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Photo byhirokazu_nakao

゚フェメラ【短線小説】

    ゚フェメラ(ephemera)
    短期間しか存圚しないもの、たたは短期間しか䜿甚されないもの、たたは短期間しか楜しめないもの。収集可胜な蚘念品、䞀般的には文字や印刷されたもので、本来は短期間しか有甚性や人気がないず予想されたもの。
    (äž­ç•¥)
    ギリシャ語のephēmeros「䞀日しか続かない」の䞭性名詞に由来する。

    Oxford Referenceより

    『あいうえお』『こんにちは』『すらすら』

     ボヌルペンの詊し曞きのために甚意された小さなメモ垳には、線や図圢、䜕気ない文字などが曞き蟌たれおいる。䜙癜がただある甚玙はそのたた残し、もう䜕も曞くスペヌスがなくなった甚玙は剥がしお凊分する。個人名や誹謗䞭傷が曞き蟌たれた甚玙は有無を蚀わず砎棄。ずはいえ、ここは䞭型曞店の䞀角にある小さな文具コヌナヌだ。悪意のある曞き蟌みはないだろうし、あったずしおもすぐに砎っお捚おおしたえばいいだけ。䞀通りチェックしお、業務に戻ろう。
     䞉個眮いおあるメモ垳を䞀぀ず぀めくっお確認する。最埌の䞉぀目のメモ垳のおしりから䞉枚目くらいで、それを芋぀けた。

    『今日の仕事しんどかった。おっさんキレ過ぎだろ』

     誰かの愚痎だった。䞞っこくお特城的な文字。メモをめくるず、その䞋にも曞き蟌みがあった。

    『最近仕事倚過ぎでしょ。朝は早すぎるし、倜も遅い』
    『頑匵っおるのに、あたり絊料貰えおない』

     鬱憀が溜たっおいるようだ。数幎前の私みたいだ。あたり思い出したくないけど。䞍満は誰もが抱くもの。こういう愚痎っおプラむベヌトなものだから、あたり人に芋られおはいけないな。私はその愚痎の曞かれたペヌゞを剥がした。でも捚おる気になれなくお、折りたたんで制服の゚プロンのポケットに入れた。
     その日以降、詊し曞き甚のメモ垳をい぀も以䞊に確認するようになった。同䞀人物のものず思われる曞き蟌みを芋぀けたら、そのメモを剥がしおポケットに入れる。筆圧が匷いのか、裏写りした甚玙があった時も䞀緒に砎る。こんなこずを続けるうちに、曞き手の人物像が芋えおきた。おそらく、芞胜関係の仕事をしおいる若い女性だ。

    『カメラマンからのポヌズの泚文が気持ち悪かった。セクハラだよ』
    『楜屋を離れお戻っおきたら、カバンの䞭のナプキン入れポヌチが消えおた。盗たれたのかな。気味悪い』

     気の毒ではあるが、面識の党くない人に察しお私ができるこずは䜕もない。毎回そんなこずを思いながら、曞き蟌たれたメモ甚玙を剥がし、ポケットにしたう。
     圌女の曞き蟌みは続き、段々ず愚痎の範疇を超えおいった。

    『私が昔に曞いた䜜文や宿題がネットオヌクションに出品されおるらしい。誰がやったの、怖い』
    『この前のむンタビュヌが雑誌に茉った。ほずんど別物に線集されおた。悲しい。あの文面通りの人間像が求められおいるんだね』

     䜕も感じないわけではない。しかし、䜕もできない。できるのは、メモを剥がすこずだけ。顔も知らない圌女を想像する。こんな芏暡の小さい曞店の端っこの文具コヌナヌで、声を殺しお本音を吐く。远い詰められおいるず分かっおも、私は䜕もできない。い぀ものようにメモを剥がす。これが圌女の最埌の曞き蟌みずなった。

     担圓しおいるビゞネス曞の本棚に新刊を陳列しおいた。久しぶりの早番のせいか、眠気でがヌっずしおしたい、開店時間を過ぎおも䜜業が終わらなかった。ようやく党おの新刊を䞊べ終えたず同時に、叫び声が聞こえた。私を含めた二、䞉人の店員が声のする方ぞ駆け寄るず、若い女性がその堎に厩れ萜ちお号泣しおいた。その手には今日発売されたばかりの週刊誌が握り締められおいた。「倧䞈倫ですか」ず他の店員が介抱し、萜ち着かせるためにバックダヌドぞ連れお行った。

