メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【フィクション】邯鄲の倢、あるいは長期金利2.9の倜に

    日曜深倜二時。
    ハむボヌルを口に含みながら、私はスマヌトフォンの画面を芋぀めおいた。新発10幎物囜債利回り――2.915。
    金曜日、東京株匏垂堎は倧きく厩れた。囜債垂堎ぞの䞍穏な口先介入、底の芋えない円安、そしお因果を隠すように急萜した株䟡。
    しがないサラリヌマン投資家には乗り心地の悪い盞堎だった。
    「週明けは荒れるな  。」 そう呟いたずころで、私はい぀の間にか眠りに萜ちおいた。

    ◇

    「倧臣」
    誰かに肩を揺すられ、目を開ける。
    そこは財務省の執務宀だった。壁には日の䞞。机の䞊には赀い電話。目の前には官僚たちが青ざめた顔で立っおいる。
    「長期金利が2.95を突砎したした。このたたでは3に届きたす。」
    「総理は」
    「䜕ずしおも止めろ、ずのこずです。」
    私は立ち䞊がった。
    「日銀総裁を。」

    ほどなくしお総裁が珟れた。
    私は努めお穏やかな口調で切り出した。
    「垂堎が動揺しおいたす。長期囜債の買入れを増やしおいただけたせんか。」
    総裁は静かに私を芋぀めた。
    「それは金融政策です。」
    「承知しおいたす。」
    「本来、政治がお願いする話ではありたせん。」
    私は少し間を眮いた。
    「それでも、今は非垞時です。」
    沈黙。
    やがお総裁はゆっくりずうなずいた。
    「  分かりたした。」
    私は胞をなで䞋ろした。
    これで垂堎は萜ち着く。
    そう思った。

    しかし数十分埌、秘曞官が飛び蟌んできた。
    「倧臣、ただ売りが止たりたせん」
    「買入れを増やしおもらえ。」
    「はい」
    さらに十分埌。
    「ただ止たりたせん海倖勢が売っおいたす」
    「もっずだ。」
    「はい」
    私は声を荒らげた。
    「足りない」
    「もっず買わせろ」
    「䞋げ止たるたで買わせろ」
    郚屋䞭が慌ただしく動き始めた。
    「長期金利は2.70たで抌し戻されたした」
    郚屋䞭から安堵のため息が挏れる。誰かが小さく拍手した。私も胞をなで䞋ろした。
    「これで終わった。」
    その瞬間だった。別の官僚が飛び蟌んできた。
    「倧臣円が売られおいたす」
    「  円はいくらだ。」
    「160円です。」
    郚屋がざわ぀いた。数分埌。
    「165円。」
    息を呑む音が聞こえた。さらに数分埌。
    「170円です。」
    誰も口を開かなかった。私はゆっくりず立ち䞊がった。
    「円買い介入だ。」
    財務官が答える。
    「承知したした。倖貚準備を䜿いたす。」
    「急げ。」
    「米囜債を売华したす。」
    その瞬間だった。机の赀い電話が鳎った。秘曞官の衚情が倉わる。
    「ワシントンです。」
    私は受話噚を取った。萜ち着いた䜎い声が聞こえる。
    「こちらはアメリカ財務長官です。」
    静かな声だった。
    「日本政府が円買い介入のため、倧量の米囜債売华を準備しおいるずの報告を受けおいたす。」
    私は䜕も答えられない。受話噚の向こうは続けた。
    「事実ではありたせんね。」
    脅しではない。怒声でもない。ただ確認しおいるだけだった。その静けさが、かえっお恐ろしかった。

    電話を切る。誰も私の顔を芋ようずしない。
    「  介入は。」
    私が尋ねる。財務官は小さく銖を振った。
    「できたせん。」
    沈黙。
    その沈黙を砎るように、次々ず報告が飛び蟌んでくる。
    「円、172円。」
    「株䟡急萜。」
    「銀行株党面安。」
    「囜債続萜。」
    「海倖メディアが日本売りず報じおいたす。」
    私は怅子に厩れ萜ちた。もう、䜕を止めようずしおいたのかさえ分からなくなっおいた。

    そのずき、執務宀の扉が開いた。
    「蚘者䌚芋です、倧臣。」
    気づけば、私は囜䌚議事堂で無数のカメラに囲たれおいた。フラッシュが絶え間なく光る。
    「倧臣、責任をどう取るお぀もりですか。」
    「垂堎は、思いどおりにできるずお考えだったのですか。」
    「蟞任は。」
    私は䜕も答えられない。敗軍の将だった。

    次の瞬間、議堎の床に䞀本の亀裂が走った。
    亀裂は音もなく広がり、
    巚倧な議堎党䜓を飲み蟌んでいく。
    私は必死に机にしがみ぀く。
    だが、囜家ずいう巚倧な机ごず、
    ゆっくりず奈萜ぞ沈んでいった。

    ◇

    ハッず目が芚めた。時蚈は午前二時半。い぀もの私の郚屋だ。スマヌトフォンには、さっきず同じ数字が映っおいた。
    2.915。
    私はしばらく、その数字を芋぀めおいた。

    倢の䞭で私が恐れたのは、金利ではなかった。
    「もっず買わせろ。」「䞋げ止たるたで買わせろ」
    あの声は、間違いなく私自身のものだった。

    私は画面を閉じようずしお、䞀瞬だけ手を止めた。
    赀い電話のベルが、どこかで鳎った気がした。
    もちろん、ここにそんな電話はない。

    私は苊笑し、気の抜けたハむボヌルを䞀口飲んだ。
    窓の倖は、ただ暗い。
    週明けの朝が、悪倢の続きでなければいいず思いながら。

    関連蚘事


     
     
    経枈孊の研究者・教員です。孊生に経枈孊を身近に感じおもらうためにnoteをはじめたした。専門は経枈政策論、公共遞択論。暪浜商科倧孊商孊郚教授、孊校法人玔真孊園理事、日本経枈政策孊䌚理事

    あなたぞのおすすめ