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あなたは今この瞬間、何を感じていますか?ーー生きていることを、チョコレートから味わう。

    突然ですが、あなたは昨日、何を達成しましたか?
    売上、タスク、目標の進捗ーーそう言ったものはパッと答えられるかもしれません。

    では、あなたは、昨日何を食べましたか?
    その味を、今この瞬間に思い出せますか?

    答えに詰まったなら、それがすべてを物語っています。
    食べたという「事実」は覚えていても、その「味わい」までは思い出せない。
    それは、あなたの記憶力の問題ではありません。

    そもそも、味わっていなかったのです。

    達成したことは覚えているのに、感じたことは覚えていない。
    僕たちは気づかないうちに、「結果を残すこと」と「人生を味わうこと」を、トレードオフにしてしまっているのかもしれません。

    その問いへのヒントは、意外にも僕たちのすぐそばにあります。
    それが、一片のチョコレート。

    僕は、”カカオで人生を味わう” をコンセプトに活動しています。
    チョコレートの製造販売はしません。
    ”味わう” ことへの問いかけと、気づきの体験を提供しています。

    ”カカオで人生を味わう” とは、一体どうゆうことなのか。
    一緒に思考を巡らせてみましょう。

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    Unsplash / Noah Buscher

    チョコレートから世界を俯瞰する

    〜外側の解像度を上げる〜

    アートは宗教、民族性、歴史と分かち難く結びついており、言葉というある種「限界があるコミュニケーションツール」にはない〝表現力〟を内包しています。<中略>
    単に知識を身につけるのではなく、「なぜ、どうして、どんなふうに」と考え、「自分」というフィルターを通して見る。そのうえで「自分なりの問い」を導き出して、歴史的背景や民族性、人間性などの「世界観」を読もうとするのです。

    山中俊之 「「アート」を知ると「世界」が読める」
    プロローグより

    あなたがこれまで一番印象的だったアートって、どんな作品ですか?
    具象画、抽象画、風景画、肖像画、彫刻、モニュメント、あるいは名もなきアーティストの作品、何でもかまいません。

    では、その作品のどんなところが印象的でしたか?
    筆使いとか、色合いとか、作品全体の様子とか…。
    人によっては、制作過程が印象的だったという方もいるかもしれませんね。

    アートは、僕たちに様々なメッセージを伝えてくれます。

    アートとは、一人のアーティストから見える世界の一部。
    そこには、時代背景やアーティスト自身の心境、あるいは社会に向けられた警告が含まれていることもあります。

    一つの作品を通じて、僕たちはアーティストと対話しているといえるのです。

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    Unsplash+ / Andrej Lišakov

    ーーなぜいきなりアートの話をしたのか。

    僕たちがチョコレートと呼ぶ、その茶色い板。
    それは、単なるお菓子を超えた『食べられるアート』だからです。

    一枚のチョコレートには、産地の土壌、品種、作り手の哲学、そして数千年の歴史が凝縮されています。

    近年、Bean to Barチョコレートがブームとなり、産地や品種にも注目が集まるようになりました。

    例えば、マダガスカルやエクアドルなどのカカオは、華やかな風味を持つことで世界中から注目を集めています。
    最近だと、台湾も品質の非常に良いカカオを栽培することで、注目を集めていたりしますね。

    産地や品種によってカカオの個性が変わるのですが、カカオポッドの収穫から、チョコレート製造までのプロセスによって、その表情は全く異なるものとなります。
    カカオと砂糖だけで、ナッツやアプリコット、ヨモギのような香りがしたり、ジャスミンを思わせる華やかさ、中には煙を思わせるダンディなキャラクターを表現することができるのです。

    さらに、カカオは人類史と切っても切り離せない存在です。

    ヨーロッパを語る上でチョコレートはなくてはならないですし、数千年前に中南米で興ったマヤ・アステカ文明なども、カカオがあってこそ。
    当初は神聖な飲み物として扱われていたという史実や、19世紀に興ったチョコレートの四大革命などは、実に興味深いものです(もちろん、負の側面もあります)。

    「甘い(体に悪そうな)お菓子」、あるいは「ハイカカオチョコレートは苦い」というイメージは、今や変わりつつあります。

    産地の違いを味わうことは、世界地図を舌で旅するようなもの。
    作り手の意図を読むことは、一枚の絵画を鑑賞するのに等しい。ーー

    一愛好家として、チョコレートの魅力は語りきれません。

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    筆者撮影
    テイスティング企画の準備風景

    実際、僕自身チョコレートから歴史や地理に興味を持つようになり、その国の文化や食、地政学なども調べたりするようになりました。

    何を隠そう、学生時代で最も苦手な科目は、社会や歴史。
    授業中はとにかく眠くて仕方なかったし(笑)、当時は将来何の役に立つのか、さっぱりわかりませんでした。

