クレーム・カスハラ対応は、解決しなくていい、まず企業として説明すること
#創作大賞2026
#ビジネス部門
概要
2026年10月からカスハラ対策義務化が全企業に適応される。企業は制度設計のみならず運用化まで求められ、具体的に従業員をカスハラからどう守るかまで求められている。
この話は、今から25年前、とあるコールセンターでいきなりリーダーに任命された筆者が、クレームやカスハラが山火事のように広がり炎上し続けた結果、チーム全員が退職希望を出すという問題に直面する。リーダーとして、毎日毎時間、理不尽な要求に耐え、メンタルをすり減らしながら奮闘するも、所詮は、チームの延命措置に過ぎなかった。やがて常識と言われたクレーム対応テクニックを捨て、「クレーム・カスハラ対応は解決しなくていい、まず説明すること」という新理論を展開し現状打破を試みる。クライアント企業の担当者とチームを巻き込み、「ホウキの理論」「クレーム化カスハラ化発展プロセス」「逆カスタマーサクセス」などの独自メソッドを確立し、組織的なクレーム・カスハラ対応ロジックをやがて完成させていく。そして、崩壊危機にあったチームは、一変して、クレーム・カスハラ対応最強のチームになっていた。25年後、それは、現在のカスハラ対策義務化の運用設計の通ずるものがあった。
第1章 新人リーダーは、危機感しかない
「死ねーーーーーー!!!」
「お前なめてるだろ!なめてるよな!! お前の住所を教えろよ。家族ごと消してやるよ。」
「だ・れ・が、電話切っていいって言ったぁ!! 納得いく説明を聞くまで絶対に電話をきるなよ!!」
25年前、これが私の仕事の日常風景だった。コールセンターBPOの仕事に従事し、新サービスの総合窓口が立ち上がった。リーダーとなった私とチームを待ち受けていたのは、脅迫・人格否定・殺人予告・不当要求・金銭要求・謝罪要求などのオンパレード。(今でいう)カスハラとクレームの絨毯爆撃だった。そして、絨毯爆撃が開始されてから1週間後のこと。上司から、
「ミズカミさんのチーム全員が異動を希望しています。だめなら退職すると言ってきました。一応、後任が見つかるまで頑張るように言ってます」。
上司の話はそこまで。解決策のないまま、なんとか延命してくださいみたいな話で終わった。
彼らの気持ちはわかる。大学生、第2新卒、主婦で構成されるチームだ。時給は同じなのだから、クレームなどの少ないプロジェクトに異動したいのは当然だろう。
私も逃げたい・・・
頭の中を整理するため、現状をまとめてみた。
正面には、チーム崩壊危機
後方には、積み重なっていくクレームとカスハラ案件
右側には、丸投げ上司
左側には、クレーム・カスハラの中でノウハウ蓄積と対応方法構築
スキームとしては、私が、クレーム関連を可能な限り私で引き受け、チームのストレスを軽減することで延命する。これを肯定的にとらえると、私にややこしい対応を集中させることで、情報蓄積が一気に進み、対応方法を加速度的に構築していける。
ムリだ。
私には、具体案がない、メンタルは強くない、タフじゃない。
しかも、人は、光の射さない所に寄ってこない。
だから、外部からの人的支援も絶望的だ。
まず、何からやればいい?
年間約1,000件のクレーム・カスハラ対応ロードマップの始まり
チームを見渡すと、みんなしきりにコクコクうなづいて、「申し訳ございません」と言ってる。眉間にしわを寄せてるやつ、あからさまに困った顔してるやつ、うつ伏してうなづいてるやつ、ヘッドセットをたたきつけてるやつ、トイレから中々、帰ってこない奴。
でも、彼らがいなければ、この業務は機能しない。
なにからやればいいかわからないなら、まず、自分の腹をくくろう!
みんな、1分間、電話を取らないで。
今から、私へのエスカレーションの判断をみんなに任せます。
「上司を出せ!」とか、「これ以上の対応は無理」と思ったら、躊躇せず、私に投げてもらって結構です。なぜならそれ以上、頑張っても、状況はひどくなっても良くはならない。心がしんどくなるだけだから。
全部OKです!
