【掌編小説】飛行機雲と仲間達
オンラインゲーム『ジ・アース』。その中世欧風ファンタジー世界を舞台にしたゲームで、熱いハートを持つ火属性の人間男性の戦士をプレイする俺は、強敵のモンスターに止めを刺した。
「束縛の呪文効果が切れそうで、ヒヤヒヤしちゃった」
そう言うのは、心優しき森属性の人間女性で魔法使いのマリーだ。彼女は、攻撃補助・防御・回復と多くの面で助けになる。女性としても魅力的で、心強い俺の仲間だ。
「お見事だったね。おいしい所は全部君に持って行かれたようだ」
そうスマートに賞賛するのは、自由を愛する風属性の猫人族男性で軽戦士兼獣使いのキラだ。2足歩行の人間大の猫という姿の彼は、身軽で素早い攻撃によって先手を取ったり、呼び寄せた獣に攻撃を手伝わせたりできる。彼も心強い俺の仲間だ。
俺達は街に戻り解散することにした。
「お疲れ様、テツ、マリー。僕はこれで失礼するよ」
そう言うキラを、俺とマリーは労って見送る。
「じゃあ私も」と続こうとするマリーを引き止め、「どうしたの?」と尋ねられる。強敵を倒せた今日なら伝えられる気がした。
「伝えたいことがあるんだ」
「何?」
「君が好きだ。付き合ってくれ」
「それって、テツとしてマリーに? 火野鉄也として森田満里恵に?」
「どっちも」
俺達はリアルでも面識がある。同じ高校の同級生だ。リアルはリアル、ゲームはゲームと言う人もいるが、そう簡単に割り切れはしない。
「ごめんなさい。好きな人がいるの」
俺の決意はあっさり打ち砕かれた。
「誰か聞いてもいいか?」
「キラさん」
もしかしたらという予想は的中した。
「キラはカッコいいもんな。クールでスマートで大人って感じだ。でも、俺達はキラのリアルを知らない。もしかしたらすんげぇ年上で既婚者かも……」
「じゃあ、今度オフ会しようよ。それではっきりするでしょ?」
オンラインに対するオフライン、つまりリアルで会うということだ。
「まぁ、いいけど」
それは彼女にとって良いことなのか、リアルを知って失望しないだろうか、と、振られ男のくせに俺は考えていた。
数日後、『ジ・アース』にて3人でのプレイ後、マリーはオフ会を提案した。
キラと俺達の生活圏は少し離れていたが、キラのバイト先近くならお互い最短距離で会えそう、とのこと。バイトという言葉に心配する程年上ではなさそうと感じたのか、マリーは嬉しそうだった。
更に数日後、俺と満里恵は、リアルキラのバイト先である喫茶店の外で、彼の仕事終わりを待っていた。
満里恵は店内を見ながら、「あのウェイターさんカッコいい。キラさんかな」などとそわそわしている。
そんな満里恵に声をかけたのは、チンピラ風の男2人だった。
「彼女、かわいいね」
「俺達と遊ばない?」
「すみません。人を待ってますので……」
表情を強張らせる満里恵に食い下がる男達。俺が止めようとした時、近づいて来た誰かが素早く男の腕を捻り上げた。
「いたた……っ、何しやがる。離せ!」
「君達こそ、僕の待ち人にしつこく絡んで迷惑だ」
それは、クールで涼やかな容姿の美青年だった。
何とか腕を振り解いた男がもう1人に声をかけ走り去り、もう1人も後を追って去った。
「大丈夫?」
心配気に尋ねる美青年に、満里恵もホッとした様子で礼を言う。
「よかった。ところで、テツとマリーだよね?」
「キラ!」
俺達がそろって名を呼ぶ。
「やあ」
リアルキラが微笑む。
「よっ、ヒーロー!」
「カッコよかったです」
「ありがとう」
俺達の賞賛に、リアルキラは照れ臭そうに笑った。
俺達は公園の東屋に場所を移した。
お互いリアル名も名乗り合う。キラのリアル名は浅野光だ。「だからキラ。キラッと光る」という説明になるほど、と頷く。
「彼女とかいるんですか?」
顔を赤らめる満里恵に、光は首を横に振り、申し訳なさそうに言った。
「僕はアロマンティックでアセクシャル。無性愛者なんだ」
光の説明によると、生まれつき異性にも同性にも恋愛感情や性欲を持たない性質の者だそうだ。
「そういう人もいるのか」と驚く俺に、光は頷く。
俺達は誰もハッピーエンドにはなれない。
「それでも、キラはキラだし、俺達は仲間だ。何も変わらないよ。そうだろ? マリー」
成り行きとは言え、公表は勇気が要ったはずだ。だからこそ、俺は、俺達は彼の勇気に報いたかった。
「そうね。私達が仲間だってことは、何も変わらないわ」
幾分無理をして気持ちを切り替えたかもしれない。でも、満里恵にも俺の気持ちは通じたと感じた。
「ありがとう、テツ、マリー」
光の声は少し震えているようだった。
空に飛行機雲の白い線が描かれて行くのを、俺達は3人で見上げていた。

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