
時空を超えて‥‥小説(黒いワンピース3/4)
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その後慶介は、浅葱が熊本の温泉郷から来たことを知った。観光で賑わうエリアから少し離れた一軒宿の一人娘という。年齢は慶介の二つ下、十九歳だった。
「死にたくて来たの……」
平然と彼女は言ってのけた。
「何で?」
慶介は驚いて聞き返した。
「ずっと独りだったから……。小さい頃から」
先ほどから少しづつ薄黒い雲が切れて、月が顔を見せ始めていた。
「独りって──今何やってるの? 仕事は?」
「旅館の手伝いかな」
「忙しそうだね…」
「でも、お客少ないから、従業員減らして、お母さんが一人で働いているの」
浅葱は波に揺れる月を悲しそうに目で追った。
「お父さんは?」
「いない、死んじゃって」
「そしたら、お母さん一人になっちゃうじゃん」
慶介は浅葱に死んだら駄目だ、と言いたかった。
「私のこと?──それは大丈夫なの。お母さんには、いるから……。それに私が死んでも少しの間だけ、悲しませるのは」
浅葱が死にたい理由には、母親のこともあるのだろう。慶介は浅葱が言った、ずっと独りだったという意味を理解した。
「それでここまで来たの?」
慶介は浅葱の答えを待たずに続ける。
「もしかして、この海に入るつもり?」
もう一度足元のリュックに目をやった。
「私ね、花が大好きなの。だから沢山の花の真ん中
で死にたかったの」
浅葱は少し間をおいた後、悪戯っぽい笑みを浮かべ応えた。
「でも、もう死ぬの止めたわ」
「えっ、本当に」
「本当よ、貴方と話してたら少し気が晴れたから」
「それならまた会えるよね」
慶介は浅葱の顔を覗き込んだ。
「疑ってる?」
浅葱はまた笑顔で返した。
慶介は明日の早朝に島を去るため、また連絡したいと告げた。浅葱は死なない証拠にと携帯電話の番号を教えてくれた。
温泉街はこの時期がシーズンオフなのか人通りは無く、蝉の鳴き声が煩く響き渡っていた。
(駄目よ、そっちに行かないで)
数本の湯煙を背に浅葱の実家に続く最後の曲り角が迫った時、突然あの声が聞こえた。七年前と同じ。錯覚……? 慶介の路地への進入に小陰で休む
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