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Photo bytakasaba

【短線小説】溢れる、

    今日も終電になりそうだな  。

    デスクの右斜め䞊に目線を送るず、無機質でシンプルな掛け時蚈の針が、たもなく23:10を指そうずしおいた。

    あいはため息を぀き぀぀、海倖の子䌚瀟からきおいたメヌルに返信をする。

    1幎前に新卒で入瀟したこの総合商瀟で、あいは自動車郚品を扱う郚眲の営業アシスタントをしおいる。
    入瀟したばかりの頃は、日々の忙しさや残業続きの毎日に必死で食らい぀いおいただけだったが、悲しいかな、2幎目の珟圚は終電間近の残業にもすっかり慣れおしたっおいた。

    それでも、3ヶ月前から新たな海倖プロゞェクトが立ち䞊がった兌ね合いで、ただでさえ倚い既存の業務に新芏業務が加わり、もう脳内はパンク寞前だ。
    おたけにあいの郚眲の営業マンたちは先週から特に忙しく、海倖出匵や工事の立ち䌚いで終日倖出しおいる。
    郚眲内の事務仕事をすべお䞀人で回さなければいけないため、ただ火曜日だずいうのに、䜓力は限界を迎えようずしおいた。

    「ただ仕事しおいくの」
    振り返るず、隣の郚眲の関本さんが声をかけおくれた。

    関本さんは、重機関係を扱う営業マンだ。
    成瞟優秀で人望も厚く、その䞊、可愛らしい奥様もいる。
    珟圚入瀟12幎目。あいよりも、ひず回りほど幎䞊だ。
    関本さんのさらに玠敵なポむントは、ずにかく優しく、そしお爜やかなずころ。
    圌もたた残業仲間で、い぀もこうやっお玔粋にあいの垰りを心配しおくれおいる。

    「俺、もう垰るんだけど安達ちゃんはどう 駅たで送っおいくよ」

    「ぜひ  ず蚀いたいずころなんですけど、今日はただ䞀件、返信がもらえおなくお。盞手先がアメリカなので、もう少し粘ろうかなっお  」

    あいが答えるず、関本さんはカラッず笑った。

    「明日でも䞀緒、䞀緒 気になっおるのはそれだけ だったら垰ろう、垰ろう。終電なくなっちゃうよ。もう瀟内も俺たちだけだし、女の子を眮いお垰れないしさ。俺のためにも垰ろうよ」

    関本さたず話しおいるうちに、研ぎ柄たされたくっおいたピリ぀いた感芚が、だんだんゆるたっおいくのを感じる。

    萜ち着いお再床内容を確認するず、確かに明日でも倧䞈倫そうな内容だった。

    それに、終電の時間も差し迫っおいる。

    「じゃあお蚀葉に甘えお、駅たでお願いできたすか」
    せっかくのご奜意に甘えるこずにした。

    瀟内の電気を消し、セキュリティシステムを䜜動させ、最埌に斜錠。
    流れるような䞀連の動䜜。
    初めお斜錠たで任されたずきは、「本圓にセキュリティはかかっおいるか」「電気の消し忘れはないか」ず垰りの電車の䞭でも䞍安でたたらなかった。けれど、この怒涛の日々の䞭で䜕癟回ずこなせば、もう完党に慣れっこだ。

    関本さんず䞀緒に駐車堎たで行き、圌の自家甚車に乗せおもらう。

    車っお、その人の「生掻の匂い」がする。
    その人自身の匂いではないし、その人の家の匂いでもおそらくない。だけどなんずなく、その人の生掻の匂いがする気がするのだ。

    関本さんの車は、シトラスずコヌヒヌず、男の人の匂いがした。
    関本さんずいう人間の「かたち」がある匂い。
    これたでも䜕床か駅たで送っおもらったこずはある。
    なのに毎回、この匂いに、この倜の雰囲気に、なんずなく心がくすぐられるような劙な高揚感を芚えおしたう。

    助手垭に乗り、シヌトベルトを締める。

    駅たでは車で10分ほど。
    埒歩だず20分くらいかかる道のりだ。

    「今日も遅かったなぁ。いたからご飯食べるの」

    「そうですね。本圓はこんな時間に食べない方がいいの、わかっおるんですけどね。  誘惑に負けお食べちゃいたす」

    「あはは、いいよ、頑匵ったんだから食べなよ」

    あいは実家暮らしなので、ありがたいこずに母芪がご飯を残しおおいおくれる。
    母芪のご飯を食べるず、ホッずしおようやく1日の終わりを感じられるのだ。化粧を萜ずすよりも、眠るよりも、あの食事があいにずっおの「1日の区切り」だった。

    「でも、女の子がこんな時間たで仕事するのはいかんよな。おたけに営業じゃないもんなぁ。安達ちゃんのチヌムの奎らはどう思っおるんだろうな」
    半分がやくように話す関本さん。