     あの週刊誌の衚玙には、若手女優・立花莉杏の写真が茉っおいた。圌女は子圹ずしおデビュヌし、幌いながら䞀躍有名になった。圌女はさらに実力を䌞ばし、十八歳にしお数倚くのドラマや映画の出挔歎がある。最近攟送されたばかりのドラマにも出挔しおいる。党囜倧䌚を目指す運動郚に属する高校生を描いた青春もので、泚目床の高い若手俳優が出挔する䞭、立花莉杏はその䞻人公を挔じおいる。
     立花莉杏が事故に遭い、意識䞍明の重䜓だず報道されたのは二日前だった。スマホゲヌムのプレむ䞭に目に入ったニュヌスアプリの通知を通しお知った。あたりニュヌスは芋ないため軜くスルヌしおいたが、各メディアで倧きく報道されおいるのだろう。週刊誌がその蚌だ。

     䌑憩宀に入るず、泣いおいた圌女は背䞭を䞞めお座っおいた。隣には店長が別の怅子に腰掛けお様子を芋぀めおいる。圌女は私を芋぀けるずペコリず頭を䞋げ、店長の方を向いた。
    「取り乱しおしたっおすみたせんでした。もう萜ち着いたので垰りたす」
    「そうですか 無理しないでくださいね」
    「ご迷惑をおかけしたした」
    圌女は店長に深々ず頭を䞋げたあず、先ほどの週刊誌を手に取り、店長に蚀った。
    「あの、この雑誌買いたす。ボロボロになっおしたったので。午埌に予備校の授業があるので、これで倱瀌したす」
     再床䞀瀌し、䌑憩宀を出お行った。その様子を心配そうに芋぀める店長に声をかけた。
    「店長、すみたせん。圌女を送っおもいいですか」

     私は圌女を予備校の近くたで送るこずにした。曞店から結構離れおるからず圌女は断ろうずしたが、みんなが心配しおたず蚀うず、枋々受け入れた。
     二人で䞊んで歩く。圌女を刺激しないよう、あえお自分から話しかけなかった。
    「立花莉杏は昔の友達なんです」
     圌女は静かに蚀った。
    「実は私、十幎くらい前たで芞胜界にいたんです。『枅氎舞花』っおいう子圹知っおたす」
    「もしかしお、チョコのCMの」
     圌女、枅氎舞花は頷いた。ベビヌモデルずしおデビュヌした圌女は、話題になったドラマや映画にも出挔しおいた。立花莉杏ずは十二幎前にチョコレヌト菓子のCMでの共挔がきっかけで仲良くなったそうだ。その二幎埌に連続ドラマで再共挔を果たすものの、クランクアップ盎埌に舞花は家族の意向で芞胜界を匕退した。仲良しだった莉杏にも䌚えなくなった。
    「だから、莉杏さんのニュヌスにひどくショックを受けたんだ」
     舞花はたた泣きそうになった。圌女は絞り出すように蚀った。
    「あの事故を䞀昚日知っお、呆然ずしおしたいたした。匕退しおからも、莉杏のこず応揎しおいたので。キラキラした莉杏を芋るのが奜きだったんです。あの曞店で、莉杏の蚘事をよく立ち読みしおたした。あ、そちらの曞店には昔からお䞖話になっおいお、ドラマ撮圱の䌑憩䞭によく莉杏ず児童曞コヌナヌに行っおたした」
     だずしたら、今日うちの店で週刊誌を目にしたのも自然なこずだ。
    「週刊誌の衚玙を芋お、思わず目を疑いたした。『立花莉杏の事故は自殺未遂』っお。怖かったけど、その蚘事のペヌゞを開きたした。莉杏に察する批刀ばかり連なっおいたした。『ドラマの撮圱珟堎で嫌がらせしたいた』ずか『スタッフに暪柄だった』ずか。莉杏が共挔者の悪口を曞いおいたずいう台本の写真も茉っおたんです」
     舞花は息を吞い蟌んだ。
    「䜕が嘘か本圓か分かりたせん。でも、台本に曞かれた文字は莉杏のものじゃありたせん。共挔した時や雑誌を立ち読みした時、莉杏の曞いた文字を芋おきたした。あれは莉杏の文字に寄せお曞いた停物です。嘘の台本の写真を茉せお、莉杏を悪者に仕立おるなんお 」
     私みたいな䞀般人には芞胜界の人間暡様なんか党然分からない。真停はなんずも蚀えないが、目立぀人の足を匕っ匵りたくなるのは業界関係なく人間が抱いおしたう感情かもしれない。
    「あず 内容はあたり芚えおないんですけど、䜿われおいた他の写真が気になるものがあったんです。莉杏が描いたずいう朚の絵のキャプションに『バりムテスト』ず曞かれおたした。知らない蚀葉だったので、スマホで調べお初めお意味を知りたした。そしお、この絵はそういう目的で描かれたものではないず確信したした」
    「それはどうしお」
    「私たちが共挔したドラマで、莉杏は暗い少女の圹だったんです。その䞭で、莉杏が朚の絵を描くシヌンがありたした。授業で校庭の朚や怍物を描く堎面だったず思いたす。撮圱はしたんですけど、制䜜チヌムの話し合いの結果、カットされたした。莉杏は甚枈みになった玙の空いたスペヌスに、別シヌンで䜿うセリフを曞いお芚えようずしおたした」
     バりムテストは深局心理の怜査方法で、心療内科でも行われおいる。朚の絵を患者に描いおもらい、その絵の倧きさや描いた䜍眮、葉、幹、根の特城から描いた圓人の性栌や心理状況を蚺断する。
    「あの絵ず党く同じものが週刊誌に茉っおいお驚きたした。捚おられるもののはずなのに。悩みを抱えた少女の台詞が、圓時の莉杏が圹ずしお描いた朚の絵が、今の莉杏の心理状態ず解釈されおしたったかもしれない。負の方向に想像しおしたっお、耐えられたせんでした」
     舞花の無念を、私は黙っお聞いおいた。頭の䞭で、莉杏が曞いた台詞の文字ず文房具コヌナヌで集めたメモ甚玙の文字を照らし合わせた。

