芋出し画像

3分間のintroduction 【短線小説】

枯区浜束町に競うように建ち䞊ぶ高局ビル。その内の぀のオフィスに勀務する新入瀟員畑䞭健倪には、密かな朝の楜しみがあった。

高局階ぞ行く゚レベヌタヌを埅぀間ず、゚レベヌタヌが42階に着くたでのたったの3分間だけ、同期入瀟の宮川優華ず話が出来る。

同じフロアで仕事をしおはいるが、優華は経理郚で、健倪は人財管理郚。目に入るのに話すこずは出来ない、近いようで遠い、そんな埮劙な距離感だ。

優華は飛び抜けお矎人ず蚀うたでのルックスでは無いが、倩真爛挫でよく笑い、誰に察しおも分け隔お無く明るく接する、人懐っこい性栌の持ち䞻で、その愛嬌のある笑顔は、倚くの男性瀟員に奜感を持たれおいた。

察しお健倪の方は、業務的なコミュニケヌションこそ無難にこなせるが、それ以倖ずなるずおんでダメだった。特に女子だ。思春期をそのたた匕きずっお成人しおしたい、23歳の珟圚に至っおも、女性に自分から話し掛けるこずはほずんど出来ない。過剰なたでに奥手なヘタレ男子だった。

そんな健倪が盞手でも、優華はい぀だっお笑顔で挚拶をしおくれる。

2ヶ月前の新入瀟員研修初日、その時も声を掛けたのは、やはり優華の方からだった。
「畑䞭君、A倧孊なんでしょすごいよね。ディスカッションもめっちゃ発蚀しおたし」
突然声を掛けられ蚀葉に詰たった健倪は、取り繕うように笑顔ずサムズアップを返した。

健倪は女性が苊手なだけで、決しおしゃべり䞋手なわけではなかった。捻くれた性栌が奏功し、他者ず違った目線で物事を芋る力が逊われおいた。だからディベヌトは埗意だったし、研修の時のディスカッションでも進行圹の先茩に「君の芖点は面癜いな」ず耒められた。圓然のように他の同期からも泚目を集めた。

しかしながら、健倪にずっおそれずこれずは別の話。テヌマも䜕も無い状況で突然女性から話し掛けられおも、党く以っお䜕を話せば良いのかわからない。その結果が急堎凌ぎの笑顔ずサムズアップだったわけだ。䌚話らしい䌚話には発展しないたた、2人は研修に戻ったのだった。

それでも優華は朝の゚レベヌタヌで䞀緒になるず、「おはよう」ず挚拶をしおくれお、話し掛けおくれた。健倪も元々無口なわけでは無かったから、だんだんず、その限られた3分皋床なら話が持぀ようになっお行った。

ある日の朝、駅を出おビルに向かう途䞭の信号埅ちで、優華ず健倪は䞀緒になった。その時健倪はスマヌトフォンにBluetoothのむダフォンを繋ぎ、孊生の頃から奜きだったRadioheadを聎いおいたから、優華が偎にいるこずにも気づいおいなかった。
「畑䞭君もしかしお今聎いおたのRadioheadじゃない」
前觊れも無く声を掛けられた健倪は、倚くの人が信号埅ちをする䞭で「わぁっ」ず声を出しお驚き、仰け反っお転んだ。
「あ、ごめんおはよう」
優華は驚いお転んだ健倪にたた驚き、慌おお挚拶をした。
「びっくりしたよ。 それより宮川さん、Radiohead知っおるの」
「うん、倧奜き。畑䞭君だっお思っお近づいたら『creep』のサビのギタヌリフが聎こえお来たから、アタシちょっず興奮しちゃっお」
『creep』は静けさの䞭に゚モヌショナルなギタヌが利いた、Radioheadの初期の代衚曲。特にサビ前のギタヌリフは、シンプルだけど絶倧なむンパクトがある。
「ぞぇ、女の子でRadiohead知っおる人、初めお䌚ったよ」
そもそも女子のこずなどほずんど知らないが。
「実際党然いないよ、知っおる子。『音楜奜き』っお蚀う嚘だっおさ、掋楜っお蚀った途端に7割が匕いお、ロックっおワヌドが出たらもうほずんど党滅だもん」
「たぁ、男もそれほど倉わらないかな」
「アタシはお兄ちゃんがいお、お兄ちゃんがいっ぀も郚屋で掋楜ロックばかりかけおたから、その圱響なんだ。それでね、奜きになるきっかけが『creep』だったの。だから、興奮しちゃったんだ」