大半の人は、愚策と思うだろう。だが、無策よりはマシだろう。
とはいえ、合理性はある。
一つは、エスカレーション判断は上司が行うのだが、その上司(私)は、四六時中、クレーム・カスハラ対応に明け暮れており、判断を仰げないのが実情だった。もう一つは、遅かれ早かれ、私のところにやってくる。なぜなら、私たちが担当するサービスは、当時の最新技術を駆使した高速インターネットサービスだったので、トラブルに関する前例がないから。
つまり、契約書以外、「判断材料」も「判断軸」も「判断基準」も何も存在しないのだ。相手の攻撃に耐えながら、絶体絶命の中でチャンスを見つけるヒーローのような業務だ。
第2章 一人クレーム・カスハラ対応改革チームの始動
常識を疑え!
毎日毎時間クレームやカスハラに晒される毎日。ただただ、指定された時間に電話を掛ける、言葉の暴力を受けると理不尽な要求を浴び続ける、これを繰り返す。メンタルダメージは確実に蓄積されるが、成功事例や対応ノウハウは、一向に蓄積されない。明確に言えることは、このままではダメだということだ。
そんなある日、私は、センター内で「クレーム対応の女神」といわれるトレーナーの研修にすがりつく思いで参加した。
女神は言う。
いいですか!しっかり傾聴し、共感すること!
そして何よりも相手に寄り添うこと・・・(息を吸い込む)
これがとても重要なのです!!!
クレーム・カスハラ対応のトップクラスでこの程度!!!
絶望しかなかった。
電話がつながった瞬間に、「死ねぇ!!!!!」 と15秒間絶叫する顧客がいる。「そのお気持ちお察しいたします」「どれほどお怒りであるかを理解いたしました」と傾聴・共感するのか?
最近では、脅迫から不当要求、謝罪要求、さらには、「すべてお前らに非がある。弁護士に証拠を提出するから、質問にすべてイエスで答えろ!!!」と叫ぶ顧客もいた。「録音したくなる気持ち、よくわかります。ちなみに私ごときの音声でよろしいのでしょうか」と寄り添えばいいのか?
この時、私は、業界常識として語られる「傾聴・共感・言い換え」「寄り添い」などの感情処理型テクニックに活路を見出すことをやめたのだった。
なぜ、クレーム対応に直面すると、「すみません」しか言えなくなるのか
クレームやカスハラ対応から解放されたコミュにケーターが、口を揃えて言うことがある。「どういえば良かったのかわからなかった。だから、『すみません』しか言えなかった。」
実は、私もその一人だ。
私の記念すべきクレーム対応デビュー戦。
結果は、惨敗。しかし、その時、脳裏に浮かんだことは、
クライアント企業の社員として、
どういう姿勢で対応をすれば正しいのだろうか?
どういう説明をすれば正しいのだろうか?
お客様とどういう関係性を構築すればいいのだろうか?
そして、こんなに度を越した言動を吐く奴を、いつまで
お客様と呼ぶのだろうか?
クライアント企業の「従業員」という立ち位置で対応することを、会社は私たちに求める。
しかし、クレームやカスハラに対し、
「従業員として、どのように対応すれば良いのか」
という点については、会社は答えを示さない。
これが、「すみません」しか言えない理由の一つだ。
当社の精神は、どこへいったあああああ!!!
