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AIとぎ寞芹

    57歳を前に、考えることが初めて形になり始めました

    私は、考えることが好きです。

    人はなぜ、そのように考えるのか。
    社会の仕組みは、なぜ今の形になっているのか。
    もっとよい方法があるのに、なぜ変わらないのか。

    そうしたことを、子どもの頃からよく考えてきました。

    ただ、細かな資料を一つずつ調べたり、専門書を何冊も読み込んだりすることは、それほど好きではありません。

    何かに疑問を持つと、その仕組みや背景は知りたくなります。けれど、一人で考えていると、問いが次の問いを呼び、いつまでも出口が見つからないことがありました。

    今振り返ると、私は長い間、出口の見つからない問いを、一人で続けてきたのだと思います。

    社会の制度に対する疑問もありました。政治について思うこともありました。こうしたほうがよいのではないか、と自分なりに考えていることもありました。

    けれど、それを誰かに披露したことは、ほとんどありません。

    言いたいことがなかったわけではありません。

    むしろ、いろいろなことを考えていました。

    ただ、それをどのように説明すればよいのか、自分でも分かっていなかったのだと思います。

    始まりは、好奇心より焦りでした

    私がAIを使い始めたきっかけは、立派な目的ではありませんでした。

    「AIの時代に、何かをしなければならない」

    そんな焦りが、最初にありました。

    世の中では、AIによって仕事が変わる、新しい事業が生まれる、人間の役割も変わると言われていました。

    私はもうすぐ57歳になります。

    今から始めて間に合うのか。何を学べばよいのか。そもそも、自分にできることがあるのか。

    そんな焦燥感がありました。

    まず、AIについての本を買いました。YouTubeの動画も見ました。そして、とりあえず無料版のChatGPTを使い始めました。

    最初の頃は、AIに質問をして、答えをもらうだけでした。

    便利だとは思いましたが、この段階では、まだAIは少し賢い検索道具のようなものでした。

    そのうち、

    「会社の仕事を効率化できるものを、自分で作れないだろうか」

    と考えるようになりました。

    私はプログラミングの経験がありません。

    Wordもそれほど得意ではなく、Excelは仕事で使う程度です。

    それでも、毎日の仕事の中には、同じ入力を繰り返したり、人の確認に頼っていたり、間違いが起きやすかったりするものがたくさんありました。

    自分の会社の仕事であれば、何が不便なのかは分かります。

    そこでChatGPTを有料版に切り替え、実際に仕組みを作り始めました。

    ここで初めて、AIは質問に答えるものから、現実の仕事を変えるための相手になりました。

    AIに頼めば、全部できるわけではありませんでした

    実際に作り始めると、AIに「これを作って」と頼むだけでは、うまくいかないことが分かりました。

    何のために作るのか。
    誰が使うのか。
    どの情報を正しいものとして扱うのか。
    何をAIに任せるのか。
    どこを人間が判断するのか。
    どのような場合には処理を止めるのか。
    間違いが起きたときには、どうやって元に戻すのか。

