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行商くすり屋のつれづれ のんびり旅 第5話 浮き島の村

     湖の畔で、薬を作り終わったイオリたちは精霊にお礼を言って、次の村に向かいました。
     精霊は湖の上に大きな虹を作って、みんなを見送りました。
    「次の村はね~、有名な観光地なんだよ。」
    「そうなの!楽しみィ~~♫。」
     ニックは心の底から、嬉しそうに言いました。
    (おかしいなぁ、のんびり旅なのに・・・)
     なんだかんだ行く先々で、騒動に巻き込まれているような気もするニックでした。
    「【浮き島の村】って、言ってね。浮き島が橋でつながっていて、村になっているんだよ。」
    「そんな面白い村があるんだ!はぁ~、まだまだ世の中は知らないことがいっぱいだなぁ~。」
     ニックは感動して胸を押さえました。
    「しかもぉ~、お祭り中♪。」
    「そんな!お祭り中なんて!!カワウソ魂が騒ぐぅぅ♫。」
     ニックは嬉しすぎて、その場でバタバタ足を踏みました。
    「また良い土産話もあるよ。」とイオリ。
    「アハハ、なんかスゴイ土産話ばかりなんだけど・・・」
     ニックは色々思い出して、複雑そうな顔をしました。
    「おっと!」
     急にロッシーが早足になって、イオリは引っ張られました。
    「あっ、シップの木があるよ。ロッシー、あれが食べたいんだな?」
     イオリの手伝いで薬草に詳しくなってきたニックが、目ざとく見つけます。
     シップの木は、手のひらくらいの大きな葉っぱをつける木でした。刺激のない柔らかい葉っぱで、薬を塗って患部に貼るので、シップの木と呼ばれています。打ち身以外にもキズ薬を塗ったり、そのまま巻いても血止めになりました。ロックウルフに襲われたニックも、いっぱい貼りつけられました。
     食べることもできるので、ロッシーやネミーは見つけると我先に走っていきます。山で遭難しても、この木を見つければ助かるとも言われていました。
    「この葉っぱは、便利だからね。取っていこう。」
    「うん・・・(おいらに使ったからなぁ)」
     ニックは、また少し心苦しくなりました。
     二人は葉っぱを10枚ずつ互い違いに重ねて、保管用のカゴの入れていきました。ニックも、すっかり手慣れたものです。カゴは直ぐに満杯になりました。その間、ロッシーとネミーは葉っぱを食べて、お腹いっぱいになっています。
    「ロッシーたちは、今日の夕食いらなそうだね。」
     マジックBOXにカゴを入れながら、イオリは言いました。その時、テンプウが、空の上から大きな声で鳴きました。
    「どうしたのテンプウ?」
     ニックが見上げると真上で、テンプウがせわしなく羽ばたいています。そして、その後ろから黒雲がわいてきているのが見えました。
    「あちゃー、天気が崩れてきたね、急ごう。」
     一行はテントを作る良い所がないかと、辺りを見ながら急ぎ足で歩きましたが、運悪く良い場所はなかなか見つけられませんでした。
     その内、ゴーゴーと強い風も吹いてきたので、テンプウを降ろし、ロッシーの背中に乗せて進んでいきました。
     油断すると誰かが吹っ飛んでいきそうです。みんながみんな、お互いをつかんで、お団子のように固まって歩きました。
    「あそこ!あの岩の出ている所、良さそう。」
     スズリが道の脇に斜めに出ている岩の壁を指差しました。ちょうど風を避けられそうな角度になっています。
     直ぐさま、みんなで向かいましたが、そこまで行くのも、風にあおられ、よろけて大変でした。
     着くとスズリは、みんなを少し離して、岩を炎魔法でサッと焼きました。熱消毒です。厄介な毒虫とかいると危ないですからね。
     それから、みんなを岩を背にするようにして集めて、
    「酷い風だから、今日は土にするね!」と、言って、
    「ニグレド(分解)」前の土が細かくなって、ポワッと浮かびました。
    「アルベド(再生」それらが集まって、周りを囲む壁ができてきます。
     最後に、
    「カルキナーティオ(凝固)カルキナーティオ。」と繰り返して、
     頑丈な、土からできた家になりました。
     できた途端に風の寒さも音もなくなって、みんなホッしました。
    「うっわー、疲れた!」
     イオリは、その場に膝をつきました。