ヘッドセットを耳から遠ざけたが、あまり意味はなかった。
今、私は、クライアント企業のOB社員(ここでは、「X氏」と呼ぶ。当時70代)からのクレームと向き合っている。
「当社が、なぜ、こんな信頼性の低いインターネットサービスを提供しているのか説明しろ!!」というX氏の問いに、私が即答できなかったからだ。
しかし、これはそう簡単な問いかけではない。
実は、クライアント企業は、日本有数の総合家電メーカー、そして理念経営の「元祖」というべき存在。創業者の哲学、理念、精神は、超有名。
このような背景から、「ひとりの従業員として」対応する限り、
「勉強不足」で回避できるような問いではない。
一言間違えば、大爆発が起こる極限状態の中、幼き日に創業者の伝記を読んだ記憶に私はたどり着いた。
「企業として考え説明する」ことを実戦から学ぶ
X様、私たちが担当する高速インターネットサービスは無形のものです。そして、製品試験に該当するのは開通日です。ですので、中途半端な商品とお怒りになるのは理解しております。しかし、『人々の生活を豊かにするために高品質で安価な製品やサービスを提供する』という精神は失われていません。なぜなら、この高速インターネットサービスは、これからの皆さんに、新たな豊かさをご提供していくからです。そして、無形であり、新技術を駆使しているため、どのようなトラブルが起きるかわかりません。そこで、皆さんが何かあればお問い合わせいただけうように私のチームがあります。
私たちは、皆さんに安心してご利用いただくための「目に見えない保証書」のような存在と考えています。
※『保証書的な存在』という表現は、このお客様向けに比喩的に使用した表現です。話の流れからお客様側もそのように理解されておられます。)
しばし無言の後、
「これからもよろしく頼む!」
えっ?これでいいんだ!
対応は、あっという間に終了した。
業界常識のクレームテクニックを捨てた私にとって、
これがチーム崩壊危機を回避する大きなヒントとなった。
第3章 クレーム・カスハラ対応の基本戦略は、企業理念を「従業員を守る盾」として使う
X氏との対応後、私の中に残ったのは、X氏が会社と自身が担ってきた仕事にプライドを持って仕事をされてきた方という印象だった。それは、エゴという感じはなく自分の仕事が社会に貢献してきたというクライアント企業の精神そのものだと。私の中では、「そこまでなれるものか」と感嘆させられた。同時にクライアント企業の凄さを知った。「経営者と同じベクトルで思考する従業員」の姿を見た気がした。
私もまた、とても浅いものではあったが、創業者の哲学を軸にクライアント企業のチームの一員として、その役割や存在意義を「企業スタンス」で考える機会を偶然とはいえ、得ることができた。
「企業スタンス」?
そして、気づきが生まれる。
私がクレーム対応デビュー戦で華々しく散ったあの時、
クライアント企業の社員として、
どういう姿勢で対応をすれば正しいのだろうか?
どういう説明をすれば正しいのだろうか?
お客様とどういう関係性を構築すればいいのだろうか?
そして、こんなに度を越した言動を吐く奴を、いつまで
お客様と呼ぶのだろうか?
これが、対応上、必要なことだと考えた。
これらをまとめると、
「企業スタンス」
これだよ!
ホウキの理論
「企業スタンス」で説明する・・・
私の中で、ホウキのイメージと重なっていた。
様々なクレーム・カスハラ案件は、無数にあるホウキの穂先だ。
従来のクレーム対応テクニックは、これら一本一本に対応するイメージだ。同じ質問でも、人には喜怒哀楽という感情があるため、一つの質問に4つの想定問答が存在する計算になる。そして質問自体が、サービス・課金請求・技術・契約内容という大項目に分かれ細分化されていくことから、無限と思われるようなクレーム・カスハラ案件にどう対応するかは、都度、相手の出方を見て対応するしかない。これが、従来のクレーム対応テクニックに行き着いた理由の一つだろうとも思う。結果的に、初動対応から後手に回り続け、ケースバイケースになるため、逆に対応能力自体に力量が求められるテクニックとなったわけだ。人の心を読める人になる必要がある。