    でも、今ははっきりとわかります。

    僕たちは、自分が思っている以上に
    この世界のことを知らない、ということを。

    ”知ること”以上に面白いことはない、ということを。

    知識と知識を結びつけ、
    自分なりに仮説を立てて世界を俯瞰することが、
    生きていく上で重要であるということを。

    まさか、チョコレートからマクロな視点で世界を俯瞰するようになるとは、思っても見ませんでした。

    チョコレートは、五感を通して世界を広く俯瞰して知る、リベラルアーツ(※)の側面を持っているのではないかと思うのです。

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    Unsplash / Aleksandar Popovski

    ※ 専門領域に縛られず、多面的に学び続け、思考する力のこと。解釈は人によって異なるが、日本語だと「一般教養」とも訳される。
    参考:Schoo for business

    チョコレートから自らを観察する

    我々に与えられたこの時間はあまりの速さですぎてゆくため、ようやく生きようかと思った頃には、人生が終わってしまうのが常である

    哲学者 セネカ

    〜内側の解像度を上げる〜

    先にも述べた通り、ここ数年の間に ”カカオ本来の味” に着目したチョコレート専門店が急激に増えました。
    カカオ産地は僕が知る限り58カ国(参考:GLOBAL NOTE 2026/05/17閲覧)、日本国内のメーカーは200程度、カカオ品種に至っては分類しきれないほどの種類があると言われています。

    ワインやコーヒーと比べるとまだまだ研究途上ではあるものの、ハイカカオチョコレートは、産地(テロワール)✖️品種✖️つくり手(農家、メーカー)によって無限大にカカオを ”表現” することができるのです。

    そうした一枚の結晶は、見た目、食感、音(割った時や落してみた時の音)、香り、風味、その全てにおいて同じものはありません。

    まさに、五感を通じて味わう芸術作品。

    僕は、趣味の一環で ”チョコレートのテイスティング” を行っています。

    テイスティングとは、五感を使って対象を観察し、自らの言葉で表現する、一種のコミュニケーションの手法です。
    ワインが好きな方はお詳しいかと思います。

    だいたい1時間くらいでしょうか、じっくりチョコレートを観察して、視覚・触覚・聴覚・臭覚・味覚で感じたことを、自分の言葉で書き表すようにしてます。
    (気になる方は、ぜひ僕のインスタグラムを覗いてみてくださいな!)

    いやいや、チョコレートでそこまでするか、とびっくりすると思います。
    味や見た目はまだしも、”音” に注目しようなどという人、まぁまずいないですよね(笑)

    しかし、この五感をフルに活用する行為は、僕たちが見失ってしまいつつある重要なことに気づかせてくれます。

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    筆者撮影
    まるで焼き菓子のように粒度の粗いチョコもある

    たとえば、こんな瞬間ありませんか?

    ランチタイムのデスク。
    あなたは、パソコンの画面を見ながら、コンビニで買ったパスタを口に運んでいる。
    ・・・味?たぶん、美味しいはず。
    でも、本当のところはよく覚えていない。

    あるいは、週末のレストラン。
    目の前に、美しい料理が運ばれてきた。
    あなたの手は、フォークよりも先にスマートフォンを握る。
    最高の角度を探し、シャッターを押し、フィルターを選ぶ。
    その料理が一番美味しい『瞬間』・・・あれ?いつだったっけ・・・。

    午後の会議の資料か、SNSのタイムラインに目を奪われている時、あなたにとって食事はただのマルチタスクに成り下がります。

    皮肉にも、美しい料理の写真を撮れば撮るほど、脳はその暖かさや香りを記憶しなくなってしまいます。

    これは、個人の怠慢ではありません。
    構造的な問題です。

    技術の進歩は、人類に安定した食料供給をもたらしました。
    一部の国と地域に限られるとはいえ、生物として類を見ない快挙です。

    しかしその代償として、より安く、より強く、より手軽な刺激を追求した結果、僕たちは、繊細な風味を感じ取る能力を、経験という人生の財産を蓄える能力を、少しずつ失いつつあるかもしれません。

