
著者プロフィール
布の文化と物語を書いています。
連載小説
「マダム・ソワの布の博物館」
パリのパサージュにある小さな博物館で、
マダム・ソワが布の歴史を語る物語です。
1983年、兵庫県姫路市。オーダーメイドサロンを営む父と、呉服屋出身の母、そしてファッションクリエイターの祖母。私は、朝から晩まで布の気配が絶えない家で生まれ育ちました。
幼い私にとって、年に二回の「特別な日」がありました。 部屋いっぱいに広げられる、イタリアのシルクやフランスのレース。生地屋さんが運んでくる世界最高級の素材に目を輝かせ、端切れやボタンを宝物にして育った記憶が、私の原点です。
小学生の頃にはおもちゃのミシンで布小物を作り、母が仕立てた服を着て過ごしていました。高校卒業後、さらに服作りを学ぶためにパリへ渡りました。現地のファッション学校で学びを深める傍ら、オートクチュール刺繍の聖地「エコール・ルサージュ」にも通い、ひと針の重みを肌で感じてきました。
現在は、オーダーメイドブティック「ブリジャン」の三代目として、母と共にヨーロッパやインドの産地へ直接足を運び、買い付けた極上の布で婦人服を仕立てています。 その仕事の中で、改めてその底知れない魅力に気づいたのが「着物」でした。 素晴らしい手仕事が施されながら、役目を終えて眠っている着物たち。それを一度解き、現代の装いへと仕立て直す「サステナクチュール」の活動も、ここ数年でスタートさせました。
絹が国を動かし、レースが権力の象徴となり、一枚の布が人生を変える。 産地を訪ね、歴史を紐解くたびに、私は今もあの頃と同じように、布という素材に魅了され続けています。
この場所では、私がこれまでに出会った布の物語を、パリのパサージュに佇む不思議な博物館の主、マダム・ソワとの対話に託して綴ります。
あなたも今日、何かに呼ばれてここへ来たのかもしれない。 ようこそ、布の記憶が眠る場所へ。
※※この物語は、実在の経験や史実を織り交ぜたフィクションです。事実と空想の境界線が溶け合うパサージュの空気と共に、布の記憶をお楽しみください。