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龍との約束 3つのお題 即興小説⑨

     こんにちは。昨日3つのお題をやったら、いつもより3倍くらい長くなったんですが、とりあえずupします。どうぞよろしくお願いします!
     メンバーシップ

     Amazonの本の方も引き続きよろしくお願いいたします。一次創作本で短編集です。
    『もしも僕がリンゴの木を植えなくても』


     それでは、始まります。

     僕は1人、山の中を走っていた。もうへとへとだ。目がかすみ、足がもつれる。何かにつまずいて、転んだ拍子に顔をすりむいた。
    「痛…!」
     足がガクガクする。このまま横になっていたい気がするけれど、脳裏に苦しんでいる家族の顔が浮かんだ。

    「おばあちゃん…!」
     そうだ、こんな事をしていられない。今すぐ神社へ行かなければ。
     僕はよろよろと立ち上がり、また走りだした。
     もうこれ以上は歩けないと思った頃、目的地に着く。息を切らし、立ちつくす。

    「ここだ…」
     そこは鬱蒼と木がしげり、古ぼけた鳥居があった。その下を階段が通っていて、頂上へと続いている。
     もう夕暮れ時で、夜になったら真っ暗で何も見えなさそうだ。ゴクリ、とつばを飲み込む。
     けれど、立ち去る選択肢はない。僕にはやらなければいけない事があるのだ。

     待っててね、そう呟くと一歩一歩階段を上っていった。

     ***
     僕は小さな街で生まれた。お父さんとお母さん、そしておばあちゃんも一緒に住んでいた。お母さんのお母さんで、とても優しかった。
     両親が共働きだから、彼女が僕の面倒を見てくれた。僕はおばあちゃんが大好きだった。保育園のお迎えも授業公開も必ず来てくれて、目が合うとニコニコと手を振ってくれた。
     小さい頃に熱を出した時、つきっきりで看病してくれた。お父さんもお母さんもあまり家にいなかったけれど、彼女さえいてくれれば心細くなかった。僕の心の真ん中には、いつもおばあちゃんがいた。
     けれど──

     おばあちゃんはだんだん元気がなくなっていった。よく寝ているようになり、あまり起きて家事ができなくなった。僕は心配した。
     病院にも行ったけれど、一向に良くならなかった。彼女は日に日に痩せ細り、話ができる時間がどんどん少なくなっていく。寂しかったが、このままではおばあちゃんが…と考える方が怖かった。
     僕に何かできる事は無いのだろうか──それまではよく外で遊び回っていたけれど、あまり遊ばなくなり、家や図書館でぼんやりする事が多くなった。
     その日も学校が終わって帰ろうとしたけれど、なんとなく戻りたくなくて、家の団地の階段に座って物思いにふけっていた。
     すると、同じ団地の友達のアユムがトントンと階段を上ってくるのが見える。

    「よう、ユキト。元気か?」
     元気も何も、今日も学校で会ったばかりだ。彼とはよく遊んでいたけど、最近はあまり一緒にいない。ふいと横を向くと、彼は隣に腰を下ろした。
    「最近どうしたんだ? 学校でもあまり話さないし」
     家の事は友達には話していないので、誰も僕の事情を知らなかった。はあ、とため息をつく。

    「……ばあちゃんが」
    「お前、ばあちゃんいたんだ」
    「普通いるだろ」
     むっとしてそう返す。
    「俺のは2人ともいない。1人は俺が生まれた時にはもういなくて、もう1人は幼稚園の時に死んだ」
     その言葉が、グッと僕の胸を刺した。おばあちゃんもそうなったらどうしよう……

    「うちのばあちゃんはまだいるけど、」
     こみ上げてくる何かを堪えながら続ける。
    「病気になっちゃったんだ。すごく弱っちゃって。もしかしたら…」
     そこまで言うと、視界がにじんだ。顔を見られたくなくて下を向く。
     ユウキはこちらを見ていたが、視線を元に戻した。
    「…そっか。それは辛いな」

     その言葉は、どんな慰めや優しさより胸に染みた。ぽたぽたと、顔から水滴が滴り落ちる。
    「泣くなよ」
    「泣いてない」即座に否定する。
    「…そうかよ」
     ため息をついて、しばらくしてから彼は話始めた。

    「あのさ、聞いた話なんだけど」
    「うん?」
    「ここら辺って、昔は湖だったのは知ってるか」
    「聞いた事がある」
     だからここの地名は青沼、という名前がついている。
    「あの山に、神社があるのは知ってるな」
     とすぐそばにある山を指差した。
    「…ああ」
     池が眺められるその山に、池の神様を祀ったらしいというのは前に耳にした。
    「そこの神様に願いを言えば、どんな願いも叶えてくれるらしいぜ」

     僕はそれを聞いてびっくりする。
    「そうなの?!」
    「だから、お前に何か望みがあるなら、あの神社に行けばいいんじゃないか」

     僕は動揺していた。それは本当なんだろうか? じゃあ、その神様にお願いしたら、おばあちゃんは元気になる…?
    「まあ、信じるかどうかはお前次第だけどな」
     彼は、ニヤリと口の端を曲げて笑った。

