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Photo bykerari_dowa

真夜中の電話 (ショートショート)

    時雨

    ※不妊治療や妊活に関する話です。ややショックな内容が含まれるので、すみませんがご不快に思われる方は読むのをお控えいただくようお願いいたします。


     真夜中の電話

     彼女はため息をついた。今日は病院へ行く日だ。不妊治療のため、月に何度か通わなくてはいけない。
     結婚して数年、夫の憲一けんいちは子供を欲しがった。けれど、麻里亜まりあはまだいいと思っていた。けれど、夜の生活は人並みにあるのになかなか妊娠しない。
     彼らは病院で調べてもらう。すると彼女の卵子は育ちにくく、妊娠しにくいようだと言われた。

     治療をするため、麻里亜は病院へ定期的に通った。排卵日を調べ、妊娠しやすい日を教えてもらうタイミング法を行う。説明を聞いて、憲一は始めは少し嫌そうな顔をしたが
    「赤ちゃんが欲しい」
    と彼女が言うと、しぶしぶ協力するようになった。

     1回目は予定通りに生理が来た。がっかりしたが、すぐに出来るものではないと聞いていたので気を取り直す。2、3回目も指定日に彼らは実行した。なかなか思う通りにいかないと分かってきて、彼女は心を削られていく気がした。

     4月目はなかなか生理が来ず、体温も高いままだった。
     麻里亜の胸は期待に膨らんだ。10日経っても生理は来ない。妊娠したかもしれないと喜んだ。憲一に話すと嬉しそうにしていたが
    「まだはっきりしていないなら安静にしてなよ」
    と言った。病院に電話すると
    「あと4日ほど経って、何もなければ来てください」
    と言われる。
     2日後、軽い腹痛があった。嫌な予感がする。痛みは次第に強くなり、洗面所へ行くと出血していた。動揺してすぐに病院に連絡する。

    「早く来て」
     痛みを我慢しながら向かった。
    「エコーには何か影が見えるようだが、はっきりしない。早期流産だと思われます」
    と言われ、ショックを受ける。

     その後処置をしてもらい、薬を処方されて少し休んでから家へ帰った。
     呆然ぼうぜんとしたまま玄関の鍵を開け、中へ入る。とっくに日が暮れていたが、憲一はまだ帰っていない。きっと今夜も仕事で遅いだろう。
     電話をすれば帰ってきてくれるかもしれない。けれど、繁茂期はんもうきなので無理かもしれなかった。

     誰かと話したかったが、彼女に親しい友人はいない。母親も疎遠であまり連絡をしていない。ひしひしと孤独が押し寄せる。誰でもいいから話がしたかった。

     衝動的しょうどうてきにスマホを取り出し、適当に番号を押す。どこにも繋がらない。もう一度、でたらめに番号を押す。一瞬の沈黙の後、スマホは呼び出し音を立てた。1回、2回。3回目の途中で音が止まる。

    「…はい。もしもし」
     知らない男性の声。落ち着いた、少し低い音だ。30代か40代だろうか。麻里亜の心が揺れた。
     彼と話してみたいという気持ちが芽生えたが、躊躇ちゅうちょした後電話を切った。
     けれど、その人の声の響きがずっと耳に残っていた。その日はなぜかぐっすりと眠れた。

     次の日は1日中ぼんやりして過ごす。仕事もなかったので、寝床から出なかった。
     夫は休日出勤らしく、朝早くに起きて出かけていった。
     まだ昨日の事を話せていない。でも、電話で話す気にもなれなかった。
     昼になり、夜になった。彼はまだ帰宅しない。夜が更ふけても帰ってくる気配がなかった。

     麻里亜は寝るのにも疲れて、スマホを手に取る。そして昨日かけた電話番号の欄を押した。

     呼び出し音が鳴る。2回鳴った後
    「もしもし」
    と誰かが出た。昨日の男性と同じ声だった。落ち着いていて、特に怒ってはいないようだ。波立っていた心が穏やかになっていくのを感じる。
     彼と話ができたらと思いながら、彼女は切電のボタンにゆっくり手を伸ばす。

                 了(1470字)

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