
秘技、早送り
今月のカレンダーを見ながら、父の日があることを思い出した。
今年は何をプレゼントしよう、と考えるけど結局、毎年似たようなプレゼントになってしまう。
世の中にはいろんな"お父さん"がいる。
小学生の頃の、ある友達のお父さんは強烈なインパクトで、忘れたくても忘れられない。
小学校低学年のころ、初めてその子の家に行った時、ビックリを通り越して訳のわからない恐ろしさを感じた。
家中に、いかがわしい雑誌が積まれていた。
エロ本というやつだ。
まさかのカオスな光景。
私の家では、ダイニングテーブルに新聞が置かれていたけど、その子の家では違った。
新聞ではなく、エロ本が当然のように置かれていた。
鍋敷の代わりにエロ本。
エロ本の側で緑茶をすする、お婆さん。
子供スペースにも侵食しているエロ本。
見たくなくても、表紙の写真が目に飛び込んでくる。
小学校低学年の私が、男女の"そういうもの"にトラウマを持つには十分な衝撃だった。
異様な光景の中、普通に生活しているその子とその子の家族達。
その子とはすぐ疎遠になったけど、大人になった今なら、笑い話にできたのかな。
いや、無理だな。
私の父とは全く違う"他の子の父親"に、かなり戸惑った。いま見ても戸惑ってしまうと思う。
私の父は洋画が好きだ。
昔から休日になると、レンタルビデオショップによく通っていた。
小学生の頃は、父が洋画を観ている時に私もなんとなく一緒に観ていた。
洋画によくあるラブシーンが映ると、父は慌てふためいてリモコンを操作し、早送りしていた。
その慌てる手元に、いつも安心した。
友達のお父さんを思い出し、父が父で良かったなぁと思っていた。
早送りは、些細な配慮だったかもしれない。
だけど、子どもが子どもでいられる時間を、ちゃんと守ってくれていた。
父は、レンタルビデオショップに私もよく一緒に連れて行ってくれた。
当時、となりのトトロが大好きで、しょっちゅう借りていた。もう買った方がいいんじゃないかと店員さんに思われるほどに。
だけど、父はいつも「またトトロ観たいのか」と言って借りてくれていた。
父はたくさん洋画を観ていたから、どれを観たのか忘れてしまうのか、時々借りたものを見始めた時に、
「しまった!これ観たやつや。チッ、損したなぁ」ということが、たまにあった。
そんな父が、トトロを何度も借りる私に、「損」だと言ったことはなかった。
だからよけいに、トトロが好きだった。
私の子どもたちにとっては、父は祖父だけど、父親のいない子どもたちにとって、良い父親像になってくれていると思う。
私は母親であり、父親にもならなければと思いながら子育てしてきたけど、
これまでを振り返ってみても、やっぱり私の父の存在は子供たちに必要だったし、
本当に、ありがたいなぁと思う。
父と一緒に行っていたレンタルビデオショップは、もう無くなってしまった。
となりのトトロは金曜ロードショーでも、何度も観た。
だけどお店で、棚からトトロのケースを取るときの感触は今でも覚えてる。
決して当たり前ではない愛情に、感謝することも知らなかった頃。
私はずいぶん、恵まれていた。
さて、父の日のプレゼントを買いに行こう。