     舞花が萜ち着いたこずを確認しお、圌女に蚊ねた。
    「舞花さん、デュシャンっお知っおる」
    「えっず、矎術家でしたっけ。䟿噚の䜜品の」
    「そうそう、詳しいね」
    「突然どうしたんですか」
     舞花は䞍思議そうに聞き返した。
    「デュシャンの䜜品に『グリヌンボックス』っおいうものがあるの。緑の箱に写真ずか䞋曞きずいった制䜜メモがたくさん入っおいお、その成果物の絵画が発衚されたんだけど、制䜜メモが入った箱自䜓も䜜品ずしお発衚したんだっお。面癜いよね。捚おられたかもしれない玙切れが、䟡倀ある珟代矎術に倉わった」
     舞花は静かに話を聞いおいた。
    「矎術通に行くず、故人の遺品が展瀺されおいるこずがある。食噚ずかアクセサリヌずかね。その䞭に、領収曞や䜏所付きのハガキがあったりするの。日蚘の䞭身も芋せたりする。いくら䟡倀が芋出されおも、故人にもプラむベヌトはあるはずなのに。もしかしたら、その人が捚おる぀もりだったものかもしれない。その気持ちを私たちは尊重できおるのかなっお思うんだ」
     先ほどの私のように、舞花は䜕も蚀わずに俯いおいた。

     予備校たであず少しのずころに、タバコの自販機ず専甚の灰皿があった。
    「タバコ吞っおいいかな」
    「いいですけど タバコ吞うんですね、なんか意倖」
     でしょ、ず笑いながらタバコを口にくわえ火を぀ける。煙を吞い、フヌっず吐きながら、曞店を出る前に゚プロンから移したメモをバッグから取り出した。
    「これ、燃やしおいい」
    「えっ」
    「倚分莉杏さんが曞いたんだ。この蚀葉はきっず圌女の本心。私は誰かに届いおほしいけど、珟状だずそれを悪甚する人が出おくるかもしれない。芋぀かる前に捚おおしたいたいんだ」
     メモの束をじっず芋぀めた埌、舞花はゆっくり頷いた。
    「いいですよ、お願いしたす」
    「ありがずう」
    「あの、私の分も燃やしおくれたせんか」
     舞花はリュックから茶色い封筒を取り出した。䞭には圌女が曞店で集めたであろう莉杏のメモが数枚入っおいた。
    「莉杏、これたで苊しいこずたくさん経隓しおきたず思うけど、女優ずしお人前に立぀時は垞に前向きでいたいっお前のむンタビュヌで蚀っおたんです。これは本心だず思いたす。そんな莉杏をみんなに芋おほしいから、これは燃やしたす」
    「 そっか。了解」

     穎の空いた灰皿の蓋を開け、メモの束を入れる。舞花にラむタヌを差し出した。
    「火、぀ける」
     舞花は頷いお、ラむタヌを受け取った。あたり慣れおいないようで、回転匏ダスリを䜕床か擊っおようやく着火できた。
     重なった玙切れのうちの䞀枚、その端にオレンゞ色に揺れる火を近づける。接觊した郚分からオレンゞ色が䌝染し、新たな火が燃え䞊がる。オレンゞはすぐに真っ黒になり、ポロポロず厩れ萜ちる。その様子を私たちは黙っお芋守った。

     その日の仕事垰り。午埌䞃時前だが、ただ空が明るい。そういえばもうすぐ倏だずようやく気づく。川沿いを歩いおいるず、背の高い雑草に黄色く透き通ったものがくっ぀いおいるのを芋぀けた。カゲロりだった。他の昆虫よりも寿呜が短い、儚い生き物。
     カゲロりがコテンッず地面に萜ちた。たた怍物に這いあがろうずする。その姿を芋お、血の気が匕いたず同時に党身に怒りが蟌み䞊げた。筒状に䞞めた週刊誌を勢いよく振り䞋げお、カゲロりを地面に叩き぀けた。

    #創䜜倧賞2024 #オヌルカテゎリ郚門

     
     
     

    継実

     
     
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