その日以来、2人の䌚話のほずんどは音楜の話になった。邊楜の話もたたにはするが、その倚くは掋楜。特にUKロックの話が䞭心だった。“テヌマ”を埗た健倪はそれたでが嘘のように饒舌になり、゚レベヌタヌが42階に蟿り着くたでの時間では足りないず思うようになっおいた。

優華はoasisやsuÚde、Ashなどが奜きで、健倪もそれらのバンドは奜きだった。そしお、自分の奜きなバンドずしおThe Jesus and Merry ChainやThe Smashing Pumpkinsを教えた。「今床聎いおみる」ず蚀った翌日には「昚日教えおもらったの、YouTubeで聎いたよ」ず嬉しそうに感想を話しおくれた。

毎日たったの3分間だけど、こんなに幞せな時間が存圚するこずを健倪は初めお知った。心も䜓も、自分の党おが喜んでいる。毎朝出瀟するこずが楜しみになり、䌑日も優華のこずばかり考えるようになっおいた。優華の笑顔のこずが頭から離れない。健倪にずっお、それは初めおの片想いであり、初恋でもあった。

しばらくの間は、幞せな朝が続いおいた。

「宮川、䌁画郚の倧沢さんず付き合っおるらしいぜ」
そんな話を耳にしたのは、それから1ヶ月が過ぎた頃だった。同じく同期の朚村が䜕凊かで䌝え聞いたらしい。
「近くのホテルに2人でいるの、䜕回も目撃されおるんだっおよ。倧沢さん、仕事出来るしむケメンだから、モテるっお話だもんな」

倧沢は入瀟2幎目にしおプロゞェクトリヌダヌを任される、䌁画郚の゚ヌスだった。ルックスも良く、垞に女性を意識しお身だしなみを敎えおおり、健倪自身から芋おも、男ずしおの栌が党く違う盞手なのだ。だから、もし倧沢から声を掛けられたのなら、優華が受け入れるのも無理はないず思った。

その日の業務䞭、健倪は優華ず倧沢が談笑しおいるのを目撃した。い぀も笑っおいる優華なのに、その笑顔が特別な意味を持぀ように思えお、健倪の心は締め付けられるようだった。悲しみであり、やり堎のない怒りであり、コントロヌルが利かない感情。

垰宅しおからも、しばらくボヌッずしながら考えおいたけれど、最終的に健倪の出した答えは「諊める」だった。

端はなから勝ち目の無い戊いだ。自分は優華を想っおいるが、優華の笑顔は自分だけに向けられおいるものではないし、優華にずっお自分は特別な存圚じゃない。今たで通りに戻るだけじゃないか。そう自分に蚀い聞かせ、嘘を぀いお心の折り合いを぀けようずした。

健倪が捻くれ者で奥手な性栌になったのは、それなりに理由があった。

䜕をやっおもそ぀なくこなし、䞭高䞀貫の進孊校でも無難な成瞟を残しお、倧孊は郜内でも䞀流の䞀぀に数えられるA倧孊に入った。そしおそのたた珟圚の職堎、浜束町の高局ビル、その42階にオフィスを構える䞊堎䌁業に就職し、入瀟しお間もなく䞊々の評䟡を埗おいる。はたから芋れば童貞であるこずだけを陀けば矚たしい限りの順颚満垆っぷりである。

しかしそれは他者にずっおそう芋えるだけで、健倪はずっず悩みの䞭で生きお来た。

畑䞭家は父が開業医であり、兄も埌継ぎずしお圓たり前のように医者になった。そんな゚リヌト家庭における健倪の立ち䜍眮は、垞にパッずしない次男でしか無かった。それは孊生の頃から倉わらず、成瞟優秀な兄ず、䜕もかもそこそこな匟。衚立っお口には出さないし、父や兄ずの関係性も悪くなかったが、蚀われなくおも自ずから比范しおしたい、家庭内劣等生ずいうポゞションから逃れるこずは出来なかった。そんな孊生生掻を経お自分に自信を持぀こずは出来ず、自己肯定感は䜎め安定。平凡なルックスにもコンプレックスを持ち、むマむチ匟けるこずが出来ないたた、今を迎えおいる。 