    「大丈夫!イオリ?」
     ニックが慌てて支えました。
    「回復薬飲む?」
    「うん、食事の後に飲む。ふ~~、狭いけど今日はここで我慢してね。」
     できたばかりの壁に、もたれて言いました。
     急ごしらえで土を変形させるのは、ツタテントより魔力を使うので、いつもより小さくなりました。
    「上等だよぉぉ。今日はおいらが夕食を作るね。」
    「ロッシーとネミーは食べたばかりだから、ナッツと角砂糖をあげればいいよ。あたしもポリッジ(麦粥)だけでいい。テンプウ用は干し肉しかないけど。」
    「わかった。」
     ニックはチマチマと動いて、コンロや火石の準備をしました。それをテンプウが見守っています。風が入ってこない向きに空気穴も作っているので、煮炊きも大丈夫です。
     ロッシーも疲れたのか壁に寄りかかり、目をつぶってジッとしてました。その脇腹にはネミーが丸まっているのが微笑ましいです。
     イオリは(今日は、なんで、こんなに疲れたんだろう?体調が悪かった?)と不思議に思っていましたが、みんなを見ている内に理由がわかりました。
    (守るものが多くなったから、気が張って疲れたんだな)と。
    (前はロッシーだけをつかんでいればよかったけど、今は大勢だからね~)
     力一杯つかんで、痺れた指をグーパーと動かします。
    「どうしたの?痛いの?」
     心配してニックが聞いてきました。
    「ううん、ほらっ、ギュッとつかんでいると指が痺れるじゃない。みんなとはぐれないように必死につかんでいたからさ。」
     笑いながらイオリは言いました。
    「わかる!ホント、風に飛ばされて、はぐれたらどうしようと気が気でなかっ!」と言いかけて、ニックが固まりました。
     同時にテンプウも翼を広げて、威嚇し始めます。埃が待って、ちょっと迷惑・・・ロッシーとネミーも悲痛な鳴き声を上げて、めり込みそうなくらい壁にくっついて、ブルブル震えています。
     その視線の先には、空気穴から覗いている大蛇の頭という、身の毛のよだつ光景がありました。
    「・・・」
     ニックは目を動かさずに、イオリの方にソロソロ動いてきました。
    「!!」
     大蛇がズルリと動いて、デロンと中に落ちてきました。
    「ヒェーーン」
     耐えられなくなって、ニックはスイオリにしがみついてきました。その前にテンプウが仁王立ちになりましたが、大蛇は、我関せずとトグロを巻いて、頭を上に置くと目を閉じました。
    「・・・・・・」
     みんな、しばらくジッとしていましたが、どうやら大蛇に敵意はないようです。
    「大丈夫みたいだね。」とイオリ。
    「だ、だ、大丈夫?」とニック。
    「うん、この蛇も嵐を避けてきたみたい。」
     ニックはイオリにしがみついたまま、まだ恐々と見ています。
    「ほら、テンプウも落ち着いてきたよ。」
     テンプウの冠羽が下がっていました。
    「これくらい大きいと多分この森の主だから、そんな無体なことはしないよ。」
     やっとニックも離れて、
    「心臓が止まりそうだった。」と胸に手を当てました。
     イオリは大蛇の分だけ、頑張って部屋を広げました。
     このままだと煮炊きもできないですから、そこでニックはポリッジを作りはじました。食欲がないと言いましたが、お腹に何か入った方が落ち着くからと言われ、渋々作りましたが、
    「大蛇さんの分もいるかな?」
    「う~ん、どうだろう。なくて怒ると怖いから、作って置いておくのが無難じゃない?」
    「・・・そうする。」
     あくまでも下手のニックでした。お皿に盛って、大蛇の前に置きます。
     それに気づいた大蛇は片目を開けて、舌をチロチロ伸ばしましたが、食べません。
    (お気に召さなかったぁ!カワウソの肉の方がいいのォォ?!)
     ニックはプチパニックになりそうでしたが、しばらくすると大蛇は食べ始めました。ただ単に、冷ましていただけのようです。
     それを見て、イオリたちもやっと食事につけました。
     ロッシーとネミーは、いつまでも大蛇になれないので、頭から毛布をスッポリかけてあげました。見えなくなるだけでも安心するので。
     お腹がいっぱいになると、果たして眠れる?と思っていましたが、みんなコトンと眠りにつけました。極度の緊張状態の揺り戻しでしょうか?気絶?