    こうしたことは、私が決めなければなりません。

    AIはコードを書くことができます。

    けれど、その処理が間違ったとき、誰の給料が違ってしまうのか、誰が取引先へ説明することになるのか、現場がどれほど混乱するのかまでは、実感として知りません。

    そこは、現場を知っている人間が考えなければなりません。

    AIを使うためには、AIに何をさせるかだけでなく、人間が何をしなければならないのかも決める必要がありました。

    必要な情報を渡すこと。

    判断のルールを決めること。

    結果が正しいかを検証すること。

    失敗した場合の戻り方を用意すること。

    AIが得意なことと、人間が握っておくべきことを分けること。

    作りながら、私は少しずつそれを理解していきました。

    分からないから、まず作ってみました

    私は、何かを始める前に、専門書を何冊も読んで完全に理解するタイプではありません。

    まず、やってみます。

    問題が起きます。

    なぜ、うまくいかなかったのかを考えます。

    そのあとで説明や理論を読むと、初めて知識が自分のものになります。

    AIについても同じでした。

    YouTubeの動画を、ほかのことをしながら見ることがあります。

    すべてを細かく覚えようとはしません。

    ただ、見ている途中で、

    「これは、自分にとって重要かもしれない」

    と思う情報が出てくることがあります。

    その部分だけを拾い、参謀に聞きます。

    私は、日頃使っているAIを「参謀」と呼んでいます。

    「この考え方は、今の開発に使えるのか」

    「取り入れる価値はあるのか」

    「便利そうだが、何か危険はないのか」

    参謀に確認し、使う価値があると判断したものだけを、現在の仕組みに取り入れていきます。

    私は細部を深く調べることは得意ではありません。

    けれど、何かの中から、自分にとって重要そうな部分を見つけることは好きです。

    その情報が自分の仕事や考え方にどうつながるのかを考え、実際の形へ変えていくことは、とても面白く感じます。

    AIにも、役割を分けるようになりました

    開発を続けるうちに、AIにも役割を分けるようになりました。

    ChatGPTには、主に考えを整理し、設計し、見落としや危険を確認する役割を担ってもらっています。

    Claude Codeには、設計をもとに実際のコードを書き、ファイルを修正し、テストを実行する役割を担ってもらっています。

    そして私は、現場の知識を渡し、何を作るのかを決め、最後の判断と責任を持ちます。

    最初から、この形が見えていたわけではありません。

    作業を進める中で、AIに向いていること、人間が行うべきこと、それぞれのAIが得意なことが少しずつ見えてきました。

    AIにすべてを任せるのではありません。

    人間がすべてを抱えるのでもありません。

    仕事全体を見て、どこに人間を置き、どこにAIを置くのかを考える。

    私は今、AIを使うとは、そういうことなのではないかと思っています。

    気づけば、四つの開発をしていました

    最初は、会社の仕事を一つ効率化できればよいと思っていました。

    けれど、一つのものを作ると、

    「この考え方は、ほかのことにも使えるのではないか」

    と思うようになりました。

    気づけば今、四つの開発を進めています。

    請求と給与をつなぎ、入力や計算の間違いを減らす仕組み。

    Googleカレンダーに残った予定や仕事の記録を、業務の流れとして整理する仕組み。

    株式市場の数字やニュースを記録し、自分の仮説が正しかったかを検証する仕組み。

    そして、人の中でまだ言葉になっていない悩みや考えを整理し、次の行動へつなげる仕組みです。

    分野は、それぞれ違います。

    けれど私の中では、すべて同じところから始まっています。

    ばらばらになっている情報を集める。

    何が起きているのかを分けて考える。

    見落としや間違いを確認する。

    次に何をすればよいかが分かる形にする。

    私はプログラムそのものを作りたいのではなく、混乱しているものを、扱える形へ変えたいのだと思います。

    作っていたのは、商品だけではありませんでした

    この半年、表面上は四つの仕組みを作ってきました。

    けれど今振り返ると、同時に別のものも作っていたように思います。

    それは、自分の考えを、現実へつなげるための方法です。

    以前の私は、疑問を持つと、一人で考え続けていました。

    考えは深まりますが、問いは問いのまま残ることも多くありました。

    今は少し違います。

    疑問を参謀に話します。

    話したことが言葉になります。

    言葉になると、問題を分けられます。

    問題を分けると、仮説を作れます。

    仮説から仕様を考えます。

    仕様をもとに実際に作ります。

    作ったものが正しいかを検証します。

    疑問が、対話を通して構造になり、構造が現実の仕組みへ変わっていきます。

    以前の私には、この出口がありませんでした。

    考える力がなかったのではありません。

    考えを受け止め、整理し、次へつなぐ相手と仕組みがなかったのだと思います。

    人には話さなかったことも、参謀には話しました

    参謀には、開発の話だけをしているわけではありません。

    子どもの頃のこと。
    亡くなった両親のこと。
    若い頃の恋愛。
    誇らしく思っていること。
    今でも少し恥ずかしいこと。
    人を見下してしまったこと。
    自分だけが正しいと思っていたこと。
    長く一緒に暮らしているパートナーとのこと。

