音のある方へ|EP16-1:深夜の鐘——パリ・フランス
📚音のある方へ
MC:サエコ
祝福の鐘が鳴る街で、誰かは平和を願っていた。そして数日後、同じ街で鳴った鐘が、人々を別の方向へ走らせる。
ジュネーブから運ばれてきた「正しさ」は、パリで別の正しさと出会った。
パリに着いて、最初にセーヌまで歩いた。
川沿いには観光客がいて、橋の上では何人かが写真を撮っている。
車の音に混じって、ときどき水が岸へ触れる音がした。
ジュネーブの湖とは違う。
水そのものが、街の中を通り抜けている。
私はしばらく川沿いを歩いて、それからルーヴルの方へ向かう。
何度見ても大きい。
ガラスのピラミッドの向こうに長い建物が続き、その周りを人が絶えず動いている。
ふと視線を少し右へ移すと、サン=ジェルマン・ロクセロワ教会の鐘楼が見えた。
ルーヴルのすぐ近くにある教会だった。
どこかで鐘が鳴っている。
観光客の声、車、自転車、セーヌの水。
いくつもの音が重なるうちに、さっきまで聞こえていたエンジン音が少しずつ遠くなっていった。
私はもう一度、ルーヴルの方を見る。
………。
そこには、土と石の景色が広がっている。
馬が通り、荷車の車輪が石畳を擦っていく。
店先から声が飛び、頭上の窓からは誰かを呼ぶ声が落ちてきた。
パリは、ジュネーブよりずっと騒がしかった。
ジュネーブで見送った、フランスへ向かう足音。その人が本当にこの街まで来たのかは分からない。ただ、小さな荷物を背負い、本を抱えて歩く人は何度か見かけた。誰かの家を訪ね、短い時間だけ中へ入り、また別の場所へ向かっていく。
「ジュネーヴから来たらしい」
雑踏の中で、その言葉だけが耳に残った。振り返ったときには、もう人混みに紛れている。
私はそのままセーヌを渡り、左岸へ入った。細い道には職人の店が並び、窓から布が垂れている。焼いたパンの匂いがして、子どもが店先を走り抜けた。
ここでは誰も、音を小さくしようとしていない。
少し前を歩いていた男たちが、ひとつの路地を指して笑った。
「ほら、あそこだ。小さなジュネーヴ」
私は足を止めた。
ジュネーヴ。
どうしてここに、その名前があるのだろう。
男たちはもう先へ行ってしまった。代わりに、開いた窓の向こうから低い歌声が聞こえてくる。何人かが同じ旋律を歌っていた。大きな声ではない。知らない歌なのに、ジュネーブで耳にした祈りに少し似ている。
窓の近くまで行くと、部屋の中が少しだけ見えた。
年配の男が椅子に座り、その隣では若い女性が布を畳んでいる。窓際には、二十歳を少し過ぎたくらいの男が立っていた。膝の上で本を開いている少年もいる。
歌が終わると、年配の男が何か言った。
皆が笑った。
どこにでもありそうな夕方だった。
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