
#2 七夕とプラネタリウム
「あーつまんない!!」
「学校が休みの週末に限って雨、雨、雨!」
ふてくされた表情で瑠璃が愚痴る。
「仕方ないよ瑠璃ちゃん。今、関東は梅雨なんだし」
陽菜が瑠璃をなだめる。
たしかに仕方ないとはいえ、
出かけられそうな日に限ってよく雨が降る……気がする。
それまで、俺達の会話を黙って聞いていた霊子先生が口を開く。
ちなみに直近、本編の事件の影響で、
俺達は現在、霊子先生が借りているアパートに居候中だ。
「日本には四季を楽しむ文化がある」
「花見や怪談、海水浴に登山、ウインタースポーツなど、
楽しむ方法を見出したほうが有意義だぞ」
『分かってはいるのだ!』と顔に書いてありそうな、
見事なぐぬぬ顔を浮かべる瑠璃を見て、俺と陽菜は微笑む。
「あっ、そういえば……」と、
霊子先生がクローゼットの中をあさりはじめる。
「……これだ。この間、姪っ子が来た時に買ったやつ」
取り出してきたのは、
おもちゃの流しそうめん機。
ポンプ式で麺が上に押し上げられ、レールが斜め8の字になっていて、
麺が延々と流れ続ける仕組みだ。
子供のおもちゃとはいえ、こういうのはワクワクする。
「そうめんを流すだけで楽しいのか? 人間とは不思議な生き物だな」
まだ口をとんがらせて、ごきげん斜めなご様子な瑠璃。
5分後――
「とったどぉぉ!!」
目をキラキラさせて麺を持ち上げる瑠璃の姿は、
まるで見た目通り女児そのものだ。

「次は私が!」
と、瑠璃に付き合いながらも楽しむ陽菜の笑顔を見て、
目が横線になりそうなほど幸せな気持ちになる。
これが巷でいう「てぇてぇ」ってやつなのかもしれない。
「こうやって、季節や天候を楽しむことができるだけで、
人生が少しだけ豊かになるんだ」
大人な余裕?を感じる。
今の俺には先生の言葉を全て理解することは難しいのかもしれない。
でも、言わんとしていることはわかる。
「そうですね、どうにもならないことは抗うのではなく、
利用するのが良いのかもしれませんね」
先生はニヤリと笑いながら、横目で俺を見た。
雨粒が窓を伝う様子をみつめながら、
霊子先生がポツリと言う。
「しかし、明後日だけは晴れてほしいな……」
「何かあるんですか?」
「7月7日、七夕だ。織姫と彦星にはできるだけ毎年会ってほしい」
「意外とロマンチストなんですね」
「意外とはよけいだ」
俺は軽い肩パンをくらう。
「ハッピーエンド主義者としては、夢をみたいのさ……」
「歳の近い男女が毎日会う場所なんて学生の時だけだ」
先生は少し遠くを見る。
「大人になるとホントに出会いがなくなるぞぉ。
だからこそ、
勉強に部活、恋……青春を謳歌したまえ
若人よ」
これもよく聞く話だが、きっと分かっているようで、
分かっていないのだろう。
ぶっきらぼうだが、強くて頼りになる、優しい霊子先生の小さな願い。
叶うといいな……
7月7日、七夕当日――
雨は降っていないが、天気は終日曇り予報。
「まぁ仕方ない……」と言いながら、
凄く残念そうな表情の霊子先生。
夜に願いを書く用の小さな笹の枝と、短冊、
そして夜の食材を近くのスーパーに買いに行った帰り道。
分からないことをよくAIに聞く俺は、自然とスマホに向かって、
「天気が悪い日に星空を見る方法ある?」と問いかけていた。
すぐさま、AIからいくつかの無機質な提案が返ってくる。
『1. 天候の良い地域へ移動する』
『2. 別の日程に再スケジュールする』
どれも現実的ではない、システムらしい回答。
「現代っ子め」と苦笑いする霊子先生。
しかし、3つ目に表示された提案で、
瑠璃を除いた俺たちは顔を見合わせた。
『3. 現実の星空ではありませんが、
プラネタリウムの観賞であれば天候の影響を受けずに満天の星空をお楽しみいただけます』
「いいね!」
俺たちの声がそろう。
「近くだとどこにある?」
間髪入れずにスマホへ追加で問いかける。
『現在地よりお車で約15分の圏内に
「葛飾区郷土と天文の博物館」がございます』
俺達は霊子先生の車に乗り込み、現地へ向かった。
曳舟川親水公園通り沿いに車を走らせていると、通り沿いに紫陽花が綺麗に咲いていた。
少しだけ周りの景色を楽しめる心の余裕ができたのかもしれない。
葛飾区郷土と天文の博物館の駐車場に車を置き、
建物の中へ入って行く。
学校の校舎が改修工事で午前中授業だったとはいえ、
午後の2時頃の入館だ。
午後のプログラムに間に合うよう、急いでプラネタリウムのある3Fへ進む。
部屋が暗くなり、ドームが光で照らされて行く。
優しく、壮大な音楽が流れ雰囲気を盛り上げるその空間は、
まるで夜のキャンプ中に大自然の中で本当に星空を見上げているかのような感覚に陥る。
七夕ということもあり、ナレーションも七夕仕様だ。嫌でも気分が上がる。
暗いドームに映し出される星々の明かりで、上を向いている3人の表情が薄っすら見える。
目をキラキラさせて観ている陽菜と瑠璃。

その横の霊子先生の目には、うっすらと涙が溜まっているように見えた。
「ただいまぁ」
帰宅と同時に、陽菜と瑠璃が声を上げる。
「よし!今日最後のイベントだ。短冊に願いを書いてつるすぞ!」
先生の掛け声で、一斉に何を書こうかと悩み始める。
「今日はありがとな。今年はだめかと思ったよ」
先生は小声で俺に言う。
「本物の星空じゃなかったですけどね……」
「それでも、会えたのだろうと思える」
「そう思うことで心が豊かになるし……」
「どうにもならないことは、抗うのではなく」
「利用するんだろ?」
と、俺を見てニヤリと微笑む。
「瑠璃ちゃんは何て書いたの?」
「現世も地獄も笑顔でいれますようにって。陽菜は?」
「私もみんなが笑顔になれますようにだよ」
「悠斗は何て書いた?」
と瑠璃に聞かれ、
「みんなともっと仲良くなり(特に陽菜と)、世界が平和になりますようにってね」
もちろん、(特に陽菜と)とは書いていない。
「みんな優等生だな」
「霊子先生は何て書いたんですか?」
「将来の旦那さんと巡り合えますようにだ!」
「先生は正義感があって、優しいですから。
きっと良い人と巡り合えますよ」
霊子先生は缶ビールを豪快に流し込み、俺の肩に腕をまわした。
「生意気言うじゃないか、最後は私が自力で引っ張ってくるさ!」
そう言って、いつも通り豪快に笑い飛ばした。
ふと、みんなの笑い声の向こう、笹を飾った窓の外に目をやる。
流れる雲の切れ間から――
ひときわ明るい二つの星が、そっと顔をのぞかせていた。
本当に会えたのかどうかは分からない。
でも――
「会えたのだろう」と思うことが、人の心を少し豊かにしてくれる。
そんな七夕も、悪くない。
To Be Continued
『御厨さんは地獄入国管理官!? Side Story』
スピンオフ
キャラ達の日常を描いてます。
読んでくれてありがとう。
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頑張ります。
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少しずつですが、
楽しんでもらえる作品にしていけたらと思っています。
次回もよろしくお願いします!
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