    さらに、効率化のはずのテクノロジーが、皮肉にも次のタスクを際限なく生み出し、僕たちの時間を削り続けています。

    特に日本では、忙しく働き続けることが能力の証のように語られ、余白を「怠惰」と捉える風潮がいまだ根強い。
    睡眠を削ってまでビジネスを広げようとする姿を見かけますが、一事業主として、それで本当に意味のある成果が出せるとは思えません。
    仮に出せたとしても、どこかで必ずツケを払うことになります。

    目の前のものと向き合えず、余白もない。
    この状態が続くと、僕たちから静かに奪われていくものがあります。

    それは、創造性と、長期的に自分の人生を設計する力です。

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    unsplash+ / Getty Images
    僕たちはいつの間にか、”今、ここ” の感覚から切り離されてしまっている。

    余白が必要なのも、五感で味わうのも、大事なことはわかるけど、どうすれば良いかがわからないーー

    そんな時に、チョコレートがあります。

    手軽に始められて、五感をフルに活用できる構造を持っていて、それでいて奥が深い。
    余白の練習台として、これほど魅力的な素材はありません。

    仕事の合間の5分間。
    たまたま街で見つけたチョコレートと、
    お気に入りのコーヒーを。

    すべての通知を止めて、
    ただ静かにのんびりと、
    窓の外を眺めながら、
    ひとかけらのチョコレートを眺める。

    その香り、触感、スナップ音、舌触り、口の中で溶けていくプロセス、苦味、酸味、そして、最後に鼻に抜ける余韻ーー

    心と体の栄養補給と共に、充足した余白時間が味わえることでしょう。

    テイスティングをはじめとして、”食べること” 全体にマインドフルになると、不思議なほど、心も、お腹も、満たされるのがわかります。
    大人になると、丁寧に味わうことをいつの間にか忘れてしまうようです。

    食材本来の味を意識するようになってから、僕の食生活はガラリと変わりました。
    以前は、空腹を満たすためにポテチとかお菓子とかに手を出していましたが、今となっては「食べたい」と感じなくなったんです。

    体へのダメージを気にするようになったから、というのもあります。
    しかし、なんといっても味がイメージできてしまうから。
    「食べたい」という気にならなくなってしまったんです。

    一般に売られてるお菓子とかジャンクフードとかって、素材の味より調味調の味が強烈に強かったり、良くも悪くも味が ”均一” になってますよね。

    もちろん、前述の通り、安定的に食料が提供できる大きな要素でもあるので、一概に否定するつもりはありません。
    お金を出す機会が減ったとはいえ、全く手を出さないわけでもないです。

    ただ、素材の持つ複雑さを感じないのです。
    シンプルにいうと、”飽きてしまった” とも言えます。

    一枚の良質なチョコレートをじっくりと味わう方が、はるかに深く、長く、好奇心を満たしてくれます。

    こうして、五感の解像度が上がり始めると、不思議なことが起こります。
    ただ味わうだけでなく、その時間の中で、ふと『思考』している自分に気づくようになるのです。

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    unsplash+ / Getty Images

    ブルース・リーは、映画の中でこう言っています。

    考えるな、感じろ。月を示した指先のようなものだ。指先に目を奪われるな。さもなければ、天の光を見逃すことになる。

    映画「燃えよドラゴン」より

    この言葉は、”何も考えずに感覚で生きるべきだ!” というニュアンスで使われがちですが、実はそうではありません。

    これは、ただ感覚任せに生きろという意味ではなく、言葉や論理では割り切れない微細な感覚のしっぽを捕まえろ、ということです。

    チョコレートのテイスティングは、まさにその訓練です。
    「この香り、なんだろう。アプリコット?いや、もう少し燻した感じがする……」

    すぐに答えが出ない。
    でも、何か気になる、その感覚を手放したくない。

    こうした「モヤモヤと向き合い続ける力」を、心理学ではネガティブ・ケイパビリティと呼びます。
    不確実なものに耐え、すぐに答えを求めない力のことです。

    タイパが重視され、時短コンテンツが溢れる今、この力はみるみる削ぎ落とされています。

    そしてこれは、AIが当たり前になった時代にこそ力を発揮します。
    「なんかそうじゃないんだよな」という感覚を持てるかどうか。
    その違和感のしっぽを捕まえられるかどうかが、AIに振り回される側になるか、使いこなす側になるかの境界線です。

    手近な答えに飛びつくのではなく、自分の内側から湧き上がる感覚を信じ、磨き続けること。
    その訓練が、一片のチョコレートから始められるのです。

    味わい深い人生であるために

    なにが君の しあわせ
    なにをして よろこぶ
    わからないまま おわる
    そんなのは いやだ!