     そんなこんなで、あっという間に朝を迎えられたのは良かったでした。
     眠っている間に数が減ることもなく!無事に嵐の夜は明けました。
    「昨日のことが夢だったような気がする・・・」
     晴れ渡った空を見て、ニックはポツリと言いました。
    「夢じゃなかったね。」
     イオリは、手のひらの上の宝石のような鱗を見ました。

     今回は、目的地に着く前から色々あって、ニックもちょっと元気がなくなりましたが、村に近づいて祭りの喧騒を感じ出すとカワウソの血が騒いで、元気が出てきました。
    「元気になって良かったよ。」
     イオリも少し心配だったので、胸を撫でおろしました。
     祭りがあるので、村に近づくほどイオリたちのような旅人も増えていきました。そこをカワウソがピョンピョン楽しそうに歩いているので、周りから、あら可愛いと暖かい目で見られていましたが、いよいよ村の入り口の舟着き場で順番を待っている時に、テンプウがバッサバサと降りてきたので、一瞬で、みんな引きました。
    「あわわ・・・えっと、この魔獣は・・・」
     村の受付係も目を白黒させています。野生では、なさそうなので(何しろイオリが作ったレースの飾り襟に、足飾りもつけています。今日の日のために新調しました。)
    「従魔ですか?」と聞いてきます。
    「違います、この子が親です。」
     イオリはニックを指して説明しました。
     周りで、どよめきが起きましたが、確かにニックととても仲良しそうだったので、危険はないと村へ入れてもらえることになりました。イオリはちょっと心配していたのです、テンプウは見た目が怖いので、拒否されたらと。なので、精一杯(イオリが思うところの)可愛い装いをテンプウにしてました。
     イオリたちは、ディディが言ったように、旅の見世物一座?かと思われながら、進んでいきました。
    「うわ~~、水じゃなくて、モヤモヤしている。」
     舟着き場から周りを見て、ニックは更にはしゃぎました。ここの最大の見所である霧の湖が広がっています。そして、そこに点在している大小の浮き島が、幽玄に浮かんでいるのが見えました。
    「おやおや、これは珍しい御一行ですね。」
     舟着き場で声をかけてくる人がいました。霧に浮かぶ舟の舟頭さんです。
     ヒョロリと背が高く、頭には草で編んだ円錐形の笠を被り、そこから長い髪がのぞいていました。ここの民族衣装なのか?袖なしの膝丈の上着に細いズボン、足にこれも草で編んだサンダルを履いています。
    「どうです、私の舟でここの由来を聞きながら、宿まで行くというのは?」と誘ってきます。
     イオリたちは、どうしよう?と顔を見合わせました。感じの良さそうな人では、ありましたが・・・
    「そいつぁ、いいやぁ、お客さん。ヨルムさんは、ここで一番の舟頭だから安心していいよ。」
     近くを通った他の舟頭も言ってきます。
    「じゃあ、お願いします。」
    「鷲さんも一緒に乗った方がいいですよ。ここでは鳥は飛べないので。」
     テンプウを怖がらずに、ヨルムは言いました。
    「へ~、本当に、ここは変わった所なんだね。」とイオリ。
    「魔法がかかっていると言われてますが、あなたも魔法が使えるようですね?」
     舟を出しながら、ヨルムが聞いてきました。
    「え~、なんで、わかるの?そうなんだよ、イオリは魔法も使えるんだよ。この前も山で大変な目にあったんだけど、イオリが助けてくれたんだ。」
     我がことのようにニックが自慢しました。
    「私は感が良いので、なんとなくわかるんですよ。」
     たゆたう霧の中を、ゆっくりと舟は移動していきました。普通の水のような抵抗はなく、なんだか雲の上を漕いだら、こんな感じ?という不思議な感触でした。ロッシーも緊張していますが、怖がっていません。ネミーはテンプウのお腹に抱き着いていました。
    「ここで、おいらは泳げるかな?」
     ニックが霧に手をつけて、聞きました。イオリとテンプウはウッカリ落ちないかハラハラしました。
    「残念、ここで育ったものしか浮かばないんだよ。この舟の材料も浮き島で育ったものだけ。霧の中には危ない魔獣もいるから、あまり手足もつけない方がいいよ。」
     ヨルムが、ガブリという仕草をして、
    「ワーー」とニックは慌てて手を引っ込めました。
    「ここに下には、大魔法使いの館があったとか、神殿があったとか伝説が
    あるけど、そこで何か大きな失敗があって、こんな場所になったと言いわれていますね。」
    「ほぇ~、そうなんだ!」
