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お酒は少量でも体に悪い? ― 本当にやめるべきなのか

食や健康について、身近な疑問をテーマに、国内外の研究や科学的知見をもとに読み解いていきます。
第二回目のテーマは、「お酒は少量でも体に悪い?」です。
以前は、「お酒は適量なら体に良い」という話をよく耳にしました。
ところが近年、お酒と健康についての考え方が変わってきています。
WHO(世界保健機関)は、健康への影響がまったくない「安全な飲酒量」は確認されていない、という考え方を示しています。
では、少しでもお酒を飲めば体に悪いのでしょうか。
健康のためには、完全にやめた方がよいのでしょうか。
今回は、お酒を楽しめる健康状態であることを前提に、がんのリスク、寿命、飲む量や頻度、そして生活の質まで含めて、現在の研究からわかっていることを整理したいと思います。

なぜ「安全な飲酒量はない」と言われるの?

大きな理由の一つが、がんです。
アルコールは、口や喉、食道、肝臓、大腸、女性の乳房など、複数のがんとの因果関係が確認されています。
そして現在の研究では、「この量までなら、がんのリスクはまったく増えない」という明確な量を決めることができません。
これが、WHOが「安全な飲酒量はない」という考え方を示している大きな理由です。
では、実際に飲酒量によって、がんのリスクはどのくらい変わるのでしょうか。
日本人約7万3千人を約10年間追跡した研究では、男性の全がんリスクは、「時々飲む人」と比べて、純アルコール摂取量が
・週1〜149gでは 約1.18倍
・週150〜299gでは 約1.17倍
・週300〜449gでは 約1.43倍
・週450g以上では 約1.61倍
という結果でした。

少ない飲酒量でもリスクの上昇はみられましたが、週300g以上になると、その上昇がより大きくなっています。
ただし、「安全な飲酒量が確認されていない」ことと、「少量でも大量飲酒と同じくらい危険」ということは同じではありません。
少量でもリスクが完全にゼロになるとは言えない一方、飲酒量が増えるほどリスクが大きくなることも、数字から見えてきます。

少量のお酒でも寿命は短くなる?

次に、「寿命」という別の視点から見てみたいと思います。
2023年に発表された大規模な研究では、107の研究をまとめ、約484万人、約42万6千人の死亡について分析しました。
生涯お酒を飲まなかった人と比較すると、さまざまな影響を調整した結果、純アルコール摂取量が平均1日1.3〜24gの低量飲酒では、全死亡リスクの明確な上昇は確認されませんでした。
一方、飲酒量が増えると違いが現れます。
平均1日45〜64gでは全死亡リスクが1.19倍、65g以上では1.35倍に上昇していました。
[純アルコール20gの目安]
・ビール(5%)500mL
・ワイン(12%)約200mL
・日本酒(15%)約1合
・焼酎(25%)約100mL
・ウイスキー(40%)約60mL
 ※純アルコール60gなら、その約3倍が目安です。

「適量のお酒は体に良い」は間違い?

かつては、まったく飲まない人より少量のお酒を飲む人の方が死亡リスクが低く、飲酒量が増えると再びリスクが高くなるという研究結果が多く報告されていました。
グラフにするとアルファベットの「J」のように見えることから、「Jカーブ」と呼ばれています。
これが「適量のお酒は健康に良い」と言われてきた理由の一つです。
しかし近年、この結果には研究上の偏りが影響していた可能性が指摘されています。
たとえば「お酒を飲まない人」の中に、病気や体調不良を理由にお酒をやめた人が含まれていると、非飲酒者の死亡リスクが高く見え、結果として少量飲酒者の方が健康に見えてしまうことがあります。
こうした影響などを調整した2023年の研究では、低量飲酒による全死亡リスクの低下は統計学的に明確ではありませんでした。
つまり、「少量のお酒を飲めば長生きする」とは言えないということです。
一方で、低量飲酒によって全死亡リスクが明確に高くなることも確認されませんでした。
ただし、これは「1日24gまでは安全」という意味ではありません。
死亡リスクに明確な差がなかったとしても、がんなど個々の病気になるリスクまでゼロというわけではないからです。