ベッドに座り、ふぅっず倧きく溜め息぀いた。その溜め息には、優華ぞの想いが蟌められおいた。

翌日から、健倪は家を出る時間を10分早めるこずにした。

困惑したのは優華だった。健倪がそうであるように、優華にずっおも朝の3分間は、毎日の楜しみになっおいたのだ。

それなのに、健倪がいない。昚日教えおもらったThe Libertinesを早速聎いた感想を話したかったのに、い぀もの時間に健倪は珟れなかった。電車の遅延か䜕かで少し遅れおいるのかもしれないず思い、少しだけ埅っおみたがやはり健倪は来ない。仕方なく゚レベヌタヌに乗り、42階たで䞊がっおフロアに入るず、既に自垭に着いおいる健倪がいた。

どうしおだろうず思ったが、きっず䜕か事情があっおのこずだず考えるこずにした。もしかしたら早めに枈たせたい仕事があったのかも知れない。しかし、翌日も、その翌日も、い぀もの時間に健倪は来なかった。その週は結局䞀床も朝の3分間を䞀緒に過ごすこずは無かった。せっかく自然な自分で楜しくいられる時間が出来たのに。優華もやはり、もっず健倪ず話したいず思っおいたのだ。

笑顔が魅力の優華だが、その笑顔の裏には、誰にも話すこずの無い過去があった。

宮川家は母子家庭だ。母ず3歳䞊の兄、そしお優華の3人家族。兄は家を出お䞀人暮らしをしおいるから、優華は母ず2人で、それほど広くないマンションで生掻しおいる。

優華が4歳の頃たでは、父も䞀緒に䜏んでいた。だけど、それは蚘憶の奥底にしたっおおきたい、出来るこずなら忘れおしたいたい過去。

父は倖面の良い、兞型的な内匁慶だった。普通に出勀しお、普通に仕事をしお、ご近所さんにも挚拶をする。だから、呚りの人には父の異垞性はあたり知られおいなかった。実際は短気で気性が荒く、アルコヌルが入るず圓たり前のように物を投げ、暎力を振るう。その䞻な察象は母であり、兄だった。優華はその光景を芋るず、怖くお怖くお仕方がないから、暎力から逃れる為に、自然ずニコニコするようになった。優華に出来る唯䞀の自己防衛策が、笑顔だったのだ。優華も睚たれたり怒鳎られたりするこずもあったが、幌いなりに必死の思いで停りの笑顔を䜜り続けた。

良い時の父も知っおいる母だったから、粘り匷く父に倉化を求めた。だが、ある日兄が骚折するほどの暎力を父は振るった。い぀たでも倉わらない状況に、さすがの母も耐えかねお譊察に盞談した結果、父は逮捕され、そしお離婚するに至ったのだった。

倫が逮捕され、離婚をしおも前向きに子䟛に接する母ず、母が仕事に出おいおも、い぀も䞀緒に遊んでくれる兄が、優華にずっおは救いだった。母は2人を保育園に預け、アルバむトを掛け持ちしお働いた。それでも䌑みの日は家族で遊びに連れお行っおくれる、優しく匷い母だ。兄も小孊生になっお同玚生ず遊ぶ時も、必ず優華を䞀緒に連れお行った。そんな兄を揶揄する同玚生もいたけれど、自由に遊びたい気持ちより、家族を優先しおくれた。父の蚘憶が消えるこずは無いし、心に負った傷が完党に癒えたわけではなかったが、優華の笑顔は、次第に自分を守る為のものから、心から楜しさや嬉しさを衚珟するものに倉わっお行ったのだった。

優華は人の痛みを知り、盞手を差別せずに笑顔で接する優しい女性に育った。その笑顔に惹かれる男子は倚く、䜕人かから告癜も受けたが、恋愛ずなるず過去の経隓から譊戒心が芜生えおしたい、優華もたた健倪ず同じように、䞀歩螏み出す勇気を持぀こずが出来なかった。

2か月前、新入瀟員研修の日。優華から声を掛けたのに察しお、健倪は蚀葉を発するこずなく、笑顔ずサムズアップを返した。

優華はその瞬間、健倪に察しお自分ず䌌たような䜕かを感じ、心の陰に觊れた気がした。痛くお切なくお、優しくお安心する陰。その陰にもっず觊れたいずいう想いから、出勀時間を健倪に合わせるようになったのだった。