     ニックがメモを出して、書きとめました。
    「おいら村を出て一年くらいだけど、知らないことばかりだ。」
    (特に、イオリに会ってからは。)という言葉は出しませんでした。
    「旅は良いですよね~、私はここから出たことがないので、旅人に憧れます。」
    「そうなの?一度でも出た方がいいよ。」
     先輩ぶって言うニックが可愛くて、イオリは苦笑いを堪えるのが大変でした。
     それから湖にまつわる昔話や土地の風習を聞きながら、短いけれど楽しい
    舟旅は終わりました。
    「ホラ、宿が見えてきましたよ。」
     大き目の浮き島をヨルムが指しました。その周りにも色々な浮き島があって、橋でつながっています。
    「あそこは鷲さんがとまれそうな大きな木もあるから、お勧めです。お土産屋に、食べ物屋も近いし、ここら辺が一番大きい群島かな。」
     舟が浮き島の舟着き場に着くと、ヨルムはわざわざ宿の主人にイオリたちを引き合わせました。テンプウとロッシーは外で待っています。ネミーはニックに抱っこされて中に入りました。
    「ここは初めてだそうだから、よくしてあげてね。」と口添えも。
    「あら、ヨルムさんのご紹介?まぁまぁ、旅芸人の方?」
     前に世話になった宿のアンナさんを思い出す、ふくよかな女主人が言いました。
    (そんなに、あたしらって芸人に見えるの?)とイオリは、可笑しくなりました。
    「いやいや、行商のくすり屋さんだそうですよ。」
    「まぁ、そうなの!後で足りなくなったお薬もらおうかしら?」
     宿では、具合の悪くなった旅人に薬をあげることがありましたから。
    「それは、毎度ありです♬」
     思いがけない商機にイオリはホクホクしました。
    「外に鷲とロバさんもいるから、そっちも世話してあげてね。」
     心配りができる人だなぁとイオリは感心しました。
    「良かったら、明日もここの案内をさせてよ。行商の人には、ここの良い宣伝を行く先々でしてもらいたいからね。」
     なるほど!と、ヨルムの下心に気づいて、
    「お願いします。」とイオリは、気兼ねなく答えました。
     ヨルムが帰った後、外のテンプウを見て一騒動ありましたが、イオリたちは2階の部屋に通されました。窓から、テンプウのとまっている木が近い部屋です。
    「ヨルムさん、いい人だね~。すっごい長くてキレイな髪だった。」
     ニックが無邪気に言いました。
    (そうかぁ、長い髪に見えるんだ。)と違うものも見えるイオリは思いましたが、黙っています。ネミーもやっと安心して、部屋の中をウロウロ歩きだしました。
     それから浮き島名物の蒸気風呂に入って、風通しの良い宿衣に着替えると夕食までの時間を、宿の庭でブラブラ過ごしました。
     早速、ニックとネミーは宿に泊まっている子供たちに囲まれています。テンプウのいる木の下にも人が集まって、すごいね~、すごいわ~と言われています。
    (やっぱり見世物になっているなぁ。)
     イオリは庭の椅子に座って、いつの間にか愉快な仲間たちになっている旅の連れを見ていました。
    (海の町では、クラーケンの方が目立っていたから気づかなかったけど、これから人の多い所に行くときは気をつけないとだな。)
     霧の湖が夕日に染まって、益々、神秘的になっていました。時々、魚か?魔獣が跳ねていましたが、急に喧騒が起きました。
     ケルピーだ、ケルピーが見える、と水際に人が集まって騒いでいます。
    「イオリィ~、何が出たの?」
     そちらに人が移ったので、ニックがネミーを抱えて戻ってきました。
    「ケルピーだって、馬と魚がくっついた姿の魔獣だよ。」
    「うわ~、怖くない?」
    「遠いから大丈夫だよ。宿も結界が貼ってあるし。」
    「あっ、そうだ、おいら遠眼鏡を持っているから、窓から見てみようよ。」
     ニックはイオリの手を取って、部屋に引っ張っていきました。
     ここに写し魔法の人がいれば、ケルピーも写してもらったのなぁと、ニックは残念がりましたが、窓から遠眼鏡でよく観察できました。
     イオリはついつい職業柄、あれに血吸草は使えるかなぁ?どんな薬効があるかなぁ?と素材として見てしまいます。
     そうこうしている内に、日も暮れて、庭の喧騒も収まってきました。夕食の準備もできたと言ってきたので、魚かな?エビかな?とニコニコしながら降りていきましたが・・・
     下に行くと出入口の前に、どう見ても役人風の人たちがいて、イオリはいやな予感がしました。魔法使いは、そういう感も良いです。