     ***
     僕は長い階段を上っていた。雨も降り始め、古い石の階段はツルツルと滑りやすい。足元の悪い所を注意しながら進んでいく。
     ゴロゴロ…と、雷まで鳴り始めた。落ちてこないかとヒヤヒヤする。上を向くと、ツルッと足が滑った。

    「あっ…!」
     僕はごろごろと転がり落ちる。途中の踊り場みたいな所まで転がって、やっと止まった。

    「つつ……」
     体中のあちこちが痛い。傷だらけだし、泥だらけだ。もう夜が来てしまう。お母さん達が心配してるかもしれない──そう思うけれど、体が動かない。

    「おばあちゃん…」
     僕はつぶやいた。
     目を閉じて、彼女の事を思う。おばあちゃんはもっと苦しい目に遭っているんだ。こんな事でへこたれたら、笑われてしまう。
    「負けるもんか…!」
     僕は歯を食いしばり、上半身を起こすとまた一段一段登っていった。
     息を切らし、長い長い階段を登り終える。
     登り切った所にも鳥居があって、そこをくぐる。奥には古い神殿があって、前に木の賽銭箱が置いてあった。

    「着いた…」
     すると、ドーン!という音がして、黒く厚い雲の間から何かが勢いよく飛び出した。
     それは白い光で雷かと思ったが、いつまでも消えない。
     あれは何だろう…?
     僕は目を凝らしてそれを見る。

     それは大きな龍だった。頭に何かを載せている。
    「ええっ……」
     僕は目を疑った。
    「もしかして、竜神様…?」
    「いかにも」
    と声が聞こえた。頭の上に若い男の人が立っている。セミロングくらいの髪で、着物を着ていた。

    「君が僕らを呼んだのかい」
    「あなたは誰?」
    「僕は竜神のお供だよ。僕を介して、参拝者と神は会話ができる」
     そう言うと、唐傘をポンと開いた。
    「雨が降っているのは、神が散歩していたからさ」
     もう本降りになっている。僕はずぶ濡れになりながら、彼らを見上げた。

    「お願いです、竜神様」
     声を張り上げて、彼らに話しかける。
    「僕のおばあちゃんを元気にしてください。病気なんです」

    「――そうかい」
     彼は首をかしげた。
    「それで、君は何をくれる?」
    「え?」
    「竜神様は願いを叶えるけど、代わりに君は何をしてくれるんだい」
    「そんな…」
     僕は茫然とした。お供えが必要だなんて、聞いていない──

    「ただで聞いてくれると思ったの? 甘いねえ」
     彼は半眼になってフフ、と笑う。龍は黄色に光る瞳をこちらに向けていた。
     僕は両手を見つめる。ここへ来るのに夢中で、何も持ってきていなかった。どうしたらいいんだろう。どうしたら──ぎゅっと服を握りしめる。
     その時、ハッとある事を思いついた。

    「僕を……」
    「ん?」
    「僕を差し上げます! 竜神様の言う事を何でも聞きます。だから、」
     声を限りに叫んだ。
    「おばあちゃんを治して!!」
     龍がそれに呼応をするように、グオオ……!と鳴いた。長い尻尾をくねらせ、大空を駆け巡る。男はその上に乗ったまま、落ちもせずに高笑いを始めた。

    「その願い、聞き入れた!!」
     そう言うと、傘を勢いよく空へ放り投げた。

     ***

     僕は目を開けた。むくりと起きあがると、勉強机とその上のランドセルが見える。
    「……あれ」
     いつの間にか、僕は自分の部屋にいた。
     今までのことは夢だった? でも、家へ帰った覚えがない。

    「そうだ、おばあちゃんは…!」
     そう呟くと、部屋を飛び出す。彼女の部屋には、いつも寝ていた布団が畳まれて置かれていた。

     どこ? もしかして…
     嫌な予感がして、探しに行こうと玄関へ向かう。その途中で台所を通りかかった。

    「⁈」
     誰かが、トントンと料理をしている。まな板の上で何かを切っていた。

     あれは……いや、どうして…
     混乱して、言葉が出てこない。そろそろと部屋の中へ足を踏み入れる。

    「おばあ、ちゃん…?」
     その声でゆっくりと彼女は振り向いた。
    「おや、もう起きたのかい。ご飯できてるよ」
     彼女が優しい声で言う。

    「──」
     僕はぽろぽろと涙を流した。
    「どうしたの? 怖い夢でも見たのかい。もう大丈夫だよ」
     そう言って、優しく背中を撫でてくれる。何度も、何度も。
     僕はわあわあと声を上げ、小さい子みたいにいつまでも泣いていた。

     ***
     あの男の人が神社の鳥居に座って、ユキトの家の方を眺めていた。その横に、龍神がとぐろを巻いて同じ方を見ている。
     やがて彼は視線を外すと、ふうと満足げなため息をついた。龍が男にグルル…、と何かを言う。

    「どうしてあんな事を言ったのか、ですって?」
     彼は首を傾けた。
    「あの子の覚悟を知りたかったんですよ。あなたは何ももらわなくたって願いを叶えてくれるけれど。
    でも、それだとありがたみが薄れるでしょう?」
     そう言って彼はウィンクする。龍が呆れたような顔をした。

    「まあ、まだ彼は何もできないだろうから、大人になってから考えようかな。
    別にペットボトルの水をお供えしてくれるだけでもいいけれど」

     そう言って、鳥居の上に立ち上がる。その視線の先には、昇り始めた太陽が姿を見せていた。その光景は、ユキトの心のように晴れやかだった。

      了

     以下の三つで即興小説を書く
    「大空」
    「ドラゴン」
    「傘」

     
     
     

    時雨

     
     
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