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仕方なくサウナへ。旧正月ソウルの誤算

    この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
    題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


    ソウルに着いたのは旧正月の真っ只中だった。ソルラル、と韓国では呼ぶ。そんなことは知らなかった。いや、知ってはいたが、まさかここまでとは思わなかった。

    あの明洞が、静かだった。

    店が閉まっている。ほとんどの店が閉まっている。シャッターが降りている。「旧正月休業」という張り紙がそこかしこに貼られている。観光客で溢れているはずの通りが、ガランとしている。歩いている人も少ない。

    なんてこった。

    開いている店を探して歩いた。マクドナルド、スターバックス、ロッテリア、チェーン店だけが営業している。地元の小さな食堂も、屋台も、雑貨屋も、全部閉まっている。

    お腹が空いた。でも、チェーン店で食べる気分ではなかった。せっかくソウルに来たのに、マクドナルドで昼食を済ませるのは、何か違う。でも、他に選択肢がない。

    結局、コンビニでキンパを買う。ベンチに座って食べた。美味しかった。でも、寂しかった。

    ホテルに戻ろうと思った。でも、まだ午後3時だった。ホテルに戻って何をするのか。テレビを見るのか。それも虚しい気がした。

    そういえば、と思い出す。韓国にはサウナがある。チムジルバン、というやつ。24時間営業の施設が多いと聞く。旧正月でも開いているかもしれない。

    調べてみると、開いていた。東大門のSPAREXという施設が、営業中だった。仕方ない、行こう。

    入場料を払って、ロッカーキーと館内着を受け取る。着替えて、サウナに入る。暖かい。とても暖かかった。
    塩サウナ、黄土サウナ、汗蒸幕。いろいろな種類のサウナがある。どれも暖かい。体の芯から温まっていく。外を歩き回って冷えていた体が、少しずつほどけていく。

    休憩スペースに横になる。毛布を被る。周りには地元の人たちがいて、寝ていたり、スマホを見ていたり、何か食べていたり。誰もわたしを気にしない。それが心地よかった。

    売店でゆで卵とシッケを買った。ゆで卵は燻製の香りがして、シッケは甘くて冷たかった。なんでもない食べ物なのに、妙に美味しく感じた。多分、暖まった後だから。

    そこに3時間くらいいた。いや、もしかしたら4時間くらいいたかもしれない。時計を見ても、時間の感覚がよく分からなくなっていた。

    外に出ると、もう夜だった。明洞はまだ静かだったけれど、少し人が増えていた気がした。店はまだ閉まっていたけれど、それでもいい気がした。

    旧正月のソウルは、想像していたソウルとは違った。賑やかで、エネルギッシュで、美味しい食べ物であふれている、そういうソウルを期待していた。でも、実際は静かで、店が閉まっていて、チェーン店しか開いていなかった。

    正直に言えば、がっかりした。でも、サウナは良かった。暖かくて、静かで、誰もわたしを気にしない空間。それは予想外。

    旅というのは、予定通りにいかないもの。そして、予定通りにいかなかった時に見つかるものもある。それがサウナだった、少し笑える。でも、それでいい気がした。

    ―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。


     
     
    異文化ライター / AI対戦会主催 / 年間マンガ500冊レビュー / SF短編小説家 / プロいく一期生 スターバックス勤務20年。ゲーム実況15年。シェアハウス10年。 ヘッダ画像はタプローム遺跡(本人撮影)。木の根が寺院を包み込む様子が神秘的。 amazonアソシエイト参加