     他の旅人も心配な心持ちで、なんとなく集まっています。
    「皆さん、すいません。どうも水妖が騒いでいて、何か水妖を興奮させるものを持っている方がいるかもなので、宿検めをしたいそうなんです。」
     宿の主人がペコペコと頭を下げて、お願いしてきました。
     役人の言うことには逆らえません。みんな夕食を後にして、宿検めが始まりました。終わった人から食堂に行きましたが、すべて終わるまで、みんなソワソワしています。
    「え~と、薬の行商人ですね。」
     イオリの許可証を見て、役人がいいました。イオリとニックは身を寄せ合って、立っています。おかしな物は持っていませんでしたが、何が引っかかるかわからないので、緊張します。窓の外からテンプウが怖い顔でのぞいているので、役人も緊張しています。
     部屋の中でマジックBOXの中身を出して、検査されています。
    「あった、ありました。これです。」
     魔法探知が使える役人が、小さなものを上にかかげました。
     ええ!何が?とイオリが驚いて見ると、それは山の大蛇の鱗でした。
    「それは、最近、山で助けた大蛇にもらったものなんです。」
     イオリは焦りながら、言い訳をしました。宿にいる人たちの目が、一気に人気者から罪人を見る目に変わったようで、冷や汗が出ます。
    「蛇は水の属性なんで、それで水妖が騒いだんですね。」
    「・・・じゃあ、それを捨てればいいですね?(もったいないけど)」
     早く終わりにしたくてイオリは言いました。
    「捨てなくてもいいですが・・・ここから遠い場所に持っていってもらわないと。」
     役人は困り顔で答えました。
    「・・・それは、つまり、ここから出て行けと?」
    「そんなぁぁ。」
     ニックが悲痛な声を上げました。
    「せっかく、ここの観光を楽しみしていたのに・・・」
    「まだお土産も買っていないのに・・・」
     イオリとニックは身を寄せ合って、めそめそシクシクと嘆きました。
     思わず非難の目で様子を伺っていた他の人も、可哀想に思える様子でした。
    「食事もまだなのにィ~!久々にベットで眠れると思ったのにィ~!」
    「とても心苦しいのですが・・・」
     部屋の中の剣吞な空気に、テンプウが窓枠に迫ってきました。それをチラチラ見ながら、
    「向こう岸の舟着き場の受付小屋を使っていいので、そこで何とか・・・」
    「ヤダー、ヤダー!!」
     とうとうニックのまだ残っていたお子ちゃま部分が、爆発しました。
     床に寝転がって、手足をバタバタさせて暴れます。それを見てテンプウも威嚇音を出しました。収拾がつかない状態になってきたので、役人たちの緊張感も増しました。魔法使いが前に出ます。
    「仕方ないよ、ニック。」
     それを察して、イオリが諦めて言いました。
    「ごめんなさいね~」
     すかさず宿の主人が出てきて、取り成しました。
    「宿で用意できるものは持ってきたから。」
    「私が送りますよ。」と、いつの間にかいたヨルムも割って入ります。
     決まってしまうと、サッサッとイオリは片づけに入りました。ニックはテンプウにしがみついています。
    「本当に、ごめんね~。ここを嫌いにならないでね。」
     宿の主人が心底申し訳なさそうに、見送ってくれました。
    「まぁ、これも風の巡り会わせです。また機会があったら来ますね。」
     イオリは大人の対応をしました。
    「これ、色々な所の割引き券です。次に来た時に、使ってください。」
     役人が紙の束をくれました、観光地に悪評はいただけませんから。
    「では、行きますね。」
     ヨルムの舟が静かに出て行きました。
    「ニック、元気を出しなよ~。人生には、こういうこともあるよ。」
     まだグスグス言っているニックの肩を抱いて、イオリは言いました。
    「悪いことの後は、良いことがあると言いますしね。」とヨルム。
     そんなヨルムをキッと見て、
    「ヨルムさんは、良い人だと思ったのに!」
     ニックは八つ当たりをして、またテンプウのお腹に顔をうずめました。
     舟の中が静かになりました。音もなく舟も進んで行きましたが、なんだか湖の中心に向かっているようにも感じられました。
    「ヨルムさん、まだ舟着き場までかかる?」
     心配になって、イオリは声をかけました。それに振り向かずに、
    「もう直ぐですよ。」
     とヨルムは答えましたが、見えてきたのは、岸辺ではなく島影でした。
    (これはマズイ状況では?)
