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Photo by123ribbon

霞(かす)んだ星 ショートショート (#片想い文芸部 あくび)

    「ふわあ…」
     思わず僕はあくびをする。外は暑いけど、ここは空調が効いていて心地いい。と、ムニュッと頬ほおに何かが当たった。

    「ふふっ」
     ひよりちゃんがこちらを見て笑っている。

    「もー、何」
     僕は抗議の声をあげた。彼女は僕があくびをすると、いつも頬をつつくのだ。

    「だって、かわいいんだもん」
     ぷうっと頬をふくらませて見せる。

     君の方が全然かわいいよ、と思うのだけど、とても口に出しては言えない。

     代わりに
    「もうやんないでね」とたしなめると
    「ちえー」
    と残念そうにしていた。
     その様子もまたたまらなくて、彼女に擦り寄る。
     そうやってじゃれあっていたら

    「そうだ、おやつ!食べようよ」
     ひよりちゃんは立ち上がって、お皿を持って来た。

    「新商品があったから、試しに買ってみたの」
     美味しそうでしょ、とゼリーを見せる。黄色っぽくて、何かの欠片かけらが所々入っていた。

     僕はひと口食べてみる。つるん、と心地よく喉を滑っていった。

    「うん、美味しいね。食感もいいし」
     そう言うと、嬉しそうな顔をする。

    「でしょ?リョータ、気に入ってくれると思ったんだ」
    とニコニコしていた。その顔がまぶしくて、僕は幸せな気持ちになる。

    「ひより、大好き」
     そう言うと、彼女は嬉しそうに笑って僕の頭をなでた。

     ***

     ある日、外から帰ってきてリビングでくつろいでいると
    「ただいまー」
    と声がする。
     ひよりが帰ってきた、と思ったら続いて見知らぬ男も部屋へ入ってきた。

     え? こいつ、誰だろう。

    「リョータ、この人はレンくん。同じゼミを取ってるんだ」
     ふうん、と思う。なんだかおもしろくない。

    「やあ」
    と彼は挨拶した。いかにも軽そうなタイプで、いけ好かない。
     僕は無言でじっと見つめた後、ふいと横を向く。

    「あれ、もしかして嫌われちゃったかな」
    と彼は苦笑いをした。

    「えー、そんな事ないよね」
     彼女はそう言ったけど、僕はそっぽを向いたままだ。

    「ねえ、レンくんは私のお友達だから、仲良くしてほしいなあ…」
     上目遣いで彼女は言った。
     その顔はズルいよ、と思うけど、やっぱり彼女には勝てない。

    「──しょうがないな」
     渋々そう言うと
    「ありがとう!リョータ」
     ひよりちゃんはひまわりみたいな笑顔になった。

     ***

     それから、奴ヤツはちょくちょく来るようになる。家が近いとかで、何かにつけて彼女と僕の家に上がり込んできた。
     全然歓迎できなかったけど、彼女は嬉しそうに出迎えている。そのうち、ご飯も一緒に食べたりするようになった。

     アイツはひよりの大事な友だちみたいだから、しょうがない。だけど──
     僕は日に日に、割り切れない思いを募つのらせていった。

     ***

     ある日、いつもより帰りが遅くなって、いそいで家路をたどっていた。
     玄関へ入って部屋の方を見ると、ドアが半分ほど開いている。それで、彼女とレンがいるのが分かった。

     ──アイツ、僕がいない時まで勝手に上がり込んで。
     ふつふつと怒りが沸いてきて、一言言ってやろうと一歩踏み出す。と、

    「今日はリョータ、いないんだね」
    とレンが言った。

    「うん」
     彼女がうなずくと、
    「じゃあ、気兼ねしないで済むな」
    と、ひよりのそばに座りこむ。

     おい、そこは僕の場所だぞ。
     僕は声を上げようとした。と、

    「もーやめてよ〜」
     ひよりが笑いながら、その背を軽く叩く。

     ──え、なんで。

     僕は混乱して、棒立ちになった。
     ひより、どうして? 君は僕の彼女でしょう。

     フリーズした僕に、彼らは気づいていない。親しげにひそひそと何か言葉を交わしている。
     そのうち、
    「リョータ、遅いからちょっと見てくるね」
    と彼女が席を立った。

     マズい。
     僕は足音を立てずに、その場を走り去った。

     ***

     ひよりは部屋を出て、リョータの手つかずの餌皿えさざらを眺める。やっぱり、ちっとも減っていない。

    「どこに行っちゃったのかな…」
     彼女はつぶやいた。後ろから、レンが側に寄る。

    「どうしたんだろうね、一体」
    「うん。早く帰ってくるといいんだけど──」

     ***

     リョータはとぼとぼと外を歩いていた。脳裏には、さっきの仲睦むつまじそうな2人が焼き付いて離れない。
     辺りはすっかり暗くなっていた。
     彼はハァ、とため息をつく。

     もう、あそこへは帰れない…
     肩を落として立ち止まった。視界がなんだか滲にじんで見える。

     ──ひより、どうか幸せにね。
     僕も、新しい彼女が欲しいなあ。

     彼の頭上には、満天の星がきらきらと輝いていた。その中を、一筋の光がサーッとななめに横切っていった。

                     了



     ナルさんの #片想い文芸部 「あくび」で書いてみました。ありがとうございます…!
    なんかバタバタしてて遅くなってしまった🫠
     ナルさんの記事はこちら↓

     どうぞよろしくお願いしますm(__)m

     
     
     

    時雨

     
     
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