
碓氷峠百話#001~何故、碓氷峠なのか?
第一話 何故、碓氷峠なのか?
私は群馬で生まれたわけではない。
軽井沢や松井田など、碓氷峠の近くで育ったわけでもない。
鉄道マニアだったわけでもない。
それでも、なぜ私は碓氷峠を書こうと思ったのか。
答えは一つではない。
大学時代、私は長野から群馬へ通学していた。
いつものように碓氷峠を越えた。
軽井沢や横川で機関車が連結されることも、切り離されることも、それが当たり前の日常だった。
当時は機関車の形式など気にもしていなかった。
ただ、碓氷峠を越えること。
それだけだった。
やがて就職し、結婚し、碓氷峠から遠ざかっていった。
ある日、テレビのニュースで碓氷峠の廃線を知った。
思い出はあった。
しかし、その時はまだ歴史を知ろうとは思わなかった。
それから三十年近くが過ぎた。
小説を書こうと思った時、どういうわけか碓氷峠を題材にしていた。
そこで初めて気づかされた。
私がいつも通っていた場所には、多くの人々の人生が積み重なっていたことを。
私は鉄道を書きたいのではない。
碓氷峠そのものを書きたい。
碓氷峠の記憶を書きたい。
だから私は、碓氷峠を書く。
本宮椿