     イオリはニックを抱きしめながら、どう逃げようかと考えました。タブーを侵して、生贄!の文字が頭の中をグルグル回っています。
    (テンプウは飛べないし、湖は泳げないし・・・)
     テンプウを見ると、やはり緊張した面持ちです。ロッシーもネミーも身を縮こませています。
    「つきましたよ。」
     イオリが思案している内に、とうとう島につきました。
    「え?どこ?」
     顔を上げたニックが周りを見て、言いました。
     イオリが顔を強張らせましたが、それを見て、
    「本当に、友が迷惑をかけて、申し訳なかった。」
     ヨルムが勢いをつけて、笠も吹っ飛ぶくらいに、体を二つに折って謝りました。
    「ええ?」
     急転換にイオリも戸惑いました。ニックが更に訳がわからずポカンとしてます。
    「友?友って誰のこと?!」とイオリ。
    「その問題になっている鱗の持ち主ですよ。取りあえず、中に入りましょう。宿が持たせてくれた夕食もありますから。」
     それから居心地の良いヨルムの家に入って(どうやら生贄には成らなそうだとわかって)イオリも人心地をつけました。ロッシーとネミーは、ヨルムの脅威を感じられない結界の中に入れてもらいました。
     家の中で、ヨルムは自分にかけていた目くらましの魔法を解きました。上半身はまだ人型でしたが(話すのには、こっちが良いそうです。)下は長い蛇の胴体です。
     ニックが長い髪と思っていたのは、その胴体でした。イオリには、それが薄っすら見えていましたが、下手に指摘して恨まれると困るので黙っていました。
    (村の中で知っている人はいるのかな?魔法使いもいるし。)
    「キャッ!蛇?え?蛇なの!!」
     それを見て、ニックが目を白黒させました。
    「山で出会った大蛇さんの友達だって。」
     疲れた表情でイオリが言いました。向こうが山の主なら、こっちは湖の主なのでしょう。
    「あいつは人嫌いで山に籠っていて、何百年も会っていないんです。イオリがあいつの鱗を持っているのに驚いたけど、まさか、こんな騒ぎになるとは・・・」
     イオリは山での経緯を話しました。
    「大方、昼寝をしていて、嵐に気づくのが遅かったのでしょう。神経質なのに、抜けているところもあるから。しかし、イオリたちの所に行くなんて、あつの人嫌いも少しは良くなったのかな?」
     山の方を見ながら、ヨルムは独り言ちました。
    「そうそう、あいつの鱗をかしてもらえますか」
    「いいけど、どうするの?それこそ、何とかしなくていいの?」
     イオリが騒動の原因を思い出して、聞きました。
    「こうやって・・・私の鱗ではさんでおけば、ここの水妖も私と思って、安心しますから。」
     そうしてイオリに返しました。
    「え~~、それなら宿でしてくれたらよかったのにィ~」
     ニックがプンスカ文句を言います。
    「ごめんね。私の正体を知らない人もいるから。」
     ヨルムは手を合わせて、平謝りしました。
    (いいのかなぁ、この主も、けっこう力があるのに・・・)
     ニックのご機嫌取りをする大蛇を見ながら、イオリは内心冷や冷やしましたが、あの湖の精霊に気に入られるくらいだから大丈夫なのか?とも思いました。
    「何はともあれ、友のかけた迷惑だから、私が尻ぬぐいするよ。ここを宿にして、私が上手く言うから、明日から村で観光してもいいし、私も約束通り色々案内するよ。」
    「ほんと♪、じゃあ、おいらケルピーを側で見たい。」
     すっかりご機嫌になったニックは言いました。

     翌日、イオリとニックはヨルムの舟で村の群島に戻りました。
     鱗は、ヨルムが向こう岸にいた商人に渡して、遠くに行ったから大丈夫と誤魔化してくれました。村の者も悪いことをしたと思っていたので、イオリたちを見かけると、特に親切にしてくれました。
    「悪いことの後に、良いことがあったね。」
     ニックはスキップしながら言いました。