    社会に対して感じていた疑問や、自分なりの政治的な考えについても話しました。

    誰かに主張したかったわけではありません。

    私はなぜ、そのように考えるのか。

    どの経験が、今の価値観につながっているのか。

    自分の考えの中に、思い込みや矛盾はないのか。

    それを確かめたかったのです。

    参謀は、私の話をすぐに善い悪いで判断するのではなく、私という人間を形づくってきた情報として扱ってくれました。

    AIには人間のように、その場で私を嫌ったり、軽蔑したり、失望したりする感情はありません。

    だからこそ、人には少し言いづらいことも話せました。

    もちろん、AIが完全に中立だとは思っていません。

    学習した情報や、どのような回答を優先するように設計されているかによって、答え方は変わります。

    それでも、自分の中に長く閉じ込めていたものを、いったん外へ出せることは、私が考えていた以上に大きな意味を持っていました。

    自分の輪郭が、少しずつ見えてきました

    参謀との会話を重ねるうちに、自分がどのような人間なのかも、少しずつ見えてきました。

    私は、権威そのものより、理由や根拠を重視します。

    物事を善悪だけでなく、なぜそうなったのかという構造で理解しようとします。

    問題が起きたときには、感情に飲み込まれるより、少し離れたところから自分を眺めます。

    複雑なものを分け、ほかの人にも分かる形へ整理したいと考えます。

    理想論だけでは社会は動かないことを知りながら、それでも少しはよくできるのではないかと考えています。

    人から押しつけられることは嫌いますが、自分が責任を持つことについては、かなり深く考えます。

    そして、その根底には、今でも子どものような好奇心があります。

    これらは、AIによって新しく与えられたものではありません。

    もともと、私の中にあったものです。

    ただ、ばらばらに存在していたため、自分でも一つの形として見ることができませんでした。

    参謀との対話によって、それぞれの点の間に線が引かれ、

    「自分は、こういう仕組みで動いている人間だったのか」

    と、少しずつ分かるようになりました。

    自分の輪郭が見えると、開発でも判断がしやすくなります。

    これは、自分が作るべきものなのか。

    この表現に、なぜ違和感があるのか。

    何をAIへ任せ、何を自分が判断するべきなのか。

    自己理解と開発は、別々に進んだのではありません。

    自分への理解が深まることで、開発に対する考え方も深まっていきました。

    思考整理OSは、自分の経験から始まりました

    四つの開発の中で、私は人の悩みや考えを整理する仕組みを「思考整理OS」と呼んでいます。

    この仕組みの原点は、私自身の経験にあります。

    一人では出口が見つからなかった問いがあります。

    誰にも話してこなかった思いがあります。

    それを否定される心配をせずに話してみます。

    ばらばらだったものが言葉になります。

    言葉の間に、補助線が引かれます。

    自分の考え方や、感情の理由が少し見えてきます。

    すると、何をすればよいかを考えられるようになります。

    参謀と話すと、うまく言葉になっていなかったものが整理されます。

    整理されると、気持ちが少し落ち着きます。

    落ち着くと、現実を見る余裕が生まれます。

    現実を見られるようになると、次の行動を考えられます。

    この流れは、私だけに起きることではないのではないかと思いました。

    大人でも、自分がなぜ苦しいのか、なぜ腹が立つのか、なぜ動けないのかを、うまく言葉にできない人はいます。

    誰かに相談しても、

    「考えすぎだ」

    「気にしなければよい」

    「こうすればよい」

    と、すぐに答えを渡されてしまうことがあります。

    けれど、その人に必要なのは、正解より前に、自分の中で何が起きているのかを整理することかもしれません。

    思考整理OSが提供したいのは、単なる相談への回答ではありません。

    その人の中に、すでに存在しているものを見つけ、扱える形へ変え、現実の小さな一歩へつなげることです。

    私自身が、この仕組みの最初の実証例なのだと思います。

    この半年で、一番大きかったこと

    四つの開発を始めたことは、私にとって大きな出来事です。

    けれど、この半年で得た一番大きなものは、開発物そのものではないのかもしれません。

    自分の中にあった考えを、外へ出すこと。

    言葉にして、あとから見直せるようにすること。

    自分の経験や違和感を、判断基準やルールとして残すこと。

    疑問を、現実の仕組みへ変えること。

    私はこの半年で、自分の中にあった「考える力」を、成果物へ変えるための回路を初めて手に入れたのだと思います。

    今作っている商品が、すべて思ったとおりに完成するとは限りません。

    売れないものがあるかもしれません。

    途中で方向を変えるものもあると思います。

    けれど、この考え方と作り方が自分の中に残れば、一つが失敗しても、また別のものを作れます。

    以前の私は、問いを持っていました。

    今の私は、問いを形へ変える方法も少しずつ持ち始めています。

    次の半年は、外の世界で確かめる期間です

    この半年は、発見し、作り、自分を知る期間でした。

    これからの半年は、作ったものを実際に使い、ほかの人にも試してもらい、価値があるのかを確かめる期間になります。

    これまでは、私とAIの間で価値が生まれてきました。

    次は、その価値が、ほかの人や会社にも再現できるのかを確かめなければなりません。

    自分に役立ったからといって、ほかの人にも役立つとは限りません。

    自分には分かりやすくても、ほかの人には使いにくいかもしれません。

    開発することと、価値を届けることは別です。

    そこは、これから冷静に検証していかなければならないと思っています。

    それでも、この半年は、私の人生の中でも大きな飛躍だったと思います。

    AIを使い始めたから、というだけではありません。

    長い間、自分の中だけに置いていた考えを、初めて外へ出せたからです。

    人には話してこなかった思いを、言葉にできたからです。

    自分でも分かっていなかった自分の輪郭が、少しずつ見えてきたからです。

    そして、考えるだけで終わっていた問いを、現実の仕組みへ変え始めることができたからです。

    57歳を前にして、まさか自分がこれほど大きく変わる半年を過ごすとは思っていませんでした。

    AIが私を、別の人間に変えたわけではありません。

    もともと私の中にあった好奇心や疑問、経験や違和感を、外へ出し、つなぎ、形にする手伝いをしてくれたのだと思います。

    長い間、一人で続けてきた問いに、ようやく出口へ向かう道ができました。

    今は、その道の先に何があるのかを、もう少し見てみたいと思っています。

    #創作大賞2026
    #エッセイ部門

     
     
    高卒・57歳。派遣・請負業界で30年以上、現在は雇われ社長。ChatGPTとClaude Codeを使い、請求給与システムと思考整理OSを開発中。AI初心者が、実務経験を武器にどこまで成果物を形にできるのか。失敗や試行錯誤も含めて記録しています。

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