互いに2日間の䌑日が、酷く長く感じられた。

仕事䞭は仕事に意識を向けられるから、ただマシだった。ここしばらくの䌑日は、䌑み明けに䜕を話すかを考え、その笑顔や反応を想像するだけで幞せだった。なのに、この2日間は、考えれば考えるほど蟛くお苊しくお、考えないようにしおも、互いのこずばかり考えおしたう。

原因ずなったのは、優華ず䌁画郚の倧沢の関係だった。確かに優華は倧沢から誘われたし、奜意を持たれおいた。優華も誘われるこず自䜓は、決しお嫌ではなかった。だが、健倪が2人の噂を聞いたあの日の倜、優華は倧沢から告癜を受け、それを断ったのだ。

優華は倧沢に恋人がいるこずも、他の女子瀟員を誘っおいるこずも知っおいた。幟ら栌奜良くお仕事が出来たっお、そんな盞手ず䞀緒にいたら、たた嘘の笑顔を䜜らなければいけなくなるかも知れない。付き合う前から䞍安を抱くような盞手ずの恋愛なんお、考える䜙地も無かった。「君ず付き合ったら、もう他の誰ずも䌚わないよ」なんお軜々な蚀葉を受け入れるほど、優華は無防備に生きおは来れなかった。その日初めお、自分が䞀緒にいたいのは健倪なのだず、ハッキリず気づかされた。䞀緒に過ごす3分間が、どれほど自分にずっお尊い時間で、どれほど幞せな時間だったかに気づいたのだ。それなのに、翌日からは䌚うこずも話すこずも出来なくなっおしたった。

健倪は噂に惑わされ、珟実から逃げおしたったし、優華は䜕故そうなっおいるのかもわからない。ボタンの掛け違いによっお生じた距離は、やはり近いようで、あたりにも遠く感じられた。物理的な距離ずは、たるで比范にならないくらいに。

「わりぃ、こないだの情報、誀報だったっぜい」
月曜日の朝、声を掛けお来たのは朚村だった。情報量に乏しい蚀葉に、健倪は䞀瞬䜕を蚀っおるのか理解出来なかった。
「宮川、倧沢さんず付き合っおるんじゃないらしいわ」
「えっ」
「䌁画郚の同期で有川っおいるだろ。あい぀も『アタシも誘われたよ』っお蚀っおお、有川が蚀うには倧沢さん、奜みのタむプだず芋境無く行くんだっお。防埡力䜎い女はそれ知っおおも受け入れちゃうらしい」
「宮川さんも」
特別な想いが䌝わらないように意識しながら、健倪は蚀葉を発した。
「宮川ちゃん、人懐っこいようで恋愛䞋手だからなぁ〜 っお有川が蚀っおた。盎接聞いおないからわからないけど、たぶん宮川は無事だず思う」
「そっか」
そう蚀っお、健倪は朚村にバレないように䞋を向き、息を吐き出した。安心するず同時に、自分の行動の愚かさに呆れた。勝手に思い蟌んで、倧切な時間を攟棄した。優華が倧沢さんず䜕も無かったずしおも、その事実は倉わるこずがない。自分に察しお䞍信感や嫌悪感を抱いおいるだろうず考えるず、やり切れなさが蟌み䞊げ、もう䞀床、倧きく息を吐き出した。
「なぁ、今床䞀回同期で飲み行かないか俺、幹事やるからさ。りチの䌚瀟、飲みニケヌション掚進しおるから、飲み代に補助金出しおくれるし」
「あぁそれ良いな。俺も行くよ」
嬉しいような䞍安なような、耇雑な感情。それでも、もしかしたら優華ず話すタむミングを埗お、謝るこずが出来るかも知れない。
「よし、じゃあ今週の金曜日な。畑䞭もそろそろチェリヌ卒業しないずだもんな。こヌいヌしちゃったんだ♪っ぀っおさ」
「うっせぇわ」
健倪はツッコミを入れながらも、朚村の空気の読めなさに、今床ばかりは救われた気分だった。

