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Photo bylisa500ml

さびしくならないサラダを探して<第十五話>

     由弓を交えた食事会は四葉さんのいる<グリーンサム>とその屋上で執り行うことになった。

     メンバーは四葉さんと山根君と七生とわたしと由弓。やっとこさ5人。
     屋上を使う許可を特別にもらってくれた四葉さんに感謝だった。
     
     屋上のドアが開いて、山根君がまずやってきて、その次にコンパにでもやってくるみたいな軽いノリで七生がやってきた。後は由弓を待つだけになっていた。四葉さんは親指をたてて七生に合図する。七生もおなじく来たでーって唇を形作っていた。

     山根君は七生にどうもこの間はお買い上げいただきありがとうございます。ってまじめか!みたいに挨拶をしていた。しおりぃがお世話になってますって続けるから、その小さい時からの呼ばれ方はほんとうに恥ずかしくて
    やめてってその口元を抑えたいぐらいだったけど。ちょっとだけ嬉しくもあった。

     ふたごさんなんすね。って山根君がくだけようとしている。似てないけどね。ってわたしがツッコんだ。いやーほんとうに似てないふたごさんっているんですねって遠慮を知らない。そうすかって七生が笑って。まあ男と女の双子って似てるところ探すのが難しいみたいですけど。正真正銘の双子です。な、って七生は笑ってわたしを見ていた。

     机の上には、料理が並んでる。いろいろ山根君とも考えた上、いつもみてる<ベジルド>のサラダがふだん通りでいいのかもしれないということで、
    ポテサラやシュリンプコロッケや菜の花のサラダ、カニのスパサラにした。

     マカロニグラタン、バラ寿司、ローストビーフにラディッシュソースをかけたものなどは、デパ地下でみつくろった。

     わあうまそうって声を出したのは七生だった。上手いもん食ってたらぜったい幸せになれる、ずっとじゃなくてもその時だけは幸せになれるって思っておれ物を食って来たから、その木村さんもなんか食べることから楽になれるといいなって思う。でももしなれなくても、みんなじゃなくてひとりで食べるのが楽しいってなればいいんやないかな。食べるって人を時々すくってくれるから。

     なっ、しおりぃってわたしにふる。七生には人前でごはんを食べるのが怖かったときがあることを黙っていた。
     わたしはその言葉があの日の山根君と一緒なので、山根君をみた。なんか
    山根君も照れくさそうに笑っていた。

     もしかしたらふたりは似ているのかもしれない。

     相変わらずいい子ねって四葉さんがそのバトンを受け取ってくれた。

     時間を過ぎても屋上の扉は開かなかった。夏の終わりかけの夕刻の風が吹いていた。山根君がスマホを取り出して、ボサノバの曲を流してくれた。

     山根君は時々こういうノールックパスみたいなことをしてくれる。
     そのゆっくりとしたリズムが風の中にまぎれてゆく。そしてその調べは<グリーンサム>の植物たちにも降り注いでいるような気がした。

     もうかなり待っていた。
     ワインやビールも汗をかき始めていたから、主役の由弓はいないけど乾杯することになった。紙コップで乾杯した。

     その時わたしもおなじことを思っていたことを山根君が言った。

     由弓ちゃん来てくれるといいよね。

     みんなの希望のように。そして大げさだけど食べることが苦しくてたまらない由弓が、食べることはできなくても、なにかこのささやかなみんなと温かいものを記憶していてほしいと。身勝手にもそんなことを思っていた。

     そしてほんとうに由弓が来てくれたらわたしは過去のこと、同じようにご飯が食べられなかったことがあったんだよって正直に話そうと思っていた。
     それがフェアだと思った。

    そしてその想いを包んでただただ流れていく時をボサノバのリズムの中に溶け込ませていた。

     その時ふいにゆっくりと、扉が開く音がした。
     由弓かもしれないと思って、みんなでそっちをみたらそこにいるのはあの<さびしいおばさん>だった。

     びっくりして山根君と目をあわせた。

     四葉さんが、わあ、茂ちゃん来たのねって親し気な挨拶をした。
     あの人しげるちゃんっていうんだ。さびしいおばさんとかって命名したけど、しげるちゃんなんだ。
     お母さんすみませんって四葉さんの名を呼んで、わたしをみつけるとあら渋谷さんねって名前を憶えてくれていた。

     うちの常連さんなのよ。茂ちゃんちにはうちの子たちの観葉植物がいっぱいなのよ。

     照れくさそうにしげるさんはそうなのよ帰るとお帰りしてくれるの。
     そりゃしげるちゃんありがとね。しげるちゃんほらみて。きょうのサラダはねどれもさびしくならないのばっかりだから食べてって。

     その言葉を聞いて、四葉さん知ってるんだって思った。

     わあありがとうお母さんって四葉さんの名前を呼んだ。さびしくないサラダを教えてくれたのは渋谷さんのお陰なのよ。ね。ってわたしをしげるさんが見てくれた。
     お母さんあのね。そこにお客さんがいるのよってしげるさんが言う。

     みんなが息を呑んだ。

     はずかしそうにゆっくりと歩いてくるのはモスグリーンのワンピースを着た由弓だった。

     来たーって叫んだのは七生だった。 
     来てくれたんだって山根君。
     ほんとうは無理だと思っていたのに来てくれた。
     わたしは味わったことのない嬉しさを感じていた。

     あの日はじめて苦しそうに<ジョナサン>のサンドイッチを食べていた由弓を見たこの屋上で、また違う出会い方をしていることが嬉しかった。

     こうなれば屋上で出会ったあの婚姻届けをちぎっていた彼もいっそ来たらいいのにって冗談みたいに思っていた。
     みんなさみしい。みんなさみしかったら<天神屋デパート>の屋上に集まればいいんだって。

     
     
     
    ダ・ヴィンチ誌でエッセイ連載後、歌集『ゼロ・ゼロ・ゼロ』刊行。note公式コンテスト#推したい会社 創作大賞2023、2024恋愛小説部門中間通過、ベストレビュアー賞受賞。クリネックス涙腺短歌佳作受賞。短歌アンソロジー『星のうた』(左右社)寄稿。

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