ただし、そのホウキの反対側には、これら無数の穂先を一つに束ねているホウキの柄(え)がある。私が見つけたのは、企業スタンスの軸となる「企業理念」というホウキの柄だ。この柄の握る位置、角度、力の入れ方を変えるだけで、「企業スタンス」を生み、無数の穂先(クレーム)を思いどおりにコントロールできる。
企業理念を仕事の大儀に使う
「企業理念」とは、社会へ企業が発する約束であり、使命であり、企業としての存在意義のはずだ。それは、公のものであり、社内外のステークホルダーに対して裏切れないもの。
ということは、これを軸にして考え仕事をすることは、少なくとも私にとっての大儀といえるだろう。会社の考え方の方向性くらいはあってるだろう。
「会社としてどう判断すれば良いか」
誰も答えを出さなかった問いに対する答えにたどり着いた気がした。
「企業スタンスで対応する」
やってみる価値はある。
どうせ、崩壊目前のチームをあずかるリーダー。どうせ失敗するなら、あとで笑い話にできるくらい、ダイナミックに失敗すれば後悔もないだろう。
「企業スタンス対応」の実証実験へ
クレーム・カスハラ対応の新常識へ
まず、企業スタンスでもって指摘事項に対し説明(返答)する。この検証を実戦の場でやり続けた。その結果、1件あたり平均1時間~1.5時間を要していた対応時間がうまくいくと50%程度になった。
企業理念は、思考の軸みたいなものだから、何が飛んでくるかわからないクレーム対応には、柔軟性をもって対応できる。が、一方で、うまく言えないことが多い。だから、対応後のスキマ時間や、帰宅時の車の中、入浴中に、どういえば、企業スタンスでもっと適切な説明ができたかを考え続けるのが、私の日課となった。
例えば、定番クレームの「社長を出せ!!」。
これに対し、「申し訳ございません。社長は、多忙でして・・・」などと言ってしまいがちだ。だが、本当の意味は、
「会社としてどう考えているんだ」
「どんな教育をしてるんだ」
「会社としてきちんと説明をしろ!!」
という指摘事項に対し、爆発した感情が負荷され、フレーズ変換されたものだ。
クレーム対応とは、解決しなくていい
企業姿勢を示し、企業として説明をすること
ようやく、自分で言語化できるまで「企業スタンス対応」を磨いてきた。
それは、企業スタンスで説明すると、「私たちは、何のために、どういう姿勢で仕事をしているのか」という「ボックス」が現れる。
予測不能のクレーム群をこのボックスの中に投入すると、私の方からは、好き放題言われているクレームが、チームの役割・ミッションの視点から見ることになり、そこから、こちらのロジックで問題を分析することができる。これが「ホウキの理論」の効果だ。結果的に、顧客側も私も一つの事象をそれぞれの虫眼鏡で見れる状態になり、公平性を期すことができる。もう、「何をどう答えればよいのか?」という悪夢から解放されたわけだ。
だから、クレーム対応において、「企業スタンス」を示すとは、「解決しようと思うな!まず、最初に企業姿勢を示し、企業として説明することだ」といいたい。
一つのクレームには、二つのクレーム対応が存在する
私の成長をもう少し、お見せしよう。
クレームやカスハラ対応がクローズしない理由について話す。
その理由は、100点満点のテストを50点分だけ回答して、
80点をとろうとするような愚行を犯しているからだ。
クローズに至ったケース
継続対応となったケース
私自身の対応結果から、この二つにある傾向がみられた。
前者は、最初の話とクローズした時の話の内容が変わってることが多い。
後者は、最初の話のところで水掛け論になったり、そこで停滞している。
成功パターンには、2つの内容が存在する。
昔、サービスについて学んだことがあった。
サービスには、
「目に見えるサービス(商品)」と
「目に見えないサービス(商品)」がある。
この二つが一つになって「サービス」ということを。
ということは、クレーム対応にも同様に
「目に見えるサービス(商品)へのクレーム」と
「目に見えないサービス(商品)へのクレーム」があり、
1件のクレーム対応につき、二つの対応が求められるということだ。
「目に見えないサービス(商品)のクレーム対応」、これを怠るとカスハラになるのだ。
クレーム化して、ハラスメント化する。