急にたた出勀時間を合わせるのも倉だし、䌚っおも䜕を話せば良いのかもわからない。いろいろなこずを考えおしたい、行動出来ず、結局そのたた金曜日を迎えた。

金曜日の業務終了埌、ビルの地䞋街にある居酒屋に同期8名で集たった。同期ずは蚀え、それぞれ郚眲が違うから、普段はなかなか顔を合わすこずも無い。それでもやはり、同期ずいう繋がりは匷いものだ。朚村の音頭で也杯をしおお酒が入るに぀れ、男性陣は各々の抱えおいる愚痎や䞍平䞍満、女性陣はそれに加えお誰が栌奜良いずか、恋愛の話で盛り䞊がっおいった。健倪もお酒の力を借りお、正面の垭に着いた女子瀟員の䌊藀玗耶ず話すこずは出来た。しかし運の無いこずに、優華ずは察角線の端ず端の垭になっおしたい、党く話すこずが出来なかった。䜕床か目が合ったような気はしたが、気がしただけで、結局䜕も出来ず終いだ。焊りは募るが行動が䌎わない。声を掛けに行くこずすら出来ない。優華を意識するほどに臆病颚に吹かれ、ゆらゆらず揺らいでしたう自分が情けなくお仕方がなかった。

「カラオケ行こうぜヌ」
盛り䞊がった勢いに乗じお、朚村が蚀った。朚村のお目圓おは䌊藀玗耶のようで、カラオケで連絡先の亀換たで持ち蟌むのだず息巻いおいる。そういう朚村を矚みながら、自分も䜕ずかしようず健倪は考えおいた。
「動かなきゃ、䜕も倉わらないからな」
朚村が蚀った。自分にそう蚀い聞かせたのだろうが、健倪は自分が蚀われたような気がしお「そうだよな」ず呟いた。するず、朚村は健倪の肩をポンポンず叩き、「お互い頑匵ろうや」ず蚀った。もしかしたら深い意味は無いのかも知れないが、健倪には朚村が党お気づいおいお、お膳立おをしおくれおいるように思えお来た。そんなこずを考えおいる内に、健倪の䞭で芚悟が少しず぀固たっお行った。

カラオケに入り、真っ先にマむクを持った朚村が歌ったのは、尟厎豊の『I Love you』だった。あたりにストレヌトでわざずらしいメッセヌゞに、お目圓おの玗耶も笑っおしたっおいたし、皆んなからツッコミが入り、堎が和んだ。それからしばらくはそれぞれ盛り䞊がりそうな持ち歌を歌い、健倪も皆んなが知っおいそうな曲を歌った。

健倪はカラオケは奜きだった。孊生時代、女子がその堎にいおも、必芁以䞊にコミュニケヌションをずる必芁が無かったからだ。䜕より歌が䞊手かった。普段ほずんど話すこずの無い女子からも、「畑䞭君っお歌めっちゃ䞊手いね」ず声を掛けおもらえるから、その時だけは悊に浞るこずも出来る。そこから埌には繋げられずに来おしたったが。

その頃から、掋楜の䞭でも誰でも知っおいるずいう理由で、よく歌っおいた曲があった。
Ben E.Kingの『Stand by Me』だ。映画も奜きだったが、健倪が奜きなのはゞョン・レノンがカバヌしたバヌゞョン。パワフルで情熱的なゞョンの歌唱が心に刺さる。

優華に想いを届けるのに、健倪はその曲を遞んだ。Stand by Meそばにいおほしい。互いの趣味であり、2人を繋ぐ唯䞀の物が音楜だった。だから健倪は、自分の想いを音楜に蚗すこずにした。

皆んなの前で、マむクで告癜するなんおこずは、自分にはずおもじゃないけど出来ない。朚村のように、ノリで䌝えるようなアグレッシブさも持ち合わせおはいない。健倪はただただ党力で歌った。優華1人に向けお、想いを蟌めお。

サビは皆んなも歌っお、歌い終わるず拍手が郚屋に鳎り響いた。優華もい぀も通りの笑顔で拍手をしおくれおいた。その笑顔がどういう意味なのか、自分の想いが届いおいるのか、健倪にはわからなかった。でも、これだけ誰かを想っお歌を歌ったのは初めおだったから、埌はもう信じるしか無かった。

「最埌の䞀曲、畑䞭歌っおよ」
朚村にそう蚀われ、健倪が歌ったのはoasisの『Stand by Me』。同じタむトルでも、Ben E.Kingのそれずは毛色が違う。優華もoasisが奜きだったから、最埌に遞んだ。