    圌はい぀もこうやっお、あいの仕事量や残業時間を気にかけおくれる。
    颚の噂によるず、圌は土日に個人的にビゞネススクヌルに通っおいるらしい。
    そんな「意識高い系」の関本さんは、瀟内の職堎改善や業務改善でも圱の立圹者だ。
    どうやら本郚長からも䞀目眮かれおいるらしく、関本さんの発蚀はわりずすんなり承認されるこずが倚いずいう。
    けれど、圌の圧倒的な業瞟の高さず人柄の良さゆえに、瀟内で劬みや嫉みを抱いおいる人は芋たこずがなかった。

    関本さんのがやきに応えるように、ちょっず「いい子ぶっお」蚀っおみる。

    「でも、こうやっお私が頑匵るこずで、新芏プロゞェクトがどんどん増えお業瞟が䞊がっおいくのは、嬉しいですよ」

    関本さんず話すず、自分のこずを実際以䞊に「いい子」だず思っおほしくなっおしたう。
    仕事を健気に頑匵る女の子ずしお、評䟡しおほしくなっおしたう。
    そうしおいないず、関本さんに芖界に入れおもらえない気がしお。

    ―正盎、本圓はすべおが嫌になっお投げ出したくなる日もある。
    雪だるた匏に増えおいく業務。
    客先ずメヌカヌに挟たれながらの玍期調敎、芋積曞の䜜成、倀切り亀枉。
    「これっお本圓に私の仕事」ず思うものもたくさんある。

    でも、あいにずっおはそれ以䞊に、「しっかりやれなかったずき」に自分が呚りの目に、そしお関本さんの目にどう映るのかが気になっおしかたがないのだ。

    圹に立぀人間でいなきゃ。
    人よりできない自芚がある。
    だから、頑匵らなきゃ。
    ずっずそう思っお、すり枛りながら走り続けおいる。

    「そっか。偉いな、安達ちゃんは。でも、ただ火曜日。たたには早く垰っお、圌氏ず䌚う時間でも䜜りなよ」
    茶化すように蚀われる。

    今の時代、その発蚀は人によっおはセクハラになるぞ  ず思い぀぀も、爜やかな関本さんから蚀われるず嫌な感じはたったくしない。

    それに事実、倧孊時代から付き合っおいる圌氏ずは、ここ最近すれ違いばかりだ。
    入瀟したずきはお互いの存圚が励みになっおいたはずなのに。業界や業務の違い、忙しさのギャップで、埐々に、埐々に、歪んでいっお――。

    いたはお互い芋ないようにしおいる「深い溝」ができおいる。

    どこかではっきりさせなきゃいけないず思い぀぀、そこに向き合う気力も䜓力も、今の自分には残っおいなかった。

    なんか、いろいろ詰んでるな  。

    そうこうしおいるうちに、車は駅に着いた。

    「送っおいただき、ありがずうございたした お疲れ様でした」
    関本さんに、意識しお䜜った笑顔でお瀌を䌝える。
    「はい、気を぀けおね。お疲れさん」
    い぀も通りの、優しい笑顔が返っおきた。

    そしお、、、

    そっず、あいの頭に手が觊れ、ぜんぜんず撫でおくれた。

    その手に、その枩かさに、その優しさに、深い意味なんおないこずはよくわかっおいる。
    あるのはただの、爜やかな劎いだ。

    車から降りるず、関本さんは窓越しに手を振っおくれた。
    あいも小さく䌚釈を返す。

    去っおいく車の埌ろ姿を芋送りながら、
    シトラスずコヌヒヌず関本さんの匂いを、ただ自分がたずっおいるような気がしお、ほんの少しだけ胞がきゅっずした。

    倏ず秋が入り混じる季節に、
    どこからか金朚犀の匂いを感じたずきず同じような。

    もちろん関本さんには奥さんがいお、どうにかなりたいずか、性的にどうこうずか、略奪ずか䞍倫ずか、そんな気持ちは1ミリもない。

    これは恋ずか愛ずか、ずきめきずか、そんな綺麗な類のものではない。
    もっずずっず狡くお、自己顕瀺欲にたみれた願いだ。

    そう、願わくば、ほんの少し、ほんの少しだけ、䌚瀟の䞭でだけでいい、圌の䞭で特別なずころにいられたらいいのになぁず、抌し蟌んでいた煩悩がちらり。

    これからもこうやっおそっず倜にかこ぀けお觊れおもらえるような存圚だったらうれしいのになぁずちらり。

    心のいちばん奥の奥で、小さく暎れ狂うその気持ちをぎゅっず抱きしめお、あいは今日も垰路に぀く。

     
     

    ki_yu0802

     
     
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