クレーム化カスハラ化発展プロセス
コンプレイン(不平不満)の積み重ね、これがクレーム化(改善の主張と要求)です。この改善の主張と要求が通らない、納得できない、要求の意図を掴めていないことによって、能動的(力)でその意思を通そうとする、これをハードクレーム化と呼んでいます。そして、能動的に意思を通そうとする行為が利かないと感じたら、次に、その行為に意識が集中し、こちらを完全掌握しようと、過激な内容へと変化していきます。これをハラスメント(迷惑行為~過度な要求)化と呼んでいます。
これが基本パターンです。
その他、意図的・恣意的パターン、正義感パターンがあります。回は、基本パターンだけ。
まとめると、クレーム対応はこうなる
まず最初に上がってきたクレーム内容とは、顧客にとって、目に見えるサービスに対するクレームのことを指す。この段階では、企業姿勢を示し、企業としての説明を行って、クレーム内容を「企業スタンス」テーブルに乗せる。相手のテーブル上で勝負しない。圧倒的な力量がない限り、この「相手をハッピーにさせた方の勝ち」ともいうべきバトルに勝利することは難しいのです。
私は、簡単に「説明するだけ」と言いましたが、その真意は、私たちサイドのことも知っていただき、私たちの考えも一旦、聞いていただくことにあります。「相互理解のプロセス」です。めちゃくちゃ炎上されていても、お客様が、正気を取り戻す可能性があるからです。相互理解が得られなかった場合、ここで反論や周辺情報による「顧客側のロジック補強ステージ」に入ります。実は、この「ロジック補強ステージ」が、私たちにとっては、「目に見えないクレーム対応ステージ」へのサインになります。「そもそもCという問題は、Aが原因であり、場合によってBもある」みたいな感じです。目に見えないサービスクレームとは、目に見えるサービスクレームのトリガーとなった根本原因(主に感情面)を互いに言語化していく作業です。簡単に言ってしまうと、「おっ、こいつ分かってるな」というゴールを目指すことになります。
そして、目に見えないサービスクレームの対応に失敗すると、ご存じのカスハラになります。
「企業スタンス対応」の目標は、ノーマライゼーション化にある
「クレーム化カスハラ化発展プロセス」によって、プロセスの可視化ができた。これにより、対応プロセスの可視化も可能となった。一つ前一つ前と各ステージの対応目標を一つ前の段階に戻すことで、クレーム・カスハラ抑止軽減策となる。「何事もなかった点まで戻す」ように努力することが重要だ。
「企業スタンス対応」は、クレームとカスハラを線引きする。この対応ロジックは、それを簡単に判断させる
私のクレーム対応ロジックは、「企業スタンス」のテーブルに一旦、問題点を置き、サービスクレームの視点で分析・判断すると言いました。これにクレーム化カスハラ化発展プロセスを重ねると、サービスを主体とした話をしているのか、ハラスメント行為が主体となってしまったのかを判別する基準が作られることになります。「企業スタンス対応」は、クレームとカスハラを対応初期に暗黙のうちに線引きをしているのです。
第4章 チームにクレーム・カスハラ対応の革命を起こす
私のチームの現状はこんな感じだ。
私が1週間、旅行に出かけた初日のこと、ある案件がスーパーハードクレーム化。全員がお手上げだといい、私が戻るまでの1週間、その対応を塩漬けにする暴挙に出た。別の日、過激な内容を殴り書きしたファックスを次々に送ってきた顧客がいた。その文字に戦慄を覚えたメンバーは、私の休みを明けを待つことにし、3日間放置するなど数々の伝説を作ってきたのだ。
こんなチームに私は、「クレーム対応」に関する「研修」を仕掛けようとしている。
世界一やさしいクレーム対応トレーニングにもなる
「メモを読むだけ」
チームは、緩和しているとはいえ、先の「全部OK」ルールからの卒業が必要になる。課題は、「恐怖のあまり上司(私)を平気で売る」ことを克服し、メンバーを即戦力化することだ。私が示したロジックを活用し、トレーニングプログラムが完成していた。
「無理無理無理! 無理です!!」