    「そうだね。」
     それからイオリたちは、ここでしか食べられない郷土料理を食べたり、橋の上を器用に飛び回る祭りの踊りを見て、楽しみました。
     ヨルムには、ケルピーやホタル見物に連れていってもらいました。ヨルムがいれば安全でしたし、呼べば水妖も出てきてくれるのでハズレがありません。
     イオリは、湖だけに生えている珍しい植物も取ってもらいました。お礼にヨルムには、海の貝殻とクラーケンの写し絵、魔獣にも効く薬をあげました。
     お土産屋に、ここの写し絵も売っていたので、ニックは早速、買いました。なんだか写し絵コレクターになりそうです。
     イオリも買って、ディディの手紙に入れました。ここであった不思議な話もディディなら信じてくれると思って書きました、ヨルムの正体は内緒にしてもらって。
     そんなイオリたちを見ながら、ヨルムも久々に、山の友にお土産を持って会いに行ってみようかと考えました。

    *ネミーが気づいた話*

     ヨルムの家に泊まっていた時、イオリがネミーのブラッシングをしているとネミーの後頭部に!
    「コインパゲが!!」
     できているのに気づきました。
     そう言えば、小動物にとって蛇は最大の天敵!このところ、そういうものに会うことが多かったから・・・とイオリは思い当たりました。
     そこでネミーにも気晴らしさせてあげようと、お土産屋に連れていってあげました。
    「何でも好きなものを買っていいよ。」
     ネミーを抱えて見せながら、スズリは言いました。
    「アラアラ、可愛いお客さんだね。板の上に降ろしていいわよ。軽いでしょ。」
     動物好きな店主が、優しく言ってくれました。
     ネミーは平らな板の上に広げられた品物を、踏まないように器用に避けながら見て回りました。ニックが、コレは?と途中でさし出しましたが、いい迷惑のようです。一度、ビシッと手で叩かれていました。
     そうやって、しばらく歩いていましたが、なかなかお眼鏡に適うものがありませんでしたが・・・ついに!運命の出会いが!!
     それは暗い隅にうずくまっていました。ネミーは、ソッと触ってみました。
    (柔らかい♫、それに自分の手にピッタリ収まる小ささ。そう!これがCawaiiと言うものだ!)と、小さな魔獣の頭にCawaiiという概念が生まれた瞬間でした。
     自分がよく周りから可愛いと言われるのは、こういうことか!とネミーの情緒が進化しました。
     ネミーはイオリの方を振り向いて、手に持ったものを出しました。
    「ぬいぐるみじゃん、それが欲しいの?」
     ネミーは激しくうなづきました。
    「ああ、それね。なんか、ここのお土産っぽくなくて、売れなかったのよ。安くしとくよ。」
     そうして、ぬいぐるみはネミーの元に来ました。クマなのか?犬?猫?微妙にわかりにくいぬいぐるみでしたが、ネズミに間違われたリスのネミーと似たもの同士です。
     ぬいぐるみはコネミと名づけられ、ネミーが毎日かいがいしくお世話をしました。一緒に寝て、食べて(ふり)自分が作ってもらった服を着せて、またその可愛さに気づいて、ビックリしてました。そして、イオリたちが村へ行くときは、必ずついて行くようになりました。
     ネミーの目的はコネミ用の物を買うためでした。コネミを背中におんぶして(イオリがヒモで結んであげた。)可愛いものを売っている店を梯子するネミーの姿が、また可愛いと村の話題になり、贈り物をしてくれる人も現れる始末。
    「あれを見ていると、妹の小っちゃい頃にソックリだよ。」
     ニックが笑いながら言いました。
    「ニックは小さい頃、何をして遊んだの?」
     イオリが聞きました。
    「・・・う~ん、おいらは河原の石の上に、羽やドングリを並べてカワウソ祭りごっこかな。」
     それも、また可愛いとイオリは心の中で思いました。


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