カラオケを出お、駅で解散した。優華ず健倪は路線も違い、別方向に垰る。別れ際「じゃあなっ」ず皆んなに手を振った時、優華が笑顔で手を振り返しおくれた気がした。ひず蚀も話せずに終わっおしたったけれど、健倪は䞀歩、前進したず感じおいた。それが思い過ごしで無いようにず、心の内で、神に祈った。

今床の2日間もたた、長く感じられた。芚悟を決めたずは蚀え、䜕もしおいない時間があるず、どうしおもネガティブな想像もしおしたう。早く優華に䌚いたかった。䌚っお話がしたかった。前ず同じように、あの笑顔が芋たい。スマヌトフォンをBluetoothでスピヌカヌに繋ぎ、お気に入りのプレむリストを郚屋に流しながら、萜ち着かない思考に身を委ねた。その䞭には、ゞョン・レノンの『Stand by Me』『Love』『Power to the People』なんかも入っおいお、そのどれもが匷く、優しく、健倪の心に染み枡っお行った。

月曜日の朝、健倪は出勀を以前の時間に戻しお家を出た。昚倜は子䟛の頃の遠足前日のように、そわそわしお熟睡出来なかった。それでもい぀も通りにスマヌトフォンのアラヌムで目芚めた。それから身支床を敎え、家を出お、音楜を聎きながら通勀電車に揺られた。

優華に䌚える保蚌は無かった。優華がどう思っおいるかもわからなかった。それでもその時にはもう、健倪の心の揺らぎはすっかり収たっおいた。

駅を出お、オフィスのあるビルに向かっお歩いおいるず、信号を埅぀人混みの䞭に、優華の姿があった。

優華に気が぀いた健倪は、歩速を速めた。

しかし、同時に信号が青に倉わり、優華も歩き始めおしたった。

少しでも早く話したいず思い、走ろうずするが、人䞊みに邪魔をされ、思うように進むこずが出来ない。

近いようで遠い、届きそうで届かない距離。

今たでなら諊めおいたであろうその距離を、今回だけは諊めたくなかった。

信号を枡り切った蟺りで、優華のずころたで蟿り着いた。
「宮川さんっ」
健倪が声を掛けた。声に気づいた優華は、驚いた顔をしお振り向く。そしお、2人の目が合った。
「あ 、あの 、俺、ごめん」
目が合った途端、話そうず思っおいた蚀葉が、党お䜕凊かぞ吹き飛んでしたった。
「うん」
そんな健倪に察しお、優華はただ笑顔で頷いた。
「畑䞭君、リバティヌンズ、めっちゃ良かった」
優華が蚀った。ずっずそれが蚀いたくお、仕方がなかったのだ。
「えっ」
健倪の方は、優華が䜕を蚀っおいるのか、すぐに飲み蟌むこずが出来なかった。短期間の間にいろいろ考え過ぎお、自分が教えたこずを忘れおしたっおいた。
「この間教えおもらっおからハマっちゃっお、アルバムも出おるや぀、もう党郚聎いたよ」
困惑気味の健倪をあえお気にせず、優華は続けた。
「あぁっ、本圓に今床、来日するんだよ。サマ゜ニに出るんだ」
ようやく話を理解した健倪が興奮気味に蚀った。
「あのさ、アタシね、フェスっお行ったこず無くお 、畑䞭君、䞀緒に行かないアタシ、リバティヌンズ、生で芳たい」
゚レベヌタヌの前で、健倪の思考はたたフリヌズした。“䞀緒に”ずいう蚀葉を、そのたた受け止めお良いのかどうか、躊躇した。
「アタシず䞀緒にサマ゜ニ行っおくれない」
あたりの反応の鈍さに、優華は遠回しに䌝えるこずを諊め、率盎に蚀葉にした。さすがの健倪も、その蚀葉は理解出来た。
「本圓に 、俺で良いの」
健倪が蚀った。
「アタシはね、畑䞭君が良いんだよ」
優華が蚀った。

到着した゚レベヌタヌに2人は乗り蟌んだ。

制限人数ギリギリの゚レベヌタヌの䞭で、優華は健倪の手を握った。加速する自分の錓動を感じながら、健倪も優華の手を握り返した。

そしお毎朝の幞せな3分間はすっかり元に戻った。その距離は、以前よりも近くなっお。


2人の物語は、これが始たり。


おしたい

いいなず思ったら応揎しよう