かなりなハードクレーム顧客をトレーニングプログラムとして用意した。その対応履歴をチェックしたのは、アルバイト大学生。予想通りの反応だ。しかも、彼は、私のチームの中で3本指に入るクレーム対応未解決コミュニケーターなのだ。私の対応ロジックをチームに受け入れてもらうには、このタイプの人材でも「できた!」という反応が欲しいところだ。だから彼に白羽の矢をたてた。トレーニングプログラムとしては、先の章でも話したように、クレーム対応は、1つにつき二つの対応をクローズする。よって、彼には、「目に見えるサービス」クレーム対応を経験させ、その結果をもとに、私が「目に見えないサービス」クレーム対応からクローズまでを担当する形で進める。私はつづけた。
お願いしたいことは(※カッコ内は私の心の声)、
私からの「伝言」と言って、このメモを読んでください(企業スタンスでクレーム内容に対する説明が書いてあるメモです。「伝言」と言えば、堂々とメモを読めます)。丁寧に読んでください(緊張しなくていいですよ)。そして、それに対して反論があった場合(「伝言」と言ってるので、それ以上、この件について突っ込まれないでしょうけど)、中途半端な回答は失礼にあたると言われているので(責任所在を明確にしています。組織として責任ある対応を心がけています。)、ミズカミから改めて連絡を入れると伝えてください(説明するだけですから、私への自動エスカレーション機能をつけています。)。説明するだけだから、10分を目安に(めちゃくちゃ精神的ハードルがさがったでしょ!)。」
「えっ、これだけですか?」
「これだけです。解決しようなんて思わなくていいです。むしろ、解決してはいけません!」
翌日、出社すると、サブリーダーから、「昨日の夜、例のお客様の対応を大学生の彼がクローズしたみたいですね。凄いですよね!」といってきた。
私の机の上に対応報告書と「解決しました!!」と自信満々に書かれたメモがあった。
クレーム対応をクローズしているのは、
お客様自身である
あの日、「解決しようなんて思わなくていいです。むしろ、解決してはいけません!」と私は、彼に告げた。
企業スタンスで説明し始めてから、確信に至ったのは、クレームやカスハラ対応を終了させるか継続するか判断しているのは、お客様側であるということだ。「企業として説明をするだけ」というのは、決して大げさではない。
私は、過去2度ほど「ハイ」だけでハラスメント寄りのハードクレームが、終了に至った経験がある。そのうちのお一人から、「どうして最初からあなたのような人が対応にでてこないの? 言いたいことは以上です。」と言われたことがある。これは、その裏付けだ。もう一つは、東北の高齢者の方で、方言がかなり強く、大変、申し訳なかったのだが、まったく内容が理解できずに、「ハイ」しか言えなかったのだ。クレーム対応の初戦以降、「ハイ」しか言えなかったのは、この時だけだった。
きっかけとなった。私は、その対応において、お客様のおっしゃることは、すべてごもっともな話であることを、相槌の「ハイ」に込めてお伝えしていたことが気づきの理由だ。例えば、クレーム対応する側は、「どうすれば納得させることができるか」かを考え、顧客側は、「すみませんを言い続ければ、いつか許してもらえるとでも?」というのが、典型例だ。
クレーム・カスハラ対応を分析していくと、「対応冷静に考えれば、当然のこと」によくぶつかる。クレームやカスハラは、基本的にはサービスに対する不平不満から生まれ、その積み重ねがクレーム化する。自身の主張要求を強引に通そうとする力が加わったものがハードクレーム、強引に通そうとする行為のみになったらハラスメントだとしたが、そのプロセスごとに、私たちの説明を聞いたお客様が次をどうするか判断した結果だと言える。
だから、私はいう。
クレーム対応は、解決しなくていい。まず、説明すること。
第5章 受動的カスハラ対応判定
「逆カスタマーサクセス」
トレーニングを開始してから、有望株が5名ほどになった。特に大学生。彼らは、受電のスキマ時間に熱心に何かを読み、それについて、意見交換をしているのが見て取れる。私が、彼らのそばを通ると、指導してほしいと言ってきた。彼らは私の対応報告書をかたっぱしから読んで、使えそうなフレーズをメモし、実戦で活かそうとしていたらしい。チームは活気にあふれていた。そんな中、主力メンバーが手を焼く理不尽極まりない案件のバトンが私に託された。
