【掌編小説】夏のファーストペンギン
僕は失恋した。
想いを寄せていたクラスメートの水本彩佳さんが、僕の親友の柴崎武男と恋人になったからだ。
高校2年生の僕達。
明るくて、表情が豊かで、誰に対してもフレンドリーな水本さんとは、席が近いこともあり、話しかけられるまま僕も武男もよく話をした。
彼女はよく笑った。
その眩しい笑顔に僕はどんどん惹かれて行った。
それは僕だけではなかった。
ある日武男から、水本さんに告白する決意を聞かされ、僕は胸が締め付けられるような苦しさを感じた。
それでも、結果はわからないことだし……と思い、自分の気持ちは口にせずにいた。
しかし、武男の想いを水本さんは受け入れ、2人は交際することになった。
2人からそう聞かされた僕は、「よかったね」と作り笑いで答えるのが精一杯だった。
勇気を出したのは僕ではなく武男だ。
決断力や行動力があり、リスクを恐れず挑戦するあいつが好きだった。
それでもこの時ばかりは、武男の想いが叶ったことを素直に喜べなかった。
自分が先に告白していたら結果は変わっていた?
そんな、考えても仕方がないことを考え、もやもやした気持ちを抱えて、その日は眠りに就いた。
その日の夢にペンギンが現れた。
ペンギンは、僕をつぶらな瞳で見つめ、少し首を傾げ、付け根に青と黄色の2本の腕輪をした右の翼をパタパタと振って、「まぁ、元気出せよ」と言った。
ペンギンが!?
僕は驚いて声を上げ、その声に驚いて目を覚ました。
そのペンギンには見覚えがある気がした。
いつ、どこで見ただろう? テレビのCM? どこかのポスター?
ふと、3年前の夏、祖父母の住む海沿いの町に両親と共に遊びに行った時に、その町の水族館に行ったことを思い出した。ペンギンもいたはずだ。
僕はインターネットを検索し、祖父母の住む町の水族館の名称を突き止め、そのWebサイトを見てみた。
あのペンギンかはわからないものの、確かにペンギンはいた。
しかも飼育員募集の求人が出ており、短期アルバイトでも可ということだった。
僕は急にその水族館で、間もなく始まる夏休みのアルバイトをしたくなった。
普段通りの夏休みを過ごしたら、武男から遊びに誘われる気がしたのだ。
武男は水本さんと2人でデートもするだろう。しかし3人で遊ぼうとも言いそうだ。
僕は割り切った振りをしても、つらい気持ちになったり、それが顔に出たりするのではないか、と恐れた。
物理的に会えない環境にいればそんな心配をせずに済む。
バイトでこの町にいないと言えば武男も納得してくれるだろう。
その後僕は、その水族館のアルバイトに応募した。
両親も、祖父母の家で寝泊まりするなら、と了承してくれ、祖父母も滞在を快諾してくれた。
距離が離れていることもあり面接はオンラインで行われ、無事採用された。祖父母も採用を喜んでくれた。
終業式の日に夏休み明けの再会を約束して武男や水本さんと別れを交わした僕は、祖父母の住む海沿いの町へとやって来た。
夢で見たペンギンに会えることを期待し、アルバイトに勤しむ日々が失恋の傷心から立ち直る時間になることを願って。
「バイトの青木孝文君だ。8月30日まで働いてくれる。みんな、よろしく頼む」
60歳過ぎと思われる館長の男性に、スタッフルームで紹介された僕は、スタッフ一人一人と挨拶を交わし合った。
最後に紹介された一番年の近そうな女性は、地元の高校に通う3年生のアルバイトで、1年数ヶ月以上前からここで働いているそうだ。
彼女、岩根美波さんが、僕の主な教育係とのことだ。
もちろん他のスタッフにも、わからないことがあれば尋ねていいし、仕事を指示されることもあるそうだ。
作業着に着替えた僕は、岩根さんに館内を案内してもらいながら説明を聞き、一緒に作業を行った。
「じゃあ、青木君は以前この水族館に来てくれたことがあるのね」
僕の話に、岩根さんは嬉しそうに笑顔を見せた。
「うん。今回応募したのも、その時のことを思い出して、サイトを見たら募集してたから」
岩根さんに敬語を禁止された僕は、タメ口で答える。
餌を持ってペンギンのブースにやって来た僕達に、ペンギン達が近づいて来た。
ペンギン達はそれぞれ目印として、様々な色の腕輪を翼の付け根に着けていた。
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