    やなせたかし「アンパンマンのマーチ」より

    〜主体的な生き方を取り戻す選択〜

    人生の終わりに、僕たちは何を思うのでしょう。

    効率化しようとあらゆる手を尽くしてきた。
    数字も、結果も、それなりに残した。
    でも、大切な人と何を食べたか思い出せない。
    自分の感覚に耳を澄ませた記憶がない。

    ーーそんな後悔をしたくはない、と僕は思っています。

    僕たちは、便利さに身を委ねすぎ始めているのかもしれません。
    古代の偉人たちが生きた時代よりも遥かに、”生” を永遠のものと感じるようになっているのかもしれません。

    スマホが記憶の肩代わりをし、AIが思考の代役を務めようとしています。

    計り知れない利便性と引き換えに、僕たちが ”考える時間” や ”感じる時間” を、人生を味わうことを、少しずつ手放そうとしているのではないでしょうか。

    誰かが設計したゲームのルールで、誰かが設定したゴールを目指して走り続けた先に、あなたが本当に望む景色はありますか?

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    unsplash+ / Roberta Sant'Anna

    ”この世界を五感に焼き付ける”
    これは僕のモットーの一つです。

    それは、スマホを置いてこの身で世界を眺める勇気であり、世間体よりも自分の感覚を信じ、磨き続けるという覚悟でもあります。

    大金を叩いてわざわざ遠出したり、人混みに紛れながらイベントに行ったりしなくてもいい。

    電車の窓から見える夕日。
    快晴に映える建物の輪郭。
    ふと耳に入る子供たちの笑い声。
    昼寝をする猫。
    道端の草花ーー

    日常の見方をほんの少し変えるだけで、この世界には僕らの心を満たす美しさが溢れています。

    チョコレートを少しずつ味わうこと。
    それは僕にとって、現実世界との再接続の一つです。

    この記事を読んだら、ほんの少しだけ、「人生を味わうってなんだろう?」とご自身に問いかけてみてください。

    ほんの少しだけ、五感に目を向けて生活してみてください。

    その味わいは、決して、誰にも奪うことはできませんからーー

    参考

    • 谷川嘉浩 「スマホ時代の哲学 深い集中を取り戻し豊かな時間を生きる」 ディスカヴァー・トゥエンティワン(2025/11/25)

    • スティーブン・スローマン, フィリップ・ファーンバック「知ってるつもり 無知の科学」早川書房(2021/9/2)

    • 山中俊之 「「アート」を知ると「世界」が読める」幻冬舎(2024/3/27)

    • エリック・R・カンデル 「なぜ脳はアートがわかるのか ―現代美術史から学ぶ脳科学入門―」青土社(2019/6/22)

    • アン・ウーキョン 「イェール大学集中講義 思考の穴──わかっていても間違える全人類のための思考法 」ダイアモンド社(2023/9/13)

    • ドリー・クラーク「ロングゲーム 今、自分にとっていちばん意味のあることをするために 」ディスカヴァー・トゥエンティワン(2022/7/22)

    • ジュリエット・ファンと「WHITE SPACE ホワイトスペース―仕事も人生もうまくいく空白時間術」東洋経済新報社(2022/9/23)

    • オリバー・バークマン「限りある時間の使い方」かんき出版(2022/12/15)

    • ウィリアム・マッカスキル 「 〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ 」みすず書房(2018/11/2)

    • シャロン・モアレム「DNA再起動 人生を変える最高の食事法」ダイヤモンド社(2020/10/7)

    • ブロニー・ウェア「死ぬ瞬間の5つの後悔 」新潮社(2012/12/18)

    • ソフィー・D・コウ, マイケル・D・コウ 「チョコレートの歴史」河出書房新社(2017/2/6)

    • ドム・ラムジー「CHOCOLATE(チョコレート):チョコレートの歴史、カカオ豆の種類、味わい方とそのレシピ」東京書籍(2017/12/11)

    • GLOBAL NOTE「世界のカカオ生産量 国別ランキング・推移」https://www.globalnote.jp/post-5654.html(2026/05/17閲覧)

    • Schoo for business「リベラルアーツとは?高まる必要性や効用・習得方法を解説」https://schoo.jp/biz/column/938(2026/05/22閲覧)

    書籍リンク


     
     
    ”カカオで、人生を味わう” をテーマに活動しています。 noteでは仕事や日常の違和感、ふと立ち止まった時に見えるものを書いてます。 心理学やカカオも登場しますが、本質は『本当って何だろう』という問い。 複数の領域から見える、同じ人間の本質を言語化していきます。

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