お酒は「量」だけでなく「飲む日数」も大切

では、同じくらいのお酒を飲むとしても、毎日のように飲む場合と、飲まない日を設ける場合では違いがあるのでしょうか。
日本人約8万9千人を対象とした研究では、飲酒量だけでなく、飲酒頻度と全死亡リスクの関係も調べられています。
男性では、純アルコール摂取量が週300g未満の飲酒では、飲む頻度にかかわらず全死亡リスクの上昇はみられませんでした。
一方、週300g以上飲む人では違いがみられました。
月1〜3日程度飲む人を基準にした場合、週1〜4日飲む人では全死亡リスクの明らかな上昇はみられませんでした。
しかし、週5〜7日飲む人では、
・アルコール週300〜449gで 約1.29倍
・週450g以上で 約1.55倍
に、上昇していました。
こうした結果から考えると、毎日のように飲む人は、週に何日か飲まない日をつくることも大切です。
実際、この研究の著者らも、多量飲酒者では週2日以上、飲まない日を設けることの重要性を示唆しています。
もちろん、休んだ分を別の日にまとめて飲むのではなく、全体の飲酒量を増やさないことも大切です。

今からお酒を控えても意味はある?

「これまでお酒を飲んできたなら、今から控えても遅いのでは?」と、思う人もいるかもしれません。
しかし、これまで飲酒習慣があった人でも、飲酒を減らしたり、やめたりすることに意味がないわけではありません。
IARC(国際がん研究機関)は、飲酒を減らす、またはやめることで、口腔がんや食道がんのリスクが低下することには十分なエビデンスがあると評価しています。
一方、すべてのがんについて、減酒によって「何%までリスクが下がる」と明確にわかっているわけではありません。
大切なのは、これまでどれくらい飲んできたかだけでなく、これからの飲み方を変えることにも意味があるということです。

私が大切にしていること

健康には、食事、運動、睡眠、ストレス、人とのつながり、生活の楽しみなど、さまざまなものが関係していると考えています。
お酒を楽しんでいる人にとって、完全にやめることが大きなストレスになる場合、その影響をどう考えるのかについても、まだ十分にわかっているとは言えません。
一方で、今回見てきた研究からは、飲酒量が増えるほど、がんや死亡のリスクが高くなることも見えてきます。
だからこそ私は、一つの数字だけを見て「良い」「悪い」と決めるのではなく、その数字が何を意味しているのか、そして暮らし全体の中でどう付き合っていくのかを大切にしています。
お酒についても、リスクを知ったうえで、自分の体と生活に合った付き合い方を考え、必要に応じて整えていく。
それが、お酒と健康を考えるうえで大切なことだと、私は考えています。

[参考文献]

Inoue M, Tsugane S; JPHC Study Group. Impact of alcohol drinking on total cancer risk: data from a large-scale population-based cohort study in Japan. British Journal of Cancer. 2005;92:182–187.

Zhao J, Stockwell T, Naimi T, et al. Association Between Daily Alcohol Intake and Risk of All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-analyses. JAMA Network Open. 2023;6(3):e236185.

Marugame T, Yamamoto S, Yoshimi I, et al. Patterns of Alcohol Drinking and All-Cause Mortality: Results from a Large-Scale Population-based Cohort Study in Japan. American Journal of Epidemiology. 2007;165(9):1039–1046.

Anderson BO, et al. Health and cancer risks associated with low levels of alcohol consumption. Lancet Public Health. 2023;8:e6–e7.

IARC. Reduction or Cessation of Alcoholic Beverage Consumption. IARC Handbooks of Cancer Prevention, Volume 20A. 2024.

※この記事は、健康について考える一つの材料としてまとめたものです。


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