メインコンテンツへスキップ
見出し画像

下北沢の沖縄療法

    そのお店に出会ったのは本当に偶然で、その時の私は憂鬱と焦燥と絶望のビンゴにリーチがかかっている状態だった。 なんでそんなことになっていたのかって、それは大学院の卒業の危機と論文の執筆状態と、卒業後の未来のダークネスが頭の99%を占めていたから。本当に誇張抜きで、いっそのこと中退して一刻も早く社会人にならないとと思っていたんだよ。親からは卒業したらいい加減に国民保険やら年金やらを自分で払ってくれと言われていて、私は経済的にもまだまだ一般的な大人を名乗れないくらいの未熟者なんだとか思えてきてしまって、いよいよ社会というものに抹殺されるのかなとか考え始めていた、そんな感じの4月だった

    それでお店の話に戻るんだけど、そこは下北沢にある沖縄料理屋さんなんだ。恋人とよく下北沢で飲むんだけど、その日は本当にたまたま恋人が沖縄料理行ってみようと誘ってくれた。
    私はもともと沖縄には全然興味が無くて、北海道か沖縄と言われたら即決で北海道と言うくらい沖縄について興味もなかったし、泡盛とゴーヤを食べることになるのかなと予想していたんだけど、まさかね、この店で憂鬱人間の憂鬱が吹き飛ばされることになるとは思いもしなかったよ。

    お店に入るとオレンジ色の優しい照明と、オリオンビールの提灯がぶら下がっていて、沖縄音楽がかかっていた。いつも行くようなチェーンの居酒屋とは全然違う感じで、それだけでなんか心がワクワクしたんだ。メニューは手書きだし料理のイラストや、泡盛のマップも描かれていた。 お通しには玉ねぎのマリネが出されて、店長さんがそれは彼の実家(沖縄)で収穫したものだと説明してくれて、沖縄で玉ねぎって獲れるんだと初知りだし、実家の野菜が東京のここまで配送されて、こうして料理に出されるのが素敵だと思った。
    このあともちろん泡盛を頼んだんだけど、出されたグラスが淡い青色をした琉球グラスで、なんかもう全部が素敵だと純粋に思ってさ、泣きたくなるほどだった。手作り感のあるお店の内装と、手作りの美味しい料理と、可愛いお皿とグラス。手作りってこんなにあたたかくて癒されるんだと思ったね、幸せすぎてその日は恋人と泡盛3杯は飲んだと思う、お店を出る頃にはその時まであった憂鬱は消えていて、代わりに穏やかな充足感だけがあった。調和。ピース

    それからというもの、週2くらいでそのお店に通うようになって、泡盛にハマったり、お店の人たちとも話すようになって、このお店のことがもっと好きになって、初来店からの1ヶ月後にはそこでバイトを始めた。バイトとして店側に入ってからも変わらずこのお店への愛は増していくばかりだ。常連さんたちとお酒を飲みながら楽しく働いて、最高に美味しい賄いを食べて(毎回感動してる)、学校生活を生き抜く活力としてバイトをしている。

    なにが言いたかったのかというとさ、人生って何があるか分からないね、だから楽しくて仕方がないってことだよ。ありきたりで凡庸な気付きなんだろうけどさ、でもその気付きってこんなに近くにあるものだということを知ったし、手作りってこんなにもヒーリング作用があるんだと驚きだし、私はこういう偶然によって生かされているんだということだね。これから先、自分の人生がどうなるかは結局のところまだ不明瞭なんだけれど、なんか大丈夫なんだと思えたんだよ。そう思えているのはこのお店との出会いと、そこでの人との出会いと、なにより、バイトをすることについて背中を押してくれた恋人の存在があるから。ラブアンドピース

    あなたへのおすすめ