
時空を超えて‥‥小説(世流寝狐5)
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鑑識課には、丸眼鏡をかけた六十八歳になる畑山光男が、一人医学書に目を通していた。現在は嘱託としての勤務である。
この課は五人で構成されているが、鑑識課の課長は一課の課長が兼務し、事実上は畑山を含め四人で動いていた。他には昨年警察病院から配転された、三十三歳になる三井。四十六歳にして大分大学病院の院長の椅子に座った、竹山雄一。非常勤として週に三日鑑識へ協力している男である。四人目は、昨年警察学校を卒業して配属された、一年足らずの旭冴子という女性、もちろん他の三人の助手として役目を果たしている。
課員が少ないためか、割り当てられている部屋は狭いが、びっしりと法医学などの専門書が並べられ、数多い難事件をするどく解決へ導いている課である。当然の如く、一係の信頼も厚い。壁際の作業机には、鑑識用器材も乱雑に乗っていた。
三階まで来た合志は、溜め息を一つ吐いて鑑識のドアを押し開けた。
「変わらないな、この部屋は」
床に無造作に積まれた書物に目をやり、言い放つ。係長の言葉が、まだ尾を引いていた。
奥から声がした。
「今から掃除をしようと思っていたんだ。丁度良かった。手伝ってくれ」
左奥にいた畑山に気づいた合志は、慌てた。
「な、なんだ、畑山さん居らしたんですか。それならそうと言って下さいよ、人が悪いな」
「人が悪いのはお前の方だろ、それに居たら悪いのかな」
「いや、とんでもない、居てくれないと困るんですよ。特に畑山さんに居て欲しかったんです」
「嘘をつけ、お前が居て欲しかったのは旭君じゃないのか」
合志は、知らず知らずに冴子の机に手をついていた。あわてて机から手を離し、スラックスの太股辺りで何度も上下に拭った。
「図星か。それにもう一つ、また係長にどやされて来ただろ」
「え、まぁ、そ、そうなんです。実はうちの鬼がですね、引っ掻いたのは誰だ、お前が聞いて来いと言うんでここへ来たんです。畑山さん、あれは女性の仕業ですよね」
噛みつくように今度は畑山の医学書の上に両手をついた。
「残念ながらあの傷は男でも女の仕業でもない。動物だよ、爪を持った」
「動物?」
「そうだ」
畑山は強く断言した。
「毒をもった動物ということですか」
「今、三井君が動物医学の権威に特定してもらうため出かけている所だ。もうすぐはっきりするからそう鬼に伝えといてくれ」
畑山は、そう言うと本を閉じて、
「あぁ、それから被害者の頭の傷は、思ったとおり、倒れた時にできた裂傷だ」
と、付け加えた。
その夜遅く、一係の電話が鳴った。
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