一杯背伸びしても庶民丸出しの私たちに、店員のお姉さんは優しかった。
その優しさに勇気をもらいながら、私が買ったのは香水「CHANCE」であった。
好みの香りなのはもちろんのこと、その香水をつけると「洗練」「高級感」「強い女」みたいな気配をまとえる気がした。
ひとつの憧れを手に入れたようで、私は魔法少女の変身アイテムを手に入れた女児のようにワクワクしていた。
翌日、さっそく出かける前に香水をつけてみる。
が、なんともしっくりこないのである。
もちろん香りが変わったわけではない。とても好きな香りだ。
問題なのは、ご近所コーデでスーパーへ行く私とその香水のイメージが致命的に合っていないことであった。
UVカットパーカーを着て今日はトマトが安くてラッキー♪なんてやってる私に、シャネルの香水は使いこなせなかった。
一説によると、本物のセレブは部屋着にエルメスで出かけるのだという。
しかし私の場合は一点豪華主義が盛大に事故を起こしていた。
私は泣く泣くシャネルの香水で出かけるのを諦めた。
言うまでもないが、全身をシャネル側に寄せることは金銭的に不可能だったからである。
庶民側に戻ったことで、私はどこにでもいる庶民として心の平穏を取り戻した。
しかし、そんな私にもまだシャネルの香水を楽しむ方法は残されていた。
「夜、すこしだけ香水をつけて寝る」というひそかな楽しみを見つけたのだ。
誰にも知られず、私は夢の中で、もしかしたら「洗練された強い女」になっているのかもしれない。