クレーム化カスハラ化発展パターンのうち、『意図的・恣意的パターン』で主力がつまづく
この案件は、「クレーム化カスハラ化パターン」のベーシックパターンから派生したと考えてほしい。目に見えないサービスクレームに該当する点が、「金銭目的」や
「迷惑行為そのもの」などと明確な目的になっているパターンだ。
用意周到で、会話の最中に、エビデンスのための証言録音を開始し、意図的に自身の解釈に寄せる質問と回答が繰り返されたり、裁判予告を示唆したりする。それが困るなら金銭対応か、不当要求を飲めという。かなり粘着質なタイプの方で、相手を煽るのが得意だった。私は、2度目の対応にあたり、最終局面を迎えていた。
「企業スタンス対応」を突き詰めると
「逆カスタマーサクセス」になる
状況的には、顧客との関係修復は難しい。そもそも、そういう問題でもない。強制解約ができたとしても、
当社の理念軸で考えると、おそらく、そういう考えはない。
強制解約により、ブランドを棄損する恐れがある。
顧客から逆恨みを買う。違う形でコールセンターや本社に攻撃を仕掛ける可能性がある。
原点に戻ることが大切
「クレーム・カスハラ対応をクローズするのは、お客様自身」なのだ。そしてすでに、私たちは、チーム一丸となって1次対応で、企業姿勢を示し、企業としての説明を行った。2次対応では、主力メンバーがその姿勢を貫き、「ノーマライゼーション化」メソッドでお客様として、あくまでもサービスとしての話をつづけた。しかし、金銭要求と不当要求を続けた。すでに、私たちは、企業としての姿勢も判断もお伝え済みという条件が整っている。次にやることは、提示した判断基準や判断材料をもとに、今度は、お客様に最終判断を行っていただく。カスタマーサクセスの逆を行く感じだ。
しかしこの受動的な手法によって、企業ブランドを守り、対応者を守り、顧客の判断を尊重することは可能だ。
私は、クライアント企業の担当者へ、方針の確認へ向かった。
「逆カスタマーサクセス」を発動する
お客様が口火を切る。
「ちゃんと、答えを用意してきましたか? まさか、手ぶらじゃないですよね。ちゃんと録音してますから、きちんと答えてくださいね。」
「ええ、最終回答をお持ちしました。(中略) 私たちは、サービス向上のためのお話には全身全霊で聴きますが、今は、話が金銭要求になっています。もしくは、ポリシーを曲げてお客様の要望をのめと。(中略) 当社は、これまで一貫してお話してきたスタンスを通し続けます。これを企業の横暴とおっしゃる方もいるかもしれませんが、一方で、今も当社サービスをご利用くださっているお客様の期待を裏切らないために、当社は、スタンスを変えるつもりはありません。これが、私どもの最終判断です。これをもとにお客様のほうでご判断をお願いします。
えっ、えっー。こんなんある? (お客様の当てが外れた反応だった。)
お前、俺に会員を辞めろと言ってるの!?
私は、当社の最終判断を述べさせていただいただけです。もしそれがお客様のご判断なのであれば、致し方ございません。
もし、会員として残っていただけるなら、サービス向上のため、お力添え願います。
そして、お客様は退会を選択された。
第6章 気づけば、1週間、リーダー席に座り、腕組みをしているだけの私がいた。
先日、センター内で「例の女神様」によるクレーム対応研修が開催されたらしい。チームは全員、参加をしていた。問題は、このツワモノたちが書いた研修報告書だった。新上司とセンター長が、渋い顔でクレームを言いに来た。内容を見ると、
「この内容では、本当のクレームは解決しない」
「チーム研修のほうが、実戦的で価値がある」
など、似たり寄ったりのコメントが書かれていた。
これは、ちょっとどうでしょうか・・・そう言われてもね。
たしか、半年以上前になるが、「ミズカミさん以外、全員退職希望です」と言いに来たときは、そこまで渋い顔してなかったな。
さて、私も実績を積むことができ、チームは完全に自走化してる。クレーム対応メソッドまで指導できる。次の職場を探すタイミングが来たようだ。
言い忘れていたが、
私も大学生たちと同じ雇用条件なのだから。