
【掌編小説】さよならの予兆
人が亡くなる前って、なんか薄くなるの。
気づいたのはママが亡くなってから。
ほら、その1年前におじいちゃんが亡くなったじゃん。
最後におじいちゃんに会った時、宿直に出かける後ろ姿を見送ったの。その時ね、なんとなく、周りが白っぽくて、おじいちゃんの後ろ姿も薄くって、光ってるような眩しいような、とにかく薄いって思ったの。その時はなんか変だな、薄い、と思って、おじいちゃんが見えなくなるまでじっと見てたのを覚えてる。
で、ママが亡くなる少し前、ほら、入院前に家で寝込んでた日があったの覚えてる?あの日、学校から帰ってきて横になってるママと話をしてたの。なんの話だったか、覚えてないけど。カレー作ろっか、くらいかな。
その時ママの目がね、なんか、違ったの。瞳が茶色になってたの。黒だったよねえ?
あれ?と思ってまたじっと見ちゃった。ママもちょっと不思議そうにこっちを見てたのを覚えてる。ちょっと反抗期で、あんまり喋らなくなってたから、私が目を見てくるってことが不思議だったんじゃないかな。
おじいちゃんの時も、ママのその時も特に気にしてなかったんだけど。その少し後にママが亡くなって。
親戚が、「おじいちゃんがママを呼んだんかなあ」と言った時にふっと思い出したわけ。ピタっとリンクしたわけ。そうだ、2人とも、周りの明るさのせいか、薄かったって。
それから人のことを見るのがちょっと難しくなって。見てるんだけど、しっかり見ないようにするっていうか…。その人が薄くなってないだろうかって不安になっちゃって。
ふふ。そんなことはママ以来なかったんだけど。誰か他に薄くなった人を見つけて、やっぱりそうなったって確かめるのも嫌だし。
でもね、パパが亡くなる時、実はチャンスだと思って確認してみたの。だってもうかなり高齢だったのと、お医者さんからももう近いって言われてたじゃん。最後の1週間を付き添ってたとき、思い切って目を覗いて見たの。
そしたらね、やっぱり薄かったよ。灰色の瞳で、輪郭が曖昧だったよ。元からこうだったかな、なんて思ったりもした。
だからあんまりあてになんないんだけどね。でも、話してスッキリした。
え?
俺のことも薄く見えるからそんな話をするのかって?
違う違う。
実は今朝、鏡を見たら自分が薄い気がして…。あはは。うけたあ?
そう言ってたな。
昔っから、他の人には見えないものが見えてるみたいだったもんな。
本当のことだったんだな。
最後に見たあの笑顔がいつも通り、穏やかだったから、ちっとも気づかなかったよ。
了